Pratiggya(1975)#235
「Pratiggya(誓い)」★★★★
プラティギャー
製作:ビクラーム・スィン・デーハル/原案・製作:カンワール・アジート・スィン/監督:ドゥラール・グハー/脚本:ナベンドゥー・ゴーシュ/台詞:シャフィーク・アンサリー/撮影監督:M・ラージャーラーム/作詞:アナン(=アーアンド)・バクシー/音楽:ラクシュミーカーント-ピャーレーラール/振付:ゴーピー・クリシュナン、サロージ・カーン、M・ナイドゥー/アクション:ラヴィ・カンナー/美術:デーシュ・ムカルジー/編集:ビマール・ローイ
出演:ダルメンドラ、ヘーマー・マーリニー、アジート、アビー・バッタチャルヤー、ジャグデープ、ケーシュトー・ムカルジー、ジョニー・ウォーカル
助演:サプルー、サティヤン・カップー、R・ティワリ、ナーズィル・フセイン、アルハー、イムティアズ、リーラー・ミスラー、マドゥー・マーリニー、マールティー、ラーム・モーハン、プラカーシュ、スンデール、ブラフムチャリー、V・ゴーパル
特別出演:プラデープ・クマール、ウルミラー・バット
公開日:1975年6月23日(年間トップ5ヒット/日本未公開)
STORY
トラック野郎のアジート(ダルメンドラ)は今際の際の母親から、実は警察署長の息子で家族は盗賊バーラート(アジート)の一味によって皆殺しにされたことを知る。荷主の要請から指名手配となったアジートは、見知らぬ村ディナープルに流れ着き、警察と盗賊バーラートの激しい銃撃戦を目撃。瀕死の重傷を負ったインスペクター・デスーザ(サティヤン・カップー)から警察の武器弾薬を積んだトラックを託され、アジートは警官を装ってバーラートへの復讐を仕掛けるが、その村で出会ったラーダー(ヘーマー)に恋してしまい…。
Revie-U
ダルメンドラ、サニー・デーオール、ボビー・デーオールの父子狂演で本年新春ロングラン・ヒットとなった「Yamla Pagla Deewana(阿呆に馬鹿に恋狂い)」(2011)のタイトル元が本作のメモラブル・ナンバル「main jat yamla pagla diwana(俺は阿呆で馬鹿で恋狂い)」。
音楽は、シャー・ルク・カーン主演「Om Shanti Om」オーム・シャンティ・オーム(2007)の発想元「Karz(借り)」(1980)などを手がけた往年のヒット・メーカー、ラクシュミーカーント-ピャーレーラールが担当している。
本作でのダルメンドラは、髭にターバンといった役作りのトラック運転手アジート、回想シーンで父親のインスペクター・ダヴィンデール・スィン、そして逃亡中に髭を落として偽警官として盗賊バーラートと対峙するタンデーダルの三変化を披露。粗野なトラックワーラーからカーキー(制服)をすらりと着こなす様は、さすが往年の2枚目スター。
それまで盗賊に苦しめられていた村人がこぞって警官になりたがり、アジートは、へなちょこ警官隊を組織する。この時、マシンガン(ステン・マークⅡ)で射撃訓練するが、標的の空瓶にまったく当たらない。そこでヤケになって酒を煽るにつれ、射撃術が向上してゆくのがいかにもダルゥメンドラらしい(笑)。
さて、永遠のヒロイン、ヘーマー・マーリニー(イーシャー・デーオールの母)はと言うと、牛車に乗り、裾丈がやや短いトライバル風の衣装で登場。「Sholay」炎(1975)のバサンティーを彷彿とさせるが、肩には水平二連の散弾銃を担い、盗賊バーラートの遠縁という設定。
射撃訓練で偽警官タンデーダル=アジートが狙った標的を代わりに撃ち落とすのが可笑しい(「Sholay」ではダルメンドラがヘーマーにいちゃつきながら拳銃の扱いを教え、標的は次元大介よろしく寝そべったアミターブ・バッチャンが撃ち落としていた)。
「Sholay」と同年公開とあって、意識したようにも思えるが、実は本作の方が2ヶ月早く公開している。
宿敵となる盗賊バーラート役は、味のある悪役として名高いアジート。なんとも甘ったるい台詞まわしが実にチャーミー。今回は泥臭い馬賊の頭目役であるが、ダルメンドラ主演「Yaadon Ki Baaraat(思い出の花婿行列)」(1973)」などエレガントな極悪紳士で鳴らしていた。「Naya Daur(新しき時代)」(1957)でディリープ・クマールの親友にして恋敵に扮したのが、敵役となる定めであったか。
ちなみに「Tom, Dick, and Harry(出歯亀三人衆)」(2006)で息子のシェーヘザード・カーンが演じていたもったいぶった悪の首領は父のパロディ。
サポーティングは、バーラートに惨殺されたインスペクター・ダヴィンデール・スィンの部下であるシヴチャーチャー(叔父。転じて一般的な呼びかけでの「おじさん」)役が、「Jewel Thief」(1967)でデーヴァナン(=デーヴ・アーナンド)の父親である警察署長、「Amar Akbar Anthony」アマル・アクバル・アントニー(1977)でアミターブの養父となる神父に扮していたナースィル・フセイン。老齢となり盲(めし)いた泣きの芝居が胸を打つ。
バーラートの襲撃を受け殉死する間際、アジートに警察の武器弾薬を託すインスペクター・デスーザが「Don」(1978)、「G.air(除け者)」(1999)などのお茶の水博士サティヤン・カップー。
終幕、登場する警察署長アザームラールとして、メイク栄えする切れ長の目を持ち、「Taj Mahal」(1963)などウルドゥー映画で高貴な美男子を演じたプラディープ・クマールが特別出演。最後の台詞「ホダー・フェス(フダー・ハーフィズ=神のご加護があるように)」をキメる。
コミック・リリーフは、違法酒場の店主役にジョニー・ウォーカル(ジョニー・リーヴァルは彼の芸名に由来)。「Mumbai Meri Jaan(ムンバイー、我が命)」(2008)のタイトル元となった「C.I.D(中央捜査局)」(1955)のメモラブル・ナンバル「bombay meri jaan(ボンベイ、我が命)」や、「Garam Masala」(2005)の発想元となった「Duniya(世界)」(1968)のコミック・ナンバル「thhi meri laxmi」などは彼をフィーチャルしたもの。
その下働きカーナーが、「Sholay」の迷キャラクター、スールマ・ボーパーリーとして知られるジャグデープ。
村の密告屋役が、同じく「Sholay」の刑務所スケッチで密告屋の床屋ハリラームを演じていたケーシュトー・ムカルジー。
軽快なリズムをバックにダルメンドラがひとり転げ回る「main jat yamla pagla diwana」(モハムド・ラフィ)に続き、パンジャーブ悲恋「ミルザーとサヒーバー」を題材とした幻想ナンバル「uth neend se mirzia jaag ja」(ラター・マンゲーシュカル、モハムド・ラフィ)に突入。ヘーマーの舞いはまさしく<ドリーム・ガール>、また、この「サヒーバー」が「Yamla Pagla Deewana」でクルラージ・ランダーワー扮するヒロイン名にも引き継がれている。
本作や「Sholay」に登場するダクー/ダコイト(盗賊)は、なにもマカロニ・ウェスタンの影響を受けた映画におけるフィクションでなく、当時から現代において尚、インドの奥地で暴れ回り社会問題となっている背景がある。
特に公開当時はインディラー・ガーンディー首相が非常事態宣言を発令、司法が機能不全に陥っていたこともあり、本作のように市井の青年が<自主的な警官>となって盗賊(不正)と闘い、その功績から超法規的に<正式な警察組織(村人含む)>として認可されるストーリーが共感を呼んだのであろう。