Chandni Bar(2001)#002
出演:タッブー、アトュール・クルカルニー、ラージパル・ヤーダウ、アナンヤー・カーレー
公開日:2001年9月28日(日本未公開)
8th Screen Awards:ベスト・ストーリー賞
National Film Awards:主演女優賞、助演女優賞(アナンヤー・カーレー)
IIFA Awards:主演女優賞
Zee Cine Awards:主演女優賞
STORY
暴動により村が全焼、父母の焼死を目の当たりにしたムンターズ(タッブー)は伯父のマムーに連れられて、ボンベイの下町へ移り住む。ダンス・バー、チャンドゥニー・バーの踊り子となった彼女はやがて、チンピラの兄貴分ポティア(アトュール)と結婚。2児をもうけるが、ポティアは警察によって殺され、息子も謂れ無き罪で少年刑務所へ入れられてしまう・・・。
Revie-U
しかし、女の一生とは何だろう? それも、インド女性の・・・。
「Lajja(恥)」(2001)が儚い女の人生を壮大なスケールで謳い上げた豪華版だとすれば、本作はこじんまりとした小品ながらグッサリくる佳作である。
まず舞台は1985年から描かれる。主人公の名前は、ムンターズ。1960〜70年代に活躍した人氣女優と同じ名前である。
家を焼き出され、父母、そして故郷さえも失った彼女は伯父マヌー(スハース・パルシーカル)に連れられ、ボンベイで踊り子となる。このバーの名前、チャンディニーもシュリーデヴィーのヒット作「Chandni(チャンドゥニー)」(1989)がその由来だろうか。
間もなく彼女は、大都会の毒気に染まった伯父によって手篭めにされる。それまで新入りの彼女に距離を置いていた同僚たち踊り子の誰もが心の傷を負っていることが告げられ、これが儀式となってムンターズは踊り子仲間の一員として迎えられる。
やがて、彼女を見初めたアンダーワールドのチンピラ兄貴分ポティアが客となる。事情を知った彼は、すぐに伯父を刺殺。こうして、ムンターズはポティアの妻となる。
子供にも恵まれ、平穏な日々に見えたある日。ポティアはしょっぴかれ、警官の手で射殺されてしまう。町の顔役が自分の保身のために、ポティアら数人のチンピラを警察の点数稼ぎとして売ったのだった。
そして、ムンターズは、再びチャンドゥニー・バーのステージに立つ。乳飲み子を育てるために。
2000年。今風に改装されたチャンドゥニー・バーのステージで、相変わらず踊り子を続けるムンターズ。息子のアブヘイ(ビシャール・タークル)は町の食堂で働きながら学費も稼ぐ健気な少年に、妹パーヤル(ミナークシー・サハーニー)は器量は今ひとつだが母思いの少女に育っていた。
ところがアブヘイに悪い虫がつく。アンダーワールドのどら息子とつきあったために、警察にしょぴかれてしまうのだ。無論、どら息子は素知らぬ顔で済まされる。
ムンターズの嘆願も虚しく、アブヘイは少年刑務所へ護送されてしまう。八方手を尽くした彼女は賄賂の金を工面するため客を取る。それを知ったパーヤルもチャンドゥニー・バーのステージに立ち、大層な金を稼いで家へと戻る(つまりは客を取って)。
この母子の有り様にカットバックで、アブヘイが年上の少年囚2人から強いられる男色行為がインサートされる!
ここまではっきりと「現実」を示した映画はあまりないのではないのではないか。ボリウッド・レビューでも「very true story」と素直に受け止めているほどだ。
賄賂の甲斐あって、翌日にはアブヘイは釈放される。だが、もう彼は健気な少年ではなかった。どら息子より拳銃を手に入れ、復讐へと向かうのだ。それを追うムンターズの目の前で、アブヘイは2人の少年を撃ち殺す。そして、母を振り返ることなく、彼は立ち去る。やがて、父親のようにアンダーワールドで名をあげ、警察に売られ、射殺されるのだろう。
その場にしゃがみ込むムンターズの画にエンディング・クレディットがロールアップしてゆき、頭を抱え込んだその姿は終わりまで消えることはない。
ヒロイン、ムンターズに扮するタッブーの悲愁を帯びた無愛想な科白がよい。彼女は、このように薄幸な市井の人間を演じさせると実にしっくりくる。本作唯一のメジャースターである彼女は一枚看板の実力を発揮、演技に打ち込む姿勢からも「女アーミル」と評された。
ポティアを演じるのが、マラーティー演劇界で知られるアトュール・クルカルニー。「Hey Ram!(神よ!)」(2000)でヒンドゥー原理主義者シュリラーム・アブヤーンカルを演じていたNational Awardの受賞者である。
また、ボンベイのスラムを訪ねたマヌーとムンターズに部屋を世話し、チャンドゥニー・バーを紹介、ポティア亡き後は終盤までムンターズの面倒を見るポン引き、イクバール役に「Jungle(ジャングル)」(2000)でScreen Awards 最優秀敵役賞を受賞したラージパル・ヤーダウがキャスティングされている。
いわゆるミュージカル・シーンは一切ない。
その代わり、フェーローズ・カーン監督・主演、ズィーナート・アマンがヒロインに扮した「Qurbani(犠牲)」(1979)のヒット曲「laila main laila」から、サンジャイ・カプール&プリヤー・ギル主演「Sirf Tum」(1999)の「dilber dilber」、そしてファルグニー・パタクのポップス「maine payal hai chankai」まで1980年代〜2000年のヒットナンバーが続々と流れる。
事務所兼踊り子たちの楽屋に貼られているポスターもアニル・カプールからリティク・ローシャンへと変わって、時代の流れを感じさせる。
監督のマドゥール・バンダルカルは、ラーム・ゴーパル・ヴァルマーに就き「Rangeela(ギンギラ)」(1995)の助監督を務めてた後、アルシャード・ワールシー、サンジャイ・カプール主演「Trishakti(三力)」(1999)で監督デビュー。本作にあたって、多くのバー・オーナーや踊り子たちにリサーチを行い、タッブーをイメージ・キャストで脚本を作成したと言う。
鋭く現実をみつめた映画は客が入らない、と言われるボリウッドにおいて、第1週が91%と高い注目を集めた。興行的にも健闘し小ヒット規模ながら、低予算の製作費を十分回収。「Dil Chahta Hai(心が望んでる)」(2001)のヒットと言い、観客もリアルな映画を受け入れるようになって来たと言うことか。