Barsaat(1995)#232
バルサート
製作:ダルメンドラ/原案・台詞・脚本・監督:ラージクマール・サントーシー/台詞:シャーム・グプタ/撮影:サントーシュ・シヴァン/作詞:サミール/音楽:ナディーム-シュラワーン/背景音楽:ルイス・バンクス(Gema)/振付:ラグラーム、ラージュー・スンダラム、ファラー・カーン、レーカー・プラカーシュ/アクション:ティヌー・ヴェルマー/編集:V・N・マイェカル
出演:ボビー・デーオール(新人)、トゥインクル・カンナー(新人)、ラージ・バッバル、ムケーシュ・カンナー、ハリーシュ・パテール、アンジャン・スリワスターワ、バーラト・カプール、アシュヴィン・コゥーシャル、ヴィジャイ・カシャップ、スハース・バレーカル、ヴィジュー・コーテー、シェフジャード・カーン、スレーシュ・バグワート、ダニー・デンゾンパ
客演:キラン・ジュネジャー、アーシャー・サーチデーウ
友情出演:アジット・スィン・デーオール、ジャグダルシャン
公開日:1995年10月6日(年間トップ6ヒット/日本未公開)
Filmfare Awards:W新人賞(ボビー N トゥインクル)
STORY
山育ちのバーダル(ボビー)は、町のカレッジに入学し、姉御肌のティナ(トゥインクル)と恋に落ちるものの、彼女の父デーニーシュ・オベローイ(ラージ)らに反対され…。
Revie-U
本作は、ボビー・デーオール&トゥインクル・カンナーのダブルデビュー作。製作はボビーの事を最もよく理解している父親ダルメンドラ。しかも、選ばれた監督は兄サニー・デーオールをNo.1ヒットに輝かせた「Ghayal(傷ついた者)」(1990)のラージクマール・サントーシー!
はじめに登場するのは、70年代のスーパースター、ラージェーシュ・カンナーとディンプル・カパーディヤー*の娘トゥインクル。当時、21歳(撮影は20歳か)。拳銃を片手に殺人を告白するというショッキングな登場シーン……に思わせて、実は舞台稽古。勝手に台詞を変えてしまうあたりが、フィルミーカーストのデビュー作らしい?! しかも、ジープで暴走して道端のカップルに泥水を浴びせるなど、高飛車な上に極めて感じの悪い女子大生という役どころ。
一方、ボビーは彼の野性味?を引き出すべく、トライバル(先住民)という設定で、なんと素手で虎と格闘という登場シーン!**(もっとも、撮影監督のサントーシュ・シヴァンにインタビューしたところ、ただの<マウンテン・パーソン>との答え)
その彼の名がバーダルとなっていて、「Ghayal」の時、ラージクマールの下で助監督をしていたラージ・カンワルの監督作「Badal(雲)」(2000)でもその名前が継承されている。
さて、トライバル風のエスニックな服装でカレッジに現れ、学長を探しているボビーを、下僕(しもべ)の学生たちで固めた姉御のトゥインクルらが冗談を仕掛けてからかうエピソードは、後の「Main Hoon Na(私がいるから)」(2004)にも影響を与えている?!
前半はボビーとトゥインクルの学園ロマンス物、後半がふたりの仲を裂こうとする父親が雇った悪徳インスペクターとの派手なアクションとなる。 中盤のサマーキャンプ中、これまた後の「Kaho Na…Pyaar Hai(言って…愛してるって)」(2000)がなぞっている(?)ように、ふたりは激流に流されて遭難してしまう。
ただ、「KNPH」とは異なり、後半への伏線が張られていないので、行き当たりばったりの平均的マサーラーに留まる。
氣になるふたりの演技力だが、この時期、巻き毛の長髪であったことを除けば、ボビーの印象は今と変わらず。このへんは演技力据置というより、デビュー当時から高いスター性を発揮していたと言ってもよいだろう。例の、鼻の下を伸ばしたプードル顔もすでに見られ、ボビーの魅力が存分に引き出されているわけだ。
トゥインクルの方も、デビュー作だけにやる氣満々だったのか、ダンス・ナンバルでもテンポよく踊って見せる他、コメディエンヌぶりもまずまず。だが、整い過ぎた面長のマスクが災いしたわけではないだろうが、似たようなつくりのラヴィーナー・タンダンに水をあけられ、後年になるにつれ、画面からパッションを見出すことが難しくなってしまう。その点では、早々にアクシャイ・クマールを略奪婚して家庭に納まったのは正解だろう。
ラージクマールの演出は、バッピー・ラーヒリーの背景音楽(「ブラックレイン」とランバダの再創作)で押しまくった「Ghayal」と異なり、いささか迷走氣味。この要因には、ルイス・バンクスのチープな背景音楽も挙げられるだろう。
その一方で、オープニングにも流れる「humko sirf tumse pyar hai」のイントロが、「Kuch Kuch Hota Hai」何かが起きてる(1998)に次いでトップ2ヒットとなった「Soldier」(1998)のタイトルソング「soldier soldier」(作曲アヌー・マリック)に継承されるなど、ボビーの記念碑的作品になっている。
また、学園&ピクニック・ナンバル「ek hasoon ladki se(ある美しき女の子に)」は、キショール・クマール主演「Chalti
Ka Naam Gaadi(進むものの名前はクルマ)」(1958)より「haal kaisa hai janab ka(旦那、ご機嫌いかが)」の意匠直し。本作公開当時、発売されていたTシリーズのコンピCD「Bollywood Mix」でサプナー・ムカルジーとバーブル・スプリヨーがカバーしたことからインスパイア?(途中からなぜか、ワン・トゥー・チャチャチャになるけれど……)
ワイルドな主人公が冒頭で荒馬や虎(!)と格闘、極めて感じの悪いヒロイン(苦笑)とすったもんだの末、恋に落ち……という展開は、同じく父ダルメンドラがセットアップした兄サニーのデビュー作「Betaab(燃える恋)」(1982)と共通点も多いところが興味深い。
ちなみに本作のオープニング・タイトルバックが反転着色となっているのは、旧「Don」(1978)というより父ダルメンドラ&継母ヘーマー・マーリニー主演の年間トップ10ヒット「The Burning Train」(1980)からの引用であろう(これは70年代後半からのパニック映画ブームを受けた70ミリ大作の梵林版「カサンドラクロス」というか「大陸横断超特急」)。
ボビーはデビュー10周年を記念して?これまた同じタイトル「Barsaat」(2005)に出演。こちらはビパーシャー・バス&プリヤンカー・チョープラーをダブル・ヒロインに迎えた愛憎劇。もちろん、ボビーらしさがあふれていてオススメ。
また、ボビー久々のプードル・ヘアが楽しめる新作「Shakalaka Boom Boom」(2007)が4月6日にリリース(封切り)され、初登場2位動員という勢い。監督は「Jaanwar(獣)」(2000)のスニール・ダルシャン。この人、監督デビュー作のサニー以外では、主演にはアッキーかボビーしか起用しないという極めてボリウッ度が高い筋金入りの監督。共演は「36 Chaina Town」(2006)のウペン・パテール(アテレコのため、毎回声が違う)。ヒロインは、B級コメディに引っ張りダコのセリーナー・ジャイレー、「Gangster」(2006)で新人賞を総嘗めにしたカングナー・ラナウト(依存系女が続いた彼女がコメディでどう芝居をするのか見物?)。
*カパーディヤー(Kapadia)の「d」は、ナーガリー表記では反り舌を示すヌクター(・)を付けた「r.」となり「カパーリヤー」と発音。ではあるが、ヌクターなしの発音でもTKなので、インド人も「カパーディヤー」と言っているためノー・プロブレム。
**「Maa(母さん)」(1976)では、ジャングル・キングに扮したボビーの父ダルメンドラが、豹・虎・ライオンと素手で格闘! だが、象が相手となるとさすがのダラム・ジーも木の上に逃げるしかない。おまけに小象相手にてんてこ舞い!! ヒロインは無論、ボビーの継母ヘーマー・マーリニー。
*追記 2011,03,26
「Barsaat」と言えば、1949年に制作されたラージ・カプール(カリーナー・カプールの祖父)監督・主演作が知られているが、それとは別物。そちらのヒロインは「Shree 420(詐欺師)」(1955)でもコンビを組んでいるナルギス(サンジャイ・ダットの母)。
さて、本作。W新人映画とあって、ボビーの役名が「ボビー」となっているにも関わらず、トゥインクルが「ティナ」であるのは、彼女の本名であるため。当初はティナ・カンナーでデビューする予定で撮影が進んだものの、母親ディンプル・カパーディヤー風に「トゥインクル」と改めたのではないかと思える。ちなみにディンプルの妹はシンプルという(これ本当)。
さらに母ディンプルは、リシ・カプール(ランビール・カプールの父)と「Bobby」ボビー(1973)とWデビューを果たしたから、本作で2世スターである「ボビー」とのWデビューは、実に目出度い企画であったはず。
実際、この年、台風の目となったシャー・ルク・カーン N カジョールの「DDLJ」(1995)の2週間先にリリース(封切り)されながら年間6位に食い込み、Wで新人賞を獲得するなど、大成功と言えよう。