Khal Nayak(1993)#091
Khal Nayak(悪役) 02.01.26 ★★★★
カル・ナーヤク
製作・脚本・監督:スバーシュ・ガイー/共同製作:アショーク・ガイー/脚本:ラーム・ケールカル/台詞:カムレーシュ・パーンディー/撮影:アショーク・メーフター/美術:ビジョン・ダース・グプタ/作詞:アナン(アーナンド)・バクシー/音楽:ラクシュミーカーント−ピャーレーラール/振付:サロージ・カーン/アクション:ラヴィ・ディワン
出演:ジャッキー・シュロフ、サンジャイ・ダット、マードゥリー・ディクシト、ラーキー、アヌパム・ケール、ニーナー・グプタ、ラームヤー
公開日:1993年8月6日(年間トップ3ヒット!/日本未公開)
Filmfare Awards:女性プレイバックシンガー賞:アルカー・ヤーグニク
STORY
演説中の政治家を暗殺したテロリスト、バルー(サンジャイ)が刑務所を脱獄。担当の警部ラームクマール(ジャッキー)が窮地に陥ったことから、恋人であるガンガー(マードゥリー)は踊り子を装い、逃亡中のバルー一味に潜入するが・・・。
Revie-U
ターリバーン政権下のアフガニスターンを描いたイラン映画「カンダハール」(2001=イラン・仏)の準主演俳優が、米司法局により元イラン外交官を殺害した犯人とされているが、本作も公開直前にテロリストに扮したサンジャイ・ダットがマシンガン不法所持によりテロ幇助罪で逮捕されてしまった曰く付きの作品である。
サンジャイはこの一件で15ヶ月の服役をしたものの、現在も爆弾テロ容疑が審議中で、昨年はサンジャイが出廷をすっぽかす一幕もあって、まだまだ波紋は続きそうだ。
そのサンジャイ、おそらく出演作の中で最も汚い役作りと思われる。ダーティーと言うよりスティンキンである。乱れた長髪に無精髭、表情はあくまで沈欝、衣装は襤褸まがい、そして凶暴ときてる。まあ、途中、アイパッチで変装したり、ガンガーに惚れるとスーツでキメたり、果てはマントを羽織ってミュージカル・ナンバルもこなすのだが。
対照的なのが、インスペクター・ラーム役に扮するジャッキー・シュロフ。エリート警官らしくスーツをビシッとキメて、髭剃り後も鮮やか。サンジャイが囚人でジャッキーが警部と言う役回りは、「Kartoos(弾頭)」(1999)、「Jung(闘い)」(2000)でもお目にかかれるが、本作もジャッキーはあくまでサブ・ヒーローに留まり、逃亡するバルーを鬼のように追ったりはしない。
実は、潜入警官となるのが、なんとヒロインのマードゥリー・ディクシト。彼女は女子刑務所のうるさ型刑務官(肩書きはサブ・インスペクター)で、チョーリー(ブラウス)の右肩に肩章が付いたカーキ色のサーリーが制服というのがカッコイイ。しかも、登場シーンは女囚同士の喧嘩シーン。彼女の恫喝、ビンタがオフから入るため、一瞬「えっ、マードゥリーが女囚?! サソリ!?」かと思ってしまう。
この勝ち氣なガンガーが、窮地に陥った恋人ラームを助けたい一心で踊り子に扮してバルーの一味へ潜入する。
マードゥリーはカーキー色の制服から与太をまく踊り子、アフリカン(?)・ダンサーズをバックに金のアクセサリーで着飾ったミニ・サーリーと、彼女を見るだけでも飽きない。
さて、ガンガーが踊り子に扮して潜入するナンバーが「choli ke peechhe」。「チョリーの後(内)には何がある?」というアナン・バクシーの詞がこれまた物議を醸した。イラー・アルンとプレイバックするアルカー・ヤーグニクはFilmfare Awards女性プレイバックシンガー賞を受賞している。
ところで、彼女のチョーリーの中に隠されていたのは「心」、そして警官のIDカードであった。バルーらにサブ・インスペクターと判るや、潜入が転じて人質となってしまう。この後、逆に当てこすったバルーたちが女装した暑苦しいサンジャイ版「choli ke peechhe」も笑える。
後半、例によって意外な展開となる。バルーの母親アールティーを尋問したラームが、青空教室の教師をしていた彼女の教え子だったことが判る。つまり、バルーとも同級生であったのである。
バルーが悪の道に染まったのは、幼い頃、地元を牛耳ろうとする権力者に魅せられ、彼をグルと仰いで家を飛び出してしまったためだ。ここでラームが実の母親を慕うようにアールティーを敬ったことから、彼女はラームを信頼するに到る。
バルーの方も、ガンガーと逃亡中、タークルに牛耳られた村を行きがかり上、救って、英雄扱いされて戸惑ったり、負傷した彼のために彼女が逃げようともせずに医者を連れて来たりと内面が変化してゆく。
バルーは彼女に惚れてしまい、彼女が特に敬うラーマ神像をプレゼントしたりするのだが、彼にはガンガーのチョーリーに隠されたもうひとつのものを見逃してしまっている。それは、「心」。
ガンガーは警官隊に包囲されたバルーを逃がしたことから彼の共犯者として裁判にかけられてしまう。まあ、彼女はストックホルム・シンドロームになっているわけでもあるのだが、この展開の下敷きになっているのはヒンドゥー神話「ラーマーヤナ」。悪魔ラーヴァナに誘拐されたラーマ王の妃シーターは、救出されたものの不貞を疑われて火中に飛び込むことで貞節を証明しなければならなくなる。
マードゥリーは、「Lajja(恥)」(2001)でもこの神話劇を演ずる舞台女優に扮している。
もっとも本作では、バルーがプレゼントしたラーマ神像を見たガンガーがラームのことを思い出し独り恥じらうシーンがあり、観客が彼女の貞節を知る生き証人となるわけだ。ただ、当時サンジャイとマードゥリーは恋仲だったとかで、言われて見れば、ふたりの芝居にはどこか甘いムードがありありと漂い、ガンガーとラームのツーショットには感じられないものがある・・・。
すでに彼女を愛していたバルーは一味と裁判に乱入し、ガンガーを奪い返すかに見せてプーラン・デヴィよろしく投降する。傍聴席の中には、バルーを待ち続けた恋人も居たりして、哀調を誘う。
バルーの母アールティーに扮するラーキーは、家出した息子を待ち続ける寡婦役。「カランとアルジュン」Karan Arjun(1994)、「Soldier(ソルジャー)」(1999)でも「村八分の怒れる母親」役が定番となる。
アヌパム・ケールは、ガンガーの父親にして刑務所所長役。この時期らしいエキセントリックなコメディ・リリーフとして登場。ニーナー・グプタが踊り子の姐御役で出演。
また、刑務所でバルーに殺される仲間ムンナーは、「Joru Ka Ghulam(情熱の奴隷)」(2000)でゴーヴィンダによってすり替わられ、精神病院に入れられてしまうアリー・アスガル。アヌパムに仕えるチョーキーラールに、「Mann(想い)」(1999)のケタケタ親父サンジャイ・ゴーラディアがサポーティング。
例によって、監督のスバーシュ・ガイーはバルー逃亡による検問シーンで出演。これまた「Yaadin(思い出)」(2001)と甲乙付け難いクサイ芝居を披露している。
演出の方はと言うと、冒頭、カメラマンを装ったバルーが街頭演説する政治家を狙撃するというアイディアは、古くはヒッチコックの「海外特派員」(1940=米)などよく見られる手法だが、ストロボのフラッシュに紛らわせ銃身の短いポケット・ピストールで狙うのは今となってはいささかお粗末。
しかし、遅めのタイトルバック・ナンバル「khal nayak hoon main」におけるステージ・ダンスなど荘厳なミュージカル・ナンバルが続く「Taal(リズム)」(2000)の原型にも見られ、一見の価値あり。
追記 2010,10,28
>サンジャイ・ダットがマシンガン不法所持により
この事件は、90年代初頭に起きたアーヨーディヤー事件でヒンドゥー/ムスリム間の衝突が激化し、国会議員を務めていた父スニール・ダットが自分はヒンドゥーであるが亡き妻ナルギス(50〜60年代のトップ女優)がムスリムであったことからムスリム・コミュニティーを養護して発言。そのため、マハーラーシュトラ州のヒンドゥー過激派に殺害の脅迫を受けたため、サンジャイが<家族を守るため>AK-74と手榴弾をアンダーワールドから入手。ところが、それが92年に起きた「ボンベイ連続爆破事件」用に密輸された物の一部だったことから、サンジャイにも「テロ幇助罪」の容疑がかかった…ということで、2007年の判決で「銃器不法所持」についてのみ有罪の判決が出た。
>「ラーマヤナ」
インド神話「ラーマヤナ」の中でも人氣あるシーター妃誘拐のエピソードをモチーフにしているが、「誘拐」ではなくマードゥリーが自らテロリストの一味に「潜入」する設定となっている。猿神ハヌマーンに相当する役が登場しないのは、この変形のためもあるだろう。
同じ「ラーマヤナ」を下敷きにした「Raavan」ラーヴァン(2010)の方がより原作に近いが、警察対反政府組織という構図は本作に通ずる。
>チョーリーの後(内)には何がある
この女性バージョンをプレイバックしているイラー・アルンは「Raavan」でも起用されている他、女優としても「Welcome to Sajjanpur」サジャンプルへようこそ(2008)の機関車ばりに話まくるおばちゃん役が絶品!
>Khal Nayak
「悪役」という非公式邦題で定着しているが、直訳は「悪人の英雄」。「Raavan」のタミル版英題は「Villain」で本作の英題と同じになる。