Paisa Vasool(2004)#176
Paisa Vasool(現金をつかめ)/2004 06.11.02 ★★★★
パイサー・ヴァスール
製作:マニーシャー・コイララ/原案・脚本・台詞・監督・振付:スリニワス・バシュヤーム/原案・脚本・台詞:アヌラーグ・カシャップ/撮影:ニラヴ・シャー/作詞:サルディープ・ダート/音楽・背景音楽:バピー-トゥトゥール/振付:ウメーシュ・ジャーダウ/アクション:シャーム・ヤーシャル/美術:ナレンドラ・ラフリカル/編集:シリーシュ・クンデール/音響:ピンキー・モーレー
出演:マニーシャー・コイララ、スシュミター・セーン、マクランド・デーシュパーンデー、スシャント・スィン、ティヌー・アナン(=アーナンド)、ラーキー・スワント、クナール・ヴィジャイカル、ヴィジャイ・パトーカル、ヴィヴェーク・チョウドリー
公開日:2004年1月9日(日本未公開)
STORY
パン屋を夢見るマリア(マニーシャー)は、初めて行ったクラブでフィルム・ダンサーのベビー(スシュミター)と出会い意氣投合。酔って帰宅した晩、混線電話を盗み聴きしているうちに宝石強盗が奪った大金の横取りすることを企むが・・・。
Revie-U
シャー・ルク・カーン、アーミル・カーン、サンジャイ・ダットなどがセルフ・プロデュースに乗り出しているが、本作はマニーシャー・コイララが製作。
もっとも、本作も聖林のイタダキで、原版は「ハイヒール・エンジェル(未)」High Heels
and Low Lifes(2001=英米)。2004年版米「オペラ座の怪人」のミニー・ドライヴァーがERの看護婦つまりはマリア役、「ディープ・インパクト」のメアリー・マコーマックが三流女優つまりはベビー役にあたるのだが、本作の脚本・監督が、80年代からダルメンドラやジーテンドラ作品で振付を担当していたスリニワース・バシュヤームだけあって、単なる「売れない女優」からフィルム・ダンサーへとボリウッドらしくアレンジされているところが味噌。
まず、アラビック・ダンスの衣装に身を包んだスシュミター・セーンが登場。
安酒場の踊り子か?と思わせ、楽屋から出た彼女は「グッド・アフターヌーン、マスター・ジー」と言って、まるまる太った中年女(サロージ・カーンをイメージ?)の足下にプラナームする。次のショットで、鍛えられた肉体を剥き出しにしたサルマーン・カーンそっくりの男優が「Sholay」炎(1975)風の石柱に両腕を縛られているのが示され、ここが撮影スタジオであると判る。
「Taal(リズム)」(1999)、「Naach(ダンス)」(2004)などミュージカルの劇中撮影シーンがしばしば見られるが、コレオグラファー(ダンスマスター)がマイクを握ってキューを出すなど、本作のこの場面が最も現実の撮影現場らしさがよく表れている。その上、自らリズムを取りながら、プロデューサーに流し目を送るのが可笑しい。ちなみに売れっ子監督は他の作品と掛け持ちで、このミュージカル撮影には立ち会わずコレオグラファーが現場を取り仕切って撮影を行う(プロデューサーが、スターが半日遅れて来て詫びのひとつもないとこぼすのもリアル?)。
続いて登場するのが、眼鏡をかけた不美人マリア。晩稲な彼女が思いきって独り遊びに出かけるクラブが<チョール・ビザール>。無論、「Chor Bazar(泥棒市場)」(1954)に掛けてあるのだろう。
ムンバイーの高級店はナンパ防止のためカップルでなければ入店出来ないため、入口で断られたマリアの腕を取って誘うのが、スシュー扮するベビーというわけだ。
店内に入って早々、ベビーのフェイバリット・ナンバル(曲名調査中)が流れ、彼女はさっそくお立ち台へ。「セ・ラ・ヴィ」とのリフで客が全員腕を交差して踊るハンガマ氣分が爽快!
こうして、ベビーはマリアの住むチャウル(長屋的集合住宅)へ転がり込むのだが、そこへ電話が鳴る。マリアはこれを取ろうともしないのだが、毎晩かかる混線電話と知ったベビーが酔った勢いでこれを盗み聴きしてしまう。すると、アンダーワールドの下っ端男が入れ込んだ娼婦の氣を引こうと、自分が大金を持っていると告げるのだ。
この娼婦役が「Main Hoon Na(私がいるから)」(2004)のラーキー・スワント。今やボリウッドのアイテム・ガールとして売れていて、「Mumbai Express」(2005)にもゲスト出演。本作でもベッドで自慢の豊(かな)胸を披露している。*
そんなわけで、ぱっとしない人生を送る女ふたりが、フィルミーそこのけで、この現金を頂こうと画策するのだが、着信が記録されないように公衆電話からベビーが男声で取引話を持ちかければ、電話の最中にやって来た女乞食にバクシーシ(施し)を与えたばっかりに、通話が切れそうになって慌ててパイサ(小銭)を取り上げたりする始末。
フィルミーと言えば、ベビーはついつい映画のノリで男を誘き出し、パイサを奪う計画を立てる。これをマリアが「あんたのヒンディー・フィルムじゃないのよ」とは言うものの、彼女の方が<演じる>ことを楽しんでしまう。
突拍子もないことをする時に「ヒンディー・フィルム」が持ちだされるようで、「Yun Hota Toh Kya Hota(もし起きたら何が起きるか)」(2006)の中でもイルファン・カーンが完熟の恋人スハシーニー・ムラーイーにアメリカへの駆け落ちを持ちかけ、「ヒンディー・ピクチャーのつもり?」と一蹴される。その他、「戯言」の代名詞として日本語の「脳天氣」に聞こえる「ナウタンキー(大衆芝居)」もよく聞く。
サポーティングは、アンダーワールドの兄貴分役に「Karobaar」(2000)のティヌー・アナン(=アーナンド)。
その下で凄みを効かして動き回るのが、「Yun Hota Toh Kya Hota」のマクランド・デーシュパーンデー。今回は、スシュミターのバット、マニーシャーのフライパンにめった打ちにされる難儀な役。しかも、モバイルの着メロが「家族の四季」K3G(2001)、「Fanaa(入滅)」(2006)でも流れるインド国歌「jana
gana mana」。役名がビリヤーニーというのも可笑しい。
マリアの弟、ジョニー役が「Jungle」(2000)のスシャント・スィン。フットボール(サッカー)選手を夢見ていたが、バイクの事故で車イス生活を余儀なくされ、しがないPCOワーラー(公衆電話屋)で生計を立てる。彼は、「16 December」(2002)や「Dum(強靱)」(2003)など殉死専門役者となりつつあるのが氣になるところ。
時よりインサートされるベビーのアイテム・ナンバル撮影風景が目を楽しませてくれる。
踊り子の元祖ヘレンのダンス・リミックスから、ご存知「Caravan」(1971)より鳥籠ナンバル「piya tu ab to aaja」。しっかり時計台と鳥籠&すべり台、そして太っちょダンサーまで再現されているのがよい。
モノトーン・ストライプにスシュミターの赤いスリット・ドレスが目に眩しいティーン・ナンバルは、やはりヘレンの代表的なアイテム・ナンバル「Don」(1978)より「yeh mera dil(これが私の心)」。アミターブ・バッチャンのそっくりさんが出ているのが笑える。
ちなみに、このディワーリーにリリースされるシャー・ルク主演のリメイク「Don」(2006)では、カリーナー・カプールのイメージに合わせてスニディー・チョハーンがしっとりとした歌声でプレイバックしている。
情報収集のために、偽警官となってダンス・バーに乗り込む場面で流れているのが「Chandni
Bar」(2001)でも用いられていた定番ナンバル「Qurbani(犠牲)」(1980)の「laila main
laila」。オリジナルではレーカーが半裸の白人男たちと悩ましく踊っていたナンバル。
監督・主演のフェーローズ・カーンは、これを息子ファルディーン・カーン主演でリメイク中。本人はアムジャード・カーンがやっていたインスペクター役で登場する。
さて、この警官コスプレであるが、マニーシャーは「Khal Nayak(悪役)」(1994)のマードゥリー・ディクシトよろしくカーキー色のサーリーという出で立ち。スシュミターはというと、男物のカーキーであるが、タッパがあるだけになかなかに凛々しい。スシューは「Samay」(2003)で刑事役をこなしていて、これにはスシャントも共演している。
この時期、アムリター・アローラーとイーシャー・コーッピカルのカップル映画「Girlfriend」(2004)が公開されていたが、本作でも晩稲のマリアと男勝りのベビーのバディぶりが見物となっている。
ところで、このバーから逃げ出す時に乗り込むのが、なぜか馬車。もちろん、気分は「Sholay」のバサンティ!
この他、細かいところではティヌー・アナンの下っ端が船の縁(へり)で歯磨きしながら歌っていて結局海に突き落とされる時のナンバルが「Gadar(暴動)」(2001)のトラック野郎ナンバル「main
nilka gaddi leke」。「Gadar」は「Hum Aapke Kaun Hain…!(私はあなたの何?)」(1994)の記録を抜いてインド映画史上ナンバル1の興行記録に達しただけに(サニー・デーオール主演ながら)あちこちで引用されていて、「Chalte Chalte(ゆきゆきて)」(2002)の中でもトラックを運転するシャー・ルクが口ずさんでいた。
また、終盤近く、脅迫金の取引現場であるインド門の前に現金を運んできた男が目印となるよう踊る指示を携帯電話で受けた際、「さっさと踊れ! 1・2・3!」と言われて踊り出そうとするや、練り歩いていた物乞い芸人(先の女乞食)がフレーム・インして伴奏し始めるのが「Tezaab(酸)」(1987)でマードゥリー・ディクシトとアルカー・ヤーグニクが一躍ブレイクした「ek do teen(1・2・3)」。その後、芸人が男を仲間に誘うのがこれまた可笑しい。
編集は、懐メロ好きのシリーシュ・クンデール。この秋、日本でもホール上映された「Jaan-E-Mann(愛しき人よ)」(2006)では監督デビューを果たしている。
また、ナレンドラ・ラフリカルの美術もよく、灯火の下のジーザス像などクリスチャンであるマリアの日常生活がさりげなく示されるセンスには感心。マリアの部屋に置かれたアンティーク風ベッドなど通販番組で扱っていれば即、注文してしまいそう!
スニディー・チョハーンのプレイバックするタイトル・ナンバル「paisa vassol」も痛快でオススメ。
その他、全編フィルミーネタが満載とあって、ヒーロー不在のヒロイン映画ながら梵林ファンはかなり楽しめることだろう。
*追記 2006,11,07
ラーキー・スワント*が大金話をチラつかせる男から電話番号を訊き出そうとして口ずさむのは、「Haseena Maan Jaayegi」(1999)よりゴーヴィンダとカリシュマー・カプールのおとぼけナンバル「what
is mobile number」(ソーヌー・ニガム&アルカー・ヤーグニク/イントロのダミ声は音楽監督のアヌー・マリック)。
インドでのモバイル台頭を反映したこのナンバル、「what is mobile mumber, what is smlie number…」など他愛もない歌詞ながら、サミールの手によるボリソングらしいダブル・ラインが愉しめる。
*追記 2011,01,21
冒頭のダンス・ソング撮影スケッチ、スターは撮影にやって来ず、背中だけ映るダブル(吹き替え)で撮影するもメイン・ダンサーのベビーが高身長過ぎてプロデューサーからカットがかかり、アングルを変えてリテイクするのが可笑しい。