Mumbai Meri Jaan(2008)#228-4
Mumbai Meri Jaan
(ムンバイー、我が命)★★★★☆
ムンバイー・メーリー・ジャーン
製作:ロニー・スクリューワーラー/監督:ニシカント・カマト/原案・脚本・台詞・作詞:ヨーゲーシュ・ヴィナヤク・ジョーシー/脚本:ウペンドラ・シダーイー/撮影監督:サンジャイ・S・ジャダーヴ/音楽・背景音楽:サミール・パテルペーカル/プロダクション・デザイン:マヘーシュ・サルガオンカル、ダナンジャイ・モーンダル、パリマール・ダース・ポーッダル/衣装:サチン・ローヴァレーカル/VFX:Tata Elxsi/音響設計:サンジャイ・マゥーリヤー、アルウィン・レーゴー/アクション:ジャーヴェード-アエージャズ/編集:アミット・パワル
出演:パレーシュ・ラーワル、K・K・メノン、イルファーン、R・マダヴァン、ソーハー・アリー・カーン、ヴィジャイ・マゥールヤー、サクシャーム・ダイマー、スミター・ジャイカル、ディヴヤー・ジャグダレー、シュリーヴァラブ・ヴヤス
公開日:2008年8月22日(日本未公開)/135分
Filmfare Awards:脚本賞、編集賞、批評家選作品賞
Screen Awards:音響設計賞
リヨン新世代映画祭:作品賞
*不安を煽る文面はありませんが、氣分が優れない場合はページを閉じて様子を見てください。
STORY
2006年7月11日18時24分~35分、帰宅時間で混み合ったムンバイー郊外線。行き交う7つの列車で連続爆破テロが次々と発生。乗り合わせた、あるいは爆破現場に遭遇した登場人物たちは事件のショックから心が激しく揺さぶられ、壊れつつも、やがて街に暮らす人々との関わりから再生してゆく…。
Revie-U
トーマスは、自転車にタンクをくくりつけて夜の路上で安酒を売り、妻が掃除婦として共働きする下流の住人。
直接的なテロ被害を受けた訳ではないが、事件をきっかけに日頃、鬱積していた心が暴走してゆく。
演ずるイルファーン・カーンは、「サラーム・ボンベイ!」Salaam Bombay!(1988)の手紙代書屋で鮮烈な印象を残し、ボリウッド・メジャーでは「Ghaath(殺人)」(2000)で頭角を現し、国際的な受賞作となった「The Warrior」(2001)から国外にも名が通り「Life in a…Metro(大都会)」(2007)でチャームを発揮。
印米合作「その名にちなんで」The Namesake(2007)、米「マイティ・ハート/愛と絆」(2007)、米英「スラムドッグ$ミリオネア」(2008)で国際俳優としての立ち位置を確立、ジェニファー・リンチ監督作「Hisss」(2010)、米「The Amazing Spider-Man」(2012)、米「Life of Pi」(2012)などハリウッド系作品に続々と出演するなど、長い下積みから最もブレイクしたボリウッド名優のひとりと言えよう。
きっかけとなったのは、息子ほどの若者によるバブリーな振る舞いを間近で見たことだ。
路上の売店でビスケットを買い込み、屋台の茶屋でカッティング(半チャイ)に浸して小腹を慰めるのが関の山の彼にとって、自家用車から降りた若者がオリジナル(模造ブランドでなく)の煙草を買い求め、喧嘩腰で通話していたかと思うとモバイル(携帯電話)を地面に叩き付けて立ち去る姿は異様なものに映ったことだろう。
無論、トーマスの年収ではとてもモバイルなど手が出ない。それを平然と投げ捨てる階層がいるという格差。

(c)UTV Motion Pictures, 2008.
そして、もうひとつ。
トーマスは妻と子供を着飾らせては、街のショッピングモールへと連れて行った時にそれは起きた。
インドと言うと一般的には野良牛が歩き廻る農村の風景を連想する向きも多いだろうが、ボリウッド映画には日本と同等のモール風景がしばしば登場する。
現在の高度経済成長から切り離された下流社会に生きる人々にとって、別世界となる。南インド出身の妻や子供にとって、エスカレーターは生まれて初めて。次々と繰り上がる「自動階段」に妻は踏み出すことが出来ず、子供も泣き出す始末。
そして、香水ショップで万引き扱いを受け、公衆の面前で追い出されるのだ。
やがて、彼は妻が働きに出たアッパー・ミドルの家で大学に通う娘が授業をサボりたくて「大学に爆弾を仕掛けたって電話しようかな」と漏らした言葉からモールに犯行電話をしてはパニックになった買い物客が待避するを眺めて悦に入る愉快犯となる。
それは、消費社会を突っ走る中間層への強烈な復讐でもあった。
だが、実害のない悪戯程度に思っていたトーマスにショックを与えたのは、逃げ惑う人々の中に心臓発作を起こした老人とその娘の姿だった。

(c)UTV Motion Pictures, 2008.
テロの直接的被災を運良く避けるもその恐怖をひとりで抱え込んだニキルと違い、トーマスは妻と子供の前でおろおろと泣き崩れる。彼がクリスチャンという設定になっているのは、貧困層に多いとされるだけでなく「贖罪」をここでのテーマとしているためだろう。
この支えが彼を救った。
トーマスは、心臓発作を起こした老人の娘を街で見かけると病院を訪ね、退院時にタクシーを調達し、そっと薔薇の花を一輪差し出す。
微笑ましいレベルの贖罪がまた、イルファーンらしいチャームに思える。
ふらふらと自転車で走りゆくトーマスを警官が呼び止め、黙って直立するように告げる。
動揺する彼が、その理由を理解するのは少し先。
街は、行き交う人々がすべて立ち止まり、テロ被災への黙祷を捧げるのだった。
災害被害に遭われ亡くなられた方々に謹んでお悔やみを、現在も災害被害に困窮している方々へ心から声援を、また、いち早く平穏が戻りますようお祈り申し上げます。
1:イントロダクション
2:列車に乗るも間一髪助かったニキル(R・マダヴァン)
3:自警化する失業中のスレーシュ(K・K・メノン)
4:経済成長から取り残された下流層のトーマス(イルファン・カーン)
5:テロで婚約者を失ったTVリポーターのルパリ(ソーハー・アリー・カーン)
6:退職間近の平警官トゥカラーム(パレーシュ・ラーワル)
7:バックグラウンド