Phir Milenge(2004)#119
Phir Milenge(また会おう) 06.09.13 ★★★
ピル(フィル)・ミレンゲー
製作:パーフェクト・ピクチャー・カンパニー/監督・脚本:レヴァティー/脚本開発:アトゥール・サバルワル、アディティ・マキム/脚本・台詞:アトゥール・サバルワル/撮影:S・ラヴィ・ヴァルマン/作詞:プラスーン・ジョーシー/音楽:シャンカル-イフサーン-ローイ/音楽・背景音楽:バヴァター・ラージャー/美術:セルヴァ・クマール/美術相談:サブー・シリル/編集:アシュウィン・ラーマナタン/音響:デーパン・チャッタルジー
出演:シルパー・シェッティー、サルマーン・カーン、アビシェーク・バッチャン、ナースィル、ミーター・ワシシュト、故サマヤジュルー、ラージャー・クリシュナムールティー、カーマリニー・ムカルジー
公開日:2004年8月27日(年間44位/日本未公開)
Zee Cine Awards:助演男優賞(アビシェーク・バッチャン)
STORY
アート・ディレクターのタマンナー(シルパー)は、10年ぶりにNYからローヒト(サルマーン)が帰国したのを知り、母校を訪ねる。7ヶ月後のある朝、交通事故を起こした妹へ輸血をしたことから、彼女はHIVに感染していたことを知る。そして、不当解雇された会社を相手取って裁判を起こすが・・・。
Revie-U *結末にやや触れています。
アイシュワリヤー・ラーイに捨てられ、自暴自棄となったサルマーン・カーンがなりふり構わず出演したAIDS映画・・・
ではなく、主演は恋人役のシルパー・シェッティーの方。通常、ボリウッド映画のクレジットは男優が優先の年功序列式となっているが、本作の監督レヴァティーがタミル映画界の女優ということもあってか、シルパーが助演のアビシェーク・バッチャンを差し置いてのトップ・ビリングとなっている。
シルパー演じるタマンナーは、バンガロールの広告代理店TJアソシエートに勤めるアート・ディレクター。彼女はメイン・クライアントである自転車会社BSAの広告をチームを率いて担当し、その仕事は業界の賞をもたらす。オーナーのTJからも信頼され、彼は少女時代に両親を失っているタマンナーにとって父親のような存在であった。
そんなある日、学生時代に想いを寄せていたローヒトがNYより一時帰国した知らせが届く。タマンナーはTJに休暇をもらい、彼が滞在する母校・芸術演劇専門学校を訪ねる。
インドにはFTII国立映画テレビ専門学校(プーナ)やタミールナードゥー州立映画テレビ専門学校(チェンナイ)があるが、本作に登場する専門学校はこれにアート学科が加わり、南インドの豊かな自然の中で伸び伸びとアートを学ぶことが出来るアーシュラムのように描かれている。短い出演ながら恩師役の故サマヤジュルーのたたずまいから、インド伝統の師弟関係を活かした修学スタイルであることが見てとれる。
再会したローヒトはNYの生活に疲れたのか、どこか氣怠げでミステリアスな雰囲氣を漂わす。
その晩、仲間に乞われてローヒトが歌う弾き語りナンバルが「jeene ke ishaare」(シャンカル・マハーデヴァン)。爽やかなメロディーは耳によく残り心地よいだけでなく、重くなりがちな本作に軽やかな風を送り一服の清涼剤となっている。
タマンナーはローヒトとの短い<逢瀬>を楽しんだ後、仕事に戻るが、別れ際、彼がボールペンを取り出し、彼女の腕に連絡先を書き記す。これを、彼女は自宅に戻ってからなにげなくシャワーを浴びて洗い流してしまい、大いに悔やむのだが、悔やんでも悔やみきれない事態になろうとは・・・。
7ヶ月後、前途洋々に思えた彼女の人生が奈落に落ちる。
地元のFM局へバイクで通う妹が事故を起こし、タマンナーの輸血からHIVポジティヴであることが判明するのだ。彼女自身は輸血経験がないことから、感染経路はただひとつ。一夜の契りを結んだローヒトであった。
この時の担当医、Dr.ラーイスィンを演じているのが監督のレヴァティー。
ケーララ州出身で、南インドの諸映画でキャリアを積み、数々の映画賞を受賞。「Thevar Magan(指揮官の息子)」(1992=タミール)ではナショナル・アワード銀蓮賞助演女優賞に輝き、本作はヒングリッシュ「Mitr,My Friend」(2002=英語)に続く監督2作目。
マニ・ラトナムの「ザ・デュオ」Iruvar(1987=タミル)ではプラカーシュ・ラージの妻を演じていた。近年はナーナー・パーテカル主演「Ab Tak Chhappan(今まで56人)」(2004)で彼の妻役や「Nishabd」(2006)などラーム・ゴーパル・ヴァルマー作品に出演。シルパーとは「Darna
Mana Hai」(2003)で共演済み。
それまでのしっとりとした空氣を掻き乱す?のが、中盤から出演の弁護士タルン・アナン役のアビシェーク。万年敗訴の三流弁護士だったところ、珍しく勝訴を勝ち取った矢先の依頼人が不当解雇からTJアソシエートを告訴しようとするタマンナー。
だが、彼女がHIV保持者と知るや、専門外という理由で依頼を断ってしまう。そればかりか、すぐさま友人の医師に診察を受ける始末。
ここでHIVが容易に感染しないことを諭された彼は、後日、法廷で自力で提訴しようとするタマンナーをみかけ、依頼を引き受ける。
アビシェークはこの年、「Yuva(若さ)」(2004)でFilmfare Awards助演男優賞、本作でもZee Cine Awards助演男優賞を受賞し、役者として急成長したが、法廷での登場シーンではいささか、それまでのうだつのあがらない印象が拭えない。この煮え切らないところが、重くなりがちな映画のトーンに明るさをもたらしており、怪我の功名?
法廷場面もふんだんにあることから印象は弱くないのだが、キャラクターとしてはいささか単調。これは脚本の不備でもあるだろう。NYに長く暮らしていた程度にしか背景が説明されないローヒト役のサルマーンと比べて、アビシェーク自身の役者としての(あるいは人生の?)奥行きが足りないことが演じる人物を淡泊なものにとどめているように思える。
無論、この逆の配役では不成立であろうが。
タルンの相談者となるのが、かつて彼が教鞭を受けていた大学の恩師。扮するナースィルは、先の州立映画テレビ専門学校の俳優コース出身で、「ロージャー」Roja(1992=タミール)、「ボンベイ」Bombay(1995=タミル)はじめマニ・ラトナムの信頼も厚く、他に「インディラ」Indira(1996)、「ジーンズ」Jeans(1998=タミル)など日本公開作の多くにも出演。
ヒンディー作品には、タミル映画人による「Dil Hi Dil Mein(心は心に)」(2000)、カマル・ハーサンの「Chachi 420(偽おばさん)」(1998)、「Hey Ram!(神よ!)」(2000)に出演。「Mumbai
Express」(2005)のタミル・バージョンではオーム・プーリーの演じたACP役にキャスティングされている。
今回は白い顎髭を蓄えての役作りで、タマンナーとのはじめの面談で厳しい状況を説明しながらも、それまで誰も握手を受けようとしなかった彼女の手に手を添え、勇氣づける温かみを見せる。
もっとも、バンガロールを中心に撮影されたため、ヒンディー吹き替え版では彼含め南インドの役者はアテレコされており、違和感が残るのが否めない。
後半はそのほとんどが裁判シーンとなる。起訴大国アメリカほどではないにしろ、インド映画には実に法廷シーンが多く、その割合は旧宗主国イギリスを上まわるのではないだろうか。
ここで敵役として登場するのが、TJの顧問弁護士カルヤーニー。扮するは、「ディル・セ」Dil
Se..(1998)のミーター・ワシシュト。「Ghulam(奴隷)」(1998)に続く弁護士役だ。その威風堂々とした芝居は彼女が演じる役柄が厳しい戦いを勝ち抜いてきたことを告げる。監督のレヴァティーも、心情的にカルヤーニーへ入れ込んでいたようにさえ思えるほど。であるからして、買春マダムを演じた「Oops!」(2003)などB級作品への出演が惜しまれる。
サルマーンの出演パートは前半の早いうちと後半の短いシークエンスに限られるが、その抑えた芝居は彼ならでは。とは言うものの、AIDS役としては悲壮感が痛々しかった「めぐりあう時間たち」(2002=米)のエド・ハリスに比べるべくもないが。
クレジットは役名付きのラスト・ビリングで特別出演扱いであるものの、パブリシティ・デザインでは彼が全面に出ていて、「Shakti(力)」(2002)のシャー・ルク・カーンと同じく、スターヴァリューがそのまま反映されている。
シルパーはと言うと、HIVに感染しながらも人生を果敢に生きようとするタマンナー役を好演。不当解雇を提訴する役柄は、かつてアクシャイ・クマールとのゴシップを書き立てた「Stardust」誌相手に勝訴したシルパーにはうってつけ?
彼女は、Filmfare Awards、Screen Awaeds、Zee Cine Awardsで主演女優賞にノミネートされ、メジャー女優として大きな飛躍を勝ち取るかに見えたが、機運は上昇中のアビシェークに流れたようで受賞には至らず。「Rishtey」(2002)でもFilmfare Awards助演女優賞、Screen Awardsコミックロール賞にノミネートされながらこれを逃していたので、大いに残念がっていた。
サルマーンとは「Garv」(2004)でも共演しているが、本年になって公開された「Shaadi Karke Phas Gaya Yaar」(2006)も撮影は2004年以前であるので、 この時期、サルマーンとの共演が3本も重なっていたことになる。
一方、本作に厚みをもたらしているのは、タマンナーと後に対立することとなるTJ役のラージャー・クリシュナムールティーだろう。
はじめは娘のようなタマンナーに信頼感を抱いていたが、彼女の感染を知らされるやHIVに関する無知や育て上げて来た自分の会社への愛着のために彼女を解雇するものの、内心は良心との板挟みになっている様や、示談交渉の席で見せる心を読まれまいとする微妙な表情を巧みに表し、感嘆させられる。
レヴァティーの演出は、タマンナーとローヒトの別れ際のやりとりや、続く、連絡先を洗い流して慌ててバスルームから飛び出してくるシークエンスなど好ましい面もあるが、全体的な統合には弱さを見せ監督としての力量不足が伺われる。
今回、脚本チームを組んで「Screenplay Development」なるクレジットを用意し自らもこれに加わっているが、結婚の契りを交わしたローヒトのアドレスを失ったタマンナーがそのまま半年も過ごしてしまうというのも解せない話であるし、NYへ渡ったローヒトが愛の漂泊者として日々を浪費したのも10年前にタマンナーが彼女の心を明かさなかったから(それ故、感染は彼女のカルマ?)となっていて、あまりにもナイーヴ。
下敷きにした「フィラデルフィア」(1993=米)を意識するあまりか、不当解雇された勤め先を訴える裁判に重きが置かれてしまい、彼女自身の治療は描かれていないだけでなく、本作では宗教性がまったく削ぎ落とされているため、やはりインド映画として物足りなさを感じる。
裁判は敗訴し、これを不服とするタルンが最高裁に提訴するのだが、終盤、余命幾ばくもないローヒトの居所が判明し、彼は彼女の腕の中で息を引き取る。ここに来て不当解雇の裁判自体は、タマンナーにとって、また映画のエモーションからも外れたものとなってしまう。
にも関わらず、最高裁でタルンがHIVに対する見識をもっともらしく説くシークエンスが付け足されているため、浮ついた印象が拭えない。
HIV(Human Immunodeficiency Virus)に感染すると、半月程度で微熱や倦怠感などの症状が起きるが、やがて無症候期へ入り、5〜10年の潜伏期間を経て、AIDS(Acquired
Immune Deficiency Syndrome-後天性免疫不全症候群)となる。
妹の事故から採血することになり、早期にHIV感染を知ることが出来たタマンナーは不幸中の幸いだったといえよう(これが感染間もなければ、検査をすり抜けるウインドウ期間にあたり、妹もHIV感染してしまったであろうから)。
彼女はこの不運を乗り越え、アート・ディレクターとして名を成してゆくエンディングとなっている。AIDS患者として他界したロヒトの状況とは異なり、発病を遅らせる薬品も開発されている現在、タマンナーは(治療費用が捻出できる限り)比較的健康を維持したまま生きてゆけるはずであるが、そのあたりが描かれずに終わっているのはまことに残念である。
*追記 2007.12.13
ひと足先にHIVを題材に作られたのが「Nidaan(診断)」(2000)。12年生(高校3年)の試験を控えた女子高生が献血からHIV感染、そしてAIDSに至る90分の小品。監督は、近年はゴロツキ俳優として売れてしまったやくざなマヘーシュ・マンジュレーカル。主人公の両親をその後にすっかりマンジュレーカル組となるシヴァジー・サータムとリーマー・ラグーが好演。幾分、AIDSの啓蒙映画として作られた感が否めないが、ドラマとしてほどよく構成されていて、同じ年にリリース(封切)された「Asitva(存在)」(2000)が舞台用脚本然としているのとは異なる。
主人公の少女がサンジャイ・ダットの大ファン、ということで、終盤、彼自身役で登場。リリース年は2000年だが、サンジューの髪の長さからすると「Dushman(敵)」(1998)の頃だろうか。この設定からして、半分以上はマヘーシュのサンジュー・ババに対するラヴコールのようでもあり、やがてサンジュー主演を勝ち取る「Vaastav(現実)」(2000)に結実。ちなみに、フィルムシティで撮影中の劇中映画は「Nayak No.1(英雄No.1)」というのがいじらしい。
主人公ソーミヤーに扮するのは、業界紙Screen Awardsの<最も約束された新人女優賞>にノミネートされたニシャー・バインズ。もっとも、受賞を逃しただけにその後のメジャー映画出演はなし。マヘーシュ自身はこの作品では姿を見せていないが、ソーミヤーの夫となるスニール・バルヴェーにマヘーシュの面影が見て取れ、フランソワ・トリュフォー的キャスティングであろうか。
*追記 2010.11.24
>シルパー・シェッティー
ヒロイン女優として期待されながら、ゼロ年代の映画キャリアは「Life in a…Metro」(2007)が代表作で終わったシルパー。もっとも英TV「Big Brother」出演において差別発言を受けたことやリチャード・ギアからステージ上で抱擁されたことからその知名度は国際的にぐっとアップし、ボリウッド・ミュージカル「ミス・ボリウッド」の海外公演などそれなりの成果を得ている。
久々の映画出演がインド・中国交流のアート系映画「The Desire」が進行中。音楽はA・R・ラフマーンとシャンカル-イフサーン-ローイとのこと。共演は「ドラゴン・スクワッド」のシア・ユイ(夏雨)で、シルパーの役どころはインド古典舞踊の踊り手というだけに楽しみ。