Chaahat(1996)#225
「Chaahat(望み)」★★★☆
チャーハト
製作・脚本:ロビン・バット/製作:ヴィクラム・ラーキアー/監督:マヘーシュ・バット/脚本:ロビン・バット、アーカーシュ・クラーナー、ジャーヴェード・シッディーキィー/撮影:アショーク・ベーヘル/作詞:ニーラージ、ニダ・ファズリー、マーヤー・ゴーヴィンド、デーヴ・コーへリー/音楽:アヌー・マリック/振付:サロージ・カーン、ラージュー・カーン、ニメーシュ・ブラフマバット/背景音楽:アマル・ハルディプル/美術:ガッパ・チャクラワルティー/アクション:アクバル・バクシー/編集:バーラト
出演:ナスィールディン・シャー、シャー・ルク・カーン、プージャー・バット、ラームヤー、ラザック・カーン、スリヴァーラブ・ヴヤス、アムリット・パテール
友情出演:アヴタール・ギル、ムスターク・カーン
ゲスト出演:ティクー・タルサニア、パンカジ・ベッリー
公開日:1996年6月6日(年間16位/日本未公開)146分
STORY
ラージャースターンの楽師ループ(シャー・ルク)がボンベイへ出て来て、清楚な女医プージャー(プージャー)と恋に落ちる一方で、狂氣の成り上がりナラング(ナスィールディン)の妖艶な妹リーシュマー(ラームヤー)からも好かれて…。
Revie-U
ストーリーからして「ラジュー出世する」Raju Ban Gaya Gentleman(1992)の別バージョンにして、どこか「Paheli(なぞかけ)」(2005)に通じるのが興味深い小品。
幕開けの舞台がラージャースターンであること、シャー・ルク・カーンの父親役がアヌパム・ケール、そしてナレーターを務めたナスィールディン・シャーも出演、そしてタイトルバックでシャー・ルクの名がクレジットされる背景画が例のラージャースターン人形であり、今からすると「Paheli」が連想されてならない。
本作でのシャー・ルクは、珍しく楽師役。
ヒロインを演じるプージャー・バットは、本作の監督マヘーシュ・バットの娘。特別な美人でなく、ボリウッドの女優としては大成しなかったが、映画に賭ける情熱と才能とコネクションは持ちあわせているようで、その後は監督業や製作にも進出し、ジョン・エイブラハム主演「Paap(罪)」(2003)を手がけている。
舞踊の方も抜群に上手い、というわけではないが、ゆるやかな仕草で踊る様はもまずまず。
ヒロイン、プージャー扮するプージャーとシャー・ルク演ずるループの出会いが、これまた佳い。
父シャンブー(アヌパム・ケール)が咽の手術をすることとなってボンベイの病院へ入院し、ループがホテルのパーティーへ演奏しに行って金を稼ごうとする。そこで彼に見初めてしまうのが、艶めかしい色香を芳香させるリーシュマー。その帰り道、路上にチョークで描かれたシヴァを踏みそうになって慌ててよけるループの前にクルマが突進してくる。間一髪、彼の手を引き倒れて救うのが、かのプージャー。
もちろん、シヴァの思し召しという意味合い。当然ながら、ループはここでひと目惚れ! 名前を尋ねようとするが、氣の強いプージャーは一蹴。叱られるに及び、慌てて耳たぶを押さえて反省の色を見せるループが実に微笑ましい。根負けした彼女が立ち去り際、告げる偽名がジンダギ(命)というのもぐっと来る。
ループは、前夜の演奏を氣に入ったリーシュマーの進言からホテルの専属歌手となる。これは幸運に見せかけた不運の始まりであった。
と言うのも、兄のナラングは妹リーシュマーを偏愛しており、妹に近づく男どもを激しく攻撃する異常者。ループとプージャーの結婚を知ったリーシュマーが自殺を図ったことから、ナラングが制裁に走り、ジンダギ(プージャーの別名=命)を奪われるのだ。
この時期のシャー・ルクだけに、血まみれ涙目で復讐全開。手足を折られながらも接ぎ木して復讐に向かう姿は、ほとんど「マッドマックス2」。
同時期の監督作「Duplicate(瓜二つ)」(1998)とは異なり、兄妹の偏愛ぶりがマヘーシュ・バットらしい。
そして、この狂ったナラングを演ずるのが、「Ishqiya(色欲)」(2010)のナスィールディン・シャー。
妹リーシュマー役のラームヤー・クリシュナは、マラヤーラム映画の子役からスタートし、ボリウッドでは芽が出ず、その後は南インド映画界に戻った模様。
サポーティングは、看護夫にラクシュミーカーント・ベールデー。アル中の交通警官にティクー・タルサニア。
プージャーのマーマー(母方の伯父)に「Once Upon a Time in Mumbaai」(2010)のアヴタール・ギル、チャーチャー(父方の伯父)に「ラジュー出世する」のアムリット・パテール、兄にラザック・カーン。売れる?前だけあって、この時期のラザックはゴロツキ役者丸出しの凄み。
音楽はアヌー・マリックが担当。楽師ナンバル「dil ki tanhai ko(心の侘びしさを)」(クマール・サーヌー)が心に迫る。
もっとも、幕開けナンバル「daddy cool」の一部メロディがアミターブ・バッチャン自身の美声プレイバックで知られる「mere anganey mein」~「Laawaris(孤児)」(1981)を踏襲しているのはご愛敬。
ヒロインがプージャー・バットというためか、シャー・ルク作品の中では忘れられがちながら、かなりの出来。涙を誘う、若きシャー・ルクの痛ましさが胸を打つこと請け合いだ。