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Wanted(2009)#149

2010.12.26
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!
Wanted

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Wanted ★★★★☆

製作:ボニー・カプール/監督:プラブデーヴァ/原案:プーリー・ジャガンナート/脚本・台詞:シラーズ・アフメド/台詞協力:スニール・アグラワル/脚本助手:ラヴィ・クマール/監督助手・プロダクション・デザイン:シャーム/撮影:ニラーヴ・シャー、S・スリラーム/作詞:サミール、ジェリース・シャルワーニー、アルン・バイラーヴ、ワジード、シャビル・アフメド/音楽:サジード-ワジード/アクション:ヴィジャヤン/振付:ラージュー・スンデラーム、ヴァイバヴィー・メルチャント、ラジーヴ・スルティ、ヴィシュヌ・デーヴァ/美術:ワシーク・カーン、アーシーシュ・ラナデー、ビジョン・ダース・グプタ、M・ダルマ・ラーオ、オマン・クマール/背景音楽:サリーム-スレイマン/編集:ディリープ・デーオ

出演:サルマーン・カーン、アイーシャー・タキア、ヴィノード・カンナー、マヘーシュ・マンジュレーカル、プラカーシュ・ラージ、ゴーヴィンド・ナームデーウ、インデール・クマール、ムスターク・カーン、プラテークシャー・ローンカル

特別出演:アニル・カプール、ゴーヴィンダ

公開日:2009年9月18日(年間3位/日本未公開)
Filmfare Awards ベスト・アクション受賞

STORY
不良のラーデー(サルマーン)は、街の極道も一目置く存在。ムンバイー警察がアンダーワールド一掃に乗り出した矢先、ラーデーはひと目惚れしたジャーンヴィー(アイーシャー)が悪徳警官タルパデー(マヘーシュ)に付け狙われていることを知り・・・。

Revie-U
絶大な人氣を誇りながらもメガヒットとなるとだいぶご無沙汰だったサルマーン・カーン。そんな彼が久々の年間3位(リサーチ・サイトによっては2位ないし4位)を獲得。
本年ぶっちぎり作Dabangg(大胆不敵)」(2010)の布石となっただけあって、掴みのアクションから祝祭ダンス・ナンバルに突入する構成が継承されている。

Wanted

(c) Sahara One, Eros Entertainment, 2009.

その役柄ラーデーは、「ランボーが父、ターミネーターが父方の叔父、ロッキーが父方の祖父、ブルース・リーが母方の祖父というラスト・アクション・ヒーロー」。
ゼロ年代に入って急速にソフィスティケートされたボリウッドでは、アクションが全面に出た作品より恋愛やコメディ主体の方がウケる傾向にあるが、本作はアクションに笑いとロマンスを混ぜ合わせたちょっとアナクロなマサーラー・スタイル。それもどこかベタなテイストであるのも南インド映画のリメイクと聞いて納得。

本作もアーミル・カーン主演「Ghajini(ガジニー)」(2008)と同様、南インド映画のヒット作を監督本人がボリウッドに乗り込んでのヒンディー・リメイク。
オリジナルは、製作・監督・脚本のプーリー・ジャガンナートマヘーシュ・バブー主演のテルグ版「Pokiri(ゴロツキ)」(2006)。悪徳警官にアーシーシュ・ヴィダヤールティーをフィーチャル。
そのタミル・リメイク版「Pokkiri」(2007)は、ヴィジャイ主演、ヒロインはタミル版及びヒンディー版「Ghajini」のアシン、そして悪徳警官にボリウッドからムケーシュ・ティワリを招聘。アンダーワールドのドンには、テルグ、タミル、ヒンディーと3作すべてプラカーシュ・ラージが据えられている。

ヒンディー版の本作は、ボニー・カプールアニル・カプールの兄にしてシュリデヴィーの夫)がタミル版の監督プラブデーヴァを続投させての製作。ボニーは、Bulandi(2000)などこれまでも南インド市場に重きを置き、シャー・ルク・カーンが特別出演した「Shakti」(2003)でテルグ映画の監督クリシュナ・ヴァムシにメガホンを取らせるなどしているだけに目鼻が効く訳だ。

いずれも正式リメイクとなるが、テルグ版のアーシーシュやタミル版のムケーシュにしてもボリウッドでは単なる悪役から脱しており、リージョナル(地方)映画では旧来の役柄を営業仕事的にこなしているのが興味深い。
一方、ヒーローはと言うと、ヤンキー的ヴィジャイはまだしも、マヘーシュ・バブーは「坊や」そのもの。製作規模が増大し重厚なサルマーンの風格を見てしまうと、やはり押しが弱い。

それだけでなく、役名がラーデー(クリシュナの別名)であること、不良で仲間とぶらぶらたむろしていること、ボンクラ仲間に同じくサルファラズ・カーンが配役されていること、ヒロインの弁当を取り上げて食べてしまうこと等々からサルマーン主演作の中でも隠れた高評価作Tere Naam(君の名前)」(2003)めいているのもよい。

そのサルマーンは、大胆不敵なアンチ・ヒーローぶりがスーパーブ! マッチョ・スターとして威信を賭けたアクションだけでなく、ヒロインを街で見かけてひと目惚れした挙げ句、「Mughal-e-Azam(偉大なるムガル帝国)」(1960)モードの妄想全開ぶりといい、スター・ヴァリューを発揮。オールマイティがボリウッド・スターの基本と再確認させられる。

Wanted

(c) Sahara One, Eros Entertainment, 2009.

愛らしさ200%のヒロインはDor」運命の糸(2006)のアイーシャー・タキア。舌先をすぼめて口笛を吹き、タクシー数十台を一氣に止めるスケッチは、センサー(検閲)ギリギリ?
惜しむらくは、本作公開前の2009年3月に結婚してしまったことか(苦笑)。

サポーティングは、ラーデーのボンクラ仲間にTumko Na Bhool Paayenge(君を迷わず忘れない)」(2002)のインデール・クマール、「Tere Naam」のサルファラズ・カーン、本作の音楽監督サジード-ワジードサジードを配役。

アンダーワールドにつながり、職権を乱用しまくり私腹を肥やす悪徳警官タルパデー役が、サンジャイ・ダット主演Vaastav(現実)」(1999)の監督であり、「スラムドッグ$ミリオネア」のドン役マヘーシュ・マンジュレーカル
南インド映画界の撮影監督ジーヴァが監督したアビシェーク・バッチャン主演「Run」(2004)でも氣迫あふれる極道兄貴を演じていたが、本作ではコミカルな味わいを増し、役者としてひと皮むけたところを見せる。

後半、睨みを効かすアンダーワールドのドン、ガーニー・バーイ(兄貴)役が、プラカーシュ・ラージ「Shakti」(2002)ではただのコワモテ狙撃手とさほど魅力を発揮しなかったが、本作では道化芝居で愛嬌たっぷり。マニ・ラトナム監督作「Iruvar」ザ・デュオ(1997)で助演男優賞などNational Film Awardsを2度受賞し、カンナダ映画の女ぶっ飛びアクション「Chamundi」(2000)からMunna Bhai MBBS(医学博士ムンナー兄貴)」(2003)のタミル・リメイク「Vasoolraja MBBS(医学博士ヴァスール兄貴)」(2004)での医学長役など、南インド映画ではかなり知られた存在。どことなくアビシェーク顔が可笑しい。

アンダーワールドに宣戦布告し、州知事にも内密でガーニー・バーイを拉致する警察庁長官役が、敵役から官僚・大臣役に昇格した性格俳優ゴーヴィンド・ナームデーオ。本作では娘が陵辱される動画を見せられ激昂する父親を演じているが、「Prem Granth(愛の書)」(1996)では青白い顔でマードゥリー・ディクシトをレープする様は本物の人格異常者かと思うほど不氣味であったものだ。

そして、第2幕終盤、本作を引き締める見せ場が奢られているのが、往年のトップスター、ヴィノード・カンナー。さすが60年代後半から90年代までの作品で場数を踏んで来ただけある。悪役としてキャリアをスターとしながらヒーローに転じただけあって、酸いも甘いも噛み分けた温情と正義を貫く芝居は圧巻!(愚息アクシャヱ・カンナーはパワフルな役者だが、包容力が足りない)
作品に厚みをもたらした貢献度から引き続き「Dabangg」でも父親役に招かれている。

コミックリリーフは、ジャーンヴィーの大家で彼女につきまとうずんぐりむっくりにマノージ・パウワー。特異な体型(4等身?)を武器にTashan(カブキ者)」(2008)など需要を伸ばしている。
また、アニル・カプールゴーヴィンダ、プラブデーヴァ自身が祝祭ナンバル「jalwa」にゲスト出演している(プラブデーヴァはタミル版でもポンガル・ナンバル「aadungada yennai suththi」に飛び入りしヴィジャイと競演)。

Wanted

(c) Sahara One, Eros Entertainment, 2009.

ダンサブルなホット・チューンを提供する音楽監督のサジード-ワジードは、サジード・アリーワジード・アリーの兄弟デュオ。ヒメーシュ・リシャームミヤーと同じくサルマーンに引き立てられ、音楽監督に昇格。Hello Brother(1999)、「Tere Naam」、Mujhse Shaadi Karogi(結婚しようよ)」(2004)などを手がけ、「Partner」(2007)でブレイク。特に苦みの混じったワジードの歌声は、近年、最もサルマーンにマッチしたプレイバックと言えよう。

どれも今風のクラブ系サウンドながら、牧歌的なメロディ・ナンバル「dil leke」シャーン×シュレーヤー・ゴーシャル)が、なぜかBheja Fry(脳味噌揚げ)」(2007)のテーマ曲似なのはご愛敬?
また掴みの祝祭ナンバル「jalwa」(ワジード)は、そのイントロが「Dabangg」で弱腰愚連隊のリング・トーン(着メロ)になっていて、格闘中に鳴り出すとサルマーンが釣られて襟を引っ張りながらステップを踏むというセルフ・パロディに(この弱腰野郎は本作でも絡みのアクション俳優として登場。サルマーンにしっかり殺されている)。

本作で氣になるところは、やはり「南インド映画」のテイストを引き継いでいるところだろう。ナマステ・ボリウッド24号でも検証しているように、北インド及び全国区+海外市場を押さえるボリウッド(ヒンディー映画)と南インド映画(特にテルグとタミル映画)では大きく観客嗜好が異なり、その濃厚な演出や残酷・暴力描写はエグ過ぎてボリウッドでは敬遠され、それらは<別カテゴリー>と言っていいほど(そのため南インドに君臨する某スーパースターが80年代からボリウッド市場に参入しようとしたが何度となく失敗している)。

「Ghajini」ではタミル版を監督したA・R・ムルガドスが自らヒンディー版をリメイクするにあたっても大幅に残虐性を自粛しているし、本作のプラブデーヴァもそれに倣うかのように掴みのアクションからダンス・ナンバルへ突入する際、タミル版ではヴィジャイを3人にしてみせたデジタル増幅をキャンセルしている。

それでもなお、ドンを拉致したコミッショナーへの報復として娘を誘拐してはレープ映像をネットに流すなどの悪辣なスケッチ(反面、悪徳警官が愚連隊にジャーンヴィーを襲わせるエピソードでは近所の人々へのパフォーマンスの偽レープとなっていてヒロインの純血は保たれる)や悪党どもを手酷く抹殺してゆく暴力場面などは、現代のボリウッド映画には<強烈過ぎ>てそぐわないように思える。

「Dabangg」でもハリウッド流に<殺して終わり>の手法を取っていたり、Karan Arjun」カランとアルジュン(1995)はじめ、かつてのヒンディー映画も血まみれアクションが横行したが、基本的には主人公は<ダルマ(法)>に縛られ、建前的にも司法に委ねるのがヒンディー流儀であった(B級以下は除く)。

Wanted

(c) Sahara One, Eros Entertainment, 2009.

もっとも、南特有のギミカルなアクションや振付など泥臭さが残された分、これがイード(平たく言うとイスラーム教徒の秋祭り)・シーズンのターゲットにウケ、そっくり同じ戦略をとった「Dabangg」も破竹のメガヒットとなった。
これはゼロ年代のボリウッドがデシ(在外南アジア系。つまりは西洋的ライフ・スタイルを享受できる人々)志向からハリウッド的へと走った反動も手伝って、旧来的「泥臭さ」が<目新しく>映っているところもあろう。

これだけ義賊的アンチ・ヒーローがウケるのは、それだけ腐敗社会が進行している証とも言える。それでいて、悪徳警官の実態を堂々と描くことを許容するインド社会は実にオトナであるものだ(権力を問い直す映画を作れない島国もある一方で)。

それにしても、アンダーワールドのドンが「アミターブ・バッチャンは親友だし、シャー・ルク・カーンはビジネス・パートナーだ」と言い切ってしまう台詞があったり、拉致されたドンを釈放するよう州知事が圧力をかけたりする描写がボリウッド的に許されるのも心が広い故か?(なにしろ州知事はリティーシュ・デーシュムークの父親なのだから)。

Wanted

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