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No One Killed Jessica(2011)#216

2011.03.02
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!

No One Killed Jessica「No One Killed Jessica」★★★★

製作:ロニー・スクリューワーラー(UTV)/脚本・監督:ラージ・クマール・グプタ/撮影:アナイ・ゴースワーミー/作詞:アミターブ・バッタチャルヤー/音楽&背景音楽/アミット・トリヴェディ/アクション監督:コォーシャル – モーゼス/振付:アシュリー・ロボ/VFX:プライム・フォーカス/美術監督:ヘレン・ジョーンズ/プロダクション・デザイン:スカント・パニグラフィ/編集:アールティー・バジャジ

出演:ラーニー・ムカルジー、ヴィッディヤー・バーラン、ミラ(新人)、ニール・ボーパラム、ラージェーシュ・シャルマー、モハムド・ズィーシャン・アユーブ、ブッブレース・サバルワル、サトヤディープ・ミシュラー、ヨーゲンドラ・ティクー、ギーター・スダン、シリーシュ・シャルム、サマラー・チョープラー

公開日:2011年1月7日(日本未公開)/136分

STORY
1999年4月、デリー。パーティー会場でジェシカ(ミラ)が射殺される事件が起きる。犯人は大物政治家バラドワージの息子マニーシュ(モハムド・ズィーシャン・アユーブ)。悲報を受けた姉サブリナー(ヴィッディヤー)をさらに打ちのめしたのは、会場にいた300人以上が証言を拒否し、間近で目撃したはずのジェシカの友人ヴィクラム(ニール・ボーパラム)もが当初の証言を翻らしたこと。裁判は難航した末、2006年にマニーシュらの無罪が確定。「誰もジェシカを殺していなかった」のヘッドラインがメディアに流れ、事件は忘れ去られるかに見えた。だが、NDTVの花形レポーター、ミーラー(ラーニー)は遅まきながら事件に取り組み始め…。

Revie-U
題材となっているのは、1999年4月29日にデリーで実際に起きたジェシカ・ラール殺人事件。マイナー女優兼モデルをパーティーで射殺したのは、ハリヤーナー州の政治家を父に持つマンヌー・シャルマー。2006年2月21日、無罪が言い渡され結審するも、メディアの追求により高裁での審議が継続、同年12月20日に無期懲役の判決が下っている。

ラージクマール・サントーシー監督作「Halla Bol(正義を叫べ)」(2008)は、このジェシカ殺人事件と、路上演劇「Halla Bol」を上演中に悪徳政治家の指示によって殺害された左翼演劇人サフダル・ハーシュミー惨殺事件をミックス。
路上演劇から身を立てた映画スター役アジャイ・デーヴガンが沈黙を破り正義に目覚める設定は、この事件が起きた1989年のデリーで開催されていた国際映画祭でシャバーナ・アーズミーが事件を黙殺する風潮の中で果敢にもTV生中継のスピーチでこれに言及したことを下敷きにしている。

No One Killed Jessica

(C)Utv Motion Pictures, 2011.

さて、本作で殺されたジェシカの正義を追求するのが、社交的な妹に対して地味な姉サブリナー。演ずるは、「Halla Bol」でアジャイの妻を演じていたヴィッディヤー・バーラン
「Paa(父)」(2009)と復讐の悪女を演じたIshqiya(色欲)」(2010)で2年連続主演女優賞を獲得。決してどんな役柄もこなせる万能女優ではないが、粘り強く正義を求める長女役はヴィッディヤーに相応しく、3年連続の主演女優賞となるか。

No One Killed Jessica

(C)Utv Motion Pictures, 2011.

後半、ウエイトが高まるTVレポーター、ミーラー役が主演女優賞「Hum Tum(僕と君)」(2004)+助演女優賞「Yuva(若さ)」(2004)、三重苦のヒロインを演じた「Black」(2005)で主演女優賞+批評家選主演女優賞など2年連続で受賞に輝いたアワード・キラーのラーニー・ムカルジー
もっとも、プリティー・ズィンター同様、キャリアのピークから数年で出演作が激減。前作「Dil Bole Hadippa!(心は叫ぶハリッパ!)」(2009)では共演のシャーヒド・カプールと並ぶとひと世代前に見えてしまい、変わり身の早いヤシュ・ラージ・フィルムズからのオファーも途絶え、2010年には出演作がなしという状況。
演技派だけにこれからもボリウッドの流れに対応できるはずだが、マイナー役者の恋人役との吐息が激しいネッキング・スケッチが用意された本作出演は「背水の陣」とも取れなくもない。

前半は事件の概要、法廷の模様が綴られる。
パーティー会場にいた上流階級300名の人々はすべて、事件が起きたとされる深夜2時以前の「12時には帰宅」と事実上証言を拒否。
ジェシカ殺害を間近で目撃した役者志望のヴィクラムは、法廷でなんと「ヒンディーは話せない」と主張するウルトラCぶり。

後半は、ミーラーが証言の裏を暴いてゆき、人々がモバイル(携帯電話)・メールを通して連携し、社会正義に目覚めてゆく。
もっとも、ミーラーはLakshya(標的)」(2004)でプリティー扮するレポーターが行っていたカールギル戦争への前線取材など大事件に目が奪われ、当時は同僚が担当したサブリナーのインタビュー番組も眼中になく、本事件を取り上げるのは「誰もジェシカを殺していなかった」と報道された後。
事件を解決に導いた功績は大きいが、その手法はと言うと「ヒンディーを話せない」と偽証したヴィクラムに映画出演のオーディションを口実に隠し撮り取材し、英語/ヒンディー/バンゴーリー(ベンガリー)のバイリンガルであることや大金や銃弾での脅しに屈したことを放映。パーティー会場でウエイターをしていた男には、声をサブリナーそっくりにエフェクトをかけた(ダビングはヴィッディヤーの声)電話で話を聞き出し本人に無断でこれも放映するなど、違法ぎりぎり?のスクープを重ねる。

製作がUTVとあって、決してメディアの氣まぐれや暴走を批判するつもりでなく、ヒロイズムとして描写される(ミーラーはUTVとは別チャンネルのNDTVレポーターという設定)。
中でも、事件を担当した警部が射殺犯マニーシュの取り調べテープを「リーク」するのは、時節柄ウィキリークスを思わせる。
以前のボリウッドならクライマックスは丁々発止の法廷シーンとなったはずだが、これも今風にするためか廃して、人々の連携が司法を動かした「感動的」な作りとなっている。
押しまくった以前のボリウッドからすると、あっさりとまとめた印象が否めないが、これも136分という短縮上映の傾向による。

脚本・監督は、低予算のノンスター映画ながら一般市民が爆弾テロ犯に仕立てられる秀作スリラー「Aamir(指導者)」(2008)で監督デビューした俊英ラージ・クマール・グプタ
本作は監督第2弾にあたる。リアリティー重視のため、ラーニー、ヴィッディヤー以外の配役は手垢のついたボリウッド映画の面々を極力廃し、ジェシカ役のミラはじめ、無名の役者を起用しているが、殺人犯を無罪に導くやり手弁護士役が陳腐なダビング(アテレコ)も手伝って興を削ぐのが玉に瑕。やはり、ここはプレーム・チョープラーパレーシュ・ラーワルカーダル・カーンなど名うての俳優を使ってびしっと締めて欲しいところ。

また、ミーラーやサブリナーの台詞にもFワード(汚い四文字言葉)が使われているのは、一種の挑戦か。
無罪判決に力尽きたサブリナーが日常に閉じ籠もろうする中、ジェシカとの思い出(ふたりが道を歩いていると自転車に乗った男が彼女をボディタッチ。ジェシカが怒って追いかける)により、再び正義の追求に立ち上がる。
ここで描かれるジェシカの正義感が彼女の人生を早めたのであるが。

サポーティングは、司法の機能不全に悩む警部役にヴィッディヤー主演「Ishqiya」で誘拐される鉄鋼王役ラージェーシュ・シャルマー。権力に靡く悪徳警官でなく、真相をそれなりに探る。

肝心のジェシカ役ミラだが、笑顔がはつらつとしているものの、それなり。旋風を巻き起こしながらすっかり消えてしまったシャー・ルク・カーン主演「Chak De! India」行け行けインド(2007)のチャク・デー・ガールズと同じ道を歩みそうな予感。

No One Killed jessica

(C)Utv Motion Pictures, 2011.

ジェシカ追悼会を思いつく女学生が観ている映画が、同じくデリーを舞台にしたRang De Basanti(浅黄色に染めよ)」(2006)の追悼集会シーン。
2006年当時を飾り込むため、上映館にはTaxi No.9211(ぶち逃げタクシー)」(2006)などUTV制作だけでなく、Zinda(生存)」(2006)のポスターも貼られている。

音楽監督には「Aamir」で初の映画音楽を手がけ、Dev.D(2009)、Udaan(飛翔)」(2010)などニュー・ストリーム作品で重用されるアミット・トリヴェディ
ヴィシャール-シェーカルサジード-ワジードなどと比べると、音の厚みに欠け、ラフな曲作りに思えるものの、そこがニュー・ストリームらしい新味に感じられ、「今のインド」を伝える音楽監督として支持されるのだろうか。

本年1月7日にリリース(封切り)され、公開週が1位、4週目も4位をキープ。
本作ヒットの要因は、単に実際に起きた殺人事件を映画化し観客の興味を煽ったことだけではないだろう。
高度経済成長により海外志向のバブリーな変化に酔ったゼロ年代から一転、2010年に入ると時代を振り返る作品が続々と作られ、本作も1999年に起きた印パ軍事衝突のカールギル戦争やミレニアム直前にエア・インディア旅客機がハイジャックされた事件などを絡めており、本作も2010年からの流れに乗る。

ジェシカの死に続いてカールギルでの戦死者を運ぶシーンがモンタージュされており、ジェシカの死が法を浸した不正社会の殉死者とも見て取れる。
観客が共感したのはこの点であり、世界に目を転じてみれば、今、歪められた社会への不満から中東でも人々が立ち上がっている。

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