Beta(1992)#191
Beta(息子)02.01.31 ★★★★★
ベーター
製作:アショーク・タケーリア/製作・監督:インドラ・クマール /原案:K・バギャーラージャー/脚本:ギャンデーヴ・アグニホートリー、ラジーヴ・コォール、プラフル・パレーク/台詞:カムレーシュ・パーンディー/撮影:バーバー・アーズミー/作詞:サミール/音楽:アナン(=アーナンド)-ミリン(=ミリンド)/背景音楽:ヴァンラージ・バーティア/美術:ビジョン・ダース・グプタ/アクション:A・ガニ/振付:サロージ・カーン/編集:フサイン・A・ブルマワーラー
出演:アニル・カプール、マードゥリー・ディクシト、アルナー・イラーニー、ラクシュミーカーント・ベールデー、アーカーシュ・クラーナー、アジテーシュ、アヌパム・ケール
助演:サティヤン・カップー、バールティー・アチェレーカル、クニカー、プリヤー・アルン、ブリージ・ゴーパル、マスタル・バンティー
友情出演:リタ・バードゥリー
公開日:1992年4月3日(年間トップ1ヒット!/日本未公開)
Filmfare Awards:主演男優賞、主演女優賞、助演女優賞、女性プレイバックシンガー賞
STORY
幼くして母を失ったラージューは、神様の家へ電話して母に戻って来るようお願いする。それを知った父(アーカーシュ)はラクシュミー(アルナー)を後妻に迎えるが、彼女の狙いは一家の財産だった。やがて、成長したラージュー(アニル)に嫁いだサラソヴァティー(マードゥリー)は、ラクシュミーの策略で義父が屋敷の奥深くに軟禁されているを知り、嫁と鬼姑の闘いが始まる・・・。
Revie-U
「Dil(心)」(1990)で鮮烈なデビューを飾ったインドラ・クマール監督の第2弾。しかも堂々年間トップ1ヒット! 監督賞、作品賞を逃しているものの、主演男優賞、主演女優賞、助演女優賞、女性プレイバックシンガー賞のFilmfare Awads 4冠を獲得した。
ストーリーは見ての通りインド人好み王道である母子物なのだが、そこはインドラだけに悪ノリ・ギャグが其処彼処に仕掛けられているかと思えば、同等のエナジーを注いで叙情的な母物をダイナミックに謳い上げている。
オープニング、子役のラージューが亡き母を慕うあまり神様に電話してしまう。のっけからインドの観客はぐっと来るはずだ。
ここで局の女性交換手が亡き母になりすまして対応し、少年のひた向きさに打たれ、思わずもらい泣きし「必ず帰るから」と返答してしまう。
だが、ラージューの無垢なる願いが意外な展開を呼ぶのだった。
後妻として荘園にやって来たラクシュミーは、それはそれはラージューを可愛がる。ラージューもラクシュミーを母そのものとして大いに慕う(父のことは省みもしない)。
男尊女卑と云われるインド社会にあって、母と息子の結びつきは相当に強い。多かれ少なかれ家族関係がストーリーを彩っているインド映画において、更に母子の関係を全面に押し出したのが「Karan Arjun」カランとアルジュン(1994)。「デザート・フォース」Border(1997)、「Duplicate(瓜二つ)」(1998)、「Hindustan Ki Kasam(インドの誓い)」(1999)、「Vaastav(現実)」(1999)、「Soldier」(1999)、「Fiza(フィザー)」(2000)など母子の関係が重要なファクターとなっているし、「Badal(雲)」(2000)、「アルターフ」Mission Kashmir(2000)のような疑似母子の関係が胸を打つアクション映画もある。
反対に過剰な母子関係がネガティヴに反映したマザコン物は、サイコな息子と亡き母の「Darr(恐怖)」(1993)、母の溺愛が息子をテロリストに走らせた(ように見える)「Khal Nayak(悪役)」(1993)など全体からすると意外なくらい少なく、マザコン息子をギャグにしたのは「Raja Babu(ラージャー坊ちゃん)」(1994)ぐらいだろうか*(まあ、大抵は母子関係が美化されている方が喜ばれる)。
本作では、逆に息子の立場から母への一途な思いが悪母を呼ぶ。しかし、その悪母さえ息子の愛が彼女を目覚めさせ、血の繋がった母子以上の結びつきに到るのがなんとも凄い。
前半はラージューとサラソヴァティーの恋愛を軸に、後半は嫁と鬼姑の闘いとなるのだが、ブラフマーの妻(娘)とヴィシュヌの妻という女神同士の対決だ。
ところで幸運と財運の女神ラクシュミーが何故、一家の財産を狙う鬼姑の役名になっているのかというと、別名チャンチャラー(氣まぐれ)と呼ばれるように、「誰かに幸運をもたらす」ということは「誰かには不幸をもたらしている」存在でもあるからだ。確かにラージューにとっては尊い母であるのだが、反面、虐げられる夫にとっては悪魔のような存在なのである。
危うい嫁の立場から義母の悪巧みに猛然と対立してゆくサラソヴァティーに扮するのがマードゥリー・ディクシト。セレモニーの誉め殺し作戦からオイル作戦(?)まで多種多様な作戦を展開して、見事、主演女優賞を受賞。インドラの監督デビュー作「Dil」からアニル・カプールの弟サンジャイ・カプールのデビュー作「Raja(ラージャー)」(1995)までヒロインを務め、マードゥリー3部作を形成している。
一方、純粋無垢に母を思い続ける一途な息子ラージャーを演じきるのが、主演男優賞のアニル。サラソヴァティーを疎んじるラクシュミーが彼女に飲ませようとした毒薬を「母を信じて」飲んで倒れてしまう。
これを不動に見守る継母ラクシュミーを演じるのが、インドラの実姉であるアルナー・イラーニー。息子思いの優しい母親が表面と、財産を狙う鬼姑の裏面を見事に演じ分け助演女優賞に輝く。
クライマックスで、ラクシュミーはラージューの思いに突き動かされて改心したがために、血がつながる腹黒息子に殴り倒される。その時、叫ぶのが「ラージュー・ベーター!」。
毒薬により意識不明となっていたラージューが母の悲鳴を聞き、意識を取り戻しては扉を打ち破って悪漢どもを倒す。それも大刀を素手で受け止め血を流すのも厭わないのだから、観ている方も力が入る。
それにしても、実の母子より強く結びつくラージューとラクシュミー! インドラのウルトラCには唸らせられる。
この時期だけにアヌパム・ケールが疫病髪のヅラに出っ歯+アルファでエキセントリックなコメディリリーフを担当(本人も氣に入ったのかノッて演じている)。一家の真相を知ったサラソヴァティーの味方となる使用人に、使用人役者のラクシュミーカーント・ベールデー。役者の他、「Baazigar(賭ける男)」(1992)などの脚本作品もあるアーカーシュ・クラーナーがラージューの父親役で出演。
その他、ラージューとサラソヴァティーが出会う結婚式のシーンには、「Dil」でも強烈な個性を放っていた爆弾娘(!!!)が今度は坊主頭で登場!!!!! また神々まで入り乱れるフェスティバル・シーンには、「Ishq(恋)」(1995)、「Aashiq(愛人)」(2001)でも登場する酔っ払い痩せ男の姿も見られ、フリーク・マニアのインドラらしい愛すべきまなざしが伺われる。
*追記 2007.04.28
「Naksha(地図)」(2006)の冒頭でも、タフなヴィヴェーク・オベローイが「ママ〜、シャツはどこ〜?」と大声を上げ、母親がいなければ何一つできないインド人青年を好演。ちなみにサニー・デーオール版「インディ・ジョーンズ」とも言えるこの作品、サニーとヴィヴェークの掛け合いが案外心地よく、また新境地を開いた?サミーラー・レッディのコメディエンヌぶりも楽しい。
*追記 2007.9.14
兄アニルは本作「Beta」で、財産狙いの継母を信じて毒をも平然と飲んだが、愚弟サンジャイ・カプールとなると「Koi Mera Dil Se Poochhe(誰か私の心に聞いて)」(2002)でのサイコ息子は実の母から毒をもられ、それを見抜いて母に毒味をさせるサイテーぶり。しかも父スリンデール製作ながら、主演はアーフターブ・シヴダサーニーとイーシャー・デーオール。
*追記 2011,02,05
>マザコン
日本ではとやかく言われる<マザコン>だが、ボリウッドでは基本中の基本。母親嫌いの作品を探す方が難しい。そんな中、「Kya Kehna!(なんて言っても!)」(2000)でのサイーフ・アリー・カーンは驕慢な母親への反感から女を口説きまくるも結婚を拒絶するプレイボーイという設定。
>前半はラージューとサラソヴァティーの恋愛を
ふたりの出会いは例によって招待された結婚式。マードゥリーのドゥパッターが風に舞い、アニルの頭に覆い被さる<運命の出会い>。アニルはその場でマードゥリーにひとめ惚れし硬直不動となる。
ちなみにこの場面で結婚式の楽団が演奏しているのが、マードゥリーがサンジャイ・ダットとサルマーン・カーンの親友同士から同時に好かれてしまう「Saajan」サージャン 愛しい人(1991)。
>マードゥリー・ディクシト
とにかくマードゥリーの全盛期とあって、すべてが見どころ。結婚式のカメラマンからアニルが手に入れたマードゥリーの写真が鼓動をし始め、妄想へと突入するナンバル「dhak dhak karne lage(ドキドキするわ)」は、サロージ・カーンの振付による胸の動きが悩殺モノ。
>アニル・カプール
これまたアニルも全盛期とあって実に凛々しく、ファイト・シーンではメーラー(祭り)の会場であらくれ男どもにしばきあげられ、観覧車のゴンドラに逆さで縛られ空中回転。これをダブル(吹き替え=スタントマン)なしで挑戦。
ネタに困った日本のバラエティ番組がはちゃめちゃなギャグ・スケッチをコマ切れに取り上げては「インド映画はこんなに変」と笑いをとる安易な番組に最適な作品ではあるが、しっかりまとめて鑑賞すると力技の感動作に唸らせられるはず。