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Knock Out(2010)#219

2011.03.05
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!

Knock Out「Knock Out」★★★☆

製作:ソハイル・マクラーイ/原案・脚本・監督:マニ・シャンカル/台詞:シラーズ・アフメド/撮影:N・ナタラージャー・スブラマニアン/作詞:パンチー・ジャローンヴィ、シーリー/音楽:ゴゥーラヴ・DG、サンジーヴ・ダルシャン/背景音楽:サンジャイ・ワンドレーカル、アトゥール・ラニンガー/アクション:アラン・アミン/プロダクション・デザイン:プリヤー・スハス/衣装デザイン:ナヴィン・シェッティー/振付:ガネーシュ・アチャルヤー、アフメド・カーン/編集:チャンダン・アローラー

出演:サンジャイ・ダット、イルファーン・カーン、カングナー・ラナウト、グルシャン・グローヴァル、スシャント・スィン、ルクサール・アフメド・シャイク、アーシフ・バスラー、クルーシュ・デブー
特別出演:アプールヴァ・ラーキア

公開日:2010年10月15日(日本未公開)

Knock Out

(c)Sohail Maklai Entertainment Pvt Ltd, Aap Entertainment Ltd, 2010.

STORY
謎のビジネスマン、バッチューことトニー・コースラー(イルファーン)は、新興地区の瀟洒なフォーン・ブースで通話を終えると、謎の男(サンジャイ)から脅迫電話を受けた挙げ句、狙撃されて足止めを喰らう。警察も群衆も遠巻きに見守る中、バッチューを口止めするため、刺客が送られ…。

Revie-U *真相に触れています。
銃撃を受け電話ボックスに伏せるショットからして、もしや…と思えば、インスパイア元はコリン・ファレル主演「フォーン・ブース」(2002=米)。
低予算インディーズの制約を逆手に取って電話ボックスに限定された原版の先鋭さを横に置き、スイスやドバイに話を広げてしまうのが、さすがボリウッド。

バッチューが足止めを喰らうフォーン・ブースは、下町でよく見かけるペンキが塗りたくられた雑な作りの電話ボックスでなく、総ガラス張りのハイテックなデザインで、2畳は優にある広さ。
脚本上はムンバイーの新興アップタウン、バンドラ・クルラー・コンプレックスの設定だが、ロケはプネーにあるマガルプッタ・シティ。エリアのシンボルであるマガルプッタ・タワー(と言っても東京タワーのような塔でなく、近代的なビルディング)横の、普段は縁石で囲まれた安全地帯の上に美術スタッフが設置したロケ・セット。

Knock Out

(c)Sohail Maklai Entertainment Pvt Ltd, Aap Entertainment Ltd, 2010.

標的となるバッチューは、アラビア海に面したウォールリー地区の高層マンションに妻子を住まわせながら、女を騙し、いかがわしい「ビジネス」に関わるバッドマーシュ(悪党)。
演ずるは、スラムドッグ$ミリオネア(2008=英米)のイルファーン・カーン。パーマが伸びたようなユルいヘア・スタイルにサングラスで徘徊する姿が、全く似合っていないところがイルファーンらしいチャームとなっている。

Knock Out

(c)Sohail Maklai Entertainment Pvt Ltd, Aap Entertainment Ltd, 2010.

そして、彼を付け狙う謎の狙撃手が、ボリウッドのギャング・スター、サンジャイ・ダット。巨大スコープを取り付けた分解式のM-16カスタム・ライフルで狙いを定める姿は、まさしくサンジャイ版「ゴルゴ13」!
さらに、ロール・カーテンをリモート・コントロールで開閉する広いフラットに忍び込み、カシミア・スウェーターにデザイナーズ・フレームの眼鏡で佇む姿は、どこか「野獣死すべし」の松田優作を思い出す。
Safari(1999)で着ぐるみのゴリラやワニと格闘して見せた野獣派のサンジャイとハイテックは一見似合わないように思えるが、どうしてどうして見事に物語にフィットしたアンチ・ヒーローぶりを示し、その芝居が案外心地よかったりする。

Kock Out

(c)Sohail Maklai Entertainment Pvt Ltd, Aap Entertainment Ltd, 2010.

現場に急行するお決まりのTVレポーターが、Kites」カイト(2010)のカングナー・ラナウト
群衆の前にクルマを乗り付けては、タンクトップ+タイトなスカート姿で事件現場に目を光らせ、さっそくフォーン・ブースに残された銃痕を発見するのが、なんとも劇画調。
デビュー以来、何かとアル中、ヤク中、恋人依存症など悲惨な役が続いたカングナーだが、ここに来て懐古ロマン「Once Upon a Time in Mumbaai」(2010)、ドリフ系コメディ「No Problem」(2010)などオファーが目白押し。本作では、珍しく太陽の下で健康そうな姿を見せているのが何より。

原版の「フォーン・ブース」と違って、<子供>のバッチューに始まって<親>となる黒幕バップーによる壮大な不正が暴かれてゆくのが見どころ。
狙撃者は、バッチューが路上に駐めたミニバンの中から500カロール(5億ルピー=9億1900万円。物価換算で45億7500円)という大金を露見されたかと思うと、さらに32,000,000,000ルピー(3200カロール=32億ルピー=58億5600万円。物価換算で292億8000万円)を要求!
実は、政府黒幕の金庫番で、スイス銀行の暗証番号を知っているバッチューに<圧力>をかけ、国民から搾取してた隠し資産を国庫に返金させようとする計画だったのだ。

この、「ゴルゴ13」ばりの脚本・監督作を手がけたのは、似非反戦C級映画「Tango Charlie」(2005)で完全にキャリアを終えるかに思えたマニ・シャンカル
長編デビュー作16 December(2002)でも暗殺者が殺害現場ですぐに変装のマスクを脱いでいたが、本作でも指紋認証で解錠した直後にラテックスの偽造指紋を剥がすなど、底の浅い演出は据え置き。
汚職政治家の手足となって動いていたバッチューを<改心>させるのもスター・キャストが前提の見え透いた展開で、これにハリウッド調の感動系バックスコアを貼り付けた演出は浮ついた印象を拭えず、マキャヴェッリ語録をあえて冒頭に掲げているところからも底抜け感が露呈している。

Knock Out

(c)Sohail Maklai Entertainment Pvt Ltd, Aap Entertainment Ltd, 2010.

サポーティングは、現場を指揮するインスペクター・ヴィクラム役にPaisa Vasool(現金をつかめ)」(2004)のスシャント・スィンを起用。
Jungle(2000)でゲリラのリーダーを演じたものの、その後は低空飛行続きでメイン・リードにはなれず、本作でも役不足な印象は否めない。

Knock Out

(c)Sohail Maklai Entertainment Pvt Ltd, Aap Entertainment Ltd, 2010.

インドの政界を牛耳る黒幕となるバップー役が、グルシャン・グローヴァル。次回作「The Driver」(米)ではサルマ・ハエックと共演する一方、グレードが低めの作品にもしっかり出演し、内容に見合った芝居を見せるのがさすが。

注目は、特別出演となるShootout at Lokhandwala(2007)の監督アプールヴァ・ラーキアだろう。
役どころは、バッチュー暗殺に派遣されたエンカウンター(対戦)・スペシャリスト。非常な様がなかなかよい。現場で指揮を執っていたヴィクラムを射殺しつつ、魂を送るマントラを唱えるのは、米シリアル「ツイン・ピークス」でクーパー捜査官が唱えていた「バルド・トゥドル(チベット死者の書)」の転用。

年間チャートでは35位。製作規模からすると、またもフロップ。
ボリウッド評論家からは「ノック・アウト」されたが、底抜け級の劇画作品と割り切れば、グレードが上がったプロダクション・デザインとアラン・アミンによるそれなりに大がかりなアクションなどまずまず楽しめる。

Knock Out

(c)Sohail Maklai Entertainment Pvt Ltd, Aap Entertainment Ltd, 2010.

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