Mujhe Meri Biwi Se Bachaao(2001)#121
Mujhe Meri Biwi Se Bachaao(私を妻から救って!) 01.09.29 ★★★★
製作:プラカーシュ・メーヘラー/原案・監督:ハリー・バウェージャー/脚本:アニース・バズミー/台詞:イムティアーズ・パテール/撮影:ダモダル・ナイドゥ/音楽:ラージェーシュ・ローシャン/美術:R・ヴェルマン/振付:サロージ・カーン、アフムド・カーン
出演:レーカー、ナスィールッディン・シャー、ムクール・デーウ、アルシャード・ワールシー、スマン・ランガーナタン、プリヤンカー・トリヴェディ、ティクー・タルサニア、ムシュターク・カーン、ラザック・カーン、ヴィカス・アナン(=アーナンド)
特別出演:シャクティ・カプール
公開日:2001年6月29日(日本未公開)
STORY
ホテル王の娘、マダム・カーミニー(レーカー)はお尻も超弩級、「ウエスト」という言葉が大嫌いなおデブ夫人。ハズのアナン(ナスィールッディン)は無類の女好きで、パーティーで知りあいのヴィジャイ(ムクール)から紹介された若いアヌラーダー(スマン)にメロメロ。若き好青年ロッキー(アルシャード)は探偵社のバイトで素行調査を依頼された娘ソニア(プリヤンカー・トリヴェディ)に一目惚れ、駆け落ち結婚をしてしまうが、アナン(=アーナンド)に預けていた金がネコババされ、遂には夫婦でカーミニーの誘拐を決行! しかし、おデブで、遺産を握った古妻の殺害計画に失敗していたアナンには、まさに渡りに船だった・・・。
Revie-U *結末に触れています。
ポスターからして、レーカー版「ナッティ・プロフェッサー」かと想像していたが、実は「殺したい女」(1986=米)。かのレーカーが醜態晒すコメディに出演するとは!!!
ベット・ミドラーのコメディエンヌぶりも見事だったが、本作ではレーカーの熟女ながら今も衰えぬ美貌が武器。監禁されてる間にダイエットに励み(オリジナルもそうだったと記憶するが)、前半着膨れで演じていたレーカーは素のスリムなボディに変身!! 当然、後半は夫アナンも見違えてしまう。その美しさは、世話を焼くロッキーにソニアが思わず嫉妬し、レーカーとアルシャードがからむミュージカル・ナンバルが用意されているほど。高度な振付に身をくねらす妖艶なレーカーを堪能できる。
特筆すべきは主演のナスィールッディン・シャーはじめ、錚々たるフィルムメーカーが名を連ねていることだろう。
製作のプラカーシュ・メーヘラーは、ボリウッドでも名のある監督として知られ、若かりし頃のレカー主演作を何作も監督している。音楽のラージェーシュ・ローシャンは、兄ラーケーシュ・ローシャンの監督作品や「Kya Kehna!(なんと言っても!)」(2000)なども手がけるヒットメーカー。コレオグラファーのサロージ・カーンも「ミモラ 心のままに」Hum Dil De Chuke Sanam(1999)で3rd Zee Cine Awardsを受賞した大御所だ。美術のR・ヴェルマン然り。これらの名前が「笑点」まがいのメインテーマに乗ってクレディットされてゆくオープニング・タイトルバックだけでも満悦できる。
さて、ナスィールッディン・シャーだが、彼は名優中の名優。日本でもシャー・ルク・カーンの8本を上回る13本が上映され、1980年代の日本でインド映画と言えばナスィールッディンと言ったくらい。
「礎石」Aadharshila(1981)はじめニュー・シネマ(社会派・芸術映画)で活躍し、グル・ダットを師と仰ぐシャーム・べネガル監督作品の常連で、ゴータム・ゴース監督作「渡河」Paar(1984)ではヴェネチア国際映画祭主演男優賞も受賞。近年もタミル語映画界のトップスター、カマル・ハッサンが監督・主演した「Hey Ram(神よ!)」(2000)ではマハトマ・ガーンディーを演じていた。
しかも、ナスィールッディンとレーカーは、彼女がNational Film Awards主演女優賞を受賞した「踊り子」Umrao Jaan(1981)の出演コンビ。いやはや、それでいて「殺したい女」とは、さすがボリウッド!
本作では、そのナスィールッディンが好色な眼差しで若い女から叱責を買い、2階から投げ出され、階段落ちを見せ、邪魔になった古妻を巡って愛情を装いつつ大奮闘。もちろん、小粋なダンス・シーンも余裕でこなし、芸域の広さを感じさせる。
人の良さが災いして誘拐を企てるお調子者ロッキー役のアルシャード・ワールシーは、「Chhupa Rustam(大勇者)」(2000)のサンジャイ・カプールを数段チープにしたような3枚目。恋人ソニアの婚約披露パーティーに仲間と乗り込んで花嫁を掻っ攫う、普段着で踊る姿はカッコイイんだか悪いんだか・・・。
ヴィジャイ役ムクール・デーウはパイロット出身で、マーク・ウォルバーグ並みのワイルドさ。ボリウッド・メジャーで売れる豪華さはないが、小粒でも楽しみな俳優。スィク姿もよく似合う。トップモデルの兄弟ラーフル・デーウも「Champion」(2000)、「Aashiq(愛人)」(2001)で悪役デビュー済み。
アヌラーダー役のスマン・ランガーナタンはゴージャス系、ソニア役の新人プリヤンカー・トリヴェディはミス・ワールド2000のプリヤンカー・チョープラーとは大違いの垢抜けない美人。どちらもスタイルはよろしい。
ちなみに、女好きのアナンが「アヌラーダー」の名前を聞いて、思わず鼻の下を伸ばすのはクリシュナの恋人アヌラーダーに由来するから。
脇も充実していて、ソニアの父親はハイテンションが売りなティクー・タルサニア。アナンに取り入る腹心に「Mann(想い)」(1999)、「Gadar(暴動)」(2001)のムシュターク・カーン、誘拐捜査に奮闘するインスペクター役にラザック・カーン。これらの面々に、モルグ担当の警官役にシャクティ・カプールが特別出演!
チープシックなバックグラウンド・スコアは別コンポーザーが担当しているものの、ラージェーシュ・ローシャン手がけるフィルミーソングもなぜかザ・ピーナツ!!
監督ハリー・バウェージャーは冴え渡った手腕とは言い難いが、テンポを失わぬ演出は好感が持てる(パクリなのに、「Story」とクレディットさせてしまうとは!)。
後半、微妙にオリジナルから離れてゆくのも見物で、美人局のヴィジャイとアヌラーダーがアナンを逆誘拐。当然、カーミニーは身代金を突っぱねるが、小心者のロッキーとソニアが「夫を助けないのはよくない」とヒンドゥー規範を持ち出し、カーミニーは誘拐犯に5000万ルピーの賞金を賭けてしまう。噂はたちまち広まり、駅の旅客から聖者、看護夫、病人、警官と囚人、軍隊まで我先に犯人めがけて走り出し、町は大暴動!!! と、ちょっとしたスペクタルに展開。教訓映画らしく、「こんな風にならないよう、世の殿方たちは奥様たちを愛してごらん遊ばせ」とレーカーが観客に向かって語りかけてエンド・クレディット。
ボリウッドでは若手が最先端の映画作りを試みる一方、老舗のフィルムメーカーたちが思いも寄らないローカリーな映画を今も作り続けている。まだまだボリウッドの繁栄は続きそうで、そんな感慨にも耽られる、愛すべき小品である。
*追記 2006.04.30
本作のタイトルは、若きキラン・クマール主演「Aaj Ki Taaza Khabar」(1973)の浴室ナンバー「mujhe meri biwi se bachaao」からのイタダキ。浮氣が発覚し、妻役ラーダー・サルージャーが荷物を出てゆこうとする時にキランが歌う設定。浮氣そのもののシチュエーションは、「Haan..Maine Bhi Pyaar Kiya(はあ、私も愛を知りました)」(2002)に継承されている。
*追記 2010.11.26
>ハリー・バウェージャー
「What’s Your Raashee?(君の星座は何?)」(2009)のハルマーン・バウェージャーが息子。本作の後も「ザ・ロック」のイタダキ「Qayamat(破滅)」(2003)を監督。
>スマン・ランガーナタン
その後もマイナー映画に出演し続け、Tシリーズのヒンドゥー寺院巡礼紀行「Yatra(旅)」シリーズで案内役を務め、美しいサリー姿を披露している。