Kisna(2005)#201
Kisna 06.09.26 ★★★☆
キスナ
製作・脚本・監督:スバーシュ・ガイー/製作総指揮:プレーム・ピラリ/製作協力:アショーク・ガイー、ラジュー・ファルキー/脚本:サチン・ボゥミック、ファルーク・ドンディー/撮影:アショーク・メーフター/作詞:ジャーヴェード・アクタル、バラーズィー(英語)/音楽:A・R・ラフマーン、イスマイェル・ダルバール/衣装:ニーター・ルッラー/美粧:ヴィクラム・ガイクワード、ミッキー・コントラクター/総合美術:サミール・チャンド/音響設計:ディリープ・スブラマニウム/振付:サロージ・カーン、シアマク・ダヴァル、ダクシャー・セート/アクション:ティヌー・ヴェルマー
出演:ヴィヴェーク・オベローイ、イーシャー・シャルワーニー(新人)、アントニア・バーナス、アムリーシュ・プリー、オーム・プリー、ラジャト・カプール、ヤシュパル・シャルマー、ヴィクラム・ゴーカレー、シヴァジー・サータム、ポール・アダムス、ミッチェル・マロニー、キャロライン・ラングリシー、ヴィヴェーク・ムシュラン、ザリーナー・ワハーブ、タンヴィー・アズミー
特別出演:スシュミター・セーン、リシター・バット
公開日:2005年1月21日(年間23位/日本未公開)
STORY
インドで生まれた英国貴族の娘キャサリン(アントニア)は、使用人一家の息子キスナ(ヴィヴェーク)と幼馴染み。キャサリンは一旦ロンドンへ送られるものの、年頃の金髪碧眼娘となってインドへと戻る。ところが、キスナは村娘ラクシュミー(イーシャー・シャルワーニー)と結婚することに。時は1947年。インド・パーキスターンのセパレーション(分離独立)寸前。ラクシュミーの父とキスナの兄ら過激な村人が英国人に恨みを晴らすべくキャサリンの父親を殺害。脅えたキャサリンをキスナがデリーへと送り届けることになるが・・・。

(c)Mukta Arts, 2005.
Revie-U
50th Filmfare Awardsのオープニングで、地上10mはあろうかというクレーンに吊られた新人女優が空中舞踊を披露! その幽玄なパフォーマンスに胸を打たれた。彼女の名はイーシャー・シャルワーニー!
「Married with Dance of God !」と称された彼女は、オーストラリア人の作曲家を父に、ダンサーであるインド人の母親を持ついわゆるハーフ。7歳から素養をはじめ、バレエ、ヨガ、カタック、マーシャル・アーツなどを習得、10代のうちに世界22カ国で公演。ロープを使った空中舞踊は、彼女の持ち芸だそうだ。
そんな彼女を見出したのは、女優発掘で定評のあるスバーシュ・ガイー。かのマードゥリー・ディクシトをはじめ、マニーシャー・コイララ、マヒマー・チョウドリーをスターに押し上げたヒットメーカーで、「Pardes(他国)」(1997)でデビューしたマヒマーなど先のふたりにあやかってMのイニシャルを芸名に選んだほど。
もっとも、スバーシュはアイシュワリヤー・ラーイをトップスターに押し上げた「Taal(リズム)」(1999)の勢いに乗って、飛ぶ鳥を落とす勢いでデビューしたリティク・ローシャン N カリーナー・カプールの初共演作「Yaadein(思い出の数々)」(2001)を大公開し、メガヒットを目論んだものの、これが見事にフロップ。すっかり<思い出>の彼方へ。これはひとえに、(ソング・ディレクターが主体となる)ミュージカル作りには名高いものの、演出センスとなるとこれが案外つたなく、つまりは作品として破綻していたということ。
その後、自作は控え、プロデュース業に専念するかに見えたが、その彼が再起を賭けて取り組んだのが本作なのであった。
そんなこともあってか、イーシャーの芸名はM以外で選ばれたようだ(<シャルワーニー>は、伯母さんの命名だとか)。
「Hum Aapke Hain…Koun!(私はあなたの何?)」(1994)を抜いてボリウッド映画最大のヒット作となった「Gadar(暴動)」(2001)と英国統治物「ラガーン」Lagaan(2001)以降、時代物がぽつぽつと作られるようになったが、本作のプロットは、まさにこの2作品を足して2で割ったようなもの。
ところが、冒頭は現代シーン。それも英国の老婦人がインドを訪れ、なにやら回想を始める……つまりは「タイタニック」(1997=米)の構成。これは「初恋のきた道」(1999=中・米)、プリティー・ズィンターがヒロインを務めた「The Hero」(2003)にも見られるスタイル。

(c)Mukta Arts, 2005.
主演のヴィヴェーク・オベローイは、アイシュとの共演作「Kyun…! Ho Gaya Na」(2004)や「Home Delivery」(2005)、「Deewana Huye Pagal」(2005)などでロマンティックな役柄やコメディーもこなす一面を見せていたが、やはり彼はデビュー作「Company」(2002)や「Dum(強靱)」(2003)など骨太なタフガイがよく似合う。本作でも後半、本領を発揮し、ヴィヴェーク魂を存分に味わうことが出来る(スープにラール・ミルチーをどばどば入れて、激辛好みと見せかけるのがナイス!)。

(c)Mukta Arts, 2005.
ヒロイン、キャサリンを演じるのが、英国のTV女優アントニア・バーナス。サーリーも似合って、なかなかに愛らしい。
肝心のイーシャーはというと、これがあまり…。
その上、ロープを使った得意の空中舞踊や空中ヨーガをはじめ(ハーフだけに?)セミヌードの行水シーンさえ披露するものの、どうにも影が薄いのだ。これはもともとのファースト・ヒロインが英国人という設定が決まっていて、インド人妻役のセカンド・ヒロインを新人で、というキャスティングがなされていたのだろう。そこへ、空中舞踊までこなす大物?のイーシャーが掛かってしまったので、あわててヨーガのシーンなどを追加したのではないか??
もっとも、「Darwaza Bandh Rakho(ドアを閉めとけ!)」(2006)でもそうであったが、ボリウッド女優としてはかなり地味(ふたりのゲスト女優を挟んで、フォース・ヒロインの立ち位置?)。芝居がまだまだ、ということもあるが、豪州人とインド人のミックスだけに黒髪の洋顔がマイナス要因か。空中技ばかりが強烈で、大したダンス・ナンバルも用意してもらえなかったのも痛い(彼女の舞踊がバレエが主体になっているのか、直線的な動きを見せる)。
そんなこともあってか、大物スターとの共演依頼が殺到!ということもなく、先の「DBR」がアーフターブ・シヴダサーニー、その他にアナウンスされている2本はスニール・シェッティー、トゥシャール・カプールといった具合。舞踊を武器にアイシュのようなトップスターとなる日が来るだろうか??
本作自体の出来はと言うと、さすがにスバーシュ渾身の作だけあって、演出のほつれは低く、彼のフィルモグラフィでも上出来の部類(強いて言えば、焼打されて燃え上がるキャサリンの屋敷がチープなミニチュアだったことが氣になる程度)。
ヒッチコックを氣取っての顔見せシーンも以前は物語を分断するもの構わず登場したり、果てはフィルミーソングを歌い出す始末だったが、今回はそれを控え、エンディング・クレジットとしてシルエットを見せるにとどめている。
母の言いつけを受け、キャサリンを送る道中、サードゥーに化けたり、クリシュナを厚く信奉する一家に逗留したり、ムスリムに扮したり、果てはクリスチャンを装うなど、神々に祝福された逃亡劇は、同じく逃亡中にスィクに助けられた「Bunty Aur Babli(バンティとバブリー)」(2005)を思い起こさせる。

(c)Mukta Arts, 2005.
キスナ、キャサリン、ラクシュミーの関係は、劇中にあるようにクリシュナ、その恋人ラーダー、正妻ルクミニーを表している。これこそ「Lagaan」からのイタダキに思えるかもしれないが、ラーマヤナをベースにした「Khal Nayak(悪役)」(1994)など、もともとスバーシュはヒンドゥー神話を物語の軸に置くことでヒットを放って来た監督であった。
ゲストのスシュミター・セーンやリシーター・バットもよい。

(c)Mukta Arts, 2005.
スシューをフィーチャルした、「Devdas」(2002)のマードゥリーを思い起こさせるカタック・ナンバル「chilman uthegi nahin」は、「Devdas」のイスマイェル・ダルバールに発注。振付も「dola re dola」でFilmfare Awards、Zee Cine Awards、IIFA振付賞に輝くサロージ・カーンを奢られている。
英国調「my wish come true」から「hum hai iss pal yahan」などA・R・ラフマーンによるナンバルは、かの「Taal」に通じる壮麗なセットが見物(ただし、アントニアがデジタル合成で踊り出すところは、「Yaadein」でリティクがデジタル分裂したり、カリーナーと共に宇宙にまで飛んでしまう悪い思い出がフラッシュバックしてしまう)。
ところで、「my wish 〜」でうっすらと奏でられるメロディーはサルマーン・カーン主演「Tere Naam(君の名は)」(2003)のお清めナンバル「man basiyaa」(音楽監督:ヒメーシュ・レーシャミヤー)! ラフマーンは今でこそインドの現代音楽を代表する大家であるが、「Roja」(1992=タミル)の頃は平氣でブルガリアン・ヴォイスをそのまま挟み込んでいたものだ。これもちょっとしたお遊びなのか、ヒメーシュの方が借用していたのか??
洗練されたラフマーンの作とは思えないドメスティック・ナンバル「hum hai iss pal yahan」の、なんとも垢抜けない雰囲氣も心地よい。プレス発表会の小ステージでのマイクを持ったウディット・ナラヤンは、ラフマーン自らの演奏による<のど自慢大会>にしか見えないのも微笑ましい。このナンバルは、ボリウッドのミュージック・レビューでも「これはダルバールの曲ではなくて、ラフマーンの」とわざわざ書かれているほど。
サポーティングは、村の長老バイロー・スィン役に故アムリーシュ・プリー。「Lakshya(標的)」(2004)に続き、雄姿を見られるのが嬉しい。彼は本作が遺作となったのが惜しまれる。
キスナの兄シャンカルには、「Lagaan」、「Dum」、「Ab Tak Chhappan(今まで56人)」(2004)などの裏切り専門役者のヤシュパル・シャルマー。その功績?が認められたのか、本作では兄弟愛を滲ませるシーンもあって胸を熱くさせられる。
キャサリンに入れ込む領主の息子ラグーラージ役が「Yun Hota Toh Kya Hota(もし起きたら何が起きるか)」(2006)に米国大使館員役でチラリと出演しているラジャト・カプール。口髭に眼帯がチープな怪しさを醸し出す。
キャサリンに目をかける使用人頭に「Taxi No.9211」(2006)のシヴァジー・サータム。
ラクシュミーの父ダーダー・グル役が「ミモラ」Hum Dil De Chuke Sanam(1999)を引き継ぐ音楽師匠のヴィクラム・ゴーカレー。
逃亡中のキスナとキャサリンを助けるのが、「Rang De Basanti(浅黄色に染めよ)」(2006)のオーム・プリー。いつになくバカボン・パパの雰囲氣が強く漂い、見ているだけで可笑しい。
逃亡中のキスナとキャサリンを助けるルクマニー役が、「Asoka(アショーカ王)」(2001)のリシター・バット。クリシュナ神を讚えるホーリー・ナンバル「woh kisna hai(彼がキスナだ)」ではイーシャーが霞む艶っぽい舞踊を見せるがカットバックで編集されているため彼女を堪能できないのが残念である。

(c)Mukta Arts, 2005.
*追記 2011,02,01
>イーシャー・シャルワーニー
本人も女優にさほど執着しないのか、その後の出演作は5本程度。しかも最後の出演は、確信犯的キャスティングが為された東京国際映画祭上映作「Luck by Chance」チャンスをつかめ!(2009)。なにしろ、有名女優の娘で演技は下手な上、撮影そのものより相手役の方に興味津々という、ぱっと消えそうな新人女優役。ただし、サーカス・ナンバル「baawre」で得意の空中舞踊を披露。
>アントニア・バーナス
その後は、もっぱら英TVに出演。
サスペンス「Slaughter」(2009=米)が未公開DVD「豚小屋」の邦題で2010年2月に発売。例によってアルバトロスだけに内容と乖離した邦題・ジャケットでエロティック・ホラーとしてパッケージされている。
>ヴィヴェーク・オベローイ
硬質な存在感がかえってイメージを限定するのか、はたまたアイシュとリンクしてしまったやっかみからか、不遇が続いたゼロ年代後半。
久々のヒーロー物「Prince」(2010)はまずまずの出来ながら、続くラーム・ゴーパル・ヴァルマー監督作の2部作「Rakta Charitra」(2010)がフロップ。依然、メガヒットとは縁が遠い状況にあるが、プライベートでは2010年10月29日、ベンガルール(旧バンガロール)を抱くカルナータカ州知事の娘プリヤンカー・アルヴァと挙式。
>スバーシュ・ガイー
本作の後、シャー・ルク・カーン製作・主演「Om Shanti Om」オーム・シャンティ・オーム(2007)において自作「Karz(借り)」(1980)の撮影シーンがそっくり再現され、彼自身も特別出演で招かれるなどで氣をよくしたのか、2008年には自爆テロを扱ったアニル・カプール主演「Black & White」と、「レインマン」を焼き直ししたサルマーン・カーン&アニル主演「Yuvvraaj(ユヴラージ)」を2本公開。
しかし、プロデュース作「Bombay to Bangkok」(2008)、「Paying Guests」(2009)含めてすべてフロップ。フィルモグラフィも手痛く停滞。
>ラジャト・カプール
本作での出世頭となるラジャト。本作で初の大役を務める一方、インディーズ監督としてヴィジャイ・ラーズ主演「Raghu Romeo(ラグー・ロミオ)」(2003)がNational Film Awards ヒンディー映画賞受賞。小粒映画の秀作「Bheja Fry(脳味噌揚げ)」(2007)のスマッシュヒットで勢い付き、「Krazzy 4」(2008)などでメジャー作品にも進出。小粒映画のトップ・リーダー的存在となり、アート系「Siddharth」(2009)でアジア・パシフィック・スクリーン・アワード主演男優賞受賞。
>A・R・ラフマーン
リリカルで安定したスタイルから「アルバム」としても聴きやすい仕上がり。「スラムドッグ$ミリオネア」(2008=英)など先鋭的な楽曲とは異なり、中庸かつ伝統音楽を継承した曲作りが心地よい。クラブ系サウンドに疲れ、ひと息入れたい時にどうぞ。