36 China Town(2006)#031
36 China Town(唐人街36番地)/2006 06.09.24 ★★★★
製作総指揮:ラジュー・ファルクィー/製作:スバーシュ・ガイー/監督:アッバース-ムスターン/原案・脚本:シャーム・ゴーエル/台詞:アヌラーグ・プラパンナ、ジーテンドラ・パルマール/撮影監督:ラヴィ・ヤーダウ/作詞:サミール/音楽:ヒメーシュ・リシャームミヤー/振付監督:アフムド・カーン、レモ/背景音楽:サリーム-スレイマン/編集:フセイン・アリー・ブルマワーラー/美術:R・ヴェルマン/スリル:ホルセ・バブー/音響監督:ラーケーシュ・ランジャン
出演:アクシャヱ・カンナー、カリーナー・カプール、シャーヒド・カプール、パレーシュ・ラーワル、パヤル・ロハトギ、ジョニー・リーヴァル、タナーズ・ラール(カリーム)、ウペン・パテール、ヴィヴェーク・シャークィー、ラージ・ズッシー、ディミヤール・コントラクター、ロスマン・ティランダーズ、プリティー・プリー、サムバワナ・セート、ヴィヴェーク・ワスワーニー、ハリーシュ・シェッティー、アヌラーグ・プラパンナ
特別出演:プリヤンカー・チョープラー、イーシャー・コッピカル、タヌシュリー・ダッタ
公開日:2006年5月5日(日本未公開)
STORY
ひょんなことから行方不明となった子供をみつけ、ゴアの邸宅まで懸賞金をせしめに行くことになったプリィヤ(カリーナー)とラージ(シャーヒド)だが、その晩、母親マダム・ソニア(イーシャー)が何者かに殺され、事件に巻き込まれてしまう・・・。
Revie-U *結末には、あえて触れていません。
B級テイストあふれるサスペンスを得意とするアッバース・アリーバーイ・ブルマワーラーとムスターン・アリーバーイ・ブルマワーラーの兄弟監督アッバース-ムスターンの新作。タフでワイルドな風貌を想像しがちだが、実はごく地味なおじさんの二人組。実はもうひとり、そっくりの弟がいるらしい?!(編集のフセイン・アリー・ブルマワーラーは伯父さんらしい)
製作は、スバーシュ・ガイーのプロダクション、ムクター・アート。スバーシュはヒットメーカーとして知られたが飛ぶ鳥を落とす勢いでデビューしたリティク・ローシャンとカリーナー・カプールを迎えて鳴り物入りでリリース(封切り)した「Yaadein(思い出)」(2001)がフロップとなっただけでなく、演出面での技量のなさを露見するなど手痛い思い出となって以降、コッポラよろしく主にプロデューサーとして立ち回る路線を取るなどして「Kisna」(2005)で演出復帰を果たしたが、アッバース-ムスターンとは「Aitraaz」(2003)に続く組み合わせとなる。
ただ、同じ監督として他の監督作品をプロデュースしていることがおこがましいと思ったのか、あるいは自身の名前が出ると足を引っ張るからか(?)、オープニング・タイトルバックでのクレジットは単に「PRODUCED BY MUKTA ARTS ENTERTAINMENT」となっている。
氣になるキャスティングの方はというと、トップビリングのアクシャヱ・カンナーは事件を解決するインスペクター・カラン役ということで後半のみの登場。ヘアピースもよく似合い(苦笑)、ソフトを被ったところなどなかなかよい雰囲氣であるが、例によってスターの驕りが全面に出過ぎているのが難点。「Aankhen(盲点)」(2001)のアーディティヤー・パンチョーリー程度に物語に溶け込む役作りをしてくれれば悪くないのだが。
もっともそれが出来ない性分らしく、「Deewarein(壁)」(2004)でもパーキスターン軍の捕虜となって長い年月を牢獄で過ごす父親役のアミターブ・バッチャンらが襤褸を纏っているのに対し、専属のスタイリストを立てたアクシャイは救出のために潜伏しているにも関わらず下町の雑踏でナ○キの新品キャップをかぶり小ぢゃれた衣装で目立ちまくっていたっけ。
ちなみに、数霊術的に験を担ごうとしたのか、(売れまくっている)アクシャイ・クマールと混同されないようにするためか、AKSHAYEとスペルを変えている。
そんなわけで、メイン・キャラクターはというと、シャーヒド・カプールとカリーナー・カプールになる。
シャーヒードは、「Maqbool」(2004)でNational Film Award 助演男優賞を受賞するなど近年高い評価を受けている俳優パンカジ・カプールの息子で、母親はマイナー女優のニーリマー・アズミー。
ただ、両親はシャーヒドが3つの時に離婚しており、その後、パンカジは「Sarkar」(2005)でアミターブの妻を演じているスプリヤー・パタクを夫人に迎えていて、スプリヤーの連れ子であるイシャーン・カプールも「Vaah! Life Ho Toh Aisi!」(2005)でデビュー済み(これは義兄シャーヒドとの共演作でもある)。
話は多少込み入るが、スプリヤーの母親は「Devdas」(2002)でアイシュワリヤー・ラーイの姑を演じていたディナ・パタク。姉のラトナ・パタク・シャーは「Yun Hota Toh Kya Hota(もし起きたら何が起きるか)」(2006)に出演、この作品で監督に進出したナッスィールッディン・シャーの法律内妹(義理の妹)にあたる。
さて、そのシャーヒドだが、最近のボリウッドでは珍しい甘いベイビーフェイスが売り。それでいて、ダンスとなるとなかなかに動きがよく、ポーズもよく決まり大役者の風格を見せる。そのへんは、スバーシュの「Taal(リズム)」(1999)でバックダンサーとしてキャリアをスタートさせた、と聞けば頷けるというもの。
シャーヒド扮するこのラージ、殺人現場の豪邸にプリィヤが旅行ケースを忘れて来たと知るや「僕はここで失礼するよ」とさっさと身を引き、それならばと単身乗り込もうとするプリィヤを呼び留め、帰りのバス代を借りようとするなど、「DDLJ」(1995)をはじめとした若かりし頃のシャー・ルク・カーンを彷彿とさせる口八丁手八丁なキャラクターになっていて楽しませてくれる。
しかしながら、見るからに人が良さそうなシャーヒドではやや物足りなくもあり、これからの成長に期待したい。
一方、ヒロインのカリーナーはというと、彼女のスペックからすればアベレージ以下というところか。
「Kyon Ki…(なぜならば・・・)」(2005)や「Chup Chup Ke(そっとそっと)」(2006)と異なり、彼女の役柄に重きが置かれていないグランドホテル形式の群像劇となっているためなのだが、そのような場合でも鮮烈な印象を残せないとこが伸び悩みの要因だろう。
もっとも、スクリーン外でもスティディであるカリーナーとシャーヒドは、劇中のふたりが互いを意識し始めるまでの前半はそれが感じられないようセーブしており、役者としてプロフェッショナルなところが好感が持てる。
このふたり、もし結婚すると、サンジャイ・カプール(と言ってもアニル・カプールの弟とは別人)と結ばれた姉カリシュマー・カプールのように「カプール・カプール」(ZEE CINE AWARD 2005でホストのカラン・ジョハールが揶揄していたっけ)となるが、「Kal Ho Naa Ho(明日が来なくても)」(2003)の中でプリティー・ズィンターがナレーションしていたのと同じく、シャーヒドがカプールはカプールでもKapurのスペリングを採用しているため、Kareena Kapoor Kapurとなる??
さて、話を本作に戻すと、たまたま見かけた子供が行方不明になって25万ルピーの懸賞金が出されていたと知ったふたりが、遊興地ゴアにある架空のチャイナタウンでカシノを営むマダム・ソニア・チャンのもとへ一獲千金を夢見てムンバイーから送り届けようとするのだが、そこへ絡んでくるのが、名優パレーシュ・ラーワル演じるナトワラールと若妻グレーシー(パヤル・ロハトギ)、言わずと知れたジョニー・リーヴァル扮するK・Kと妻ルビー(ターナーズ・ラール)。
ターナーズは結婚したばかり。本作では旧姓カリームでなく新姓のラールを名乗っているだけでなく、新婚ホヤホヤで心境の変化なのか、「Kaho Naa…Pyaar Hai(言って・・・愛してるって)」(2000)で見せたロールパームでなく黒髪のストレートにイメージチェンジ。芝居の方も冴えていて、死体を発見したターナーズとジョニーのリアクションは、死ぬほど可笑しい!!!
パヤルは、コンピューター・エンジニアからトップモデルに転身した変わり種。
この人妻のふたり、夫にスポイルされても誘惑に乗らないところは、さすがインドの妻。
これらのお騒がせキャラクターがカシノでギャンブルに興じるスケッチが延々続くなど、散らかし過ぎのきらいがあるが、もうひとり、事件の鍵を握るというか、かき回すのが、本作デビューのウペン・パテール。
朝早くからビキニの女たちをはべらしてモーターボートでクルージングしていたかと思えば、通りすがりの女性をひとりひとりナンパしてゆくロッキーがその役どころ(ご丁寧にスーツの内側に何本も薔薇の花を用意してある)。彼のモバイル・ナンバル9820420420は、詐欺師を意味する420(チャール・ソォ・ビース)がダブルとあって始末に終えないキャラクター。
ウペンはロンドン生まれのトップモデルで、隆々とした肉体と伊達な着こなしを持ち、女と見かければ臆面もなくナンパしまくるプレイボーイ役も板についている。ダンス・ナンバル「aashiqui meri」で見せるステップなどはまずまずで、ジョン・エイブラハムからするとよっぽど踊れる。
もっとも、俳優としてはオーラが足りず、「Jaani Dushman(命敵:奇譚篇)」(2002)のラージャート・ベディに「Qayamat(破滅)」(2003)のチャンキー・パンディーの軽妙なところを足して、やや感度よくした感じか。台詞まわりは案外巧みで……と思ったら、これがアテレコだったので評価はお預けだろう。
この他のサポーティングに、ペイントマンならぬ酒瓶男に「Zinda(生存)」(2006)の監禁屋ラージ・ズトシー。梵林役者は概して酔った芝居が目も当てられないが、ラージもそれに準ずる醜態を披露(苦笑)。
マダム・ソニアに使える執事ロボーが「Jankar Beats」(2003)のディミヤール・コントラクター、弁護士役でチラリと登場するのが「ラジュー出世する」Raju Bhan Gaya Gentlman(1992)のカー・セールスマン、ラヴチャンド・ククレージャー役にして、「Soldier」(1998)でプリティー・クイズ(笑)の司会者だったヴィヴェーク・ワスワーニー。氣の弱そうな顔して、ラーホール・ボースのヒングリッシュ監督作「Everybody Says I’m Fine!」(2001)などのプロデュースも手がける、というからび驚き!
また、アクシャイの相方が「Dum(強靱)」(2003)のヴィヴェーク・シャークィー。インスペクター・カランが煙草をくわえる度に使い捨てライターで火をつけようとするが石がすり減っていて?火がつかなかったり、やたらと「うちの女房が……」と言い出すギャグが楽しめる(「刑事コロンボ」からの引用ではないと思うが)。
特別出演扱いのマダム・ソニア役、イーシャー・コッピカルは「Qayamat(破滅)」(2003)の殺し屋女と禁断映画「Girlfriends」(2004)以降、ヒロインとしての価値はなくなった?? 本秋リリースのリメイク版「Don」(2006)ではドンの恋人役を獲得(もっとも添え物。カリーナーも同様にオリジナルでヘレンが演じた小さな役)。そつなくダンスをこなすだけに芝居の上達を望む。
また、エピローグにプリヤンカー・チョープラーが姿を見せている。アクシャイにはもったいない??
現在、アヌー・マリックを凌駕する勢いでオファーを集めているヒメーシュ・リシャームミヤーによるナンバルは、どれも軽快!
ウペンにスポットを当てた中華街ナンバル「aashiqui meri(俺の愛しいヤツ)」(ヒメーシュ/スニディー・チョハーン)では、「Tera Mera Saath Rahen(俺とおまえは一蓮托生)」(2002)などの大御所アート・ディレクター、R・ヴェルマンの手による極彩色セットを作成。黒と紅を基調としたバックグラウンドダンサーに対し、深いグリーンのシルクドレスに身を包んだイーシャーはグラインドもなかなか巧みで、短い出演が惜しまれる。
この後、間もなくゴアでの殺人シーンが反転逆転処理され、ムンバイーの朝9時、ちょうどゴアでロッキーがナンパに精を出し始める映画の冒頭と同じ時刻となる。わざわざムンバイーとロケーションを示しながら、映し出されるのは黄金に輝く砂漠・・・。
このUAEでの借景ロケ・ナンバル「jab kabhi」(クナール・ガンジャワーラー/アルカー・ヤーグニク)。レモが施したスタイリッシュな「aashiqui meri」とは一転、白い衣装のバレリーナ2名を従えたシャーヒドが瞼のヒロイン、チョコレート・ビューティーのタヌシュリー・ダッタを想う優雅な振付はアフムド・カーンの仕事。ギターを片手にしたシャーヒドの登場シーンが岩山の頂点となっているのは、シドニー・ベイブリッジの天辺でボビー・デーオールがドラムを叩いていた「Soldier」に対応。実にアッバース-ムスターンらしいお遊びだが、さすがにシャーヒドは尻込みしたのかロング・ショットでダブル(吹き替え)にお任せだったようだ。ちなみに「Chocolate」(2005)のタヌシュリーは、アッバース-ムスターンの次回作「Mr.Fraud」にもキャスティングされている。
再びレモの振付となる、ゴアへと向かうACバスの中でラージがプリィヤに想いを寄せる妄想ナンバル「24×7 I think of you」は、時より意味不明なスケッチもあるがこれは夢の中だから。そう言えば、「24×7」はアッバース-ムスターンの前作「Taarzan」(2004)のクラブ・ナンバル「gonna fall in love」中で登場するクラブの名前としても使われていた。
風・火・水を用いたエンディング・ナンバル「aashiqui meri remix」では、各キャストが結集。シャーヒドとウペンがしのぎを削り、カリーナーも楽しげにダンスするものの、踊れぬアクシャイはやっぱりニヤニヤ突っ立ってるだけだったりする(苦笑)。
ゴアという設定ながらロケはしなかったようで、アウトドアはバンコック、モーリシャス、ドバイで撮影。
ソニアの豪邸は、広大な中庭からしておそらくドバイ? その裏にカシノがあって、間には交通量の多いバイパスが走っている設定ながら、まったくそのように画がつながっていないのはご愛嬌。
アッバース-ムスターンからすると、やはり散らかし過ぎた嫌いがあり、また犯人が意外過ぎでかえって興醒めであるけれど、これはホラー映画めいた豪邸をアピールしたパブリシティーがサスペンス映画を思わせるからで、はじめからコメディとして見ると割合楽しめるだろう。
*追記 07.02.01
インドのセレブリティ・マガジンである「Society」誌がFilm Fare Awardsに追随して行っているSociety Young Achievers Award 2007にて、本作でデビューしたウペン・パティールが受賞。この他、ライオンズ・クラブからも新人賞を贈られた。
このSociety Achievers Awardでは、TVプロデューサーとして頭角を現し、「Kyo Kii…Main Jhuth Nahin Bolta(なぜなら…私はウソは申しません!)」(2001)など映画製作にも乗り出したエクター・カプール(ジーテンドルの娘で、「Mujhe Kucch Kehna Hai(私に何か言わせて)」でデビューしたトゥシャールの妹)も2001年に受賞している。