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Bhopal Express(1999)#255

2011.05.14
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!

Bhopal Express「Bhopal Express」★★★★
ボーパール・エークスプレース

製作:フィリップ・ヴォン・アルヴェンスレベン、タブリーズ・ヌーラーニー、ディーパック・ナーヤル/撮影・監督:マヘーシュ・マタイ/脚本:ピユーシュ・パーンディー、プラスーン・パーンディー/音楽:イフサーン・ルーラーニー、ローイ・メンドーサ、シャンカル・マハーデヴァン/プロダクション・デザイン:スニール・チャブラー/編集:プリヤー・クリシュナスワーミー

出演:ケイ・ケイ(・メノン)、ネトラー・ラグラーマン、ナスィールディン・シャー、ヴィジャイ・ラーズ、ヒマヤトゥッラー・カーン、ブーシャン・カルヤン、アルヴィンド・パーンディー、ズィーナト・アマン

公開日:1999年(日本未公開)
Screen Awards:新人女優賞(ネトラー・ラグラーマン)

STORY
ボーパールのユニオン・カーバイド化学工場に勤めるバブラール(ケイ・ケイ)は、新婚早々の妻ターラー(ネトラー)にぞっこん。ある日、ターラーは里帰りのために列車で出かけるが、その晩、殺虫剤を製造する工場で毒ガスが漏れる大事故が起き…。

Revie-U *結末に触れています。
線路の上を進む列車の前にひとりの男が躍り出る。停車させた喜びから踊り出すその横を、乗客を乗せた別の列車が通過する…。

1984年12月2日深夜、マディヤ・プラデーシュ州の州都ボーパールで発生し、死者3万人・負傷者50万人を出したと言われる米ユニオン・カーバイド化学工場事故を映画化した本作。
主人公となるバブラールは、強力な殺虫剤を製造するカーバイド工場で働く技師。新婚間もなく、仕事や友人の付き合いよりも早く家に帰り、最愛の新妻ターラーと過ごしたく思っている(帰りがけに辻売りの精力剤を購入)。

働けど働けど
すべては徒労
どんな大人物も
小さな座金にしてやられる

…等とバブラールや彼の友人バシールらが何かにつけて自作の詩(ほとんど駄洒落の川柳に近い)に興じるのは、イスラーム・ウルドゥー文化の最後の砦として「産業などより詩を好む」と言われたボーパールならでは。

その夜、バブラールの妻は里帰りとあって、オートリキシャーワーラー(運転手)である友人のバシールに頼んでボーパール駅まで見送りに行く。そしてバブラールはバシールに連れられ、酒場へと流れる。粋なガザル歌手の歌にほろ酔いとなった深夜、強力な殺虫剤を製造するカーバイド工場から毒ガスが漏れ、街は大パニック。事態を知ったバブラールらは救援などに奔走する。
翌朝、疲れ果てたバブラールは、ふと妻ターラーが出がけに渡した<買い物リスト>を読み、離れ難く思ってやまない夫へひと晩の<悪戯>を達成した彼女が早朝着のボーパール・エクスプレスで戻って来ることを知り、列車が毒ガスの残る街に入る前に止めようと試みるが…。

主演は、ニューストリーム映画で台頭し現代インドの性愛事情を描いた「Life in a…Metro(大都会)」(2007)で強く認知されたK・K・メノン(単にケイケイとクレジット)。
Mumbai Meri Jaan(ムンバイー、我が命)」(2008)では2006年に起きた7.11ムンバイー連続爆破テロ事件の惨劇を目の当たりにしたことから心が壊れ、右傾化してゆく一市民を好演。本作は10年以上前の初主演作ながら、演技面ではまったく現在と見劣りしない。

その妻ターラーを瑞々しく演じるのが、Screen Awards 新人女優賞を受賞したネトラー・ラグラーマンThakshak(地下の王)」(1999)の踊り子、ジャッキー・シュロフ主演のマイナー凡作「Tum…Ho Na!(君…だよな!)」(2005)で妻役を務め、ラージパル・ヤーダウ共演のアート系「Forgotten Showers」(2005)以降、映画出演は止まっているが、<キング・オブ・アクション>アクシャイ・クマールがホストを務める女子スタント対決リアリティー・ショー「Khatron Ke Khiladi(危険に挑む闘士)」でビルからビルへワイヤーを渡る競技などエピソード1で勝ち抜く。
本作では<危険な女>というイメージはなく、家庭を守る妻としてのプージャー(神々を祀る祭儀)を解説本を読みながらたどたどしく執り行い、夫の名前を唱えるのに恥じらう様が愛らしい(地方では古来通り妻は夫の名前を口にしないのが佳しとされる)。

サポーティングに、バブラールの親友バシール役に、Ishqiya(色欲)」(2010)、7 Khoon Maaf(七人殺しを許して)」(2011)の名優ナスィールディン・シャー
バシールらの友人にヴィジャイ・ラーズ
酒場のガザル歌手ゾーラー・バーイに往年の大女優、Don(1978)のズィーナト・アマンを起用。

音楽は、トリオ結成直前のシャンカル-イフサーン-ローイが担当。トリオ名でなく3人それぞれの名でクレジットされている。
列車の通過音を意識したリズム帯のオープニング・ソングkaun hain(君は誰か)」は、リティク・ローシャンのデビューで一世風靡したKaho Naa…Pyaar Hai(言って…愛してるって)」(2000)~ek pal ka jeena(ひと時の命)」を歌うポップシンガー、ラッキー・アリーをフィーチャル。囁きにも似た歌声が心地よい。
劇中、ズィーナト・アマンによるガザル・ナンバルudan khatolaをプレイバックするのは、Khal Nayak(悪役)」(1993)、Raavan」ラーヴァン(2010)のイラー・アルン。女優としてもWelcome to Sajjanpur」ようこそ、サッジャンプルへ(2008)の機関車おばさんが忘れ難い。
エンディング・ロールに流れるフィルミー・ガザルis duniya main(こんな世の中で)」は、甘い歌声を誇るガザル歌手ジャグジート・スィン
しかしながら、楽曲はよく出来ているものの、それぞればらけた風合いなのが玉に瑕。

製作のキントップ・ピクチャーズ「ベッカムに恋をして」Bend It Beckham(2002=英米独)、アイシュワリヤー・ラーイ主演のBride & Prejudice(2004=英米)や「The Mistress of Spices」(2005=英米)などを手がけるアメリカのプロダクションだけに冒頭提示されるプレゼンター「David Lynch」の名は、かのデヴィッド・リンチだろう(恐らく名義貸し)。
ちなみに娘のジェニファー・リンチは、イルファーン・カーンマリッカー・シュラワト主演で蛇女映画「Hisss」(2010)を監督している。

監督マヘーシュ・マタイは、その後も細々と映画製作に携わる。本作での演出は淡々としており、それ故、毒ガスによる事故の壮絶さがひしひしと伝わる。冒頭、ターラーが煮炊きするギャス・ストーヴ(灯油コンロ)が意味深に映し出される。

1984年という年代を示すため、ボーパールの街角にはアミターブ・バッチャン主演「Sharaabi(酒飲み)」(1984)やジャッキー・シュロフ主演「Hero」(1984)の大看板が掲げられている。
劇中、下町で野外上映されているのが、ヒンドゥー/ムサルマーン(イスラーム教徒)/クリスチャンに生き別れた三兄弟の母子再会名画「Amar Akbar Anthony」アマル・アクバル・アントニー(1979)。酔ったアミターブの芝居と美しきヒロイン、パルヴィーン・バービーの登場に口笛が鳴り響く。
そして、事故モンタージュにインサートとして入るのが、盲目となった母(ニルパー・ローイ)が数奇な運命から聖者シルディのサイババを祀る寺院へ導かれ、人々によるバジャン(讃歌)の最中、サイババ像から奇跡が為され視力が戻る場面。街には毒ガスがあふれ、人々は悶絶しながら逃げ惑い、神も仏もない生き地獄が浮き彫りとなる。

生き残ったバルラールがバシールの黄色いオートリキシャーで乾いたボーパールの地を走り回る姿は、人間が災害の前で非力ながらも苦闘する様を感じさせる。
ボーパール駅へとたどり着いたバルラージが見たものは、無数に横たわる遺体。愕然とするも歩き続けるうちに、電話ボックスに逃れてなんとか生き残った妻ターラーと再会する。そして、傍らで息絶えた母親の乳房に無心ですがりついていた赤ん坊を抱き上げる。彼らにとってその子は、逃げ遅れた人々を救おうとして命を落とした親友バシールの転生となるのだった。

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