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Iqbal(2005)#162

2011.01.07
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!

Iqbal

「Iqbal」★★★★
イクバール

製作:ムクター・サーチライト・フィルムズ(スバーシュ・ガイー)/脚本・監督:ナゲーシュ・ククヌール/製作代表・衣装:エランヒー・ヒップトーラー/撮影監督:スデープ・チャッタルジー/美術監督:T・スニール・バブー/プロダクション・デザイン:ディヴィカー・バフダナム/音楽:スクヴィンダール・スィン/音楽・背景音楽:サリーム-スレイマン/衣装:ファべーハー/編集:サンジーブ・ダッタ

出演:シュレーヤス・タルパデー、ナスィールディン・シャー、ギリーシュ・カルナール、シュウェーター・プラサード、ヤテーン・カルイェーカル、プラテークシャー・ローンカル

公開日:2005年8月25日(日本未公開)

STORY
唖者の青年イクバール(シュレーヤス)は大のクリケット・ファン。農夫の息子で、水牛の世話をしながらクリケットの練習に興じ、いつかは選手になるのが夢。妹(スウェーター)の奮闘でなんとか地元のクリケット・チームに入るも、見下された反発で問題を起こし退団させられる。夢を諦めかけた矢先、畑でよく見かける飲んだくれの男モーヒット(ナスィールディン)が元クリケットの名選手だと知って・・・。

Revie-U
冒頭、白昼の農村が映し出される。農具や自転車が放置され、村人の姿は全くない。暴動か恐慌か…いや、村人全員が村にひとつの屋外テレビのクリケット・マッチに見入っていたのだった。名選手カピール・デーヴが勝利を決めた時、ひとりの女性が産氣づく。イクバールの母であった。

しかし、運命の神は彼に試練を与えた。唖者(発話障害。聴覚は問題なし)として生まれ、父は彼のクリケットに対する夢を解ろうとしない。
それでもイクバールは、毎日、水牛の餌場でひとりクリケットのボーリング(ピッチング)に興じ、帰りにクリケット・チームのトレーニングを盗み見していた。
ある日、快活な妹がコーチに交渉して、彼もチームに入れてもらえることになるが、長くは続かない。裕福なメンバーのひとりが唖者である彼を愚弄したため、イクバルはボークを投げつけ、そのためにチームを追い出される。

Iqbal

(c) Mukta Searchlight, 2005

結局、唖者では選手になれないのだ。隠し部屋に集めたクリケット雑誌の切り抜きをすべて燃やそうとしたイクバールは、それらの写真の中にある男の顔をみつける。彼が毎日ひとりでボーリングをしていた、あの餌場で酔って寝ていた初老の男だった。クリケットの栄光から転落し、今は飲んだくれとなって無聊をかこっていたモーヒットであった。はじめは嫌がったものの、イクバールにクリケットの特訓を施すようになる。

監督はナゲーシュ・ククノール。ハイデラバード出身の俳優/監督でヒングリッシュ(英語映画)「Hyderabad Blues」(1999)、「Bollywood Calling」(2001)を監督。本作は、ハイデラバード・ベースでジュヒー・チャーウラーをフィーチャルした秀作3 Deewarein(3つの壁)」(2003)に続くヒンディー映画となり、この後、ナゲーシュはDor」運命の糸(2006)など、ボリウッド・ベースで趣向を凝らした小粒な野心作を連作するようになる。

現代インドのインディアン・ドリームは、ITプログラマーとクリケット選手だろう(ボリウッド・スターになるには、フィルミー・カーストに生まれなくては難しい)。
爽やかな映像とサリーム-スレイマンの手による伸びやかな青春賛歌ナンバル「aashayein(希望の数々)」K・K)が心誘うストーリーは、これだけなら「ベッカムに恋して」であるが、そこはアート系に見せて「3 Deewarein」でも後半、思いもよらぬツイストを用意していたナゲーシュだけに八百長を仕組むスケッチがスパイス。

ハンディキャップを負った少年と彼の夢を阻もうとする父親、優秀な技能を持ちながらクリケットから転落した男とかつてのコーチの対立がクロスしながらも、Udaan(飛翔)」(2010)とは異なり、父親が己の悲壮感を解き放ち、息子を見守るに至るのが佳い。

Iqbal

(c) Mukta Searchlight, 2005

グンガー(唖者)の青年イクバールを自然体で演じるのが、シュレーヤス・タルパデー
本作以降、「Apna Sapna Money Money(我らの夢はマネー・マネー)」(2006)でコメディーに進出、更にOm Shanti Om」オーム・シャンティ・オーム(2007)でシャー・ルク・カーンの相棒役に昇格!
「Bombay to Bangkok」(2008)、「Click」(2010)など単独主演作は弱いものの、「Golmaal(ごまかし)」シリーズの中途レギュラーとなり、活躍中。

飲んだくれの元名選手モーヒット役が、インドを代表する名優ナスィールディン・シャー
アート系Hey Ram!(神よ!)」(2000)のガーンディー役からハリウッド「リーグ・オブ・レジェンド」のネモ船長、果てはBグレード・コメディMujhse Meri Biwi Se Bachchaao(私を妻から救って!)」(2001)まで多彩にこなし、作品に安定感をもたらすのが素晴らしい。

兄思いの妹役は、ヴィシャール・バルドワージの監督第1作「Makdee(黒魔術)」(2002)でも天才的なWロール(二役)を演じてみせたシュウェーター・プラサード。本作での受賞式でも、とてもロー・ティーンとは思えない利発なスピーチを披露していた。

イクバールの父親役にMunna Bhai MBBS(医学博士ムンナー兄貴)」(2003)の植物人間アナン(=アーナンド)・バーイ役(アテレコ)、ヤティーン・カルイェーカル。シュレーヤス助演の米国資本ヒングリッシュ「The Hungman」(2005)では死刑囚役でチラリと出演。
クリケット好きの母親役がWanted(2009)でアイーシャー・タキアの母親役、パラティークシャー・ローンカル
イクバールに一度は目をかけながら敵視するコーチ役が、南インド映画界の俳優/監督/演劇人であるギリーシュ・カルナールレーカー主演のアート系古代物「Ustav(祭り)」(1984)でヒンディー映画も監督。俳優としても自作に出演することの多いナゲーシュの目標が彼であろう。

終盤、登場するのがクリケットのスーパー・ヒーロー、カピール・デーヴMujhse Shaadi Karogi(結婚しようよ)」(2004)に続く特別出演となる。

クリケットは日本人に馴染みがないため、アーミル・カーン主演・製作ラガーン」Lagaan(2001)のような試合のシーンだけで1時間くらいあるとルールを知っていた方が楽しめるが、本作やこの後に起きたスポーツ映画ブームによるクリケット映画はいずれもドラマ重視で作られているので、知識がなくとも十分楽しめる。
これはボリウッドの映画人もクリケットそのものは生の試合に叶わないと悟ったためだろう。

ゼロ年代はボリウッド全体が海外志向、都市型志向、バブル志向にあったが、どうしてどうして、このような農村をみつめる小粒な作品が作られることにインドの良心が感じられる。

Iqbal

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