Kites(2010)#107
「Kites」★★★★★
(ボリウッド・バージョン)カイト
原案・製作:ラーケーシュ・ローシャン/共同製作:スネイハー・ローシャン/脚本・監督:アヌラーグ・バス/脚本:ロビン・バット、アーカーシュ・クラーナー/台詞:サンジーヴ・ダッタ/撮影監督:アヤナンカ・ボース/作詞:ナースィル・ファラーズ、アーシフ・アリー・ベイグ/音楽:ラージェーシュ・ローシャン/振付:フレクシー・ストゥ、サンディープ・ソパルカル/背景音楽:サリーム-スレイマン/衣装監督:スニート・ヴェルマー/プロダクション・デザイン:ラジャト・ポッダル/アクション:スピロー・ラザトス、シャーム・コゥーシャル/VFX:レッド・チリース・VFX/編集:アキーヴ・アリー
出演:リティク・ローシャン、バルバラ・モリ、ニコラス(ニック)・ブラウン、カビール・ベディ、マードゥリー・バーティア、アナン(アーナンド)・ティワリ、ユーリ、ボブ・ブラハマバット
ゲスト出演:カングナー・ラナウト
公開日:2010年5月21日(年間8位)/2011年3月13日 大阪アジアン映画祭上映/130分
STORY
ラスヴェガスのサルサ・インストラクターJ(リティク)、裏の商売は市民権所得のための偽装結婚屋。色仕掛けで迫ってきたジーナー(カングナー)を冷たくあしらうものの、彼女の両親が富豪と知って手のひらを返したように近づく。早々、彼女の兄トニー(ニコラス)の結婚式に招かれ、ダイビング中にその妻ナターシャ(バルバラ)を見かけ強く惹かれる。だが、ジーナーの一家は暴力を厭わぬカシノ王で…

(c) Film Fraft, 2010
Revie-U
5月28日、全米公開されるや、オープニング週の全米チャート・トップ10にランク・インした本作。無論、<インド映画>では初の快挙だ。
製作はリティク・ローシャンの父ラーケーシュ・ローシャンで、監督は「Gangster」(2006)、「Life in a …Metro(大都会)」(2007)で名を売った俊英アヌラーグ・バス。作品傾向からリティク主演作としてどうなるか懸念されたが、これがなかなかの秀作に仕上げられている。
路上で海賊盤DVDをも売るチンケなダンサーJは、その実、偽装結婚屋。金の臭いを嗅いで富豪の娘に接近するが、本当に恋に落ちたのは、彼女の義姉となる美しきメキシコ女性。彼女こそ、Jが偽装結婚したリンダであった(ナターシャは偽名)。夫のトニーはイカサマ野郎は絶対に許さない残虐な暴力癖とあって、Jとリンダは命がけの逃避行となる。
乾いたネヴァダの風景でハードなカー・スタントを展開させながらも、フラッシュバックを多用した脚本術からアヌラーグは彼らしいリリカルな情感を持ち込み、ボリウッドらしからぬ、切なく胸に染み入るーそしてトリッキーなーエンディングへと導く。人妻ナターシャとJが肌を重ねかける彼女の結婚前の安モーテルが、「Metro」において人妻シルパー・シェッティーを招き入れた演劇青年シャイニー・アフジャーの自室に重なるセット設計となっているのが意味深。

(c) Film Kraft, 2010
10年代の次なるステップを踏み出すリティクにとっても、鮮烈デビューを飾った「Kaho Na…Pyaar Hai(言って…愛してるって)」(2000)を随所に感じさせ、海の底に散った「KNPH」のアナザー・ストーリーとも読めるのが嬉しい。
もっとも、2000スクリーンで拡大公開されたインド(ヒンディー)版でも、いわゆるダンス・ナンバルは1幕目の1曲「fire」しかなく、その楽曲もバックスコア風。作品全体のテイストもいつものボリウッドとは一線を画するだけに日本のファンには期待とそぐわぬ向きもあろうが、むしろ現代インドの観客にとって、この傾向の方が新時代を予感するだろう。

(c) Film Krafts, 2010
本作でワールド・デビューを果たしたメキシコの人氣女優バルバラ・モリ(森)は、なんと日本人の血が入ったクォーター。海中での初登場場面で見せる優美さからも「ボリウッド女優」としての風格と愛らしさを持ち合わせている(TV女優の妹ケニヤは、より日本人顔ながら性格はラテン系)。出演がよほど嬉しかったのか、ロンドンやNYのワールド・プレミアでもかなりハイになっていた様子。
サポーティングは、キレ者トニー役にオーストラリアで活躍する俳優兼歌手のニコラス(ニック)・ブラウンを登庸。
余談だが、彼出演のインド・モトローラCFは、新婚初夜、飾り付けたベッドで手持ちぶさたの新郎新婦が祝い物でもらった携帯を取り合ううちにヒートアップしてベッドがギシギシと鳴り出し、階下では家族が…という日本のCFではちょっと考えられない爆笑物。
トニーとジーナーの父役として「007/オクトパシー」(1983)、「Main Hoon Na(私がいるから)」(2004)のカビール・ベディが出演。国際派俳優としてヴェガスのカシノ・オーナーを風格たっぷりに演じている。
また、「What’s Your Raashee?(君の星座は何?)」(2009)でコワモテ兄貴役だったユーリが本作では近所のよしみでJに氣を配る運転手ジャマール役としてちらりと登場。
そして、ゲスト出演のカングナー・ラナウトを妹ジーナーに配役。アヌラーグ・バスの監督作や「Fashion」(2008)などでアル中・不倫で自殺未遂・ヤク中で路上死とすっかりネガティヴな色がついてしまっており、本作でもサイコなキャラクターとして登場しスリリングな効果を添えている。
新作「Once Upon a Time in Mumbaai」(2010)では、60年代のスレンダー女優サイラー・バヌー風メイクで別人に見える場面も。出演作のオファーも多く、これから再浮上してほしいところ。

(c) Film Kraft, 2010
本作はリティク一家のホーム・プロダクトで、父ラーケーシュが原案・製作、共同製作に姉のスネイハー、音楽監督はリティクの伯父ラージェーシュ・ローシャンとなっている。
本作ではリティクが挿入歌「kites in the sky」を初のセルフ・プレイバック。南ア開催「Now or Never 2」では調子っぱずれだったが上達し、甘く清涼感のある歌声が実に心地よい。これで真の<歌って踊れるボリウッド・スター>と言えよう。
また背景音楽は「Krrish」(2006)に続き、サリーム-スレイマンが起用され、グレードの高いスコアを提供している。
全米公開された英語版は「ラッシュアワー」の監督ブレット・ラトナーによって90分に再編集されたバージョンで、タイトルも「Kites : The Remix」と謳われている。全米トップ10は、まぐれ当たりではなく北米市場を狙ったボリウッド上陸作戦の緒戦に過ぎない。
なにしろ、配給は、スピルバーグのドリーム・ワークスにも多額の投資をし、英米の映画館を買い占め展開しているリライアンスBIGエンターテイメントだ。
Fox系で全米公開されたシャー・ルク・カーン主演・製作「マイ・ネーム・イズ・ハーン」My Name is Khan(2010)がアフリカ系米人キャストを多用し非インド系米人にもアピールしていたように、本作ではヒロインにメキシコの人氣女優バルバラ・モリを起用し、劇中も米国内で英語を脅かすと言われるスペイン語台詞が多く使われ、ヒスパニック系米人を取り込もうという思惑。もちろん、2050年にはGDPが世界第5位と予想されるメキシコの経済成長を視野に入れてのことだろう。単に国内での話題性を狙って映画祭出品している邦画とは次元が大きく異なる壮大な計画と言える。
*なおDVDのジャケットに「PAL」表示とあるが、米市場対策用の「なんちゃってPAL」のため、中国製プレイヤーやPCでの再生は可能。環境が整っている人は、迷わずどうぞ。
衝撃のラストに触れてゆきます
「I am going…Sorry. Forgive me」
銃弾を浴び、瀕死の重傷を負いながらも、ひと目逢わんと彼女を捜すJ。
みつけ出したモバイルに残されていたのが、先のメールだ。
フラッシュバックで構成されたストーリーが謎を呼ぶ。
金を目当てにカシノ王の息子と結婚した彼女だから、やはり貧しいJを見限ったのか?
その謎を解き明かす存在が、トニーの運転手ジャマール。
いかつい顔のユーリを配役しているのが隠し味で、彼が主人に逆らってまでJに親身であるのは、彼がJと同じダウンタウンに暮らし似たような境遇であることが暗に示されている。
Jはジーナーに取り入りカシノを営む富豪入りを狙うが、ヴェガスの闇に根付いた父子は残虐を厭わぬ血筋。Jとリンダが心惹かれ合ったのも、ジャマールが新参者のJに手助けをするのも、この汚れた富豪の世界に馴染めぬ出自のためだろう。
深夜、裏路地にギャングの兄らに囲まれるクライマックスは、リティクのデビュー作「Kaho Naa…Pyaar Hai」の構成を下敷きにしたヴィクラム・バット監督作「Aap Mujhe Achche Lagne Lage(君は僕を好きになる)」(2002)のそれを彷彿とさせる。
(ただし、闇の中、効果音をオフにし銃火だけが光るスタイルは「ソナチネ」か)
この時、トニーを殴り倒すJに銃弾を撃ち込む女のシルエットから、リンダが裏切ったのか?と思わせる仕掛けが施されている。
すでにJはジャマールよりリンダの「その後」を聞かされているが、台詞がオフになっていて観客には明かされず、この一瞬のトリックがエンディングの哀愁をさらにかき立てる。この脚本術には唸る他ない。
実は、メキシコでトニーらに追い詰められた時、負傷したJを助けるため、囮(おとり)となって逃げたリンダはトニーの追撃をかわせず、断崖からクルマごと海へと飛び込み帰らぬ人となっていたのだ。
最後にアクセルを踏む前に送ったメールが、あの「I am going…Sorry. Forgive me」であった。
Jは、その断崖にたどり着き、ひとり後を追う。
糸の切れた凧は空を舞うことなく、海の底へと沈み、そしてリンダの魂と寄り添う。
ちょうど10年前、デビュー作「Kaho Naa…Pyaar Hai」の前半で海底に散ったローヒトの、もうひとつのラヴ・ストーリーであるかのように。

(c) Film Krafts, 2010
新規となる北米市場を配慮したためか、「Koi…Mil Gaya(誰か…みつけた)」(2003)で解禁したリティクの6本指はまたも封印。
脚本及び英語台詞は、「Koi…Mil Gaya」&「Krrish」で校長を演じたアーカーシュ・クラーナーが担当している。
本作のアナウンス当初は、アヌラーグ・バスが毎回フィーチャルしていたバングラデーシュのバウル・ロッカー、ジェイムズがプレイバックに起用される予定だったが、叶わず。
★2011年3月13日(日)、大阪アジアン映画祭(ABCホール)にて本作のボリウッド・バージョン「Kites」(2010)が「カイト」の邦題で上映。詳細はインフォメーション・ページ、または公式サイト http://www.oaff.jp/index.htmlにて。
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