Home » DVDレビュー

Hum Aapke Dil Mein Rehte Hain(1999)#025

2006.04.30
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!
Hum Aapke Dil Mein Rehte Hai

ティラキタのDVD商品を見る

Hum Aapke Dil Mein Rehte Hain
(私はあなたの心に住んでいる)

06.03.30UP ★★★★
ハム・アープケー・ディル・メィン・レヘテー・ヘー

製作:Dr.D・ラーマナイドゥー/監督:サティーシュ・コゥーシク/原案:ブパティー・ラージャー/台詞:ジャネンドラ・ジャイン/撮影:カビール・ラール/音楽:アヌー・マリック/詞:サミール/振付:サロージ・カーン、チンニー・プラカーシュ/アクション:R・ラージャー/美術:シャルミスター・ローイ

出演:アニル・カプール、カジョール、アヌパム・ケール、シャクティ・カプール、パルミート・セティー、ミンク、サティーシュ・コゥーシク、ラーケーシュ・ベディー、ジョニー・リーヴァル、スミター・ジャイカル、スダー・チャンドラン、グレーシー・スィン、サドゥー・メヘル、ラージュー・シュレスタ、アディ・イラーニー、ディニーシュ・ヒングー

公開日:1999年1月22日(年間トップ7/日本未公開)

STORY
富豪の息子ヴィジャイ(アニル)は、永らく住んでいたアメリカからインドへ帰国。亡き母の代わりにアールティー・プジャを与えた昔からの使用人に、やはり母への代わりだからとプラナームする息子を見てインドの美徳を忘れていないことに父親ヴィシュワナート(アヌパム)は、胸を撫で下ろす。
さっそく見合いの手配を始めると、アメリカ仕込みのヴィジャイは、それを拒否。しかし、父親の立っての望みであればと結婚することを承諾する。ただし、一年間という条件つき! そこでヴィシュワナートが選んだのが、秘書のメガ(カジョール)。宣言通り、ヴィジャイは結婚式の当日に契約書とペンを差し出して・・・。

Revie-U
監督は、コメディアンのサティーシュ・コゥーシク。同じくアニル・カプールを起用したアイシュワリヤー・ラーイの受難マサーラーHamara Dil Aapke Paas Hai(私の心はあなたのもの)(2000)の前作にして、監督作としては3作目にあたる。

自らコメディリリーフとして登場していて、ジョニー・リーヴァルや運転手役のラーケーシュ・ベディらと素っ頓狂な借金取り立てスケッチを展開!

こう書くと、いかにもデーヴィッド・ダーワン式の「脳みそ置いてけコメディ」に思えるが、マサーラーはマサーラーでも、インド女性の胸をぐいぐい締めつけるジェンダー(?)マサーラーなのだった!

ヒロインは、Kuch Kuch Hota Hai(何かが起きてる)(1998)がメガヒットとなり、アジャイ・デーヴガンとの結婚も控えたカジョール

サーリー姿も美しく、その存在感からしてボリウッド・トップスターの威光を放ち、時にアニルを差し置いて強い印象を与える。

そのカージョール扮するメガの妹役が、Lagaan」ラガーン(2001)で本格デビューする前のグレーシー・スィン(グレーシーとだけクレジット)。芝居は大差ないものの、この頃はひときわ甲高い声で、しかも険のある不美人なのが意外。

この妹の縁談では、花婿側の両親から「ダウリーを3ラーク用意する希望者がいくらでもいる。でも、私たちは進歩的だから2ラークにディスカウントしてもよい」と、まさに商談風に切り出される。無論、メガの家は父親が他界しているから兄と彼女の稼ぎでは到底、そのような大金を用意できない。

通常、ダウリー(婚資)は家長の年収3倍が相場とされていたが、年々上昇しているだけでなく、テレビやバイクといった物品も要求される。この習慣は元々、中流ヒンドゥーのものであったが、昨今はムスリムやクリスチャンにも広まっているという。

インド女性の受難を描いた大作Lajja(恥)(2001)でも、マヒマー・チョウドリーが結婚式の最中にダウリーを釣り上げる花婿側に逆ギレする一幕があった。

この悪名高きダウリーを禁止する法律は、施行されて日が長いにも関わらず、一般の認識は非常に低く、娘が3人もいたらマハラジャでも家が傾くと言われる(そういう点では、名古屋あたりと同じ?? 昔、「婚約指輪は月給3ヶ月分が目安」という押しつけがましいCFが新宿あたりのロードショー館で流れされて失笑を買っていたが、今もやっているのだろうか?)。

そればかりでなく、ダウリーを狙った花嫁殺人が今も一日2件以上発生しているという。

そんなこともあって、「君は今日からクビだ。その代わり、息子の嫁になりたまえ」とヴィシュワナートから言われてたメガは即、結婚を承知してしまう!

いかにもマサーラーな演出に思えるが、実際にその場で会ったばかりと相手と2時間で両親が結婚を決めてしまった例もあるそうだ。

それにしても、なぜインドの女性や両親は結婚に急ぐのか、というと……

「魂を救済するには十の方法があるが、ヒンドゥー教徒の女性には、結婚するという一つの方法しか許されていない。女性が魂の救済に達するのは、結婚によって夫に奉仕することだけである。未婚の少女は父親にとっては重荷である。もし思春期前に娘を結婚させることができなければ、父親は義務を果たしていないことになる。女性が未婚で死ぬと亡霊になると言われているが、結婚している女性の将来は祝福される。私たちの社会で認められている宗教的・文化的な慣習のもとで、親には娘をできるだけ早く結婚させなければならないというかなりの圧力がかかる。結婚させるために、これから姻戚になろうとする人たちにさまざまな気を引くものを提供する。将来の義理の息子になろうとしている男がどんな人間なのか関心がなく、調べようとしないのは、親が娘を結婚させるのにあせっているからである。結婚がみせかけのものに終わろうと、娘の将来より結婚することが重要になっている」(「ダウリーと闘い続けて/インドの女性と結婚持参金」スパドラー・ブタリアー著/鳥居千代香訳/つげ書房新社より)

そのような視点からすると、本作は単なるマサーラーに思えて、インド女性の厳しい現実がいくつも描き込まれていることに氣付く。

メガの妹は結婚話を餌に婚前交渉を許してしまい妊娠3ヶ月、家にダウリーを支払える見込みがないからと自殺を図ろうとする。姉は婚家から追い出された出戻りで、母が嘆けば、台所へ走って灯油を被り焼身自殺をしようとする……。

このへんのテンションはあまりにも激しく、ギャグめいてさえいるのだが、そこはインド女性の深刻な状況を女性観客に笑い飛ばしてもらうカタルシスとなっている。

さて、その新婚生活はというと、嫁のメガに対してヴィジャイがプラナームしてみせる。本来は女性が夫を神と等しく見立てて足下に礼をするところ、ヴィジャイは夫と妻は等しい友人であるべき、とアメリカ流の持論を持ちだすわけだ。

こうして、契約に縛られ不安に思えた新婚生活も、ふたりで甘く踊り合うハネムーン・ナンバー「chhup gaya badli」となってメガの心をアムリターのように溶かしてゆく。

ほっとさせられるナンバーだが、これはメガの抱く幻想。「恋愛は、結婚から始まる」と言われるインドだけに、思いがけず妻となった女性が日々の中で見知らぬ夫の一面に少しづつ恋心を抱いてゆく様が佳い。

いくつかのエピソードの後、ヴィジャイはひどい交通事故に遭う。メガは重態となった彼を献身的に看護し、寺院の階段を膝で登って夫の回復を祈る。その甲斐あって、ヴィジャイは無事リハビリを終える。ふたりの間に愛が通ったかに見えたその時、果たしてヴィジャイは一年間の契約終了を言い渡すのだ!

そう言いつつも後半、ヴィジャイは起きがけのチャーイを求めて彼女の名を呼んだりする(単に習慣?)。そして、灯火が消えたような家中に氣付く。

さらに追い討ちを駆けるようなエピソードが用意される。商用で空港へ向かうヴィジャイのクルマに障害者となった妻を背負った男が物乞いに現れるのだ。ドライバーは「そんな妻などさっさと実家に返して別れてしまえ」と言い放つと、男は「神との誓いでマンガルスートラを与えたのだから、そんなことは出来ない」と答え、この時初めてヴィジャイは結婚の意義を悟る。

マンガルスートラ(花婿側から贈られる首飾り)は、妻となった女性がいかなる時も外してはならないと言われる結婚の証。契約を終えて実家へ返される前、他のアクセサリーは外しても、メガはマンガルスートラだけは思いとどめていたのだった。

もちろん、今更、ヴィジャイに言い寄られてもと、メガは釣れない返事を返すばかり。

後半はヴィジャイのアプローチが続く中で、どひゃーんと驚かされるのが、なんと、いきなり倒れたメガが妊娠していたと発覚! あれだけ事務的な態度で通していながらヴィジャイは、やっぱりやることはやっていたわけだ! と、ここで拍子抜けしてしまう。やっぱり単なるマサーラーだった?!

この後すぐ流れる「papa main」は借用メロディーの上、ミッキーもどきの着ぐるみが出て来たりと、あまり大きな声で言えない展開に……。

ITによるインド経済の成長ぶりや、洋画化した今どきのボリウッドだけを見ると、インドという国すべてが消費社会を突っ走っているかのように思えてしまうが、ひとたび都市部を離れれば、今も女性たちは前近代的な社会的立場を強いられている。インドでは市場へ買い物に出るのは男の役割とされるが、それはフェミニズムからではなく、女性は家から出るべきではないという社会観念から。

「契約結婚」というアイディアを持つ本作は、アレンジド・マリッジを揶揄する一方で、そんな現実に身を置くインド女性の心を癒す秀作マサーラーといえよう!

その他のサポーティングは、メガの母親役にDevdas(2002)のスミター・ジャイカル。妹思いの弟スダーカル役に、Chal
Mere Bhai
(おい、兄弟)
(2000)のラージュー・シュレスタ

見合いビデオを持参する結婚専門僧侶パンディット・ラームプラサード役が、ディニーシュ・ヒングー。花嫁候補をひとりひとり女優に例えてマントラ風に紹介するのが可笑しい。

宿敵カイラティ・ラール役が、例によってのシャクティ・カプール。その娘にRaaz(神秘)(2001)のミンク・スィン。ヴィジャイと幼馴染み役ということで、サービス・ナンバー「meri life」が用意されているが出番は少ない。

また、DDLJ(1995)のフィアンセ、そしてJankaar Beats(2003)の弁護士パルミート・セティーが、いちいち「7回ボクシング・チャンピオンのオレ様!うんぬん」と豪語しながら、からきし弱い近所のゴロツキとして登場。あまりにもバカバカしい様が何度見ても笑える。

クマール・サーヌーアヌラーダー・パウドーワールと共に顔見せ出演しているアヌー・マリックの手によるタイトル・ナンバー「hum aapke dil mein rehte hain(私はあなたの心に住んでいる)が、心に染みる。

サティーシュの大揺れな演出は、インド女性の心に響いたようで年間トップ7にランク・イン! ちなみに、この年のナンバル1は、お騒がせ不倫コメディBiwi No.1(奥様No.1)

カージョールの存在感がひしひしと伝わり、もう少し評価が高まってよいのではないか、と願った1本であった。

関連する記事

タグ: , , , , , , , ,