Paap(2004)#179
「Paap(罪)」★★★☆
パープ
製作:スジート・クマール・スィン/製作・監督・総合意匠:プージャー・バット/脚本:マヘーシュ・バット/撮影:アンシュマン・マハーレー/台詞:ニランジャン・アイェンガル/作詞:サイード・クァードリー/音楽:アヌー・マリック/振付:ラージュー・カーン/アクション:アッバース・アリー・モゥーガル/衣装デザイン:ティア&プージャー/編集:アキーヴ・アリー
出演:ジョン・エイブラハム、ウディター・ゴースワーミー、Dr,モーハン・アガーシー、グルシャン・グローヴァル、サンディープ・メーヘター、デンズィル・スミス、アナヒター・オベローイ、マダン・ビクー
公開日:2004年1月30日(日本未公開)

(C)Fish Eye Network, 2004
STORY
ヒマーチャル・プラデーシュ州の奥地に住むカーヤー(ウディター)は、ティベット寺院の僧侶から依頼されデリーで発見されたリンポチェの生まれ変わりを連れに出向く。しかし、生まれ変わりの少年がホテルで潜入警官が殺害される現場を目撃。捜査にあたった若き刑事シヴェン(ジョン)も襲われ、犯罪一味からふたりを守ってカーヤーの住む村へと逃げ延びるが、彼女と恋に落ちてしまい・・・。
Revie-U
例によって米「刑事ジョン・ブック/目撃者」のイタダキ。本作ではアーミッシュからティベット仏教に設定が変更されているが、リンポチェ絡みということから「ゴールデン・チャイルド」を連想してしまう。
(しかし、リンポチェは話の「枕」のようなもので、まったく活躍しない…)
脚本は「Naam(名前)」(1986)、「Kartoos(弾道)」(1999)のマヘーシュ・バット、監督はマヘーシュの娘でシャー・ルク・カーン作品のヒロインを務めたこともある元女優のプージャー・バット。
マヘーシュはアート系作品で脚光を浴びながらもハリウッドの翻案に励む二流映画人となってしまったが、本作ではライフワークとも言えるその業深いテーマが見てとれ興味深い。
監督としてプージャーの演出はつたなく、いかにもマイナー映画といった印象だが、プロダクション・デザインや衣装デザインも手がけるなど意欲的。作品への想いが伝わり、それが凡作でありながら不思議な味わいを生み出している。

(C)Fish Eye Network, 2004
ジョン・エイブラハムは、本作がデビュー3作目。
まだダビング(アテレコ)ということもあって雰囲氣が異なるが、「マイ・ネーム・イズ・ハーン」My Name is Khan(2010)の日本語吹き替えと比べると段違いによい。
演技面でも粗さが残っているものの、消えて行ったモデル男優とは異なり惹きつけるものがある。
また、中盤で見せるラマの衣装姿もなかなか(しかも拳銃を持ちロバに乗る暴力僧侶!)。

(C)Fish Eye Network, 2004
ヒロインは、これがデビューとなるウディター・ゴースワーミー(ダビング・アーティストは「Om Shanti Om」のディピカー・パドゥコーンと同じ)。
どことなくエキゾチックな風貌で、日本人にもいそうなアニメ顔。ティベット風の衣装も似合い、誰もいない湖で泳ぐ下着姿の美しいセミ・ヌードを披露。その後はマイナー女優に留まるものの、清らかさに陰を含んだ彼女は本作には実にマッチし、儚い魅力を添えている。
ウディター扮するカーヤーは、奥地に年老いた父とふたり暮らし。禁欲的な土地にあって、年頃の彼女は性への疼きという「業」を抱え、シヴェンとの妄想愛に悩む。
一方、シヴェンは都会の刑事ということもあり、暴力という「業」に病んでいる。傷を負った身体でティベット文化圏という「聖地」へたどり着くにつれ、暴力の幻影を見ることとなる。
もっとも脚本も演出も今一歩のために、好意的にくみ取るとこのように読み取れるという程度なのが惜しくもあり、プージャーにはもう一度、このテーマを「転生」させて欲しいところ。
(このような脚本を実の娘に監督させるとは、さすがマヘーシュ父子)

(C)Fish Eye Network, 2004
作品的なクオリティを超えて、本作に魅力を与えているのは、やはり舞台となるティベットと接するヒマーチャル・プラデーシュ州マナリのさらに奥、ラハウル/スピティの荒涼たる風景だろう。風にそよぐタルチョー(仏旗)、石積まれたストゥーパ(仏塔)、岩肌に築かれたゴンパ(寺院)はじめ、ティベット的な世界が広がる。
また、音楽監督アヌー・マリックの手による幽玄なオープニング・ソング「intezaar(待ちわびて)」(タイトルバックだけで実に8分)が深く迫り、バジャン(ヒンドゥー讃歌)で知られるアヌラーダー・パウドーワルの甘く澄んだプレイバックが心を洗う。
そしてもうひとつ、監督プージャー・バットの試みとして評価すべきは、「laal」(作曲:サーヒー)、「garaj baras」(アリー・アズマト)、「man ki lagan」(作曲:サーヒー)などパキスタン音源を存分に使用し、独自の作品世界を構築しかけたことであろう。

(C)Fish Eye Network, 2004