Tezaab(1988)#190
Tezaab (酸) 02.01.07 ★★★
テーザーブ
製作・原案・脚本・編集・監督:N・チャンドラ/台詞:カムレーシュ・パーンディー/撮影:ババ・アーズミー/詞:ジャーヴェード・アクタル/音楽:ラクシュミーカント−ピャーレーラール/振付:サロージ・カーン/スリル:ラーム・シェッティー/美術:ビジョンダース・グプタ
出演:アニル・カプール、チャンキー・パーンディー、マードゥリー・ディクシト、キラン・クマール、スパルヤー・アナン、アヌパム・ケール、ジョニー・リーヴァル、デーニーシュ・ヒングー、マハヴィール・シャー、アンヌー・カプール
特別出演:スレーシュ・オベローイ
友情出演:マンダキーニー
公開日:1988年11月11日(年間トップ1ヒット!/日本未公開)
Filmfare Awards:主演男優賞:アニル・カプール/女性プレイバックシンガー賞:アルカー・ヤーグニク
STORY
人気歌手モヒニー(マードゥリー)が公演中にバイカーズ・ギャングに襲われた! 知らせを受けてボンベイへ舞い戻ったムンナー(アニル)は、彼女の父シャームラール(アヌパム)に掛け合い、5万ルピーで彼女の救出を請け負うが・・・。
Revie-U
ストーリーを見ても判る通り、「ストリート・オブ・ファイアー」(1984=米)の翻案! しかも、冒頭部分、コンサート会場へバイカーズが乱入するシーンはほとんどそのまま!! もっとも、ステージで演じられるナンバル「ek do teen(1、2の3)」はバックグラウンド・ダンサーを従えたフィルミーダンスであるのが愉しい。
この知らせを受けて、ボンベイへ舞い戻るのがアニル・カプール扮するムンナー・バーイ(兄貴)。列車の屋根に突っ立って(!)戻って来るところがさすが。
地方の町で地回りをするしがないゴロツキの兄貴分とアンチ・ヒーローとして登場する彼であるが、元はれっきとしたエリート海軍士官。しかし、銀行に勤める両親をギャングどもに射殺され、いつしか身を持ち崩してしまった哀しきヒーローなのであった。
この銀行強盗襲撃シーンでは、「アンタッチャブル」(1987=米)、そして大本は「戦艦ポチョムキン」(1925=ソヴィエト)のオデッサの階段シーンが見られるのもポイント。
ところでこのムンナーという役名、「Rangeela(ギンギラ)」(1996)でアーミル・カーンが演じていたムンナー・バーイと同じ役名。映画狂のラーム・ゴーパル・ヴァルマーだけに、本作を念頭に置いてのことだろうか。ちなみにこの役名、アニル自身が変更を希望したとかで、脚本ではシャーカルだったそうだ。
1980年代後半のアニルは乗り乗っていて、トップ1「Karma(仕事)」(1986)、トップ2「Mr.インディア」Mr.India(1987)、トップ1「Ram Lakhan(ラームとラカン)」(1989)と主演作が軒並みトップ1ないしトップ2ヒット。本作も年間はもちろん、彼主演作の中でもトップ1ヒットで、Filmfare Awards 主演男優賞を受賞。「Chandni Bar」(2001)の劇中、1980年代のダンサー控室に彼のポスターが貼ってあったのも頷ける(ちなみに2000年のシーンではリティク・ローシャンへと変化)。
アニルがマイケル・パレなら、ダイアン・レインはマードゥリー・ディクシト。デビュー後、鳴かず飛ばずだった彼女だが、スバーシュ・ガイーの後押しで本作に出演。一挙、スターダムへと駆け上がった。ムンナーに恋い焦がれる回想シーンで、プール監視員を務める彼の氣を引こうとわざと溺れるシーンで披露した水着姿も印象的。
本作のヒット・ナンバル「ek do teen」がスターへ押し上げたのはマードゥリーだけではない。プレイバックしたアルカー・ヤーグニクもまた、この一曲で大きく花開き、Filmfare Awards 女性プレイバック・シンガー賞を受賞! 作詞ジャーヴェード・アクタル、音楽ラクシュミーカーント−ピャーレーラールの軽快なメロディーは思わず口ずさんでしまうほど。
キャンパスで知りあったモヒニーはムンナーに一目惚れ、しかし彼はミス・キャンパスにお熱を上げる。スッタモンダの末、ムンナーがモヒニーに開眼。大学の屋上で彼女に迫るものの、つむじを曲げたモヒニーに袖にされたムンナーは「ここから飛び降りるぞ! エク、ドー、ティーン(1! 2!! 3!!!)」と叫ぶのが、これが歌に対応しているのは言うまでもない。
ちなみに落下したムンナはコンクリートに激突しながらも、全身を包帯に包む重傷で助かり(毛深いからか?)、愛のミュージカルとなる。サブタイトル「A Violent Love Story」に相応しい??
さて、我らがヒーロー、ムンナー・バーイの相棒役はエイミー・マディガンに相当する女ガンマンでなくて、「Kasam(誓い)」(2001)のチャンキー・パーンディー、まだスリムな頃のジョニー・リーヴァルらがまとめて担当。
彼らを従えてモヒニー救出へと向かうムンナーをインスペクター(スレーシュ・オベローイ)が呼び止め、ここからキャンパス・シーンの長い回想へとなる(下敷きにしてるのは掴みとクライマックスだけで、3分の2以上はオリジナルの回想シーンなのだ)。
そして、ようやく見られるモヒニー奪回シーンは、スラム街のオープン・セットを破壊しまくり、「マッドマックス2」(1981=豪)か「グレート・スタントマン」(1978=米)か、と言うほどのスペクタクル・アクションが展開!
またムンナーは冤罪で度々捕まえられ、3度(!!!)も法廷シーンがある。牛顔の検事役ラヴィ・パトワルダンはこの手の役が多く、「ラジュー出世する」Raju Ban Gaya Gentleman(1992)の法廷シーンにも出演。
アヌパム・ケールもこの頃だけに、金にうるさく酒に弱い嫌われ親父役。
「Dil(心)」(1990)、「Beta(息子)」(1992)の系譜であるが、なんと本作ではマードゥリーを鞭打ちさえする! モヒニーが拉致されたのも、元はと言えば彼がギャングに入れ知恵したため。
モヒニーを拉致するギャングのボス役が、キラン・クマール。ウィレム・デフォーのふてぶてしさはなく、ただ勢いあるだけなのがサビシイ。
インスペクター役のスレーシュ・オベローイも精悍な印象で、旧知のムンナーに温情を示し、冤罪を暴く。彼が一旦は引き止めたムンナーを長い回想後にモヒニー奪回へ行かせてしまうのは、ムンナーの両親が勤める銀行にギャングが押し入った際、突入したがるムンナーを止め、結局は両親が殺されてしまった経緯が伏線となっていたためだ。
監督のN・チャンドラは1980年代半ばから活躍するが、本作が唯一のビッグ・ヒット。台詞は「Aks(憎しみ)」(2001)のカムレーシュ・パーンデー。振付は、「Rangeela」でバックグラウンド・ダンサー役のウルミラー・マートンドカルが付いているということになっていたサロージ・カーンが担当。
*追記 2005,09,20
ジャーヴェード・アクタルは「ek do teen」でFilmfare Awards 作詞賞にノミネート、「kehdo ke tum」のアヌラーダー・パウドーワールも女性プレイバックシンガー部門でノミネートされたが、惜しくもアルカーに破れた。
*追記 2011,02,04
>ムンナー・バーイ
今となっては、やはり「Munna Bhai MBBS(医学博士ムンナー兄貴)」(2003)でサンジャイ・ダットの当たり役。
キャンパス・シーンで鞘当てとなるキャンパス・クイーン、ニキーター役が特別出演のマンダキーニー。ヌード・シーンが話題になった「Ram Teri Ganga Maili(神よ、汝のガンガーは汚れてしまった)」(1985)でブレイクし、ミトゥン・チャクラワルティーの相手役など当時引っ張り凧にあった。
後半、アニルの求愛ナンバル「ek do teen」(アミット・クマール)中、映画館で上映されているモノクロ映画は日本映画! 手ぬぐいを頭に巻いて路上で靴磨きをしているのは、おそらく「名もなく貧しく美しく」の小林桂樹(1961=東宝)。
また、アニルたちが入り浸るキャンパスの茶屋に和装美女のカレンダーが貼られている。
若かりしジョニー・リーヴァルと混じってとりまきのボンクラ仲間を演じているのが、「Housefull(満員御礼)」(2010)でイタリアのホテル・オーナー役チャンキー・パーンディー。
キャンパス内のチャイ・ボーイが「Raincoat」(2004)のアンヌー・カプール。単なる脇役でなく、終盤、マードゥリーを諭しアヌパムと対決する見せ場あり。
タイトルの「Tezaab(酸)」は人非人のアヌパムが娘を連れて家を出ようとする妻に(結果として)酸を浴びせたことを前振りとし、クライマックスの裁判中、検事がアニルに対して「こいつは社会を蝕む酸だ」と言い放ち、アニルも「ああ、俺は酸だ。だが…」と決め台詞へと至る。