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Sarfarosh(1999)#131

2010.12.08
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!

Sarfalosh

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Sarfarosh(命懸け) 01.11.24 ★★★★
サルファローシュ

製作・原案・脚本・監督:ジョン・M・マッタン/台詞:リディ・レニー、パティック・ヴァッツ/撮影:ヴィカース・シヴァルマン/音楽:ジャティン-ラリット/詞:イスラール・アンサーリー、ニーダー・ファズリー、サミール、インディヴァル/振付:ファラー・カーン、アフムド・カーン、ラージュー・カーン/アクション:アッバース-ハニーフ/編集:ジェトゥー・マンドゥル/美術:ケストー・モンダール/背景音楽:ディラージ・ダーナク、サンジョイ・チョウドリー

出演:ナスィールッディン・シャー、アーミル・カーン、ソーナーリー・ベンドレー、ムケーシュ・リシ、スミター・ジャイカル、プラデープ・ラーワト、マクランド・デーシュパーンデー、ラージェーシュ・ジョーシー、アリー・カーン、ウパサナー・スィン、マノージ・ジョーシー
特別出演:ゴーヴィンド・ナームデーウ

公開日:1999年4月30日(年間トップ3ヒット!/日本未公開)

Filmfare Awards:脚本賞、台詞賞、編集賞、批評家選作品賞
Screen Awards:新人監督賞、ストーリー賞、編集賞

STORY
ある晩、ガザル・コンサートで学友シーマー(ソーナーリー)と再会したアジャイ(アーミル)は、パーキスターンのガザル歌手、グルファーム・ハッサン(ナスィールッディン)を紹介される。学生時代、兄をテロリストに殺されたアジャイは、ボンベイ特捜部のチーフとなってテロリストの武器弾薬ルートを捜査しており、その捜査線上にグルファムの名が浮かび上がる・・・。

Revie-U
これまた印パの確執を題材にしたアクション物。インド国内で活動するテロリストの武器供給にパーキスターン情報部が関与していることを真っ向から取り上げ、パーキスターンへ移り住んだムハージルについても言及している野心作でもある。

オープニング・タイトルバック。ラージャスターンの砂漠からラクダで運ばれて来た銃器がミルチ(唐辛子)の荷へ混ぜられてボンベイに運ばれ、ドラッグも扱うアンダーグラウンド(マフィア)の手を通して、ジャンガルに潜むトライバル(少数部族)・テロリストへ渡るまでの武器供給ルートを一氣に見せる。もっとも、これらの画の上に、割とのどかなナンバー「zindagi maut na ban jaye」が効果音なしで貼り付けっ放しにされ、しかも画と音楽のリズムが合っていないために少々乗りきれない。

その後、テロリストがジャンガルを行く観光バスを襲撃。テロリストのリーダーが運転手を拳銃で射殺し、彼が川の流れで血をすすぐのとカットバックで手下たちが乗客を皆殺ししては金銀を奪ってゆく。

構成としては秀逸なのだが、プロップガンはもろに日本製モデルガンだと判るし、弾着やS.E.がVシネマ程度の出来なため、またしても興醒めしてしまう。なるほど、監督のジョン・M・マッタンは新人であった。脚本は巧いが演出がそれに追いついていないわけだ。しかし、中盤あたりからこなれてきたのか違和感はなくなり、マハーラーシュトラ州とアーンドラ・プラデーシュ州の境にあるジャンガル、デッリー、ボンベイの大都会、ラージャスターンの砂漠とスケールあふれる作品世界の構築に成功している。特に撮影監督ヴィカース・シヴァルマンによる砂漠のシーンが絵を見るように美しい。

印パ・セパレーション(分離独立)のメタファーとして、「ボンベイ」Bombay(1994)やHindustan Ki Kasam(インドの誓い)(1999)などで双子がたびたび使われて来たが、本作ではガザルがその役を担っている。

ガザルとはウルドゥーの恋哀歌、平たく言うとムサルマーン(ムスリム)の音楽となる。本作に登場するグルファーム・ハッサンは表の姿がパーキスターン人ガザル歌手、裏の姿が武器密輸シンジケートのボスという設定。しかし、パーキスターン人だから極悪キャラという風には、これが簡単には割り切れないのだ。

北インドに広がる古典音楽ヒンドゥスターニー音楽は、もともとあったヒンドゥー教徒の音楽が、イスラーム侵攻による西アジア音楽の影響を強く受けて完成された背景がある。その上、現在のガザルはクラシカル・ガザルとは別にフィルミー・ガザルというマイナー・ジャンルが確立するほどヒンディー映画音楽の中、つまりはインド人一般大衆の中に浸透している。

劇中、ヒンドゥーのアジャイ(劇中の発音はアジェイ。演じているのはムサルマーン=ムスリムのアーミル)とムサルマーンのグルファームは、ガザルを通して強く結びつく。アジャイの職業がグルファムに知らされるのは中盤になってからで、その時、アジャイはパーキスターンとの国境間際にあるグルファームのハーヴェリー(宮殿)を訪れて一夜の宿を提供されている。グルファームにとってアジャイが特捜部の人間であることは命取りでしかないのだが、「彼は友人である」として寝込みを襲うようなことはしない。このようにガザルが同じ文化を共有する隣人のキーワードとして用いられているのだ。

一方で、グルファームがインド国内に生まれ、セパレーション後にパーキスターンへ移り住んだ元インド人のムハージル(難民)という設定であるのも背景を厚くしている。Refugee(難民)(2000)で密(出)入国してまでしてもパーキスターンへ移民を望むムスリムの姿が描かれていたが、本作ではこのムハージルたちがパーキスターン国内でも「差別」されて扱われていることをも伝えている。

さて、このガザルであるが恋哀歌ということで、本作では学生時代に離れ離れとなったアジャイとシーマーのセンチメンタルな思い出(なれそめ)を綴っていて、これがなかなか佳い。

ガザル好きのアジャイが、名優ナスィールッディン・シャー扮するグルファームのコンサートへ出かけると、MCを担当していたのがシーマーであった。ステージは今まさに始まるところで、「hosh walon ko」が歌われる。舞台袖からアジャイを見詰める彼女の想いが、この曲なのである。

ふたりはデッリー大学の学生で、サイクルリクシャーに乗ったシーマーのスカーフが風に舞い、キャンパスにいたアジャイの首へとかかる。これがカーマの愛の矢となりアジャイはシーマーを意識し始め、ことあるごとに彼女が置き忘れるスカーフに触れんとする。いつしかシーマーも彼のことを快く思うようになり、彼女の方がスカーフを彼のそばへ置く。だが、ふたりはバス停で別れたまま、このコンサートまで再会することはなかった。

と言うのも、アジャイの父親と兄が通勤中、彼の目の前でテロリストによって拉致され、兄は即死、父は半植物人間となり、彼らの一家はボンベイへ移ってしまったからである。

プレイバックするのは、アーシャー・ボースレーともデュエットアルバムをリリースしているジャグジット・スィン。甘ったるい深みのある歌声で誉れが高い。

ジャティン-ラリットの音楽はどれも明確で素直に耳に飛び込んで来る。ロック・チューン「jo-hal dil ka」「is diwane ladke ko」におけるアルカー・ヤーグニクの蜜のような歌声に聞き惚れてしまう。

一方、ディラージ・ダーナクサンジョイ・チョウドリーの手による背景音楽になぜかテレビ「探偵物語」のブリッジが使われていて驚かされる。

主演のアーミル・カーンは、ナイーブな学生時代と骨折してもなお果敢に組織を追おうとする熱血捜査官を演じ分け、本作でZee Cine Awards 主演男優賞を受賞している。腐った警察組織の中で、賄賂や暴力に屈しないACPアジャイ・スィン・ラトゥールの姿は、「アンタッチャブル」(1987=米)のエリオット・ネスを彷彿とさせる。なお、役作りのために所轄の警部や特捜部の捜査官などにも直接リサーチをかけたそうだ。

ソーナーリー・ベンドレーもかなり魅力的だ。入院中のアジャイをミニスカートで見舞いし、後から来た彼の母親に不作法に見られるのを恥じるなど、細かい点が印象に残る。

そして、ムケーシュ・リシがいい。Khiladi420(偽闘士)(2000)やAashiq(愛人)(2001)など、なにかとコミカルな敵役が多いなかで、本作のインスペクター・サリームは、アジャイをサポートし、ストーリーに深みをもたらしている。

所轄のサリームがファイルを届けるためにアジェイの家を訪ねるが、彼が戻るまで家の外で待たされる。その扱いがカーストや宗教の違いかと問い、アジャイの家族が父や兄がテロリストに襲われた時、届け出を受けるどころか、アジャイたちを叩き出してまったく相手にしなかった所轄の警官たちを今も許せないでいることを知る。サリームは、アジャイたちの聞き込みをそれとなく手助けし、アジャイと友情を得るのだ。受賞こそ逃したが、Filmfare Awards 助演男優賞にノミネートされていた。

その他のサポーティングには、トライバル・テロリストのリーダーに、特別出演のゴーヴィンド・ナームデーウ。シンジケートの仲介をするバーラー・タークルにラジェーシュ・ジョーシー、ボンベイのアンダーグラウンド・マフィア、スルターンにプラデープ・ラーワト、組織のキーパーソン、シヴァ役にJungle(2000)のマカランド・デーシュパンデー、またアジャイの母親にスミター・ジャイカルが扮している。

そしてスルターンの情婦兼ダンサー、マーラー役をBadal(雲)(2000)ではジョニー・リーヴァルと組んでハネムーン・カップルだった美人女優ウパサナー・スィンが演じている。目鼻立ちがはっきりした彼女は踊りもなかなか、トップレスバーのダンス・ナンバル「yeh
jawani had kar de」
ではカヴィター・クリシュナムールティーとのプレイバックもよくマッチしていた。

興業的にも1999年度のトップ3と好評、Filmfare Awards 編集賞(ジェトゥー・マンドゥル)脚本賞(ジョン・M・マッタン)Zee Cine Awards ベスト・メイクアップ賞(ディーパック・バッティー)を受賞。

ちなみに、N.Y.の上映バージョンでは、パーキスターン情報部絡みのシーンはカットされたそうである。

*追記 2010,12,08
>ジョン・M・マッタン
「ガンジー」(1982)の助監督を務め、本作で監督デビューを果たしたJMM。その後は、シャーヒド・カプール主演「Shikhar(頂上)」(2005)があるきりなのが残念。

>プラデープ・ラーワト
スルターン役のプラデープ・スィン・ラーワトは、アーミル製作ラガーン」Lagaan(2001)で途中から参加するスィク選手などに出演。ゼロ年代中盤からテルグ・タミルなどの南インド映画界にシフト。「Ghajini」ではタミル版(2005)のWガジニー、アーミル版(2008)と両作でタイトル・ロールを演じている。

<国境にかけるスクリーン vol.3/Sarfarosh篇>を読む。

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