Kabhi Khushi Kabhie Gham…(2001)#017
「時に喜び、時に悲しみ」Kabhi Khushi Kabhie Gham… ★★★★★
劇場公開タイトル「家族の四季」
カビ・クシー(フシー)・カビー・ガン/2001 02.01.02
製作:ヤシュ・ジョハール/製作・脚本・監督:カラン・ジョハール/撮影:キラン・デオハーン/音楽:ジャティン-ラリット、サンディーシュ・シャンディルヤー、アーデーシュ・スリワスターワ/詞:サミール/振付:ファラー・カーン/美術:シャルミスタ・ローイ
出演:アミターブ・バッチャン、ジャヤー・バッチャン、シャー・ルク・カーン、カジョール、リティク・ローシャン、カリーナー・カプール、ファリーダー・ジャラール、アローク・ナート、ジョニー・リーヴァル、スシュマー・セート、ヒマーニー・シヴプーリー、シモン・スィン
特別出演:ラーニー・ムカルジー
公開日:2001年12月14日(東京国際映画祭’02上映/日本劇場公開’08年8月30日/日本版DVD’09年7月発売)
47th FILM FARE AWARDS:主演女優賞(カジョール)、助演女優賞(ジャヤー・バッチャン)、台詞賞、美術賞、ベストシーン賞(カラン・ジョハール)
8th SCREEN VIDEOCON AWARDS:主演女優賞(カジョール)、アジアン・ペイントジョーリーNo.1賞(シャー・ルク・カーン&カジョール)
STORY
ライチャンド財閥の家長ヤシュヴァルダン(アミターブ)と妻ナンディニー(ジャヤー)には、自慢の兄弟ラーホール(シャー・ルク)とローハン(リティク)がいた。だが、寄宿学校から戻ったローハンは、兄が捨て子だったこと知る。そして、ラーホールはヤーシュヴァダンのアレンジしたネイナ(ラーニー)との結婚を断り、下町の娘アンジェリ(カジョール)との愛を通そうとしたため、ヤーシュの逆鱗に触れ追い出されていたのだった。すべてを知ったローハンは、ラーホールを連れ戻し、家族を再生させようと誓う・・・。
Revie-U *結末に触れています。
「Kuch Kuch Hota Hai(何かが起きてる)」(1998)を放ったカラン・ジョハールの最新作である。
それにしても凄い!!! この豪華キャスト!!!! 1970〜80年代の長きに渡ってボリウッドに君臨し続けたビッグスター、アミターブ・バッチャンが父親! 1990年代を駆け抜けたスーパースター、シャー・ルク・カーンが兄!! 21世紀のボリウッドを担うメガスター、リティク・ローシャンが弟とは!!! この布陣は、そのままボリウッドの歴史を感じさせる(3人ともギャラは1億円級!!!)。
対するヒロイン勢にも隙がない。インド映画史上最高の8年間に及ぶロングラン・ヒットを記録した「炎」Sholay(1975)のヒロイン、ジャヤー・バッチャンが母! 1990年代トップ2ヒット「DDLJ」(1995)のヒロイン、カジョールが姉!! 2000年にセンセーショナル・デビューを果たし今や売れまくってるカリーナー・カプールが妹!!! そして「KKHH」のセカンド・ヒロイン、ラーニー・ムカルジーがゲスト出演している。
7大マルチスター競演を誇った「Lajja(恥)」(2001)が霞むほどのゴージャスさである。製作費は、4億2000万ルピー(現在のレートで邦貨にして11億7600万円!!!! 田舎町の物価に換算すると1100億円??)と言われるが、6大スター共演のギャラだけで並のボリウッド作品なら2本は作れるのではないだろうか(ちなみにタッブー主演「Chindni Bar(チャンディニー・バー)」は、リティク1人のギャラにも満たない低予算で作られている)。
これだけのスーパースターが一堂に会するのは、今後あり得ないのではないか。とにかく、今を時めくリティクとシャー・ルクの夢の競演!! というだけでも心躍ってしまう。何しろこのふたりは、リティクのスーパー・ブレイクぶりに人気を喰われたシャー・ルクが啀み合っている、とボリウッド・メディアによって掻き立てられ「シャー・ルク/リティック戦争」とまで呼ばれていたくらいだから。
だが、考えてみればシャー・ルクは、リティックの父親であるラーケーシュ・ローシャンの監督作品3本に出演していて、「カランとアルジュン」Karan Arjun(1995)ではリティクが現場のアシスタントを務めて、まるで本作劇中の兄弟のような関係であったそうだ(リティクは「KNPH」のリリース前に出演契約を結んでいる)。
また、アミターブとシャー・ルクは、「Mohabbatein(愛)」(2000)で初共演して話題を呼んだばかりだ。このアミターブとジャヤーは実生活でも夫婦であり、共演はヤシュ・チョープラー監督の「Silsila(愛の関係)」(1982)以来、実に20年ぶりとなる。ジャヤーとリティクは「Fiza(フィザ)」(2000)で母子として共演しており、この作品でカランがSpecial Thanksを捧げられていることもあって、アミターブとジャヤーの夫婦共演が実現したのだろう。
リティクとカリーナーは、すでに「Yaadein(思い出)」(2001)で共演済みだが、まさに「Yaadein」が思い出の彼方へ消え去ってしまっているので、まるで初共演のような印象を受ける。そのカリーナーは本作「K3G」の1足先にリリースされた「Asoka(アショーカ)」(2001)でシャー・ルクと共演している。
まるで、ここ1年にリリースされた作品をまとめて楽しめるようなキャスティングである(もちろん、シャー・ルク、カジョール、ラーニーは「KKHH」の主演トリオだ)。
今少し付け加えると、この出演者の中でシャー・ルク以外、すべて映画一族であることにも留意したい。
アミター・ジーとジャヤーは夫婦(そのために息子のアビシェークの出演も噂された)、リティクは父が俳優出身の監督、カジョールとラーニーは従姉妹、カリーナーはカリシュマーが姉であるだけでなくボリウッド生え抜きの映画一族出身である。シャー・ルクだけがTV界からボリウッドの頂点に登り詰めた外様なのだが、実は彼の息子アルヤーンが本作に子役として出演しており、映画一族の仲間入りを果たしている。
そんなこともあって、物語の格となるライチャンド財閥の豪勢な暮らしぶりも、まさにボリウッドの栄光を象徴しているように思われるのだ。
キャスティングだけでなく、記録破りのリリースもまた凄まじい!
プリントは「Yaadein」を上回る650が焼かれ、インド国内だけでも401、国外で207以上に及ぶ。これは90分の作品では、1300本に相当する分量だ。
ムンバイーでは、初日から第2週まで連続して上映館すべてが100%の満員御礼。国会議事堂で銃撃戦のあったデッリーでは90%であるが、オープニングはデッリー、カルカッタで1位を記録!
すべての記録を打ち破る勢いを見せる「K3G」は、2001年の独走と思われたサニー・デーオール主演「Gadar(暴動)」(2001)を追い抜くのは必至、映画賞レースも独占し、インド映画史上最大のメガヒット「Hum Aapke Hain Koun..!(私はあなたの何?)」(1994)の王座をも揺るがすのではないだろうか。
また41スクリーンで公開された英国でも、ボックス・オフィス週末初登場第3位を記録! これはヒンディー映画で初めてのことだと言う。
続くクリスマス・シーズンの第2週も、「ロード・オブ・ザ・リング」(470スクリーン)、「The Princess Diaries」(396スクリーン)の新作2タイトルがそれぞれ1位、3位にチャート・インし、5週目の「ハリー・ポッター」が依然2位を死守する激戦の最中、「K3G」は4位をキープ。入れ替わりの激しい英国チャートで、インド映画がこれだけヒットするのは前代未聞と評された。
この英国チャート・トップ5に入る作品はどれも300〜500前後のスクリーン規模で興行されており、これだけ健闘するということはいかに1館あたりの入場者数が多いかを物語っている。
「K3G」オープニングの週末3日間(12月14〜16日)1館あたりの平均収益を計算してみると、5週目1位の「ハリー・ポッター」(537スクリーン)が4452ポンドであるのに対し、「K3G」は1万1545ポンドと上回っている! 上映時間が2時間32分と短い「ハリー・ポッター」に比べて1日の上映回数が少ないはずであるから、「K3G」の集客率が前代未聞と言われるのも判ろうと言うものだ。
ちなみに、日本で12万7000人を動員し1998年の単館系興行トップ1ヒットとなった「ムトゥ」Muthu(1995=タミル語)が興行収入2億800万円(23週)ながら、プリントはわずか8本しか焼かれなかったことを考えると、41スクリーンという拡大公開が為される旧宗主国英国でのインド映画の認知度の高さが伺われる(在英NRIが90万人に達することもあるのだろうが)。
また、米国では76スクリーンで公開され、3日間で100万ドル以上を計上(ヒンディー映画は初)、リリース2週間で米国公開のボリウッド作品4位をマーク、「HANK」を抜き1位を記録するのは時間の問題だろう(未確認ながら、米国ボックスオフィス・チャートでもでもトップ10入りを果たしたとか)。
いよいよ本題である。
映画は、寄宿学校でクリケットの試合に興じるローハンのシーンから始まる。ハルドワールに住む父方の祖母(アチャラー・サッチデーヴ)と母方の祖母(スシュマー・セート)を訪ねたローハンは、長年懸念していた祖母たちから兄ラーホールが捨て子であったことを聞いてしまう。
ここから「KKHH」同様の長い回想となるのだが、少年時代のローハンはリティクとは似ても似つかぬ肥満児が演じていて、少々混乱する。実はこれが「ある仕掛け」となっている。
ライチャンド財閥は「帝国」とも呼ばれ、ボリウッド映画屈指の大財閥として描かれている。なにしろ、シャー・ルクの登場シーンからして自家用ジェット機から自家用ジェット・ヘリに乗り継ぎ、デッリー郊外という設定ながら「Mohabattein」同様の英国ロケの屋敷まで飛ばすのだ(ヤーシュヴァルダンは逆に自宅からヘリで通勤、途中でベントレーに乗り換えて自社ビルへ出向く!)。
このヘリから降りてバッグ片手に駆けてゆくラーホールの姿は、「KKHH」のサマー・キャンプでアンジェリと再会するシーンに「掛け」られている。役名にしてもシャー・ルクがラーホール、カジョールがアンジェリー・シャルマーと踏襲されていて、その他随所に「KKHH」をフラッシュバックさせるイメージがちりばめられている(ラーニーとシャー・ルクの別れのシーンでは、「KKHH」のメロディーさえ流れる!!)。
アディティヤ・チョープラの「Mohabbatein」にしろ、本作のカランにしろ、まだデビューして2作目の若手監督が自作のセルフ・パロディーを行うというのは通常褒められたものではないが、1作目がスーパー・ヒットした自負があるのと、「夢よ、もう1度」の気持ちで足を運ぶ観客を配慮してのサービスなのだろう。
ラーホールには「ベスト・フレンド」がいるのだが、これがゲスト出演のラーニー。カランの話では、「KKHH」の時はフレッシュ・スターとして、本作「K3G」では名のあるゲスト・スターとして出演をオファーしたと言う。
ところが、ラーホールはデッリーのチャンドゥニー・チョウクで踊るアンジェリーを見初めてしまう。というわけで、今回もラーニーはシャー・ルクと結局結ばれず仕舞い。なお、彼女の役名がネイナーであるのは、「KKHH」のティナが他界しているためである。その点からしても、ラーホールとアンジェリの後日談的スピン・オフとして観ることが出来る。
そのアンジェリー、「KKHH」では男勝りのお転婆娘として登場したが、本作ではパンジャーブ系の珍妙なオチャメ娘で、しばしば「パーガル」と呼ばれる。
アンジェリの父親役は、アローク・ナート。幾つかの短いシーンに出ているだけだが、アロークがキャスティングされたのは、アヌパム・ケールが初監督作を手がけていてスケジュールが付かなかったためか。この父親は「バーラツィ・ハルマーイー」というスウィート・ショップを経営しているのだが、病気がちなため、おしゃべりなアンジェリか妹のプージャが店番している。
奇遇にもアンジェリーの父親とヤーシュヴァルダンの誕生日は同じ日で、方や宮殿のような屋敷ではハイ・ソサエティーの人々が集まってマハーラージャーのパーティーを思わせるほど賑わう。このパーティー・シーンのミュージカル・ナンバー「say
shava shava」は、なんとアミターブ本人が地声でプレイバックしていて驚かされる。アミターブは今までにも5本ほどプレイバックに挑戦しているが、それでも「Toofan」(1989)から10年以上経つのではないか。美声で知られるアミターブだけにプレイバックにも違和感がなく、それに気付くのはナンバーがだいぶ進んでからのことであった。
またダンスもなかなか見事。身長190cmのアミター・ジーはたいていのミュージカル・シーンでやたら長い手足を持て余してしまうのだが、コレオグラファーのファラー・カーンはうまく振付をしていて、「アミターブは、こんなに踊れたのか!」と再認識してしまうほどだ(多分、かなりレッスンしたのだろう)。
ヤシュヴァルダンは厳格な反面、ノリノリのキャラクターでもあり、ミニスカ(それも相当極端!)の若い娘と踊っているところをナンディニーにたしなめられるものの、唄い足りないのか、妻相手にアーミル・カーン主演「Ghulam(奴隷)」(1996)の「aati kya khandala」まで唄ってしまう。無論、ジャヤーは地声でなく、アルカー・ヤーグニクがプレイバックしている。
このふたり、さすがに本当の夫婦だけあって、息が合っている。特に長身のアミターブのネクタイを直すシーンで、ジャヤーが踏み台を使うところなど、実生活からいただいた描写であろう。
パーティーの翌日、ラーホールがアンジェリを誘ってバーザールへと出かける。ちょっとしたことから、彼女が「友達だと思っていたのに!」とおカンムリとなる。
「KKHH」では「友情こそ愛」と謳っていたが、本作ではさらに一歩踏み込んで「友情は離れがたい結びつき。君が傷つけば、僕も傷つく」と口説く。ラーホールがアンジェリーの腕にチューリーを通そうとし、ここの決まり文句ですっぽりと入る。彼女が彼を受け入れた、というわけだ。
そして、アンジェリーが走り去ると、「KKHH」でも見られた赤いドゥパッターのワイプとなって、なんと彼女はエジプトの砂漠へ!! ピラミッドの前でのミュージカル・シーンはアイシュワリヤー・ラーイ主演「ジーンズ」Jeans(1998=タミル)でもあったけれど、ヒンディー映画では初めてだろう。
母ナンディニーはわりと現代的で、今時の若者は自分で伴侶をみつける、と考えている。そのためか、ラーホールはごく自然にアンジェリーのことを彼女に告げる。
が、問題なのは、父親のヤシュヴァルダンだ。彼は上流階級であるネイナーとラーホールの婚約をアレンジしており、息子が連れて来た下町の娘など相手にしない(カースト的には、アンジェリーはバラモンになる)。
この親子の対立シーンは、同じアミターブとシャー・ルクが競演した「Mohabbatein」の印象がダブる。あの時は、厳格なあまりどこか風化した感の学長アミターブを愛の柔軟な力を持つ音楽教師シャー・ルクがやり込めたのに対し、本作でのアミターブは力を持て余す偉大な父親であり、シャー・ルクはナイーヴな愛の信者という構図になっている。そして、「おまえは、私の子供ではない」とラーホールは言い渡されるのだ!
ようやく長い回想が終わる。
すべてを知ったローハンは、所在を隠した兄を連れ戻し、家族を再生させることを誓う。まず、彼が訪ねたのは、乳母のセィーダー(ファリーダー・ジャラール)の娘ルクサール(シモン・スィン)である。ラーホールたちが立ち去る時、ナンディニーが「母親代わりに」とセィーダーを同行させていたのだ。この乳母は、幼い頃ローハンがDJと呼んでいた身内のような存在で、アンジェリの家族とも親しい。
ここに居合わせるのが、チャンドゥニー・チョウクの住人ハリディラーム(ジョニー・リーヴァル)と、その妻役のヒマーニー・シヴプーリー。共に「KKHH」組である。ちなみに、サマー・キャンプで愛らしいところを見せていたスィクの子役パルザーン・ダストゥールも、ルクサールの結婚式シーンに登場している。
こうして、ラーホールたちがロンドンにいるということを知ったローハンは、さっそくヤシュヴァルダンに許しを得て留学してしまう。口実はMBA所得のためだ。
さて、ここで一際美麗な女性が登場する。カリーナー演じるプージャー(愛称はプー)である。とにかく、セクシー! 今、最も旬な若手女優であるまいか。
彼女はちょうどローハンが留学した大学へ通っており、ミス・プリガンザーもどきの気取った英語を話す。キャンパスをまるで女王のように歩くプーを、ランボルギーニ・ディアブロVTで通うローハンが指であしらうのが可笑しい。
キャンパス風景を綴ったミュージカル・ナンバー「deewana hai dekho」は「KKHH」の聖ゼービアス・カレッジを彷彿とさせる。バックグラウンド・ダンサーは英国人で占められているが、「KKHH」にも出ていたロン毛の彼が一人混じっている。それにしてもリティクのダンス・テクニックには舌を巻く。これだけクール過ぎると、日本人ウケしないだろうと思ってしまうほどだ。
このナンバー明けに、ふたりは再会。プーは彼が誰だか判らないが、ローハンは彼女のことは知っていたのだ(ここの伏線もお見事)。
事情を知ったプーが、彼を自宅へ下宿させるようラーホールに掛け合う。ラーホールが、むげに反対するのも「KKHH」のサマーキャンプに通ずる。
ラーホールの前に現れたローハンは自分の名を明かさず、「ヤシュ」と名乗る。形式的に自己紹介したラーホールは、腑に落ちないながらも彼の下宿を認める。彼はヤシュヴァルダンと対立したけれど、今も父母の大きな写真を居間に飾ってあり、ふたりの握手は母ナンディーニーのまなざしの中で行われるのだ。
このシーン、家に入るなりローハンは涙ぐんで仕様がないのだが、ラーホールは弟とは気付かない。実は、少年時代のローハンがリティックと似ても似つかぬ肥満児子役が演じていたワケがここにあったのである!!!
それと、「ふたりの」父親の名前がヤシュヴァルダンとされているのは、もちろんカランの父親ヤシュ・ジョハールであり、またカランが家族のように付き合うヤシュ・チョープラーである。そう、この「ふたりの」父親に捧げているのだ。
こうして、ローハンは家族再生作戦に奮闘するのだが・・・そう言えば、「KKHH」は、娘のアンジェリが奮闘する父親再婚作戦であった。
わだかまりを残すラーホールは、ローハンとなかなか打ち解けようとはしない。出社しようとしたところ愛車のジャグァーがパンク(!)していたため、仕方なくローハンのメルセデスで送ってもらうのだが、それさえもぎこちない(ローハンもランボルギーニの他にベンツも所有しているのだから、下宿しなくともよい身分なのであるが・・・)。
やたら涙目のリティクだが、彼の持ち味を活かした見せ場も用意されている。スーパーヒット・デビュー作「Kaho Naa…Pyaar Hai(愛してるって言って)」(2000)に対応するカリーナーの「カホ・・・カホ・ナ・・・」という科白やクラブ・シーンもある。
コレオグラファーのファラーとリティクは、「KNPH」の後、彼女が自分の初監督作にリティクを出演させようとしてラーケーシュとモメて、一時は絶縁状態にあった(結局、義弟ザイード・カーンが出演)。
幾つかの心温まるエピソードの後、ラーホールは彼が弟ローハンだと言うこと知る。ふたりは固くハグするものの、ラーホールはヤシュヴァルダンの下へは帰ろうとしない。これでは埒が明かないとみたローハンは、プーと組んで父母を呼び寄せることにするのだが、自家用ジェット機でふたりがすぐに飛んで来てしまうところが凄い(本当の金持ちとは、こういうレベルなのだろう!)。
まずショッピング・モールでラーホールとナンディニーが再会、しかし、ヤシュヴァルダンの姿を見たラーホールは立ち去ろうとする。
ここで本編中、最も美しいシーンがある。
店先でカタログを手にするヤシュヴァルダンに通行人がぶつかり、彼が手にしていたカタログが足下に落ちる。背後から近づいたアンジェリがそのカタログを拾うふりして、そっと義父の足に触れるのだ。ヒンドゥーの最敬礼プラナームは、その人の足に触れることであり、結婚が認められていなくともアンジェリーにとってヤシュヴァルダンは敬愛すべき義父なのである。
であるから、彼女は名乗らずに、ただ義父の足に触れ、礼を尽くしたことだけで歓びを感じて立ち去ろうとする。我々日本人が近ごろは失ってしまった奥ゆかしさが息づいていて、はっとさせられるシーンだ。
だが、ローハンが彼女を呼び止め、ヤシュヴァルダンはここロンドンにラーホールたちが住んでいることを知る。
ここで舞台は、インドへと戻る。祖母の死が知らされたためだ。
ヒンドゥーらしく荼毘に付す際、ヤシュヴァルダンの持つたいまつに、ローハン、そして最後にラーホールが手を添えて火を移す。なにやら作為的なエピソードだと見る向きもあるだろうが、私には亡くなった祖母の意思が働いているように思えてならない。言うなれば、彼女は息子と孫を向き合わせるために死んだのだ。
その後もヤーシュの頑な心は解けることなく、ラーホールたちがロンドンへ帰国しようとする。その段になって、親子の許し合いがあるのだが、ここでは詳しく触れない。ただ、ヤシュヴァルダンとラーホールの確執が深かった分、それだけ彼らは結びついていたということでもある。
振り返って考えてみたいのは、ローハンの献身についてである。彼は幼い頃から「長男」であるラーホールが自分より強く母親に愛されていることを歯がゆく思っていた。ラーホールが実は捨て子であったことを知った時は、よりショックが大きかったことだろう。なぜなら、母が実の子以上にラーホールのことを深く愛していたわけだから。
ローハンにとっては家族の再生作戦は、再び自分よりもラーホールと母を強く結びつけることでもある。痛みを伴いながらも奮闘する彼が哀しく(Gham)も歓び(Khushi)にも見える。
ところで、何故カラン・ジョハールは、「長男」のラーホールを捨て子という設定にしたのだろうか。何故、実の息子が血の通わぬ兄と父母を結びつけようとさせたのだろうか。
ヒンドゥーの人たちは、長男を家督を継ぐ者として重視する(遺産は兄弟均等に分配するとも聞くが)。まだ子供のなかったヤシュヴァルダンとナンディニーが生まれたばかりで捨てられたラーホールを我が子のように育てたとしても、後に実子が生まれれば現実にはそちらを寵愛してしまうだろうし、手のひらを返すように血の通うわぬ子を「捨てる」ことも実際にはあるだろう。
血で繋がった親子の愛情を描くより、血縁を越えた愛情の方がより観客を泣かせるから、と言う単純な発想なのだろうか。
「KKHH」が亡くなった実の母から父の再婚の世話を頼まれる娘の奮闘物語であり、本作「K3G」が捨て子の兄を自分の父母とより結びつけるための実の息子の奮闘物語であることを考えると、両者は共に「血で繋がった関係」から「血を超えた関係」にアプローチすることがテーマとされていることに気付く。
血の繋がりは物質的(DNA解析は視覚的にも確認できる)とも言えるから、物質を超えたものを追及するカラン・ジョハールのベクトルに、元来インド人が偏愛する幻視性を感じてしまうのだ。
スタッフ・クルーも「KKHH」のメンバーが再結集されている。
ミュージカル・ナンバーも多めで、さらに荘厳となっており、「Aks(憎しみ)」(2001)のキラン・デオハーンによる撮影、「DTPH(心狂おしく)」(1997)のシャルミスタ・ローイによる美術、「Raja Hindustani(ラージャー・ヒンドゥースターニー)」(1996)のマニーシュ・マルホートラによる衣装、「ディル・セ 心から」Dil Se..(1998)のファラー・カーンによる振付など、トップ・クオリティのスタッフが一丸となって織りなす映像美には溜め息が出るほど。
作詞はヒットメーカー、サミール。音楽は、「DDLJ」のジャティン-ラリットがメイン・タイトル(プレイバックのラター・マンゲーシュカルは御年72歳!!!!!!!)を含めた3曲、CM界で活躍するサンディーシュ・シャンディルヤーがバングラー・ナンバー「suraj hua maddham」他3曲、ゲスト・コンポーザーとしてアーデーシュ・スリワスターワが「say shava shava」を提供。
レコーディングは、「Mohabbatein」でFILM FARE AWARD ベスト・レコーディング賞を受賞したアヌジー・マトゥールが担当。デジタル処理を駆使したサンジャイ・サンクラーの編集もマジカルな仕上がりを見せる。
また、シャー・ルクのコスチュームはボリウッド・スター御用達のシャビナー、リティックのコスチュームはロッキー・Sがフィーチャーされている。「DTPH」にコスチューム・デザイナーとして参加していたカランだけに、衣装への要求度も高い。
鳴り物入りで話題を呼んだ「Yaadein」が大コケしたり、ロングランはしたけれど今ひとつ物足りなかった「Mohabbatein」の例もあり、期待と懸念が入り交じったまま公開を待った本作「K3G」だが、デビュー2作目とは思えないカラン・ジョハールの実力を見せつけられた。
本作に出演しているスーパースターたちがボリウッドのサラブレッドであるなら、監督のカランもまた映画一族の生え抜きと言えよう。日本で世襲と言うと、2世タレントや2世議員など大成しない代名詞のように聞こえるが、驚くべきはボリウッドの映画一族である。
1990年代のトップ1メガヒットとなった「HANK」(デビュー2作目)のスーラージ・R・バルジャーツヤー、トップ2「DDLJ」(デビュー作)のアーディティヤー・チョープラー、そしてトップ4「KKHH」(デビュー作)のカラン・ジョハールと、どれもデビュー作ないし2作目で、これだけの記録を叩き出してしまうのだから驚嘆する他ない(もっとも、2001年にデビューした新人監督の多くは惨敗しているが)。
語り尽きないので、このへんで終了する。
02.01.15追記
「K3G」の勢いは留まるところを知らない。
英国チャートでは、第3週が7位、第4週も9位に留まり興収200万ポンドを突破! 第1週公開時からチャート内に留まっているのは、他に「ハリー・ポッター」(2001=米)など2作品のみと言う入れ替わりの激しいトップ10においていかに健闘しているかが判る。
また、「K3G」ヒットの余波でミーラー・ナーイル監督の新作「Monsoon Wedding(モンスーン・ウエディング)」(25プリント)も初登場11位をマークするなど、ちょっとしたインド映画流行となっている。
100プリント以上でリリースされたボンベイでも依然熱狂的な客入りを見せており、チケット・ブースには夜通し並ぶ列が出来ているほど。これはアミターブ・バッチャン全盛期でさえ「炎」Sholay(1975)や「Deewar(壁)」(1975)など、わずかの作品にしか見られなかった光景だと言われる。
一方、カラン・ジョハールは、助監督を務めたニキール・アドヴァニーの監督デビュー作用脚本に着手していて、シャー・ルク・カーンが主演する模様。内容はスリラーになるそうだ。
02.01.26 追記
ちなみに第5週は英国チャートが14位と依然トップ圏内(「MW」は第2週12位)。ボンベイも84%と好調。
02.10.10 追記
東京国際映画祭2002・アジアの風部門にて、「時に喜び、時に悲しみ」の邦題で1回のみ上映される。某老舗映画雑誌の東京国際映画祭ガイドでは「インドのスーパースター、シャー・ルク・カーンの豪華絢爛なミュージカル」と判ったような判らないような紹介文に留まっていたが、世間及び業界的には「インド映画」は過去の物であるため致し方あるまい。
その後、一般公開されるかは不明。されるとしても、「ミモラ」のごとく原題とかけ離れたカタカナ三文字の公開タイトルはやめてほしいものである。
02.10.31
追記
シアター・コクーンでの上映は、プリントも良好。プロデューサーのヤシュ・ジョハールを招いてティーチ・インが行われた。
05.11.25 追記
チャンドゥニー・チョウクで催されるルクサールの結婚式シーンで、着飾ったシャー・ルク・カーンが現れるお忍びナンバー「yeh ladka hai allah」の前振りで、カジョールがラター・マンゲーシュカルの歌声に合わせて踊っているフィルミーソングは、シュリーデヴィー主演「Chandni(チャンドゥニー)」(1989)の舞踊ナンバー「mere haathon mein nau nau」。途中で曲が途切れ、カジョールの声で調子っパズレになるのがアンジェリーのキャラクターにマッチしていて笑いを誘う。ついでに記すと、「Chandni」はカラン・ジョハールが尊敬するヤシュ・チョープラーの年間トップ4作品。
後半、英国でのインド人パーティーで、群舞ナンバー「bole chudiyan」前にリティクがちらっとだけ踊るのが、カリーナーとのやりとりで台詞にもあった「HAHK!」の婚約ナンバー「wah wah ramji」(プレイバックは、S・P・バラースブラーマーニアンとラター)。 当然、タイトルの「Hum Aapke Hai Koun!(私はあなたの何?)」がローハンとプーの関係にアテられている。
閑話休題。破竹の勢いで記録更新するかに見えた「K3G」の熱狂も歴代トップ6に留まった(「KKHH」は続くトップ7)。
惜しむらくは、ヤシュ・ジョハール・ジーが、2004年6月26日、胸部鬱血のため永眠されたことだ。東京国際映画祭のティーチ・イン質疑応答で、クレジットにあるジェシー・リーヴァルがジョニー・リーヴァルの実子で、劇中、ハリディラームの息子を演じていたのかどうか、質問し忘れたのが悔やまれる。
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