Maine Pyaar Kyun Kiya(2005)#130
「Maine Pyaar Kyun Kiya(私はなぜか愛を知った)」 ★★★★
マイネー(メェネー)・ピャール・キュョン・キヤー
製作:ディリン・メーヘター、ソハイル・カーン/監督:デヴィッド・ダワン/脚本:ルミー・ジャファリー/台詞:サンジャイ・チェル/撮影:ヴィカース・シヴラマン/作詞:サミール/音楽:ヒメーシュ・リシャームミヤー/振付:ファラー・カーン、ガネーシュ・アチャルヤー/背景音楽:サリーム-スレイマン/美術:サイレーシュ・マハディル、シタール/アクション:マヒンダル・ヴェルマー/編集:ニティン・ローカデー
出演:サルマーン・カーン、スシュミター・セーン、ソハイル・カーン、カトリーナー・ケイフ、アルシャード・ワールシー、ラージパル・ヤーダウ、ビナー・カク(新人)
友情出演:イーシャー・コーッピカル
公開日:2005年7月15日(年間10位/日本未公開)
STORY
独身を謳歌したいDr.サミール(サルマーン)は、愛情深い反面自殺願望の強い恋人ソニア(カトリーナー)から求婚されないように妻子持ちだと嘘を告げていた。しかし、妻に会わせるよう強要され、受付のネイナー(スシュミター)に妻の振りを頼んだところ、そこに母(ビナー)が田舎から出て来て息子が結婚していたと勘違いし・・・。
Revie-U
誘拐モノのブラック・ダウナー・コメディ「Darwaza Bandh Rakho(ドアを閉めとけ!)」(2006)の劇中、チャンキー・パーンディーがマニーシャー・コイララを口説く場面、チャンキーの好きな映画「Maine Pyar Kiya(私は愛を知った)」MPK(1989)に対してマニーシャーが挙げるのが本作「Maine Pyaar Kyun Kiya(私はなぜか愛を知った)」と微妙にズレて笑わせていた。
類似のタイトルでは「Haan…Maine Bhi Pyaar Kiya(はあ、私も愛を知りました)」(2002)というのもあり、80年代末の純愛映画「MPK」がいかに定着しているか解ろうというもの。
監督は、コメディメーカーとして名高いデヴィッド・ダワン。まるっきりあり得ないシチュエーションを笑いで丸め込む手腕はさすが。
「スタローンin ハリウッド・トラブル」Kambakkht Ishq(2009)で監督デビューしたサビール・カーンが本作のアソシエート・ディレクターを務めているが、そのへんは習得し忘れたようだ。
主人公のサミールは独身貴族を通すため、「既婚」と嘘をついたことから結婚してもいないのに妻をソニアに会わせたり、離婚の裁判を仕組んだり、という羽目に。
偽妻をクリニックで働くネイナーに頼んだものの、実は彼女は長年サミールに想いを寄せていて…という展開。
この離婚裁判は、フィルムシティの裁判所セットでの偽装裁判という設定。奇しくもアート系「Main Gandhi Ko Nahin Mara」私はガンディーを殺していない(2005)も同年だけにどちらのアイデアが本家?
本作はデヴィッド・ダワンの<脳みそ置いてけコメディ>だからよいとしても、シリアスな設定で離婚裁判が描かれていたアーミル・カーン ‘N’ マニーシャー・コイララ主演「Akele Hum Akeke Tum(ひとりぼっちの僕、ひとりぼっちの君)」(1995)では離婚裁判を刑事事件と勘違いしているような…。
さて、本作の目玉は、初のコメディ出演となるカトリーナー・ケイフ。美しいがややオツムがピュアな役柄だけあって、まだ芝居がつたないこの時期でも実に愛らしいヒロイン像となっている。
対するサルマーン・カーンも愚弟ソハイルを立てつつ、コミカルに振る舞う姿はやはり本作当時でも15年以上トップを走る余裕が感じられる。
ふたりはこの共演を機に2009年までオフ・スクリーンでリンクし続けるが、スクリーン・ケミストリーとしては恋仲役でない方が作品としての仕上がりがよく、特にカトリーナーの相手役にはアクシャイ・クマールの方がお似合いだったりする。
ネイナー役スシュミター・セーンは、アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャンより一足早くミス・ユニバース1994に輝いたせいか、なにかと比べられがちだが、ゴージャスな雰囲氣を持ちながらもミステリー作品「Samay」(2003)の女刑事、「Main Aisa Hi Hoon(私だって普通です)」(2005)の弁護士など働く女性役が板に付くところが大きく異なる。
本作でもナース服を着込んだクリニックの受付係が少しも浮いて見えない。それでいて後半、サーリーを美しく着飾った姿は「Main Hoon Na(私がいるから)」(2004)同様、実に艶やか。
ソニアの隣人でサミールとの逢瀬に割り込むピャーレー役ソハイル・カーンは、サルマーンの末弟。子役を経て「Auzaar」(1997)で監督デビューしながらも、次兄アルバーズ(「Dabangg」の製作・助演)があまりにも芝居が下手なのに俳優を続けられることにやる氣を起こしたのか、「Maine Dil Tujhko Diya」(2002)でヒーローとして本格デビュー。
製作を兼ねる本作で長兄サルマーンと初共演。さすがに末弟だけあって若い分スピード感にあふれ、元監督だけあってコメディ・センスも上々。
ちなみに役名ピャーレー・モーハンは、本作公開後にコメディ「Pyare Mohan(ピャーレーとモーハン)」(2006)の主人公コンビの名に。
サポーティングは、サミールの友人役に「Mujhe Meri Biwi Se Bachaao(私を妻から救って!)」(2001)のアルシャド・ワールシー。「Munna Bhai MBBS(医学博士ムンナ兄貴)」(2003)のサーキット役でブレイクしたものの、キャラクターに幅がなく、本作のテイストに馴染んでおらずやや「蛇足」氣味。
その恋人役が友情出演のイーシャー・コーッピカル。サミールとネイナーの<結婚祝い>パーティー・ナンバル「saajan tumse pyaar(愛しき人が君を愛す)」で軽やかなダンスを披露。
中盤から登場し物語にブーストをかけるパンジャビー母役は、本作が女優デビューとなるビナー・カク(「just chill」のプレイバック・シンガー、アムリター・カクは実娘)。ラジャスタン州の元文化観光大臣だが、とても素人とは思えない肝っ玉母さんぶり! 誰彼構わずビンタしまくりというのも痛快。継続している女優業の中では「Nanhe Jaisalmer」(2007)の名士マダムが秀逸。
また、コミック・リリーフとして1999年に勃発した印パ国境のカールギル戦線で負傷したと称する偽装傷痍グルカ兵役でラージパル・ヤーダウが登場。
音楽は、今や俳優としても主演作をいくつも抱えるヒメーシュ・リシャームミヤー。サルマーンにより音楽監督に引き立てられ、ソハイルの監督作「Hello Brother」(1999)やサルマーン主演「Tere Naam(君の名前)」(2003)などを手がけた後、「Askar」(2006)の破竹系クラブ・サウンド+セルフ・プレイバックでシンガーとしてメガブレイク。
この時期、ボリウッドのフィルミー・ソングは重低音炸裂リミックス・モードに突入していたが、本作ではとてもゼロ年代とは思えない珍妙なアレンジが息吹き、そのルーズさがなんとも心地よい(調子っぱずれなカマール・カーン以外は)。
もっとも、クラブ・ナンバル「dil dil nazar」とヒット・ナンバル「just chill」は、軽快なビートがソー・クール。ちなみに「chill」は英米圏では「ぞっとする」というようなニュアンスだが、暑さも「hot hotter hottest」と3段活用のあるインドだけあって「cool」程度では追いつかず「chill」でしっくり来る訳。社会派映画「Corporate」(2006)の劇中でも企業の新製品キャッチ・コピーとなっていた。日本で「寒い」というのと真逆なのが、やっぱりインド映画が定着しない理由?