The Killer(2006)#205
The Killer 06.09.05 ★★★
製作:ムケーシュ・バット/共同製作:ヴィシェーシュ・バット/監督:ハスナイン・ハイデラバードワーラー、ラクシャー・ミストリー/脚本:サンジャイ・マソーム/作詞:ジャリース・シャルワーニー/音楽:サジード-ワジード/振付:ラージュー・カーン
出演:イルファーン・カーン、イムラーン・ハシュミー、ニーシャー・コータリー、ザーキル・フセイン、プリトヴィ・ズトシー、アヴタール・ギル
公開日:2006年7月21日(日本未公開)
STORY
ドバイのタクシードライヴァー、ニキル(イムラーン)は踊り子リヤー(ニーシャー)と知り合い、心惹かれる。だが、その夜、乗せた客ヴィクラム(イルファーン)が殺し屋だったために事件に巻き込まれ…。
Revie-U
駐車中のタクシーに死体が落下するトレーラー(予告編)からして、トム・クルーズが非常な殺し屋を演じて話題になった「コラテラル」(2004=米)のイタダキとネタが割れていたが、殺し屋役をイルファーン・カーンが演じていると知って俄然興味を覚えた。
イルファーンは、「サラーム・ボンベイ!」Salaam Bombay!(1988)の手紙代書屋が印象に残っていたが、目が出る(!)までには案外時間がかかり、「Ghaath(殺人)」(2000)の不敵な悪役あたりで頭角を現し、「Haasil」(2003)では愛嬌があふれる兄貴分を演じるなどメインキャラクターもこなすようになったが、ここに来て「Bullet」(2005)で監督にも進出。
しかしながら、 「レオン」(1994=米)の勝手にリメイク映画「Bichhoo(サソリ)」(2000)でゲイリー・オールドマンに相当する悪徳刑事を演じたアーシーシュ・ヴィダヤールティーほどのクールさはなく、ラストのキレぶりも彼からすればアベレージであったのが残念。
一方、殺し屋を乗せて一夜にして人生が変わるタクシーワーラー(運転手)、ニキル役には、「Murder」(2004)で汚名を売り、それ以降もスキャンダラスな役柄を一手に引き受けて名を馳せるイムラーン・ハシュミーを起用。
もっともその時点で、「独立を夢見ながらも人生の決定打に欠けて雇われ身分に甘んじ続けていたタクシードライヴァー」というオリジナルの設定とは大きくかけ離れ、単にアンダーワールドのドンに憧れる若者止まり。
その上、珍しくイムラーンが「善良な」キャラクターとあって、本来コメディアンであるジェイミー・フォックスが微妙なトーンでシリアスに芝居をこなしていたのとは異なり、今ひとつ感情移入しにくいのが難点。
こうなるとイルファーンをタクシーワーラーにし、イムラーンをクールな殺し屋に仕立てた方がよさそうにも思えるが、そうなるとヒロインとのロマンスがイルファーンでは厳しいわけだ(苦笑)。
イムラーンの安っぽさからか、敏腕女検事から酒場のダンサーへ変更されたヒロインは「Sarkar(親分)」(2003)のニーシャー・コータリーとなっており、ダンス・ナンバル「yaar pia」、「abhi to main jawan hoon」などが用意されているものの、これまたぱっとせず。
「ダンサーもつらいのよ」とばかり、乗り合わせたタクシーワーラーのイムラーンに心を寄せてしまう。
これらキャラクター設定以外はほとんどオリジナルのまま展開、演出面でも特に際立ったところはなし。
共同監督のハスナイン・ハイデラバードワーラーは、リサ・レイ主演「Kasoor(過ち)」(2000)、「Jurm」(2005)などヴィクラム・バットの下で助監督をして来たつながりだからまだよいとして、相方のラクシャー・ミストリーは本年爆走のメガヒット「Krrish」(2006)やその前編「Koi…Mil Gaya(誰か…みつけた)」(2003)に助監督で参加。しかも本作の台詞が同じく「Krrish」や「23rd
March 1931:Shaheed(殉教者)」(2002)のサンジャイ・マソームというから、今回の仕事ぶりには大いに不満が残る。
ハスナインとラクシャーは、もともと「Raja Hindustani」(1996)などダルメーシュ・ダルシャンの下に就いていた助監督仲間。そのつながりで、コピー作品ながら監督デビューの機会をとらえたハスナインが旧友のラクシャーを誘い(あるいはラクシャーが強引に飛び乗ったのか?)、「Krrish」つながりのサンジャイの参入となったのであろう。
さらには、ハリウッド・イタダキ専門のムケーシュ・バットが製作だけに、オリジナルのマイケル・マンがデジタルヴィデオ撮影に踏み切って大都会の夜をとらえた緊張感はすっぽりと抜け落ちてしまっている。
もっとも、「コラテラル」は野心的な撮影アプローチに反して、今やハリウッドの呪縛となったポリティカル・コレクトによるキャスティングの定石通り(つまりは、悪役が白人なら善人役が黒人)であったので、いささか食傷氣味であったが。
そのような中、インド映画に相応しいアレンジとして、ターゲットの1人がジャズ・ミュージシャンからガザル・ガーヤック(ウルドゥー恋歌歌手)に<脚色>されていて、メランコリック・ナンバル「teri yaadon mein(君の思い出の中に)」が奢られている。
その他では、サポーティング・アクターも三流ばかりと、楽しみが薄いのが淋しい。
唯一、ニキルに目をかけるタクシー会社のボスに「Maa Tujhe Salaam(母なる女神よ、汝に礼拝を)」(2002)のアヴタール・ギルが配置されており、出勤前のニキルに親身に諭すスケッチが本編中、最もよい出来であった。
*追記 2006,09,11
殺し屋役のイルファン・カーンは、911をテーマにした「Yuh Hota Toha Kya Hota(もし起きれば、何が起きる)」(2006)でWTCの95階にいるところを旅客機の衝突を受ける。本作で、殺しのターゲットに誰何された際、「オサマ・ビン・ラーデン」と名乗っているのが興味深い。
*追記 2011,02,01
>イルファーン・カーン
初回レビュー当時、ロマンス物など考えられなかったが、彼のチャームが認知され「Life in a…Metro(大都会)」(2007)以降、「Dil Kabaddi(心のカバディ)」(2008)などが作られるようになった。
その後は、「マイティ・ハート/愛と絆」、「ダージリン急行」、「その名にちなんで」、「スラムドッグ$ミリオネア」など海外作品に続々出演。極めつけは現在制作中の3D「The Amazing Spider Man」だろう。
また、デヴィッド・リンチの娘ジェニファー・C・リンチ監督作の蛇女物「Hiss」(2010)も注目。
>イムラーン・ハシュミー
当時、まだ胡散臭いBグレード・スターという印象が拭えなかったが、作品的には「Awarapan(放浪者)」(2007)でひと皮むけ、「Jannat(天国)」(2008)がスマッシュヒット。「Once Upon a Time in Mumbaai」(2010)でアジャイ・デーヴガンの機知を得、再共演「Dil Toh Baccha Hai Ji(心は子供のまま)」(2011)で本年も好スタート。
>ザーキル・フセイン
国際的に活躍するタブラー奏者ザーキル・フセインとは別人。コワモテの役よりも抜けたキャラクターの方が生きるが、イルファーンとクロスするところでもある。
そのイルファーンとの共演「Deadline」(2006)や「Darwaza Bandh Rakho(ドアを閉めとけ)」(2006)、「Radio」(2009)などがオススメ。