Yamla Pagla Deewana(2011)#234
「Yamla Pagla Deewana
(阿呆に馬鹿に恋狂い)」★★★★
ヤムラー・パグラー・ディーワーナー
製作:ニティン・マンモーハン/製作・監督:サミール・カールニック/脚本:ジャスヴィンデール・スィン・バト/撮影監督:カビール・ラール/作詞:アナン(=アーナンド)・バクシー、ダルメンドラ、アヌー・マリック、イルシャード・カミル、ラーフル・B・セート、RDB/音楽:ラクシュミーカーント -ピャーレラール、アヌー・マリック、サンデーシュ・シャンディルヤー、ノウマン・ジャーヴェード、RDB、ラーフル・B・セート/振付:ボスコー – カエサル/背景音楽:サンジョイ・チョウドリー/美術:ジーテンドラ・カヴァ/アクション:アナール・アラスクマール/VFX:インタルメッゾ・スタジオ/編集:ムケーシュ・タークル
出演:ダルメンドラ、サニー・デーオール、ボビー・デーオール、クルラージ・ランダーワー、ナフィサー・アリー、エマ・ブラウン・ガレット、ジョニー・リーヴァル、プニート・イサル、ムクール・デーヴ、ヒマンシュー・マリック、スチェーター・カンナー、アミット・ミストリー、アヌパム・ケール
ナレーター:アジャイ・デーヴガン
公開日:2011年1月14日(新春ロングラン・ヒット!/日本未公開)159分
STORY
カネーダ(カナダ)に住むパラムヴィール(サニー)は、ふとしたことから生き別れた父ダラーム(ダルメンドラ)と弟ガジョーダル(ボビー)がヴァナーラスにいることを知って、インドに渡る。果たして、親子の再会となるが、ふたりは名うての詐欺師でそうそう心を許さない。その上、ガジョーダルがひと目惚れした女性カメラマンのサヒーバー(クルラージ)が兄達に連れ去られ、パンジャーブに乗り込むこととなり…。

(c)Top Angle Productions, One Up Entertainment, 2011.
Revie-U
日本のボリウッド・ファンにおいては認知度は低いが、全世界的なボリウッド映画市場で依然、優良株であり続けるデーオール兄弟の作品にノれるかどうかで本格的なフィルミーサーラー(映画狂)と言えるかどうかの試金石となる。
そのデーオール父子の共演第2弾が本作。
父ダルメンドラは、60年代に甘いマスクの2枚目スターとして名を成し、70年代の「Sholay」炎(1975)でアミターブ・バッチャンと共にインド映画のトップ・スターに君臨。タフなアイコンとして今も威光を発揮。
長兄サニー・デーオールは、シャー・ルク・カーンがストーカー役でブレイクした「Darr(恐怖)」(1993)でこそ霞んで見えたものの、「Ghayal(傷ついた者)」(1990)が年間トップ1、印パ分離独立の悲劇を描いた「Gadar(暴動)」(2001)が同年の「ラガーン」Lagaan、「家族の四季」K3Gを大きく引き離し、それまでのサルマーン・カーン N マードゥリー・ディクシト共演「Hum Aapke Hain…Koun!(私はあなたの何?)」(1994)を破ってインド映画史上No.1ヒットを獲得。泣く子も黙るトップ・マネー・メイキング・スターなのであった。
さらに弟ボビー・デーオールもデビュー作「Barsaat(雨季)」(1995)が6位、「Gupt(秘密)」(1997)が4位、「Soldier」(1998)が2位、「Badal(雲)」(2000)が6位と単独主演作が上位に食い込む栄光を持つ。
もっともゼロ年代は映画賞レースからほど遠く、独特のポジションを確立しながらもメインから外れた印象が否めなかった。
ところが、本作がオープニングから2週連続1位、6週目も5位をキープするなど、ニュー・ストリームが吹き荒れる現状でカウンター・パンチとなるような新春早々のロングランとなった。
タイトル及びタイトルソングは、ダルメンドラ主演「Pratiggya(誓い)」(1975)におけるメモラブル・ナンバル「main jat yamla pagla deewana(俺は阿呆で馬鹿で恋狂い)」から継承。
<ドリーム・ガール>ヘーマー・マーリニーとの間に生まれたイーシャー・デーオールのデビュー第2弾「Na Tum Jaano Na Hum(君も僕も知らずして)」(2002)でもイーシャーが男装コスプレして巫山戯(ふざけ)て踊っているのがこの曲。
「Pratiggya」自体が生き別れ物とあり、アジャイ・デーヴガンをナレーターに起用した冒頭に映し出されるのが、アーミル・カーンが子役出演しているダルメンドラ主演の三兄弟再会物「Yaadon Ki Baaraat(思い出の花婿行列)」(1973)、突然の地震で親子散り散りとなるヤシュ・チョープラー監督作「Waqt(時)」(1965)、生き別れた三兄弟がそれぞれヒンドゥー/ムサルマーン(イスラーム)/クリスチャンの養父に育てられる名画「Amar Akbar Anthony」アマル・アクバル・アントニー(1979)など、ヒンディー映画王道である生き別れた家族の再会物語が綴られる。

(c)Top Angle Productions, One Up Entertainment, 2011.
御年75歳とは思えない快活な様を見せるのが、ダルメンドラ。役名ダラームは彼自身の愛称でもあり、人捜しに使われる昔の写真に「ダルメンドラ」と本人の名前が平然と使われるメタなところがボリウッド。
ファースト・アイテム・ナンバル「tinku jiya」でダルメンドラのバックでスクリーンに映し出されているのは、彼主演の年間トップ2「Dharam Veer(ダラームとヴィール)」(1977)での勇姿。酒場ナンバル「kadd ke botal」では作詞を手がけるが、本編未収録なのが残念(CDにのみ収録)。
その妻役が、ダルメンドラと老いらくの恋が好評であった「Life in a…Metro(大都会)」(2007)のナフィサー・アリー。ミス・インディア1976を勝ち取り、シャーム・ベネガル監督作「Junoon(狂氣)」(1979)でスクリーン・デビュー。「Guzaarish(要望)」(2010)ではリティク・ローシャンの母親を演じている。

(c)Top Angle Productions, One Up Entertainment, 2011.
バンクーバーに住むNRI(在外インド人)でまだ見ぬ父子を探しにインドへ渡るパラムヴィールが、サニー・デーオール。初の父兄弟共演「Apne(身内)」(2007)では父子の情愛を煽る形で、疎まれ蟠(わだかま)りを持つ筋立てだったが、本作では実にストレート。
期待以上の人間機関車ならぬ人間颱風ぶりを発揮するが、単なるぶっ飛んだゴーケツでなく、鋼鉄並みの腕っ節に家族を思う深い愛情が備わったキャラクターだからこそ笑いも生きてくる。早々に父と弟をみつけるも、詐欺師で親子の縁を認めようとしない彼らにひたすら広い心で見守り続けるのは、インド映画の理想像。これもサニーの澄んだ瞳があってこそ。
その、ブロンド美人妻メリー(ヒンディーの「meri=私の〜」に掛けてある)役エマ・ブラウン・ガレットは、オーストラリアのTV女優。
インド系ジーテンドラ・パルが監督・出演したニュージーランド映画「Gupta vs Gordon」(2003)、ミトゥン・チャクラワルティー主演「Shukno Lanka」(2010=ベンガリー)、アビシェーク・バッチャン主演「Dum Maroo Dum(キメてぶっ飛べ!)」(2011)にも出演。出番は少ないものの、パンジャービーNRIに嫁いだだけあって肝っ玉な設定がよい。

(c)Top Angle Productions, One Up Entertainment, 2011.
「Ek(パワー・オブ・ワン)」(2009)ではナーナー・パーテーカルを向こうにまわし初期のハードボイルド風なアクションを見せていたボビー・デーオールだが、今回は兄に譲りロマンスとダンス・ナンバルの数々を担当。初の兄弟共演「Dillagi(笑い話)」(1999)でも軟弱な弟役で兄サニーを立てていた。
失恋しかけたガジョーダルが見せる「Sholay」スケッチ(国民的盗賊ガッバル・スィン+伝説の給水塔スーサイド)が絶妙。アビシェークとジョン・エイブラハムを喰っていた「Dostana(友情)」(2008)のニヤ氣ぶりも忘れ難い。
監督サミール・カールニックは、アイシュワリヤー・ラーイ N ヴィヴェーク・オベローイ主演「Kyun! Ho Gaya Na…」(2004)で監督デビューしたが、その後、ボビー彼自身をリスペクトした感動作「Nanhe Jaisalmer」(2007)以降はボビーひと筋とあって好感が持てる。

(c)Top Angle Productions, One Up Entertainment, 2011.
ボビーのプードル顔で見つめられるヒロインは、パンジャーブ映画「Tera Mera Ki Rishta(君と僕の関係)」(2008)でもジミー・シェールギル相手に愛らしい様を見せていたクルラージ・ランダーワー。TV「Kareena Kareena」のカリーナー役で知られる。派手さはないが、スマート(小賢しいでなく)な魅力を放つ。
役名サヒーバーは、パンジャーブの三大悲恋「ミルザーとサヒーバー」に由来。これに基づき彼女の兄たちに引き裂かれ、インタルミッション(休憩)となる。
サポーティングは、サヒバーの年の離れた長兄ジョギンダール役に「Pyaar Impossible!(恋はインポッシブル!)」(2010)のアヌパム・ケール。父遺品のリボルバーを片時も手に離さないコワモテながら、どこか抜けてるのが実にチャーミー。
ひとりだけターバンをしていないサヒバーの兄が「Mujhe Meri Biwi Se Bachaao(私を妻から救って)」(2001)のムクール・デーヴで、酔いどれぶりがたまらない。マイナー映画やTVシリアルで俳優業を続けていたのが嬉しい限り。
収穫はサヒーバーの妹ポーリー役、ラーラー・ダッタ+プリティー・ズィンター顔のスチェーター・カンナー。コメディエンヌとして今後も期待。
また、居候ビンダー役アミット・ミストリーも高ポイント。「99」(2009)のハンパなゴロツキ役を引き継いだ氣弱な小男ぶりが笑える。「What’s Your Raashee?(君の星座は何?)」(2009)の台詞も手がける才人でもある。
そして、ジョギンダールと敵対するミンティことテージパル役が、「Bunty Aur Babli(バンティとバブリー)」(2005)でラーニー・ムカルジーの父親を演じていた偉丈夫プニート・イサル。デビュー作「Coolie」(1983)の格闘シーンでアミターブ・バッチャンを骨折させた伝説の男として知られ、サルマーン主演「Garv」(2004)などの監督作も手がけ、製作・脚本・監督の新作「Nischay Kar Apni Jeet Karoon」(2010=米)が完成。
さらに、前半のコミック・リリーフに、ダラームらに詐欺に遭うジュエリー店主役ジョニー・リーヴァルが登場。
ストーリーは言ってみれば、デーオール家版「家族の四季」ないし「Bunty Aur Babli」。
後半は、パンジャーブに連れ去られた恋人の家に乗り込んで、と「DDLJ」(1995)。駆け落ちしようとするところは「Jab We Met(私たちが出会った時)」(2007)。選挙演説をするアヌパムに駆り出されてアングレージ(英語)がまったく解らない地元民にサニーが出鱈目スピーチをするのは「3 Idiots」3バカに乾杯!(2009)の変形?
もっとも、これは例えてみれば、の話で「I Hate Luv Storys」(2010)の劇中映画「Pyar Pyar Pyar…」のような継ぎ接ぎパロディでは決してない。後半、サヒーバーの兄を言いくるめるも彼女と婚約がまとまるのが、兄のパラムヴィールの方。これを回避しようと、あれこれ画策するも余計にドツボにはまってゆくのが可笑しい。
生まれて間もなく母親から置き去りされたと聞いて育ったガジョーダルが、パラムヴィールのところに掛かって来た母からの電話を間違って受け取るシーンも胸を打つ。
母親の背景には出て行った夫の額装写真が映り込み、次のショットでは彼女の額へ合わせた位置にスィクの開祖グル・ナーナクの肖像画がフレーミングされており、大いなる働きを暗示している。
続いてガジョーダルが父ダラームに事の真相を問い詰める場面は、電飾で輝かしく飾り立てられたグルドワーラー(スィクの寺院)。ここでふたりはすべてを受け入れ、また、見守り続けたパラムヴィールとガジョーダルが真の兄弟として抱擁するのだ。
これらを実の父子、兄弟であるダルメンドラとサニー&ボビーが演じ、芝居を超えた情愛が伝わってくる。
ただ、せっかくヘーマーとの「Pratiggya(誓い)」を原点としていながら、ダルメンドラとヘーマーは熟年になって共演作がなく、異母妹イーシャーも忘れ去られているのが惜しまれる。
いつの日か真の親子共演を果たして、全世界のボリウッド・ファンを泣かせて欲しいものだ。

正規盤DVDはメイキング収録のミニDVD付き。