Housefull(2010)#152
「Housefull(満員御礼)」★★★
原案・製作:サジード・ナディアドワーラー/共同製作:アンドリュー・ヘフェルナン/脚本・監督:サジード・カーン/脚本:ミラープ・ミラン・ザヴェリ、ヴィバー・スィン/台詞:アンヴィター・ダット/撮影:ヴィカース・シヴァラマン/作詞:サミール、アミターブ・バタチャルヤー/音楽:シャンカル-エヘサーン-ローイ/振付監督:ファラー・カーン/衣装:アキ・ナルーラー、シャビナー・カーン/総合美術:アクロポリス/背景音楽:サンディープ・チョウター/編集:ラーメーシュワル・S・バガット
出演:アクシャイ・クマール、リティーシュ・デーシュムーク、ディピカー・パドゥコーン、ラーラー・ダッタ、ジア・カーン、アルジュン・ラームパール、ボーマン・イラーニー、チャンキー・パーンディー、ランディール・カプール、リレッティ・ドゥベイ、デイジー・イラーニー、ヴィンドゥー・ダーラー・スィン、スレーシュ・メノン、マノージ・パウワー
公開日:2010年4月30日(年間トップ5/日本未公開)
STORY
アールーシュ(アクシャイ)は、歩き回るだけで災難を振りまく最凶の不運男。親友ボブ(リティーシュ)を慕ってロンドンへと渡るが、例によって彼の妻ヘータル(ラーラー)を激怒させる始末。なんとかカシノ・オーナー、キショール(ランディール)の娘デヴィカー(ジア)と結婚。ところが、新婚旅行先でデヴィカーに恋人がいたことが発覚。落胆のあまり入水自殺をはかったアールーシュを助けたのが美しきサンディー(ディピカー)だった・・・。

(c) Nadiwadwala Grandson Entertainment, 2010.
Revie-U
*結末に触れています。
監督デビュー作「Heyy Babyy」(2007)で「スリーメン&ベビー」を焼き直ししていたサジード・カーン(振付監督ファラー・カーンの弟)の第2作。
本作は、「Abhay(アブヘイ)」(2001)のカマル・ハッサンと「Wanted」(2009)の監督プラブデーヴァが主演しているタミル映画「Kaathala kaathala」(1998)を素材としている。
大本はシェイクスピアの「間違いの喜劇」とのこと。要は家族関係を偽った嘘がバレぬようドタバタで笑わそうというもの。
もっとも、そっくりそのままひと足早くアジャイ・デーヴガン+サンジャイ・ダット主演「All The Best」(2009)でやられてしまっているので、二番煎じな印象が否めない。
「Heyy Babyy」と同じ役名ながら、本作では徹底した負け犬男を演じるアッキーことアクシャイ・クマール。例の七三分けに抑え氣味の芝居がこれまた佳い。ハデなアクションはないものの、ドジぶりを見せる掴みのスケッチでは腕と尻に火が付くスタントをこなす(デジタル合成でなく)。
リティーシュ・デーシュムークは、例によってアベレージ。
その分、美味しさが増しているのが、ラーラー・ダッタ。驚いた時のリアクションが爆笑物で、ミス・ユニバースのタイトルに胡座(あぐら)をかいてないところがさすが本物のボリウッド女優。
「Kaal(終末の時)」(2005)でも虎と<共演>して心底怖がっていたが、今回の虎はグリーンバック合成。それでいてこれほどのリアクションを演じられるのが凄まじい。

(c) Nadiwadwala Grandson Entertainment, 2010.
アールーシュと偽装結婚するデヴィカー役が、「アメリカン・ビューティー」の焼き直し「Nishabd(言葉なし)」(2007)でデビューしたジア・カーン。
アッキーの相手役としては格が劣るため訝(いぶか)っていると、真のヒロインはディピカー・パドゥコーンと判ってひと安心(苦笑)。アッキーとは「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ」Chandni Chowk To China(2009)に続く共演となる。
場面によっては、やや窶(やつ)れて見えるのは、なんとマラリア上がりだから(ラーラーいわく)。
デヴィカーの父親キショール役が、このところ復帰氣味のランディール・カプール。カリーナー・カプールの父にして、インドを代表する名優/監督ラージ・カプールの息子。
父と瓜二つだけあって、初期の「Raampur Ka Lakshman(ラームプルのラクシュマン)」(1972)では愛嬌があるところを見せたが、演技センスは受け継がなかったようで俳優としては大成せず。アミターブ・バッチャンと共演した「Pukar(叫び)」(1983)では役者としての格差が「Dhoom:2(騒乱2)」(2006)のリティク・ローシャンとアビシェーク・バッチャン並みに露呈しまったく別の映画に見えたほど。
本作でも浮きまくった暴走芝居を見せ、サジードの確信犯的配役かと勘ぐってしまう。
サポーティングは、へータルと関係悪化している父親バータク役に怪優ボーマン・イラーニー。
イタリーのリゾート・ホテル・オーナー、アクリー・パスタ役が、イカサマ役を得意とするチャンキー・パーンディー。
超豪邸というより宮殿の大家にして未亡人役が、「たとえ明日が来なくても」Kal Ho Naa Ho(2003)のセクシー過熟女リレッティ・ドゥベイ。
サンディの姉プージャー役が、サルマーン・カーンの義妹マライカー・アローラー・カーン。「Dabangg(大胆不敵)」(2010)と異なり、久々の非アイテム・ガール役。
終盤、笑いガスを持ち込むサルダール役に「Roadside Romeo」(2008)のスレーシュ・メノンと「Wanted」(2009)のマノージ・パウワー。
音楽監督は「Heyy Babyy」に続いてシャンカル-エヘサーン-ローイを起用。
オープニング・ソング「he’s such a loser」は、作詞のアミターブ・バタチャルヤー自らプレイバック。どんなプレイバック・シンガーにも真似できない負け犬感たっぷりの歌声を披露。サポートのヴィヴィアン・ポーチャーは、本場顔負けのソウルフルなジャズ・シンガー。今後、フィルミーソングでブレイクするか期待。
しかしながら、本作のコンセプトからか、いつものSELらしい明快なグルーブ感がなく物足りなく思える。
本編でカットされているプロモ・ナンバル「aapka kya hoga janab e ali」は、アミターブ・バッチャン主演「Lawaaris(孤児)」(1981)のディスコ・ナンバル。プレイバックは、もちろんキショール・クマール。原版のアゲアゲな感じに対して、ミッカ・スィンのプレイバックもやはりどこか負け犬感漂い、削除されたのが解らなくもない。
ゲスト・ダンサーとしてリティーシュ共演作「Aladin」(2009)でデビューした、ミス・スリランカのジャクリーン・フェルナンデスが出演していたのに残念(ディスク3のメイキングに撮影風景が収録)。

(c) Nadiwadwala Grandson Entertainment, 2010.
反面、ボリウッドの奥深さを再確認するのが、おふざけナンバル「papa jaag jayenga 」の振付。「Rab Ne Bana Di Jodi(神は夫婦を創り賜う)」(2008)のリスペクト・ナンバル「phir milenge chalte chalte」のようなメモラブル・ナンバルの引用は解りやすいが、なんとこのナンバルでは、ミトゥン・チャクラワルティー、ジーテンドラ、ダルメンドラ等、70〜80年代スターの振付を敬愛しているというから恐れ入る(コメンタリーがなければ、フツーのインド人なら解らないはず)。
サジードの前作「Heyy Babyy」は「スリーメン&ベビー」という下敷きが前半のガイドラインとなっていたため、後半まですんなり観られたが、本作ではイタダキネタの「人間関係を偽って嘘を押し通す」に至るのがインタルミッション開け。それまでは行き当たりばったりのスケッチが続くため、話の筋が見えない。
疫病神大凶男のアールーシュが居候先のボブ宅を掃除機でメチャクチャにした上、止めに入ったボブ共々コンセントから感電しブルブル震え、さらに引っ張って表の路地でブレイクダンスに興じている白人青年たちと感電ブルブルのままダンス・バトル。果ては白人青年たちも全員感電して地面に倒れてしまう、など腹を抱えて大笑いするスケッチがあるもの、全体のまとまりからするとサジードの脚本はバラけた印象となる。
そんな中、突然訪ねて来ては結婚1周年の記念夜をぶち壊しては半月ほど滞在したいと申し出るアールーシュに、本来は氣のいい奴と知っている幼馴染みのボブがあえて「半月は短すぎる」と告げる、友を思う氣持ちがなんとも南アジア的で胸を打つ。
クライマックスは、サンディーの兄クリシュナ(アルジュン・ラームパール)が英国女王陛下から表彰される場面で会場に笑いガスが充満するというもの。
サイレント映画の風合いを狙ったものだろうが、これまで展開させた混乱(夫婦関係を偽っていること、デヴィカーとアールーシュが離婚していること、クリシュナの次妹プージャーの元恋人である疫病神男がアールーシュと判明すること)がすべて露見し、怒りという形でぶちまけるシチュエーションを笑いながら演じなくてはならない難易度の高いスケッチなのだが、当然ながらアルジュンはじめ演技的に荷が重過ぎる。もちろん、サジードの演出経験では手に負えず、興醒めしてしまう。
しかし、インド人観客は場当たり的なギャグでも楽しめるせいか、シャー・ルク・カーンの話題作「マイ・ネーム・イズ・ハーン」My Name is Khan(2010)に続くボリウッド映画史上11位というメガヒットというから驚き!(オープニング週の興行は「MNIK」を超える入り)
アッキー人氣の高いUKでもオープニング全英トップ10にランキング(54スクリーン。週末のスクリーン平均では、なんと全英2位!)。
製作費は45カロール(4億5000万ルピー=約9億円。物価換算で45億円)、撮影日数は63日を数える。マカオ、イタリー、UKと全編海外ロケで実にバブリー。製作費5億円のうちNYとカナダ・ロケの経費1.6億円程度で四苦八苦しているテレビ局映画「ハナミズキ」とは大違い。
特にカシノと豪華ホテル(設定はイタリー)を借り切ったマカオ・ロケは、2009年に開催されたIIFA(アイファ:International Indian Film Academy)アワードが開催された縁であろう。このセレモニーによりマカオには2万人のインド人旅行客が訪れて多大な経済効果をもたらしたため、翌2010年にはアグレッシブな韓国経済界が盛んにラヴコールを送り直前までソウル開催という噂が飛び交っていたほど。
無論、こうしたボリウッドの経済交流から「圏外」となっているスローな日本でボリウッド・メジャー作品のロケ実現は夢のまた夢か?
監督第1作「Heyy Babyy」がインド映画で初のブルーレイ・ソフトとなったが、本作の正規盤DVDも3ディスク中、60日以上の撮影風景が4時間に及ぶメイキング・ディスクの他、コメンタリー・ディスクが特典収録されている。コメンタリー音声は珍しくもないが、監督や出演者のコメンタリー風景と本編画面・メイキング映像をミックスし1枚のディスクに収めたのは世界初だとか。自慢するほどの物ではないが、リティーシュやラーラー、ボーマン、チャンキーの素顔が楽しめるのはいい(実際、ラーラーはすっぴん!)。
リティーシュは劇中人物同様に氣さくであり、ラーラーなどディピカーとアッキーの絡みでもうっとりと見入っており案外ロマンティストなようだ。意外にもチャンキーは、わりとハズすタイプだったりする(酒が入っていないせい?)。
すでに続編「Housefull Sequel(続・満員御礼)」がアナウンスされており、アッキー主演、サジードが監督続投の予定(ダメ出しはしっかりやっておいて欲しいところ)。