Tumko Na Bhool Paayenge(2002)#111
Tumko Na Bhool Paayenge(君を絶対忘れない) 02.08.13 ★★★☆
トンコー・ナ・ブール・パーイェンゲー
製作:ゴールダーン・タンワーニー、アジャヤ・アチャルヤー/監督:パンカジ・パラーシャル/ストーリー・脚本・台詞:ルミー・ジャフリー/撮影:トーマス・ゼーヴィエル/詞:スダーカル・シャルマ、ジャリーズ・ラシード、サリーム・ビジュノーリー/音楽:サジード-ワジード、ダブー・マリック/背景音楽:スリンデール・ソーディー/振付:ファラー・カーン/美術:R・ヴァルマン/アクション:マヘンドラ・ヴェルマー/編集:スリニワス・パトロー
出演:サルマーン・カーン、スシュミター・セーン、ディヤー・ミルザー、シャラート・サクセーナ、パンカジ・ディール、ムケーシュ・リシ、ガジェンドラ・チョハーン、アンジャン・スリワスターワ、アロークナート、ラザック・カーン、ラージパール・ヤーダウ、スミート・パターク、ニシガンダー・ワド、ガルギ・パテール、インデール・クマール
友情出演:アルバーズ・カーン、ジョニー・リーヴァル
ゲスト出演:サダーシヴ・アムラープールカル、アニル・ナグラート
公開日:2002年2月22日 (上半期トップ8→年間18位/日本未公開)
STORY
ヴィール(サルマーン)は、ラジャスターンに暮すタークルの一人息子。恋人ムスカーン(ディヤー)との結婚も決まり、何不自由ない幸せな日々にあった。しかし、ヴィールは、何者かに追われる幻覚をしばしば見るようになる。そして、結婚式の当日、荒くれたアンダーワールドの連中が乗り込んで来て・・・。
Revie-U *「真相」には触れていません。
まず、ヴィールを取り巻く人々を紹介しておくと、父親タークル・プラタップ・スィン役にシャラート・サクセーナ。ヴィールに強く育って欲しいと毎朝、卵4個に搾りたてのミルクを飲ませ、親子でジョギングするものの、音を上げるのはヴィールの方。祭の行事で行われるレスリング大会では、なんと自ら土俵に上がってしまう! それだけに、彼の息子を想う深い父性愛は胸を打つ(近年の日本では映画も含めて、とんと見かけなくなったタイプだ)。
年下の妻役は、ニシガンダー・ワド。初老のシャラートに比べ、かなり若くて美しい母親である。
恋人のムスカーンには、「Deewanapan(恋狂い人)」(2001)にも出ているミス・アジア・パシフィック2000のディヤー・ミルザー。美人は美人だが、アイシュワリヤー・ラーイをマイルドにした顔立ちで、声*もアミーシャー・パテールそっくりと個性に欠けるのが難点。
そんな彼女が祭りの記念写真屋で飛び上がって喜んだのが、リティク・ローシャンのパネル・コーナー。一方、サルマーン・カーンの横にはアイシュのパネルが置かれ、走り去るディヤーを追うため「ごめんよ、一緒に写れなくて」などというジョークが用意されている。
これに、明るい使用人のララン(ラージパール・ヤーダウ)が加わる。ヴィールの性格も慎ましい好青年とあって、さながらスーラージ・R・バルジャーツヤー作品に登場するプレームである。
そんなヴィールを、時より不吉なフラッシュバックが襲う。
きっかけは、祭で開かれたレスリング大会。土俵に上がったプラタップ・スィンが危うくなるや、ヴィールは我を忘れて飛び出し、相手のレスラーを絞め殺す勢い!
「Hum Saath Saath Hai(みんな一緒に)」(1999)の世界から一転、「Karan Arjun」カランとアルジュン(1995)にシフトする(狙ったわけではないだろうが、プラタップと闘うレスラー役は、カジョールのボディガードをしていた大男)。
ここで、ヴィールたちはヒンドゥー聖者のところへ前世占いに行くのだが、登場するのは、なんとジョニー・リーヴァル扮するインチキ・ババ。しかも「カランとアルジュン」のトランス系スタンダップ・コメディを始めてしまう!!!(ラーキーの物真似があったりして可笑しい。おまけに見料をディスカウントしてくれる)
この話を当然プラタップは信じない。しかし、ヴィールは自分の体にある弾痕を見つける。果たして、本当に輪廻転生なのか?!
すると結婚式の最中、銃を隠し持ったむさ苦しいロン毛の男たちが現れてヴィールを押さえ込む。母が手をかけそうとなると、ヴィールの怒りが爆発! ここでも、あっと言う間に男たちを倒し、それだけでは飽き足らず拳銃を奪って射殺に到るのだ。
プラタップがレスリングで負けそうになった時もそうだったが、ここでもオームのペンダントヘッドやマントラのBGMで強調される。
サルマーン本人はムスリムなのだが、ヒンドゥーのヒーローを演じることに慣れっこなのだろうか、などと想ってしまう。
襲って来た男たちは、ヴィールが行ったことのないはずのムンバイーのマフィアであった。それが何故、彼を襲ったのか?
やはり「カランとアルジュン」なのか??
ここでプラタップが「実は、おまえはワシの息子ではない」と宣言し、意外にも「家族の四季」Khabhi Kushu Khabhie Gham…(2001)的展開へ!!
いや、プラタップの息子ヴィールは確かにいた。ところが、軍隊の休暇で戻って来た途端に出兵が決まり、そのまま還らぬ人となったのだった。
この実の息子のヴィールを演じるのが、なんと「友情出演」のアルバーズ・カーン!!! これにはウルトラCの驚きであったが、同じ兄弟でも登場するだけでガクンと映画の空気が落ちてしまい、二度驚かされる。
続く葬儀の回想シーンで、荼毘に付されたヴィールの遺骨をヒンドゥーのしきたりに則ってプラタップが川へ流したその時、水面から浮かび上がったのが銃弾に傷ついた、もう一人のサルマーンであった。
これをプラタップたちは息子の生まれ変わりとして受け止め、愛を注いで一緒に暮していたわけである。が、葬儀に出席していたムスカーンたちもこれを知っていて、皆で知らないふりをしていたのだった。
後半は、ムンバイー篇「自分探し」の旅となる。
失われた記憶のフラッシュバックに彷徨い疲れたヴィールの見る幻想ミュージカル・ナンバルが「kya hua tujhe」。この中でヒロインが、昼のムスカーンから夜のメークにバトンタッチされる。扮するスシュミター・セーンは元ミス・ユニヴァースだけあって、さすがにスケール感がぐっとアップ。
そして、「義母」の祈りがヴィールをモスクへと導き、やがて「彼」がムスリムの青年アリーだったことが判明。
射撃チャンピオンのアリーは、ボンベイ特捜部のシャルマーからマフィア殲滅のオファーを受けていた。親しいチャチャ(おじさん)がアンダーワールド(マフィア)に殺されると、マフィア狩りを行う。だが、チーフ・ミニスター暗殺の汚名を着せられた上、ラージャースターン行きの列車で何者かに撃たれたのだった・・・(この先は、一応伏せておきます)。
後半のサポーティングには、マフィアに殺されるムスリムのチャチャ役にアロークナート、アリーの親友インデールに「Baaghi(反逆者)」(2000)のインデール・クマール(発音はインダールに限りなく近い)。
お馴染みラザック・カーンも今回はムスリム役とあって、どこか楽しげだ。
アリーとインデールにマフィア狩りを誘うコモン・コミッショナー・シャルマー役にムケーシュ・リシー。例によって、見当違いの捜査でアリーをCM(チーフ・ミニスター)暗殺犯として追い、彼から真相を聞かされればすんなり信じてしまうところがムケーシュらしくてよい。さらに、ムスリム・コミュニティーのパーティーではダンスも披露!
そして、胡散臭いHM(ホーム・ミニスター)役に定番アンジャン・スリワスターワ。暗殺されるCM役にサダーシヴ・アムラープルカルがゲスト出演、と脇役ファンには堪えられない布陣だ。
ストーリーは「ロング・キス・グッドナイト」(1996=米)の焼き直しということだが、サルマーンを主役に据えたところがポイント。やはり「カランとアルジュン」を彷彿とさせる仕掛けに負うところ大きい。
サルマーン自身もアクションに燃えていて、10mはあろうかという断崖からの水中ダイヴ(負けじとシャラートも続く!)、20mはあろうかというビルの屋上からのリペリング降下、疾走する列車に飛び乗るなど、ボリウッドならではの吹き替えなし!! ラストの肉弾戦では、筋肉スターの本領を見せつける。
加えて、一連のプレーム的ナイーヴさもあって、まさに一粒で二度おいしいサルマーンである。
ルミー・ジャフリーの脚本は、フラッシュバックに戸惑う前半がややダレ気味。
監督パンカジ・パラーシャルの演出は今一つだが、サルマーンの友人であるアクション監督のマヘンドラ・ヴェルマーが氣を吐いた殺陣をみせる。
サジード-ワジード、ダブー・マリックの音楽は、まずまず。ファースト・ミュージカル・ナンバル「bindiya
chamke 」におけるラージャースターンのロケーションは、スイスやニュージーランドに勝る美しさであるし、ヒンドゥー・パーティーばかり見せられるボリウッド映画にあってムスリム・コミュニティーにおけるダンス・ナンバー「mubbarak eid mubbarak(おめでとう、イード祭)」は珍しくて興味深い。
反面、結婚式ナンバル「mehndi hai lagi mere hatho mein」での若手男性バックグラウンド・ダンサーが一様に茶髪なのが興醒めであるが。
ところで、本作最大の見どころは、モスクで祈るサルマーンの姿だろう。
手足、口や鼻を清め、敬虔にクルアーン(コーラン)を唱えるシーンが丹念に紡ぎ込まれている。続く回想シーンで「ムスリムを演じるサルマーン」を見るのもなんとも不思議なものだ。
しかし、考えてみると、本来ムスリムながらずっとヒンドゥーを演じて来たサルマーンだけに、「ヒンドゥーだと思っていたら実はムスリムだった」ヴィールに相応しく思える。
ここで思い出されるのが、製作プロダクションがBABA FILMSということだ。そう、冠についいてるBABAとは、シルディー・サイババなのである。彼はヒンドゥー行者のように見えながらモスクに住み、彼を篤く慕うムスリムからもヒンドゥーからも「どちらか」生涯判断がつかなかった聖者として知られる(本作で見るようなレスリング大会を祭の日に開いたという)。
そんなことあってか、クライマックスで悪を打ち倒すヴィールの首にオームのペンダントとムスリムのお守りがぶら下がり、クルアーンとヒンドゥー・マントラが重なって被さる。
もっとも、ムスリム原理主義者はこれを嫌がるだろうし、ジョニー・リーヴァル扮するインチキ・ババのキャラクターにはヒンドゥー原理主義者が憤慨するだろうが、そういう意味で本作はシルディ・サイババ的確信犯と言える。
*追記 2007.01.01
負傷し記憶を失った状態で助けられ、我が子として育てられながらある日、本来の記憶を取り戻し、自分探しの旅へ出る設定は、若きアミターブ・バッチャンとレーカーが共演した「Do Anjaane(知られざる者ふたり)」(1976)からの継承。ふたりの役名がアミット、レーカーというのも、今となっては意味あり氣である。アミターブが「Don(ドン)」(1978)に先駆けて、庶民の青年と富豪の養子というダブル・ロールを好演しているのも見物。
*追記 2010.11.16
>アルバーズ・カーン
初プロデュース作「Dabangg(大胆不敵)」が2011年トップ1ヒットに。本作にアルバーズが配役されているところからもサルマーンの兄弟思いが見て取れる。
逆にアーミル・カーンは兄弟との共演は1作のみ、アニル・カプールは愚弟サンジャイと共演なし、という例もある。
>ディヤー・ミルザーの声*
女優のデビュー作で多いアテレコのため。ちなみにアミーシャー・パテール自身はデビュー作「Kaho Naa…Pyaar Hai(愛してるって…言って)」(2000)では地声。
>レスリング
「インド相撲」とも紹介される「クシュティー」。競技者は、ハヌマーン神(猿人の神様)を祀る。身体を鍛えるため野球のバットを巨大にしたような物を片手で振り回す姿が映画でしばしば見られる。
ちなみに「たとえ明日が来なくても」Kal Ho Naa Ho(2003)でシャー・ルク・カーンの伯父を演じたダーラー・スィンはインド・レスリングのチャンピオンで、現役選手の頃、日本にも来日し力道山の対戦相手として知られ、TV「マハーバーラタ」ではハヌマーン役で出演している。