Dil(1990)#134
Dil(心) 02.01.04 ★★★★
ディル
製作:アショーク・ターケリア/製作・監督:インドラ・クマール/脚本:ラジーヴ・コォール、プラフール・パレーク/台詞:カムレーシュ・パーンディー/詞:サミール/音楽:アナン(アーナンド)-ミリン(ミリンド)/ストーリーアドバイザー:ノシール・カタゥー/美術:ビジョン・ダース・グプタ/アクション:A・ガニー/振付:スレーシュ・バット、サロージ・カーン/編集:ハッサン・ブルマワーラー/撮影:ババ・アーズミー
出演:アーミル・カーン、マードゥリー・ディクシト、サイード・ジャフリー、デーヴェン・ヴェルマー、アヌパム・ケール、シャンミー、パドマー・ラーニー、ラージェーシュ・プーリー、サティヤン・カップー、アジテーシュ、デーニーシュ・ヒングー、キショール、サリター・ダーヴェー、ケートキー・ダーヴェー
公開日:1990年1月22日(年間トップ2ヒット! 1990年代16位/日本未公開)
Filmfare Awards 主演女優賞:マードゥリー・ディークシト
STORY
散財の激しいドラ息子ラージャー(アーミル)に悩まされる金の亡者ハーザーリー(アヌパム)は、富豪のメーヘラー(サイード)に負けず劣らずの富豪を装って親しくなり、彼の娘マドゥー(マードゥリー)と挙式させようと計る。ところが、同じカレッジに通うラージャーとマドゥーは犬猿の仲であった・・・!
Revie-U
「Mann(想い)」(1999)までにアーミル・カーンと3本コンビを組んでいるインドラ・クマール監督のデビュー作。「Ishq(恋)」(1996)でも見られたホラー・タッチがオープニングからして登場! インドラの悪ノリぶりはデビュー作からして、たんまりと用意されている!!
冒頭近く、授業をボイコットしたラージャーたちが引き起こす自宅パーティーでは、バングルズの「エジプシャン(walk like an egyptian)」から「スターウォーズのテーマ」、果てやヘヴィ・メタルまでウエスタンなアリモノのオンパレード。その上、ラージャーの友人には、何故かデーヴ・アナン(=アーナンド)の物真似もいたりする。
そして、極め付けは、○○○顔の女学生(?)とのキスを賭けたプロレス合戦。この○○○女史は好評だったのか、翌々年の「Beta(息子)」(1992)にも登場させているのが凄い!!!
スッタモンダの末、ラージャーとマドゥーは愛に到って、めでたく婚約に。
ところが、パーティーの最中、ハザーリーが屑物商と発覚して一挙に破談してしまう。それでも愛を貫こうとするふたりは、互いの親たちからこっぴどい仕打ちを受ける。
本作の白眉は、激怒するメーヘラーの目の前で椅子に火をつけたラージャーとマドゥーが、これを聖火とみなし普段着のまま「挙式」してしまうシーンだろう!
インドラの演出は、悪ノリも激しい分、このようなエモーショナルなシーンもまたパワフルなのである。
その後、 湖畔の森へ駆け落ちしたふたりはテント生活から自力で小屋を建てる。幸せ一杯に暮していたふたりだが、ビル建設現場へ仕事に出たラージャーが事故に遭う! マードゥーがハーザーリーに手術費用を無心したことから、彼女はその代償として身を引く約束を強いられてしまう。
さらにスッタモンダがあってのハッピーエンドとなるわけだが、悪ノリギャグに甘いロマンス、ド演歌な浪花節がミックスされ、少々破綻ぎみな展開がインドラ・クマールの魅力なのである。正統派にして異端という、まさにカルト・マーサラーの鬼才と言えよう。
主演のアーミルは、まだ25歳と青臭さが感じられる。
ヒロインのマードゥリー・ディクシトは、前半の強気なお嬢サマから後半の愛に翻弄される大人の女を演じ、Filmfare Awards 主演女優賞を受賞!
ラージャーの父親ハーザーリー・プラサード役のアヌパム・ケールは、近年定番の温かみのある笑える父親とは異なり、エキセントリックな笑える敵役を演じ強いインパクトを与える。
サポーティングは、マードゥーの父親メーヘラー役に「Albela(美しき気まぐれ)」(2001)の名優サイード・ジャフリー、ハーザーリーの化けの皮を剥がすメーヘラーの友人ゲッダーリーに「G.air(除け者)」(1999)のサティヤン・カップー、そして、キャンパス・シーンでそれと判らぬ小さなバックグラウンド役でジョニー・リーヴァルのまだ痩せている頃の姿が見られる。
ブルーを基調としたパブリシティ・キーアートがまた秀逸。公開当時、分割特大ポスターが町に貼り出され、まるでアーミルとマードゥリーが殿上人のように思えて目を見張ったものだ。
アナン(=アーナンド)-ミリン(=ミリンド)の音楽も負けず劣らずに印象的。ロック・チューン「humne ghar chhoda hai」やファンキーな「o priya priya」など、実にインドラ的世界観を呈している。リリカルな「dil kho gaya」は、最近の電子サウンドとは異なりアンプラグドな風情がよい。
ところで、金の亡者であるハーザーリー・プラサードのキャラクターであるが、彼はボロ小屋に寝ているところを大量の札びらに襲われて狂喜する夢を見るほどの金の亡者。その出費に心臓をドキドキさせながらも、富豪のように振る舞い、息子を逆玉に乗せて真の大金持ちになろうとする彼の姿は、金拝的サンスクリゼーション(戒律をより厳しくすることで、カーストを上昇させようとする運動)とも受け取れる。
本作公開の1年後、インドは湾岸戦争の煽りもあり、未曾有の経済危機に陥る。それまでの社会主義的路線(長年の低成長率からヒンドゥー的成長と揶揄された)から一転、新経済政策(NEP)を導入して目覚ましい経済転換を実現させたが、ハーザーリー・プラサードは、どこかバブル経済の到来を予感させるキャラクターであった。
*追記 2010,12,11
>アナン-ミリンドの音楽
タブラーをベースにした「dil kho gaya」など現在のクラブ系リミックスからすると、氣怠げ極まりないほど牧歌的で佳い。
ロック・チューン「khambe jaisi khadi hai」は、かの「監獄ロック」の変形。なぜかサイーフ・アリー・カーン主演「Yeh Hai Mumbai Meri Jaan(これが愛しのムンバイ)」(1999)の背景音楽に転生している。
>インドラ・クマール
90年代のヒットメーカーもパッとせず、バカ物「Dhamaal(乱れ打ち)」(2007)の後は「ハウエルズ家のちょっとおかしな葬式」を焼き直した「Daddy Cool」(2009)で製作者へ転向かと思ったが、続編の監督作「Double Dhamaal(ダブル乱れ打ち)」(2011)が制作中。小悪魔どころか魔女的なコメディエンヌ、マリッカー・シュラワトを据えているあたりが期待。