Tashan(2007)#127
タシャン
製作:アディティヤ・チョープラー/原案・脚本・台詞・監督:ヴィジャイ・クリシュナ・アチャルヤー/撮影:アヤナンカ・ボース/作詞:ピユーシュ・ミシュラー、ヴィシャール・ダドラニー、コゥーシャル・ムニル、アンヴィター・ダット、カピタン/音楽:ヴィシャール&シェーカル/振付:ヴァイバヴィー・メルチャント/アクション:ピーター・ヘイン/背景音楽:ランジート・バロート/衣装:アキ・ナールラー/美術:スカント・パニグラフィ/編集:ラーメーシュワル・S・バガット
出演:アクシャイ・クマール、サイーフ・アリー・カーン、カリーナー・カプール、アニル・カプール、ヤシュパル・シャルマー、マノージ・パウワー、サンジャイ・ミシュラー、イブラヒム・アリー・カーン
公開日:2008年4月25日(年間13位/日本未公開)
STORY
コール・センターに勤めるジミー(サイーフ)は、美人秘書プージャー(カリーナー)に乞われて富豪のバイヤー・ジー(アニル)に英語の個人レッスンを行うことになるが、プージャーにそそのかされてバイヤー・ジーの金を盗み出す。そして、逃げたふたりを探し出すため、バイヤー・ジーの同郷バッチャン・パーンデー(アクシャイ)に命令が下るが・・・。
Revi-U
「デスペラード」的ネオ・ウェスタンを強調したパブリシティ、ガイ・リッチーばりのオープニング・タイトルバック、ファースト・ショットも乾いた大地にまっすぐ伸びた路面をゆく一台のクルマに大音量のアメリカン・ロック…とゼロ年代にトンガリ続けたヤシュ・ラージ・フィルムズ(YRF)ここに極まるといった印象。
もっともこれがタイトル「Tashan」同様、意表を突く見せかけの装い。ストーリーが進むにつれ、インド的な深い味わいが感動を呼ぶ仕掛けとなっている(先の荒涼とした大地は、「3 Idiots」3バカに乾杯!と同じラダック・ロケ)。

(c)Yash Raj Films, 2007.
サイーフ・アリー・カーン扮するジミー・クリフは、ゼロ年代のインドで注目を浴びたコール・センターに勤め、新人たちに「アングレージ」でなく「インターナショナル・イングリッシュ」の教鞭を執る。流暢な英語をモノにすれば女からもモテモテ、というのはバブリーな世界ではどこも同じ。
日本でも少しづつ欧米英語以外の「お国英語」が注目を集めているようだが、話者人口からしてその代表格が、本作でアニル・カプールが熱演してみせる巻き舌Rのヒングリッシュ(インド英語)だろう。
この独演場面での台詞は、ヤシュ・チョープラー監督作「Deewaar(壁)」(1975)におけるアミターブ・バッチャンの有名な長台詞の英語バージョンである。
ちなみにオープニングにアメリカン・ロックと交互に流れるのが、同じくヤシュ・チョープラー監督作「Kabhi Kabhie(時として)」(1976)のタイトル・ナンバル(プレイバックはムケーシュ)。
さて、ストーリーの方はというと、中盤、プージャーに惚れ込んだジミーは苦境に陥った彼女を救わんとバイヤー・ジーの金を盗み出すが、実はプージャーにハメられ、しかもバイヤー・ジーがアンダーワールドのドンと判明。
逃亡したプージャーを追うため<同郷カンプール>から呼び出されるのが、バイヤー・ジーの弟分、バッチャン・パーンデー。扮するは、アクシャイ・クマール(=アッキー)。祝祭の野外劇「ラーム・リーラー(ラーマ神の劇)」で「ラーヴァナ」を演じながら出番に遅れてスクーターで登場(10の顔を持つラーヴァナだけに9つの面付き衣装!)。
そのスケッチ自体が本作の仕掛けとなっていて、シーターを誘拐した悪役ラーヴァナがバッチャン・パーンデーの立ち位置と思わせておいて、その実、中盤の銃撃シーンでハヌマーンばり飛び回ることからシーター(ヒロイン=カリーナー演じるプージャー)を救出するハヌマーン(ヒーロー)が真の姿と解る。
(英語が出来ない田舎の突破者&純情キャラはザンギリ頭からして「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ」CC2Cのシドゥーへと結実?)

(c)Yash Raj Films, 2007.
アッキーとサイーフはゼロ年代に入って初顔合わせだが、90年代はアディティヤの愚弟ウダイ・チョープラー製作「Yeh Dillagi(これは冗談)」(1994)や「Main Khiladi Tu Anari(俺は闘士、おまえは頓馬)」(1994)とその続編的「Tu Chor Main Sipahi(おまえは泥棒、俺は警官)」(1996)などでよく共演した仲だけあって、その掛け合いも慣れたもの。

(c)Yash Rah Films, 2007.
紅一点のヒロイン、カリーナー・カプールは、いつになく痩せているが、これはスレンダー好みのアディティヤ・チョープラーによる契約からのオーダーだろう。なにしろ、「Dhoom:2(騒乱2)」(2006)ではアイシュワリヤー・ラーイをバービー人形そのままにし、「Rab Ne Bana Di Jodi(神は夫婦を創り賜う)」(2008)ではシャー・ルク・カーンの親友役ヴィネイ・パタークまでスリムにさせたアディティヤだ。
サイーフの推しもあってYRF復帰となったと思われるカリーナーだが、彼女のデレデレぶりが作品の足を引っ張っている嫌いもあった「Kurbaan(犠牲)」(2009)と異なり、付き合い始めて間もなくカリーナーの名を左腕に彫り込んだサイーフだけに本作ではどちらかと言うと彼の方が萌えているように思える(そのタトゥーは、スクヴィンダール・スィンの熱唱ナンバル「dil haara」で見ることができる。もっとも芝居の場面では、ファンデーションかデジタルで消してあるが)。

(c)Yash Raj Films, 2007.
そして、キャラクター達がカブいたスタイルを装って真の姿を隠しているように、本作も後半、ハード・アクションのアウトラインからは思いも寄らない純な青春ロマンスが展開。その泣かせどころには、じんわりすること請け合い。このギャップをすんなり受け入れられるインド人観客のキャパシティに感嘆してしまうし、羨ましくもある! つまりは、それ故にボリウッドという世界に名だたる映画産業が成り立ち、本作レベルの秀作を浴びるように観られるのだから。
そんな本作のコンセプトである<見せかけ>のもっともたるナンバルが、「dil dance maare」。ハリウッドから来たロケ隊を銃で脅し、「ここはインドだ」とダンス・シーンを撮影させるのが可笑しい。
(「Hollywood」の米語風発音を「Holly widow」として訳すネタあり)
dil dance maare / song promo by Yash Raj Films.
サポーティングには、バイヤー・ジーのとぼけた部下コンビに、「Roadside Romeo」(2008)のサンジャイ・ミシュラーと、「Singh is Kinng」(2008)の寸胴デブ・キャラ、マノージ・パウワー。
またバイヤー・ジーを追い詰める悪徳警官ACP クルデープ・スィン・フーダ役に、「ラガーン」Lagaan(2001)などの定番裏切り役のヤシュパル・シャルマー。去年の東京国際映画祭で先行上映された「Road,Movie」ロード、ムービー(2010)ではタイプ・キャスト的扱いに終わっていて彼のチャームが発揮されず残念であったが、本作ではアングレージ・コンプレックスが笑いを添えている。
また、少年時代のジミー役にサイーフと元妻アムリター・スィンとの間に生まれた長男イブラヒムが子役デビュー。その苦み走った鋭い顔立ちは、まさしくサイーフのカーボン・コピー。
監督は「Dhoom(騒乱)」シリーズなどの脚本を手がけたヴィジャイ・クリシュナ・アチャルヤー、これが監督デビュー作となる。その後の監督作はないものの、「Guru」(2007)に続きマニ・ラトラム監督作「Raavan」ラーヴァン(2010)のヒンディー台詞に参加。本作の野外芝居では「ラーマヤナ」をメタメタに崩していたが…。
chhaliya / song promo by Yash Raj Films.
ヴィシャール&シェーカルの音楽は、どれもソー・クール。
尖った場面と対比するように、田舎者のバッチャン・パーンデーとプージャーの妄想ナンバル「falak tak(天までゆこう)」はノスタルジックなメロディーとあって、ウディット・ナラヤンとマハーラクシュミー・アイヤールをフィーチャル。ウディットの味わい深い歌声は健在で、ひと世代前のプレイバック・シンガーとされてしまったのが惜しまれる。
falak tak / song promo by Yash Raj Films.
UP州カンプール、ウッタカンド州ハリドワル、ラダック、ラージャスターン、ケーララとインド全土+ギリシア・ロケが楽しめるばかりか、「スタローン in ハリウッド・トラブル」Kambakkht Ishq(2009)などよりは数倍見応えがあり、日本のソフト市場には「持ってこい」に思える本作。ただ、その場合、純なロマンス部分もあることをアピールしておいた方がよいだろう。
*追記 2010.12.04本作のウィーク・ポイントと言えるのが、デジタル合成。
冒頭、荒野を走る一台のクルマが蛇行しながら断崖から水面に落ちる。これも実写スタントでなく、デジタル合成による劇画そのままのカット割り。オープニング・タイトルバックの<クール>さから比べると、実に<お寒い>限り。
デジタルの合成はこの場面だけでなく、インタルミッション前、冒頭のクルマ・ダイヴが明かされる場面で、水没したクルマから抜け出したアクシャイとサイーフに続いてカリーナーが水面から顔を出すショットもラダックの実写背景とスタジオ・フッテージの合成。世界中で過酷な撮影に挑むボリウッド・スターだけにラダックの水面に入るのを拒んだわけではないだろう。
むしろ、技術的にデジタル合成でのテスト例とも思える。クルマのダイヴ・シーンは頂けないが、アッキー達が顔を出すエフェクトはちょっと目には解らないレベルとなっている。
tashan mein / song promo by Yash Raj Films.
追記 2012.08.02
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