Thakshak(1999)#165
「Thakshak(地下の王)」01.04.11 ★★★★
タクシャク
製作・原作・脚本・監督・撮影: ゴーヴィンド・ニハラーニー/台詞:カムレーシュ・パーンディー/音楽:A・R・ラフマーン/詩:スールヤービ・アヌー・グプト/作詞:メーヘブーブ、スクヴィンダール・スィン、テージパル・コォール/振付:サロージ・カーン、チンニー・プラカーシュ、ブーシャン・ラカンドリー、ガネーシュ・アチャルヤー、ラージュー・カーン、マヘーシュ・メーヘブーバニー/アクション:アラン・アミン、ジャイ・スィン/美術:チョーカス・バラドワージ/編集:ディーパー・バーティア
出演:アジャイ・デーヴガン、タッブー、アムリーシュ・プリー、ラーフル・ボース、ゴーヴィンド・ナームデーウ、ネトラー・ラングラーマン、ヴィニート・クマール、アヌパム・シャーム、アトゥール・クルカルニー、A・K・ハンガル、ヴィハン・ナーヤク、カンティー・マディア、ラヴィ・パトワルダン、カリード・モハンマド、ウッタラー・バオーカル、ラヴリーン・ミシュラー、スヒター・ターッテー、チェータン・パンディット、ダナンジャイ、ヴィーナー・メーヘター、ラージェーシュ・タイラング、サンジーヴァ・ヴァトス、アジャイ・ローヒラー、ヒマヤント・アリー、スボーデ・マーラト、スレンドラ・ラージャン、マノーハル・テリ、バブー・バーイ、Dr,サーダナンド・シェッティー、アニル・シーガル、ミリン・イナムダル、ジャグモーハン・スィン
公開日:1999年12月3日(日本未公開)
STORY
暗黒街の大物ナール・スィン(アムリーシュ)を父に持つイシャーン(アジャイ)は、弟に等しいサニー(ラーフル)、ランディとトリオを組んでいた。しかし、拳銃を手に入れたサニーは暴力に酔いしれ次第に力関係が崩れてゆく。一方、イシャーンの恋人、スマン(タッブー)は正義感が強く、ある晩目撃した一家皆殺し殺人事件に彼が絡んでるとは知らず警察に届けようとし・・・。
Revie-U
氣怠いビート、熱風を想わすパンフルート、ダミ声のヴォーカル(スクヴィンダール・スィン)に、ボンベイの点景がカットバック。CGに頼らぬシンプルなタイトル・クレディットのオープニングからして引き込まれる。何よりシネマスコープの映像がいい。
地下世界に引きずり込まれつつ、カタギの娘に恋して苦悩する主人公イシャーンを、演技派アジャイ・デーヴガンが好演。久々に悪の世界に身を置く役アムリーシュ・プリーも渋い! テロリストを愛した「Maachis」(1996)で高く評価されたタッブーが今回も市井のキャラクターを淡々と演じている。
注目は、敵役となるラーフル・ボース。拳銃の魔力に酔い、すべてをコントロールしようと欲し、伯父や仲間までも平然と殺してゆくラーフルはまさに鋭利な刃(やいば)のようだ。
抑えの効いた演出だけに、ミュージカル・シーンもマサーラー特有の「妄想飛び」でなく、アジャイのギター弾き語りやクラブ・レインフォーレストのライヴステージ、ミュージック・クリップの屋外ロケなどストーリーに違和感なく溶け込ませている。A・R・ラフマーンの音楽はポップ過ぎず、一方でジプシーキングスばりのスパニッシュ・サウンドを取り入れるなど意欲的。「Satya」サティヤ(1998)、「Shool(槍)」(1999)、「Jungle」(2000)に連なるニュー・ウェーヴ作品らしく、ポストプロダクションはチェンナイで仕上げられている。
*追記 2011,01,10
例によってマリオ・プーゾ原作「The Last Don」を下敷きにしているとのこと。
タイトル「Thakshak」は、地底に住むナーガ(蛇の一族)の蛇王タクシャカ(現代のヒンディーでは最後の母音が落ちる)。また世界を物質的に創り出した建築・工芸の神ヴィシュヴァカルマンの別名にして大工/建築家を意味する。ムンバイーの地上げ/建設に深く関わるアンダーワールド(黒社会)を描く本作のタイトルに相応しい。
ある聖者が王に侮辱され、それを知った息子がタクシャカに殺されるよう呪いをかける。王は湖に宮殿を建て刺客の侵入を防ごうとするが、呪いの期日ぎりぎり果物へと潜む虫に化けたタクシャカにより復讐される、というインド神話が伝わる。
本作ではダークサイドの力に酔ったサニーがアンダーワールドのドンであるイシャーンの父を殺害。警察の死体安置室で父の亡骸に対面したイシャーンは復讐を口にするが、息子を失いたくない母に諫められる。タクシャカの神話に足止めをかける形で、善良なイシャーンが無念にも弟に等しいサニーを仕留めることとなる。
監督は、シャーム・ベネガル監督作「Bhumika」ミュージカル女優(1977)や「Junoon(狂氣)」(1978)などを手がけた撮影監督にして、ナスィールディン・シャー主演「Aakarosh」傷つける者の叫び(1980)で監督に進出したゴーヴィンド・ニハラーニー。監督第一作から一貫とした社会に問いかける作風は、ヒンドゥー/ムサルマーン(イスラーム教徒)対立の仕掛けられた構図を描いたアミターブ・バッチャン主演「Dev(神)」(2004)でも健在であった。
本作ではアンダーワールドのノワール的な陰影と、たっぷり湿った雨季のボンベイを印象的に写し取っている。
また、何よりA・R・ラフマーンの重厚かつ、時に軽やかなサウンドの数々が貢献(若干、「トップガン」風アレンジも??)
タッブーのステージ・ナンバル「rang de(私を染めて)」のアーシャー・ボースレーは、当時還暦過ぎの60代半ばとは思えない艶やかな歌声でシャウト。そのグルーヴ感がたまらない。
クラブ・ダンサー役のネトラー・ラングラーマンは、アート系の実話映画「Bhopal Express」(1999)でScreen Awards 新人女優賞を獲得するもキャリアは伸びず、ジャッキー・シュロフ主演のマイナー映画「Tum…Ho Na!(君だとは…!)」(2005)ではセカンド・ヒロイン(回想シーンの妻)、ラージパル・ヤーダウ共演のアート系「Forgotten Showers」(2005)など出演作は7本に留まる。
サニー役は「The Japanese Wife」(2010)のラーフル・ボース。この年、東京国際映画祭でも上映されたヒングリッシュ「Split Wide Open」(1999)に主演しているが、役者としてはまだキャリアが浅く、つたない前半から後半にかけて開花してゆくのが見物。
工事現場で殺される老浮浪者は、「Sholay」炎(1975)などのA・K・ハンガル。軽妙で氣のよい名脇役として重宝がられたのは80年代までで、この時期はジュニア・アーティスト程度の端役出演が続き痛々しい。