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Roadside Romeo(2008)#125

2010.12.01
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!

Roadside Romeo

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「Roadside Romeo」 ★★★☆

製作:アディティヤ・チョープラー/原案・脚本・台詞・監督:ジュガル・ハンスラージ/作詞:ジャイディープ・サーフニー/音楽&背景音楽:サリーム-スレイマン/撮影監督:アンシュル・チョベイ/アニメ監督・クリエイティヴ・スーパーバイザー:シュリラング・サターイ、スハイル・メルチャント/クリエイティヴ・スーパーバイザー:シェリー・バルダー/クリエイティヴ・ディレクター:パンカジ・カンドプル/ヴィジュアル・デザイン&アニメーション:ターター・エクセル-ヴィジュアル・コンピューティング・ラボ/振付:ゴースワルニー・ラジーヴ、ミニ-ジョニー/編集:アリーフ・アフメド

声の出演:サイーフ・アリー・カーン、カリーナー・カプール、ジャーヴェード・ジャフリー、ラージェーシュ・ヒルジー、ターナーズ・イラーニー、スレーシュ・N・メノン、キクー・シャルダー、サンジャイ・ミシュラー

公開日:2008年10月24日(日本未公開)
National Film Awards:ベスト・アニメーション

STORY
下町の道端で暮らすロミオ(サイーフ)は、ひょんなことから仲間の野良犬たちと露天のバルバル・サロン(床屋)を開業。運氣が上昇したところで、夜な夜な屋根の上で歌い踊るレイラー(カリーナー)と出会い恋してしまう。が、下町を仕切る大ボスのチャーリー・アンナ(ジャーヴェード)がレイラーにゾッコンとなったことから・・・。

Revie-U *結末に触れています!
躍進するゼロ年代のボリウッドで最も顕著な出来事のひとつに、トップ・ブランドとなったヤシュ・ラージ・フィルムズ(YRF)が初の長編アニメ、それも米ディズニーと提携していきなり3次元CGアニメを手がけたことが挙げられる。

YRFでも冒険だったようで、サイーフ・アリー・カーン主演「Ta Ra Rum Pum(タ・ラ・ラン・パン)」(2007)にてCGアニメとの合成ダンス・ナンバル「ta ra rum pum」でまずテストし、この時期からしばらくの間、YRFの新作DVDに本作のトレーラーをスキップ出来ない形でオーサリングし、否が応でも話題となるよう仕掛けていた。

さて、その出来はというと…多少、キャラクターの3次元モデリングに不自然さが見られるところがあるものの、さすがにディズニーが提携を応じただけあってその名に恥じないレベル。特に背景のリアルな質感は、なかなかにそそられる。

興業的には年間41位と、YRFとしてはメガ・フロップの部類。「インドではアニメは子供が見るもの、と思われているため」との評があるようだが、主人公たちを野良犬のキャラにしたことが大きいのではないだろうか。なにしろ「クッター(犬)」は罵り言葉になっているほどなのだから。
それを百も承知で製作に踏み切ったのは、海外のDVDソフト・マーケットを当て込んだためか?(製作のアディティヤ・チョープラーが急遽、8年ぶりに監督作Rab Ne Bana Di Jodi(神は夫婦を創り賜う)」をアナウンスし、年内公開を強行したのは2008年の収支を氣にしたから??)
キャラクターの表情も猫ミニーの方が段違いに良く、犬の話でなかった方がよかったのでは?と思うほど(第一、野良犬は屋根に乗らないと思うが…)。
続いて企画されているカラン・ジョハール製作のCGアニメ「Koochie Koochie Hota Hai」も犬のキャラになっているため、動向が氣になるところ。

監督のジュガル・ハンスラージは子役出身で、アディティヤの監督第2作Mohabattein(幾つもの愛)」(2000)で本格デビュー。しかし役者としては芽が出ず、本作で監督に転向。
もっともCGアニメを極めたいわけではないようで、監督第2作Pyaar Impossible!(愛はインポッシブル!)」(2010)では早くも実写映画に<転向>。
せっかく本作でNational Film Awardsベスト・アニメーションを受賞したのだから、このスキルを次に活かして欲しいのだが。

このことは本作のコンセプトにもなっていて、初のCGアニメとはいえ、お子様狙いでなく、本格的な<ボリウッド映画>として製作されているところが、さすがボリウッド。
それは、クナール・ガンジャワーラースニディー・チョハーンをフィーチャルしたサリーム-スレイマンの音楽を聴いても他のYRFと100%遜色のないオトナ向けの仕上がりとなっていることから解る。アニメだからと、お子様仕様でお茶を濁すようなことはしていないのだ。

<ボリウッド映画>として製作だけあって、Sholay」炎(1975)、KKHH(1998)やDDLJ(1995)など、随所にボリ・ネタが仕込まれているのが嬉しい。なにしろ下町のあちこちには「Dhoom:2(騒乱2)」(2006)やアミターブ・バッチャンのポスターが貼ってあるばかりか、ミュージカルまで用意されている(それも振付師を起用!)。
もっとも、そのダンス・シーンは、犬だけに衣装替えがないのと、反りのポーズなどが芳しくなく、インド舞踊の基本をマスターしていないボリウッド・ダンサー程度だったりする。
また、ロミオとレイラーのラブ・シーンにしても、CGの犬がキスしても面白くもなんともない(苦笑)。
ストーリーでの難点は、終盤、人間が登場して興醒めしてしまうことか。

一方で感心するのは、サイーフにしろ、カリーナー・カプールにしても日本のアニメのようなオーバー・アクティングのダビング(吹き込み)ではまったくなく、通常作品と同じ芝居でしっとりと演じているのがよい(MNIK日本語吹き替えの1000倍秀逸)。
これは出来上がった動画にダビングしているのでなく、事前に台詞先行で吹き込み画を合わせているためもあるだろう。

サポーティングは、ロミオにちょっかいを出しては取り巻きになるグル(3匹のオス犬の中で一番身体がでかい犬)に「Kaho Naa…Pyaar Hai(言って…愛してるって)」(2000)でリティク・ローシャンの親友役ラージェーシュ・ヒルジー。その後が心配されたものの、「Golmaal(ごまかし)」シリーズの常連脇役としてぐっと目立つ存在に。

グルの取り巻きインタルヴァル(薄茶の犬)に「Krazzy 4」(2008)、「Fool N Final」(2007)などの冴えない太め男、スレーシュ・N・メノン
紅一点のメス猫ミニーに「Kaho Naa…Pyaar Hai」でアミーシャー・パテールの親友役ターナーズ・イラーニー(旧姓カリーム)。36 China Town(2006)での爆笑スケッチが忘れられない。

そして敵役となる大ボス、チャーリー・アンナ役が、ジャーヴェード・ジャフリー
その手下の薄汚い犬チャイヌー役にサンジャイ・ミシュラーディル・セ 心から」Dil Se..(1998)でシャー・ルク・カーンに叩きのめされる小さな役から今やメジャー・コメディに欠かせぬ怪優に出世。群像コメディの佳作「One Two Three」(2008)における生涯イチの長台詞が見物。

さて、本作で最も面白い場面は、エンディング・クレジットの「NGシーン」。そう、トレーラー(予告編)が本作キャスティングのメタ・オーディションとなっていたように、徹底して<実写映画>として構想されているのだった。
そのため、NGシーンもあえて作成し、台詞をトチるロミオや、<撮影中>に屋根の上からグルが落ちたり、クルーの笑い声がダビングされていたり、撮影地としてYRFスタジオがクレジットしてあったりする。

ところで、アディティヤが本作やその他のフロップを懸念して急遽、保険として「RNBDJ」に踏み切ったという<仮説>だが、2008年のYRF作品を見てみるとまんざらでもないように思う。
サイーフはラーニー・ムカルジー共演「Hum Tum(僕と君)」(2004)で初めてYRFの単独ヒーローに昇格。続くプリティー・ズィンター共演「Salaam Namaste」(2005)も好調となり、自社プロダクションを持つシャー・ルクを別格に置いてYRFの看板俳優としての立ち位置を築く。この時期、サイーフの上昇ぶりは目覚ましく、「Kal Ho Naa Ho」のギャラ問題でカラン・ジョハールと対立し、YRFからも干されていたカリーナーがYRFに復帰できたのも、シャーヒド・カプールと別れた後、サイーフとリンクしたことも大きいだろう。
成長企業として作品本数を伸ばそうとするYRFは、特に2008年公開作でサイーフに偏向。「RNBDJ」を含めない年間4本のうち、本作(元々5月公開が10月に延期)、ハード・アクションを売りにしたTashan(カブキ者)」、ファミリー物「Thoda Pyaar Thoda Magic(ちょっとの愛にちょっとマジック)」と3本もサイーフ主演作が占める。
それほどの蜜月状態を本作のフロップが終わらせたわけではないだろうが、この年以降、YRFにおけるサイーフ主演作はなく、また彼もYRFで別格のシャー・ルクを見習ってか、自社プロダクションを起こして製作・主演の道を歩むようになった(カラン製作KurbaanがYRFでなくUTVからリリースされているのもサイーフのせい?)。

そうそう、結末は…恋が実ったロミオの腕にレイラーの名前がデーヴァナーガリー・タトゥーで入っているというオチ(笑)。
こういうボリ・ネタが大好きな中級者は一層楽しめるはず。

Roadside Romeo

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