Daag(1973)#018
ダーグ
製作・監督:ヤシュ・チョープラー/撮影:カイ・ギー/詞:サーヒル/音楽:ラクシュミーカーント−ピャーレーラール/ストーリー:グルシャン・ナンダ/台詞:アクタル-ウル-イマン/振付:スレーシュ・バット
出演:シャルミラー・タゴール、ラージェーシュ・カンナー、ラーキー
友情出演: プレーム・チョープラー
公開日:1973年1月1日(年間トップ7ヒット!)
FILM FARE AWARD :監督賞、助演女優賞(ラーキー)
STORY
恋愛結婚したスニール(ラージェーシュ)とソニア(シャルミラー)は、幸福の絶頂にあった。しかし、ハネムーンで泊まったロッジの主ディーラージ(プレーム)がソニアを犯そうとしたことから、スニールが反撃。殴られたディーラージは農機具の上に倒れ死んでしまう。裁判では、金庫の金をスニールが奪おうとして男を殺したとされ、有罪が言い渡される。刑務所へ向かう途中、スニールは護送車の中で乱闘を起こし、車が崖から転落。そして、赤ん坊を妊ったソニアは継母の雑言から家を飛び出していたことを知る。失意のスニールは列車で移動中、実業家ディワーンを助けた縁で娘のラーキーと結婚する運びとなる。だが、運命の悪戯は家政婦に未亡人ソニアを寄越したのだった。一方、スニールに不審を抱いた警部が独自に捜査を始め・・・。
Revie-U
近年では、「Darr(恐怖)」(1993)や「DilTo Pagar Hai(心狂おしく)」(1997)などシャー・ルク・カーンの主演作が印象深いヤシュ・チョープラーの若かりし頃のヒット作。
主演は往年の二枚目俳優ラージェーシュ・カンナー、ファースト・ヒロインを名門タゴール一族のシャルミラー・タゴール、セカンド・ヒロインにラーキーという組み合わせ。この年は、リシ・カプールとディンプル・カパーディヤーが鮮烈なデビューを飾った名作「ボビー」Bobby(1973)があるものの、FILM FARE AWARDの監督賞、助演女優賞を受賞。
近年のボリウッド作品はアフレコが一般的(もちろん、現場音は録音されている)であるが、この頃スタジオ撮影はシンクロで行われているのが今見ると妙に新鮮である。
1970年代の開放的なキャンパス風景が綴られ時代が偲ばれるオープニング・タイトルバック。別荘でのガラス越しのキス・マークは、サルマーン・カーン&ラーニー・ムカルジー主演、アッバース-ムスターン監督作「Choli Choli Chupke Chupke(そっと、こっそり)」(2001)でも引用されていた。
主演のラージェーシュは、今となってはトゥインクル・カンナーの父親と言うべきか。
後半、口髭をたくわえたラージェーシュは「ル・ジタン」(1975=仏・伊)のアラン・ドロンを思わせる二枚目ぶりであるものの、冒頭の学生シーンなどは中年腹がかなり辛い。
一方、 「Mann(想い)」(1999)でアーミル・カーンの祖母を演じていたシャルミラーは、さすがに若い頃だけに愛くるしい。艶っぽいシャワー・シーンやベッド・シーンは、当時としてはかなりの冒険だろう。
セカンド・ヒロインに扮するのが、近年、復讐の寡婦役が定番となったラーキー。もちろん、1970年代は「黒いダイヤ」Kaala Patthar(1979)のようにアミターブ・バッチャンの相手役を務める美人女優であった。本妻のつもりが実は自分が後妻だった、という複雑な役どころで、助演女優賞を受賞。彼女が思わず口ずさむのは「Sahib
Bibi Aur Ghulam(旦那様と奥様と召使い)」(1962)のフィルミーソング「bhanwara bada nadan re(蟻はとてもおばかさん)」のワンフレーズで、幸福な家庭生活の甘さがよく表されている。
前半、甘いラヴ・ロマンスを思わせたストーリー・ラインが急展開となる。この運命の悪戯を担う要と言える敵役が、短い出演ながら強烈なインパクトを残すプレーム・チョープラーだ。
ゲストハウスの若旦那ディーラージ・カプールがその役どころ。彼は、父親とスニールが外出すると同時に朝から酒を呑み出す程の愚息で、飲酒が全般的に禁忌されるインドにおいては、それだけでも悪らつな印象を放つ。シャワーを浴びる新妻の鼻歌を聞くプレームの上気してゆく様は、まさしくワヰセツ! このモンタージュは、「サイコ」(1960=米)のシャワー・シーン同様、語り継がれるべきボリウッドの名シーンだ。
その上、客室の金庫に入れてあった大金を取り出す振りをしてソニアへ襲い掛かり、忘れた財布を取りに戻ったスニールと乱闘の末、早々に死んでしまうものの、結局スニールは殺人犯となる。これだけ短い出番で主人公を窮地に陥れる敵役も稀であろう。
ところで、どこかで見たストーリーだと思ったら、1990年代に作られたネパール映画「Sautaa(第2夫人)」の原型であった。
こちらの方はスレーシュ・オベローイ似のブバン・K・Cが警察から逃げ延びるタイトルバックで始まり、トラックに飛び乗ってある山村へ辿り着く。暴漢に襲われる事業家を助けたことから、婿入りする運びとなる。幸福な新婚生活が続くが出張中に妻が流産し、お手伝いに雇われた子持ちの看護婦が実は生き別れた先妻だった、というもの。
構成を多少手を加えているところがミソだが、中盤、主人公がお手伝いとなった先妻と事情を語り合うサンルームのシュチュエーションはそっくりそのまま引き継がれている。
オリジナルではクライマックスが法廷物となるが、ネパール版では財産を狙う腹黒い親戚との乱闘アクションで締めくくられ、結局、本妻にして後妻であったファースト・ヒロインが命を落とす。セカンド・ヒロインにして先妻の娘が縄に結わかれ水攻めに合うのは、プレーム・チョープラーがカーダル・カーンの娘を誘拐する「Masoom Gawah」(1991)へのオマージュだろうか??