Tere Bin Laden(2010)#092
「Tere Bin Laden(ビン・ラーディンなしでは)」★★★★
原案・脚本:アビシェーク・シャルマー/製作・クリエイト・ヘッド:アールティー・シェッティー/製作:プージャー・シェッティー・デーオラー/撮影監督:サントーシュ・トゥンディイェル/作詞:ジャイディープ・サーフニー/音楽監督:シャンカル-エヘサーン-ローイ/背景音楽・音楽:ドゥルイ・ダーラー/音楽場面監督:サーガル・ダース/アクション:パルイェーズ・シャイク、フェーローズ・カーン/美術監督:スニール・ニグヴェーカル/編集:スレーシュ・パイ
出演:アリー・ザファル、プラドゥマン・スィン・マル、ピユーシュ・ミシュラー、ニキル・ラトナパルキー、チラーグ・ヴォーラ、スガンダー・ガルグ、ラーフル・スィン、チンメイ・マンドレーカル、ラージェンドラ・セティ、シーマー・バールガワー、バリー・ジョン
公開日:2010年7月16日(日本未公開)
STORY
パキスタンはカラチ在住の三流TVリポーター、アリー(アリー)はアメリーカで成功するのが夢。7年前に国外退去を通告されて以来ずっとビザが下りず、闇渡航の費用を捻出するため、オサマ・ビン・ラーディンそっくりの養鶏農家ヌーラー(プラドゥマン)を担ぎ出し、偽のオサマ・ビン・ラーデン声明ビデオを作成。ところが、アメリーカ情報部がこれを「本物」と認め捜査に乗り出したことから・・・。
Revie-U
この夏、話題となったビッグな小粒映画が、なんとオサマ・ビン・ラーディンの偽者を使ったコメディ映画。
ターリバーン討伐後、さっそくアフガニスタンに乗り込んでジョン・エイブラハム&アルシャード・ワールスィー主演「Kabul Express」(2006)を撮ってしまうアグレッシブなボリウッドだけあって、本作もオサマ×パキスタン×アメリーカ・ネタで痛快に遊びまくっている。
主人公アリー・ハッサンには、パキスタンの俳優/ポップ・シンガーのアリー・ザファルをフィーチャル。アーティフ・アスラムなども美顔だが、アリーのルックスも<寝癖のキアヌ・リーブス>といった雰囲氣で、なかなかの色白美男。本作のヒットを受けて、ヤシュ・ラージ・フィルムズの新作「Mere Brother Ki Dulhan(兄の嫁)」(2011)でカトリーナー・ケイフ、イムラーン・カーンとの共演が決定。ハリウッド行きの前に隣の巨大市場ボリウッドに招かれ、大出世と言えるだろう。
このドジなレポーター、アリーを抱えるカラチの下町三流TV「Danka TV」のオーナー・ディレクター、マジード役が「ディル・セ 心から」Dil Se..(1998)のコワモテ刑事、「Guraal(色粉)」(2009)のトリックスター役など役者として特異な個性を発揮する一方、作曲・作詞・脚本でも活躍する才人ピユーシュ・ミシュラー。今回はウィグ(カツラ)がトレードマークのパワハラTVディレクター役を好演。アリーが作成した偽ビデオを2ラック*(20万パキスタン・ルピー=18.6万円)で購入し、インドTVに3ラックで転売するしたたかさを見せる。
*米人事コンサルティング会社マーサーは「2010年世界生計費調査」でカラチを最も物価の安い都市と発表。ただし、嗜好品はそれなりに高く、また物価の高騰が続いている。本作で<世紀のスクープ>をたった2ラックで売りつけよう、としているのはバブリーなインド側から見たギャグと思われる(ボリウッド的には2カロール=200ラックと要求するはず)。

(c) Walkwater Media, 2010
さて、アリーが担ぎ出す偽オサマが、鶏の鳴き声コンテストで優勝を果たしたヌーラー。演じずるプラドゥマン・スィンは本作が映画デビュー。世界が注目するオサマ・ビン・ラーディンのそっくりさん役とあって、出演はかなり勇氣が要ったことだろう。
この養鶏一筋のヌーラーを、通常営業が終わった深夜のTVスタジオ(実は単なるボロ倉庫)に呼び出し、女性メイクアップ・アーティストのゾーヤーが若いヌーラーをオサマそっくり仕立てあげ、養鶏について熱く語るヌーラーをよそに、背景セットをテロ仕様にすり替えてしまう(もちろん、アナログ手作業で)。
このゾーヤーに「Jaane Tu…Ya Jaane Na(知ってるの? 知らないの?)」(2008)のシャリーン役、「マイ・ネーム・イズ・ハーン」My Name is Khan(2010)でもTVクルー志望を演じていたスガンダー・ガルグ。快活で、ちょい小生意氣な感じがよい。
そして、偽オサマにダビング(アテレコ)をかぶせるのが、ひとりFMのRJ(ラジオ・ジョッキー)クレーシー。演じるは、面長のラーフル・スィン。脇役街道まっしぐらのマイナー俳優だが、どこでどうして資金を集めたか、自作の脚本で一世一代のヒーローを演じたC級暴力映画「Kachchi Sadak」(2006)で消えるかに思えたが、こうして味のある役柄で生き残っているのは嬉しくもある。
こうして作成された偽ビデオが世界に発信され、アメリーカ情報部が知ることとなり、パキスタンに捜査官テッド(バリー・ジョン)が派遣される。これがアメコミ好きのトンデモ捜査官で…という展開。
本作の脚本・監督は、これがデビューとなるアビシェーク・シャルマー。
<チープなコメディ>を狙って丹念に作られたセンスはA級。ジンナー国際空港はじめ現地でセカンド・ユニット・ロケを敢行し、インド国内でカラチの下町っぽいダサさやパキスタン名物のデコトラを丹念に再現する一方、米ニュース・チャンネルやホワイトハウス報道などはアメリーカ水準をしっかりキープしている美術監督のスニール・ニグヴェーカルの仕事ぶりもよい(このギャップが秀逸!)。鳴き声コンテストにおける出場鶏もすべてCGI、監督のアビシェークがCGIアーティストの横で鶏に演技指導するように練り上げた凝りよう。
単なる三流バカ映画に成り下がらず、音楽監督にシャンカル-エヘサーン-ローイを招き、企画の後押しにもカラン・ジョハール、アヌラーグ・カシャップ(「Dev.D」)、シェーカル・カプール(「エリザベス」)、シミット・アミン(「Chak De! India」)などボリウッド・トップ監督の名が連なり(単に<特別な感謝>を勝手にあげているだけかもしれないが)、金をかけるところにはしっかりとかけ、作品のクオリティを追求しているのがさすが映画のなんたるかを熟知しているボリウッドだけある。
音楽面では音楽監督の名を奢られたシャンカル-エヘサーン-ローイが、タイトル・ソングとなるパキスタンの有名TVレポーター名をタイトルにした「ullu da pattha」他3曲を手がけ、背景音楽も兼ねるドゥルイ・ダーラーがこれに続き、いずれもパンチの効いた楽曲を提供。
アリー自身はヒット・ソングライターだけあって「bus ek soch」では作詞・作曲・プレイバックをこなし、6曲のフィルミー・ソング中4曲で歌唱している。
現在、ボックスオフィス・チャートでは年間24位と健闘。パキスタンではタイトルがセンサー(検閲、つまりは認可)に引っかかるなどしたが、アメリーカやUAEでは好評だったとのこと。
タイトルに使われている「tere bin(君なしでは)」はこれまでも映画やフィルミーソングに題されてきた常套句。それに「ビン・ラーディン」を引っかけた訳だ(「tere bin laden」の直訳は「君のビン・ラーディン」にもなるが、英題は「Without You Laden」)。
周知の通り、2008年11月に起きたムンバイー同時発生テロ以降、インド国内で嫌テロ感情が高まり、テロを扱った映画はその姿勢の善し悪しに関わらず大打撃を受けたが、少し間が空いたことで9.11を扱った「マイ・ネーム・イズ・ハーン」My Name is Khan(2010)や、無垢なる子供がテロリストの手先に利用されている点を盛り込んだ児童映画「Bumm Bumm Bole(バンバン言おう!)」(2010)など次第に受け止められやすくなって来ている。
本作がコメディとして成功しているのは、劇中にテロ・シーンがないこと(あるのは、米戦艦から発射されるミサイル)。むしろ、アメリーカの俺様ぶりを笑いにしている点がウケたようにも思う。
(偽オサマがあまりにチャーミーなため、反テロ的には槍玉に挙げられそうだが)
日本のソフト市場向けにもオススメな作品であろう。

(c) Walkwater Media, 2010