Aks(2001)#175
製作:ジャムー・スガンダ/監督・脚本:ラーケーシュ・オームプラカーシュ・メーフラー/撮影:キラン・デオハーン/音楽:アヌー・マリック/詞:グルザール/背景音楽:ランジート・パロート
出演:アミターブ・バッチャン、マノージ・バージパイ、ラヴィーナー・タンダン、ナンディーター・ダース、ヴィニート・クマール、ヴィレンドラ・サクセーナ、K・K・ライマー、モーハン・アーガシェ、ターンヴィ・アーズミー、アモール・パルカル、ヴィジャイ・ラーズ
公開:2001年7月13日(日本未公開)
47th Filmfare Awards:特別賞(ラヴィーナー・タンダン)、批評家選主演男優賞(アミターブ・バッチャン)、背景音楽賞
8th Screen Awards:助演女優賞(ラヴィーナー・タンダン)、最優秀敵役賞(マノージ・バージパイ)、背景音楽賞
STORY
ハンガリーを訪れた防衛大臣の警護を担当するマヌー・ヴェルマー(アミターブ)は、移動中の狙撃を未然に防いだ。しかし、テロリストはマヌーを装って大使を暗殺。ムンバイーに戻ったマヌーは、テロの容疑者ラーグワン(マノージ)を追い、情婦ニーター(ラヴィーナー)が勤めるトップレス・バーを探り出す。一旦は取り逃がすものの、彼が好んで潜む深い谷で逮捕する。だが、ラグワーンは刑務所内で逃亡を試み、マヌーが射殺。事件は解決に向かったかに見えたものの、邪悪なラグワーンの霊がマヌーに憑依し、首相暗殺に取りかかろうとする・・・。
Revie-U
ハイグレード化が目覚ましいボリウッドにおいて、帝王アミターブ・バッチャンが自社ABコープ制作で放つ新作は、なんとサイコ・スリラー!
監督のラーケーシュ・オームプラカーシュ・メーフラーは、ビッグBが発掘した<新人>。米「セブン・イヤーズ・イン・チベット」でアルゼンチン・ロケにおけるアシスタント・ロケーション・マネージャーを担当(という話。ちなみに、ヒマラヤ・ユニット・ディレクターは「キャラバン」のエリック・ヴァリ)、デリーでアド関係の映像を手がけた後、ムンバイーに移り、アミターブの制作会社でプロモーション・ビデオを担当していた。劇場作品はこれが第1作ながら、映画雑誌でもしばしばグラビアに登場。本人は、内容以上デーモニッシュな容貌である。
俊英の新人監督だけにカイル・クーパー風タイポグラフィや、冒頭に米「ミッション:インポッシブル」並みのレイテックス製変装マスクを導入するなど、野心満々ではある。が、後半、憑依されたマヌーがラグワーンのマスクを被って組織に復讐するなどシーンなど入り組み、力み過ぎなのが否めない。
このマスクを造形するのがラグワーンの兄マドゥー(K・K・ライマー)。知的障害者だけに天才的な造型手腕を見せる設定となっていて、いつもは幼児のごとく振る舞い、ラグワーンが一緒に道化狂うことによって情緒を落ち着ける。このシーンが意外に長く、ラグワーンの手下(ヴィニート・クマール)さえこれを異様に思い、しばしばマドゥーを邪険に扱う(そのためにラグワーンが憑依したマヌーに殺されてしまう)。
この異様<スキンシップ>が、後半、ニーターの前に現れたマヌーを兄マドゥーがラーグワンと見抜き、はじめは疑ったニーターも彼を認める伏線になっている。
もっとも、後半は手下殺害エピソードや、ラーグワンが憑依したマヌーが彼の妻スプリヤーをレエプ、現実に戻ったマヌーが彼女と共に霊能者を訪ねてエクソシズムを試みるが失敗、マヌーは我が子を生贄に捧げようとするなど、生前のラグワーンが請け負った首相暗殺計画とは掛け離れ、家庭内オカルト・スリラーになってしまう。
憑依されたマヌーが首相暗殺計画に取り掛かる一方、封印されたマヌーの良心がどのように暗殺を防ぐか? というサイコ・サスペンスに持って行った方が筋が通った面白さにはなったのではないか? と思うのだが。まあ、インド映画定説の二重構成からすると、前半はクライム・サスペンス、後半はサイコ・スリラーということか・・・。
マヌー・ヴェルマに扮するアミターブは今年59歳ながら、実に渋く、敏腕刑事ぶりが極っている。冒頭のブダペスト・シークエンスなど、フレンチ・フィルム・ノワールと見間違うほどの出来。もっと早くからビッグBのこの手の活劇があれば、と思ったものだ。
一方、マノージ・バージパイは、ラーム・ゴーパル・ヴァルマーの「真犯人」Kaun?(1999)に続くサイコ・キラー役。鬼気迫る怪演は、アミット・ジーを喰っている。不敵なデザインのタガーを手に、屍肉を食む狼たちを上半身裸で追うシーンからして悪魔崇拝を感じさせ、その迫力のためにインターミッションを挟んで憑依物となる後半もすんなり受け止められるほどだ。
マヌーの妻スプリヤーを演じるは、若き実力派のナンディータ・ダース。アミターブとはあまりに歳が離れているので最初は娘かと思ったが、洋画にもよく見られるキャスティングだ。
彼女のデビュー作は、シャバーナ・アズミーとレズビアンを演じヒンドゥー原理主義者の大反発を喰らった「Fire」FIRE ファイア(1997)。「Bawandar」(2000)では低カーストの娘役を熱演し、サンタモニカ映画祭の主演女優賞を受賞。芸術映画路線から一般映画への本格出演は本作が初となる。
ラヴィーナー・タンダンは、ネームヴァリューこそ上だが今回はセカンド・ヒロイン。トップレス・バーのダンサーで情婦役。もちろん完全に脱いだりはしないが、マノージとかなり露骨なメイク・ラヴを披露する。ストーリーの焦点が憑依されたマヌーとスプリヤーにあるため、いまひとつ活かされていないのが残念。
防衛大臣役のアモール・パルカルはアミターブのデビュー当時からの共演者で、ソーナーリー・クルカルニーを起用して海外でも評価の高かった「Daayraa」(1996)を監督するなど芸術映画でも活躍する名優。
その他、「Shool(槍)」(1999)のヴィニート・クマール、ヴィレンドラ・サクセーナなど粒ぞろいの配置。
第1週は健闘したものの、息が続かず今は何処・・・。やはり3時間ブッ通しでダークなテイストというのが、足を引っ張ったと思われる。ファンも(いくら憑依したとは言え)ラヴィーナーとナンディーターをレエプするインモラルなアミターブなど見たくないだろう。ハリウッド製未公開ビデオ作品よりはよく出来ているいるが、ボリウッド・メジャー映画としてはハズレの部類。
しかし、「Dil Chahta Hai(心が望んでる)」(2001)のファルハーン・アクタルもそうだが、デビュー作にしてこれだけのハイクオリティが出せるのは、やはりボリウッドの土壌が映像産業として成熟しているからなのだろう。
*追記 2011,01,19
>アミターブ・バッチャン
髭をたくわえているものの、現在のような白髭でないので少し違う印象。さりとて90年代までのアミターブとも違う異なるダンディさ。
>ラーケーシュ・オームプラカーシュ・プラカーシュ
本作では<新人>監督であったが、アーミル・カーン主演「Rang De Basanti(浅黄色に染めよ)」(2006)で<革新的な監督>として脚光を浴びる。本作がフロップだったため、ABコープと縁が切れたわけでなく、「Delhi-6」デリー6(2009)ではアビシェーク・バッチャンを主役に据えている。
>アモール・パレーカル
暗殺される大臣役のアモール、この後、シャー・ルク・カーン製作・主演「Paheli(なぞかけ)」(2005)の監督をてがけている。
フィルミーソングは、陶酔感があってなかなかにクール。
ラヴィーナーがポールダンスを披露する「rabba rabba」など今なら日本でも注目されそう。10年早かったというところか。
プレイバックは「モンスーン・ウェディング」の花嫁役ワスンダラー・ダースが務め、「raat aati hai」は「Raincoat」(2004)のシュバー・ムドガルをフィーチャル。