Saawariya(2007)#088
サーワリヤー
製作・監督;サンジャイ・リーラー・バンサーリー/原作:フョードル・ドストエフスキー「白夜」(Белые ночи)/脚本:プラカーシュ・カパーディヤー、ヴィブー・プーリー/音楽:モンティ/作詞:サミール/撮影:ラヴィ・K・チャンドラン/美術:オームン・クマール・バンティ/振付:サロージ・カーン、シアマク・ダヴァル、パップー・マッルー、ガネーシュ・ヘーグデー/編集:べーラー・リーラー・セーガル
出演:ランビール・カプール(新人)、ソーナム・カプール(新人)、ゾーラー・セーガル、べーガム・パラー、ヴィブー・プーリー
特別出演:サルマーン・カーン、ラーニー・ムカルジー
公開日:2007年11月9日(日本未公開)
STORY
旅人の青年ランビール(ランビール)が町にやって来て、酒場の歌手となる。彼は町で見かけた神秘的な美少女サキーナー(ソーナム)に恋をしてしまう。しかし、サキーナーは恋人イマーン(サルマーン)が戻って来るのをひたすら待っていた…。
Revie-U
不朽のベンガル文学のリメイク「Devdas(デーヴダース)」(2002)、ヘレン・ケラーの伝記を題材にした「Black」(2005)で絶対的なポジションを獲得した美意識の魔術師サンジャイ・リーラー・バンサーリーが次に選んだのは、ドストエフスキーの「白夜」!
またも大旋風を巻き起こすか?と期待を集めながらも、公開日が重なったシャー・ルク・カーン主演・製作「Om Shanti Om」オーム・シャンティ・オーム(2007)と真っ向からぶつかりあえなく撃沈してしまった哀作。
もしこれが「Black」以上の大フィーバーとなっていれば、共同製作を買って出たソニー・インディアとSLBは、ちょうどリュック・ベッソンとパイオニアのような蜜月関係となり、そのフィードバックが日本へも流れて来るかと思ったが、本作そのもののように儚い夢となった。
(米国での配給元はソニー傘下のコロンビア映画)
しかしながら、徹底的な耽美主義で作られた本作は、ある種のファンにはきっと耽溺出来ることだろう。
まず魅了されるのは、「Black」の世界観を押し進めた、ブルー&グリーンで統一された人工世界の巨大な町並みセット。あえてオープン・セットでなく、スタジオ内に運河まで造ってしまったのは、翌2008年3月、パリのシャトレー劇場で古典オペラを彼流に演出してみせたSLBだけに「ムーラン・ルージュ」的な世界をイメージへ傾倒していたのだろう。
ストーリーラインは、同じ「白夜」をモチーフとした「Ahista Ahista(ゆっくりと)」(2006)を参考にして頂くとして、恋敵に嫉妬し、恋した女性の願いを封印してしまう人間の<業>は、さすが「罪と罰」のドストエフスキーだけある。
主演のランビール・カプールとソーナム・カプールは、本作でWデビュー。もともと彼らを念頭に置いていたのか、SLBはふたりを前作「Black」でアシスタントとして撮影現場のいろはを体験させている。
ランビールはボリウッド随一の名門映画一族カプール家出身で、父は70〜80年代のトップ・スター、リシ・カプール。父譲りの巧みな口跡を受け継いでいるのがよい。ルックス的には、母ニートゥー・スィン似だろうか。
ボリウッド・スターを目指す若手俳優がこぞってマッチョ化している中、ランビールはスリムな体型を維持しているが、<維持>だけあってムダな贅肉は一切なく、全裸ナンバル「jab se tere naina 」で見せるシックスパックもお見事。
SLBは独自の世界観を徹底的に追求しながらも、ランビールに父リシ・ネタを用意するなど、ボリウッドらしさも忘れない。
そして、本作の存在価値と言ってもよいのが、ソーナム・カプールだ。
80〜90年代のトップ・スター、アニル・カプールの愛娘だけあって、ランビールに負けず劣らずの毛並みの良さ。その可憐な美貌は、まさに宝石のよう。月夜ナンバル「yoon shabnami」におけるカタック・ダンスもまずまず。
デビュー第2弾「Delhi-6」デリー6(2009)のリード・キャラクターがアビシェーク・バッチャンである以上、本作の方がソーナムの魅力を堪能できる。
サポーティングは、下宿先の女将に「ディル・セ 心から」Dil Se…(1998)、「ミモラ 心のままに」Hum Dil De Chuke Sanam(1999)の祖母役ゾーラー・セーガル。
ストーリー・テーラーでもある高級娼婦グラーブに扮するのが、ラーニー・ムカルジー。主演女優賞を欲しいままにした「Black」の余波から今回は特別出演となる。アワード・キラーとなった彼女の威光も同じく娼婦を演じた「Laaga Chunari Mein Daag (ヴェールについた汚点)」(2007)あたりから急速に下がったが、本作で新人ランビールと並んでみると熟女めいて見えてしまい、<世代の違い>が浮き彫りになってしまったせいもあるだろう(実際は4つしか離れていないが、ラーニーはデビューが早く10年選手のため)。
そして、映画をきっちりと引き締める特別出演が、サキーナーの意中の人イマーン役のサルマーン・カーン。今回は「ミモラ」の衣装返しとも言える役柄なのが、よい。
さて、SLB最新作は11月19日世界公開(日本以外)、リティク・ローシャン&アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャン主演「Guzaarish(懇願)」(2010)。天才的ダンサーであるリティクが車椅子生活に陥るという、舞台は本作「Saawariya」、障害を抱える様は「Black」、そして生の喜びを炙り出す様は監督デビュー作「Kamoshi(沈黙のミュージカル)」(1996)がミックスされたような作品。リティク&アイシュという最強キャストもあって、今度はヒットが期待できそうだ。