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Julie(1975)#147

2010.12.24
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!

Julie「Julie」(1975) ★★★★
ジューリー

製作:B・ナギ・レッディ、チャクラパニ/監督:K・S・セトゥマダヴァン/原作:パムマン(「Chattakkari」)/英語歌詞:ハリンドラナート・チャトパドヤー/台詞監督:ラージ・パルデーウ・ラージ/台詞:インデール・ラージ・アナン/撮影:P・L・ラーイ/作詞:アナン(=アーナンド)・バクシー/音楽:ラージェーシュ・ローシャン/背景音楽:ロビン・チャッテルジー/衣装:M・クリシュナ・ラーオ/美術:S・クリシュナ・ラーオ/編集監督:M・S・モネイ

出演:ラクシュミー、ヴィクラム、ナディラー、ウトパル・ダット、アチャラー・サッチデーヴ、リター・バードゥリー、ジャガル・アガー、ラジェンドラナート、オーム・プラカーシュ、スローチャナー、シュリデヴィー、ウメーシュ・シャルマー、マスタル・サトヤジット、J・N・アナン、ウダヤー・ラクシュミー、A・アブドゥール・ハミード

公開日:1795年3月18日(日本未公開)
Filmfare Awards:主演女優賞、助演女優賞(ナディラー)、音楽監督賞

STORY
アングロ・インディアン(英国系混血インド人)のジュリー(ラクシュミー)は、ヒンドゥーの青年シャシー(ヴィクラム)と恋に落ち、いつしか契りをむすんでしまう。しかし、妊娠したことが母マギー(ナディラー)に知れ・・・。

Revie-U *結末に触れています。
「インドのシャラポア」と例えられる女子テニス選手サニアー・ミルザーは、そのミニスカート姿がイスラーム聖職者から叩かれているが、映画の中では70年代からミニスカートが当たり前。
Rab Ne Bana Di Jodi(神は夫婦を創り賜う)」(2008)のカメオ・ナンバル「phir milenge chalte chalte」ラーニー・ムカルジーのモデルとなっているニートゥー・スィン(現在、リシ・カプールの妻でランビール・カプールの母)など、まさにそれ。
本作のジュリーもオープニングからタイトなミニスカートとハイヒールで鉄道員の父に弁当を届けている。

この時、彼女が父親に頬へキスを求めているのは、アングロ・インディアン(インドに帰化した英国人や英国人との混血家系)だから。
英国的な生活を送る西洋風のフランクな風俗習慣から「風紀がユルイ」というイメージがあるようで、ジュリーの母が夫の仕事中に家でパーティーを開き、男の客と酒を交わしている描写があるが、ヒンドゥーやムサルマーン(イスラーム教徒)では考えられない(自宅で飲酒するのさえ不作法なこととされる)。

そんなクリスチャンのジュリーがヒンドゥーの青年と恋に落ち、逸る彼に押される形で肌を重ねて身籠もってしまう。これを知った母は人知れずジュリーを連れ出し中絶を依頼するが、預かり先の機転で無事出産する。
しかし、世間体から母子は引き離され、ジュリーの受難は続く。

本作は、プリティー・ズィンター主演Kya Kehna!(なんと言っても!)」(2000)の原版にして、マラヤーラム映画「Chattakari」(1974)のリメイク。バンガロールで40週のロングランと好評を博し、監督のK・S・セトゥマダヴァンとヒロインのラクシュミーがヒンディー映画に乗り込んでのリメイク、という図式はアーミル・カーン主演「Ghajini」(2008)の監督A・R・ムルガドスアシンに先駆ける。
ラクシュミーはテルグ版「Miss Julie Prema Katha」(1975)も主演。同じ作品く3言語バージョンすべてでヒロインを演じている例は、ジネリア・デスーザのテルグ版「Bommarillu」(2006)、タミル版「Santosh Subramaniam」(2008)、ヒンディー版「It’s My Life」(2011)がある。

また、ラクシュミー以上のグラマー女優ラームヤーをヒロインに、ディノ・モレアを起用したカンナダ版「Julie」(2006)が作られたが、こちらは不評。
一方、ネーハー・ドゥピアが娼婦を演じたマイナー映画「Julie」(2004)はまったくの別物だが、本作のイメージからか意外にも健闘し年間20位にランク・イン。

ヒロイン、ジュリーを演ずるは南インド映画界出身のラクシュミー。艶やかな長い黒髪と褐色の肌を持つインド美人。瑞々しいヒロイン像からFilmfare Awards 主演女優賞を獲得するなど高く評価されたが、ヒンディー映画界には入らず南インドに戻り、その後も「ジーンズ」Jeans(1998=タミル)でアイシュワリヤー・ラーイの祖母役などを続けている。

父親モーリス役オーム・プラカーシュは、Om Shanti Om」オーム・シャンティ・オーム(2007)でシャー・ルク・カーンの役名にもなった名優。飄々かつ情愛深い演技が泣かせる。

母親マギー役ナディラーは、バグダッド出身のユダヤ系インド人。初のカラー作品にして日本で初公開されたインド映画「アーン 」Aan(1952)での王女役、「ラジュー出世する」Raju Ban Gaya Gentleman(1992)の原版「Shree 420(詐欺師)」(1956)で都会に出て来た正直者のラージ・カプールを遊興の魔手に誘うマーヤー役などの悪女役で知られ、ポルトガル人領主のお手つきでシャー・ルクとアイシュの母となるJosh(激情)」(2000)が遺作となった。本作では激情と厳格の裏側に娘を思う母を好演。

また、ジュリーの妹アイリーン役でまだロー・ティーンのシュリデビューが出演。どことなくアイーシャー・タキアを彷彿する愛らしさ。手足が長く、ラジオから流れる曲に合わせて踊っているシーンでは、女優デビューしてからの姿が重なる。

シャシーの父親役に左翼系演劇人として鳴らしたウトパル・ダット、その妻に家族の四季」Kabhi Kushi Kabhie Gham…(2001)の祖母役アチャラー・サッチデーウ。ジュリーに親しみを抱く夫と異なり異教徒嫌いという設定。
ジュリーの親友ウシャー役リター・バードゥリーは、本作を下敷きにした「Kya Kehna!」プリティーを支える幼馴染みの母親役で再登場。

ジュリーの幼馴染み役ジャラール・アガーは、子役時代に「Mughal-e-Azam(偉大なるムガル帝国)」(1960)で王子サリームの少年役に扮し、Sholay」炎(1975)ではヘレンのダンス・ナンバル「mehbooba mehbooba」でのジプシー歌手役、OSOの原型Karz(借り)」(1980)でリシ・カプールの友人役。本作ではジュリーに想いを寄せるが報われず終い(やや押しつけがましいため)。

コミックリリーフは、60〜70年代にお馴染みの好色役者ラジェンドラナート扮する好色店主。買い物に立ち寄ったジュリーに入れ込んで、何度もビンタを喰らうのが可笑しい。

大ヒットの要因は、大胆な性描写(当時としては)と未婚の出産話、そしてラクシュミーのフェロモンに負うところが大きいが、クリスマスのダンス・パーティー(人前でキスしているカップルがいたりする)など「別世界」とも思えるアングロ・インディアンの生活描写が珍しかったせいもあるだろう。

リティク・ローシャンの伯父ラージェーシュ・ローシャンによるメロディアスな音楽も印象的。Filmfare Awards 音楽監督賞を受賞したばかりか、「Julie I love you♪」と熱唱する官能ナンバル「bhool gaya sab kuch(何もかも忘れて)」キショール・クマール)のサビを、あのラクシュミーカーント-ピャーレーラールラージェーシュ・カンナーアクシャイ・クマールの義父)主演「Chhailla Babu」(1977)の主題歌として臆面もなく流用していたりする。

一番のメモラブル・ナンバルは、家族の幸せを歌うアングレージ(英語)・ナンバル「my heart is beating」(プリーティー・サーガル)だろう。アメリカン・フォークを思わせるシンプルで清らかなメロディが当時かなり鮮烈であったことは、52th Filmfare Awardsにおけるギターを手にしたビパーシャー・バスのパフォーマンスを見ても明らか。ラクシュミーを想わせる彼女がもう少し若ければ本作のリメイクでヒットが狙えたはず。

リメイクと言えば、70年代の本作と現代版として焼き直した「Kya Kehna!」の違いが実に興味深い。
プリティー扮する主人公が富豪の放蕩息子サイーフ・アリー・カーンと関係を持ち、彼の子を宿しながらも捨てられ、出産を選んだ彼女は愛する家族からも追い出される。苦難の末、己の非を悟ったサイーフが求婚するもプリティーが選んだのは陰に日向に支えてくれた幼馴染みの方。
一方、本作ではクリスチャンとヒンドゥーというハードルを超え、ジュリーとシャシーは結ばれる。時代的には、経済開放が進んだ2000年に制作された「Kya Kehna!」の方が自由恋愛を奨励してよさそうなものだが、金持ち(つまりは上位カースト)と庶民(下位カースト)は結局破局する。
70年代の方がハッピーエンドとなっているのは、社会風紀が厳しかった分、映画としてはファンタジー色を強め、人々も「映画の中のこと。そもそもあり得ない」として受け流したことだろう。
逆に自由恋愛を戒めているように思える「Kya Kehna!」は、時代が進んだ分、女性が自分の人生を選択して生きることを示している。

アナクロなレコード・ジャケット風の手書きタイトルバック、ジュリーが父親に届ける三段式弁当箱が昨今のアルミでなくホーロー引きなのがよい。

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