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What’s Your Raashee?(2009)vol.09/ #084

2010.10.19
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!

What's Your Raashee?

「What’s Your Raashee?(君の星座は何?)」★★★★★
ワッツ・ユア・ラーシー?

製作:ロニー・スクリューワーラー、スニター・A・ゴーワリカル/脚本・監督:アーシュトーシュ・ゴーワリカル/製作代表:ローレンス・デスーザ/原作:グジャラーティー小説「Kimball Revenswood」~マドウー・ルイェー/台詞・脚本:ナゥシル・メーヘター/台詞:アミット・ミストリー、タパン・A・バット/撮影監督:ピユーシュ・シャー/美術:ニティン・チャンドラカーント・デーサーイー/作詞:ジャーヴェード・アクタル/音楽・背景音楽:ソハイル・セーン/衣装:ニーター・ルラー/振付:チンニー・プラカーシュ、レーカー・プラカーシュ、ラージュー・カーン、ロリポップ、テレンス・レウィズ、ラジーヴ・シュルティ/編集:バルー・サルージャー

出演:ハルマーン・バウェージャー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー

助演:マンジュー・スィン、アンジャン・スリワスターワ、ダルシャン・ジャリワーラー、ディリープ・ジョーシー、ヴィシュワー・バドラー、ラージェーシュ・ヴィヴェーク、ダーヤーシャンカル・パーンディー、ユーリ、アジター・クルカルニー、ギーター・トヤギ、バイラーヴィー・ヴィドヤー、マルシャル・デスーザ、プラティク・ディクシト、ビーム・ヴァカニー

公開日:2009年9月25日(日本未公開)

STORY
シカゴでMBA所得を目指していたヨーゲーシュ(ハルマーン)は、「父危篤」の知らせを受け急遽インドへ帰国。しかし、空港で出迎えたのは平然とした父親と家族だった。しかもその上、兄の借金を帳消しにするため、今月20日の予定で見合い結婚が完璧にアレンジされていた。ただひとつ、結婚相手以外は。そこでヨーゲーシュは、12星座からそれぞれひとりづつ見合いして恋に落ちた相手と結婚することに同意するが、なんと見合い相手は誰もがプリヤンカー顔で迷いに迷い…。

Revie-U
ゼロ年代のボリウッド映画をグレード・アップさせた、米アカデミー賞外国語映画賞ノミネートラガーン」Lagaan(2001)、インド映画で初めてNASA内でロケを敢行しインドの農村を対比させたシャー・ルク・カーン主演「Swades(祖国)」(2004)、偉大なるムガル帝国を壮大なスケールで再現したリティク・ローシャン×アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャン主演の歴史ロマン「Jodhaa Akbar(ジョーダーとアクバル)」(2008)の監督と知られるアーシュトーシュ・ゴーワリカルが初めて手がけた小粒ラヴ・ロマンスが本作。
これまで国際水準の大作を放って来たアーシュトーシュだけあって、市井の見合い結婚というありきたりな題材を選びながらも、ユーモアや社会的なテーマを盛り込み、細部まで計算し尽くした演出は、まさしく「映画監督の仕事」!
名実共にリード女優となったプリヤンカー・チョープラーの12変化を12夜連続でレビューします。

#09

次に訪ねたる見合い相手は、ナヴィ・ムンバイーの病院に勤める医師プージャー。
プージャーは、神様にお祈りする時の神への祝福の意味。病院のロビーにはガネーシャ神(シヴァ神の息子。象頭の神様)が祀られていて、ヨーゲーシュ(ハルマーン・バウェージャー)が病院の受付で彼女の名を告げて歩き出すと、キャメラがパン(横に振ること)してガネーシャに祈る女性がフレーム・インする。当然、これも「プージャー」にかけた演出。とすれば、ここでヨーゲーシュが「プージャー」をせずに素通りしたということは…?!

What's Your Raashee?

Kanya-Pooja Goradia

Kanya(Virgo)

プージャー・ゴーラディア(プリヤンカー・チョープラーは、カーテンの奥で顕微鏡を覗きウイルスを観察しているところであった。
女医というと、なにやら沈着冷静なインテリを連想しがちだが、カーテンの奥から現れた彼女は白衣の下にサフラン色のパンジャビー・ドレスを着ていて、暖かな雰囲氣を伝え、眉間に貼られた小さめのビンディから彼女が伝統的な価値観を持っていることが判る。

ふたりは初対面にしてしばし見つめ合い、そのケミストリーはなかなかに良さそうだ。
自己紹介で話しかけるのもタイミングが重なり、言葉にならない。それが3回続くとなると…かなり期待できそう(インドでは聖数。リアクション・ショット3回繰り返しは<お約束>)。
プージャーは、はにかみながら「あなた遅かったわね」と切り出すが、「天秤座」のラジニー(プリヤンカー)のような天秤で計るような嫌みさはない。
彼女は今日、近くの村にメディカル・キャンプの予定が入っていて、すでに看護師たちが先発していたのだった。

ふたりは、降って湧いた縁談に戸惑っている、と率直に認め合う中、さすがに医者らしくプージャーがヨーゲーシュの右手首に異常があるのを見てとり、すかさず<検診>する。

プリヤンカーは本作で12星座の12役に挑んでいて、「蠍座」ナンディニーのような隠れキャラや、「獅子座」ラジニーのような劇中劇の役柄を含めると14役「魚座」チャンドリカーの前世は含まず)、それもメイキングに収録されている<素>の彼女とはどれも異なり、これは見事と言う他ない。この年、タミル映画のトップ・スター、カマル・ハッサンがインド神話を題材に10役に挑んだ「Dasavatharam(十化神)」(2009/タミル)を優に超えるほどだ。

その演じ分けも、このエピソードを見ると監督や脚本によるところが大きいのが判る。特に完全主義者アーミル・カーン譲りのアーシュトーシュだけに、念入りにリサーチしたであろうことが伺われるのが、このプージャー。

彼女はヨーゲーシュの手首を<検診>した後(単に素手で手に触れただけだが)、すぐに手を洗う。
このハンド・ソープのポンプを押す時にキャメラがパン・ダウン(キャメラが下に振られること)しているところからも、この一連の動きが<演出>であることが解る。つまり、安手の映画によくあるように医者が登場する場面でも安易に、それまでの映画などに登場する「医者」をなぞった、単にそれっぽく演じるケースが多々見られるが、プージャーという女医のキャラクターを造形するにあたって、実際に医者がどう振る舞うか、丹念にリサーチしたことが伺えるのだ。
(プージャーは手首の反応を診るためピンを使うが、プリヤンカー自身、日本人鍼灸師の治療を受けたことがある)

例えば、それほど広くはない医師の個室に電動ウォーカーが置かれていることからも(単にロケで借りた部屋に置かれてあっただけかもしれないが)、激務でありながら運動不足になりがちな仕事の中でストレス解消と体力作りに励む姿から真摯な医者としての姿が見えてくる。映画の規模に関わらず、登場人物が真に迫ってくる作品は、このような人物造形の賜物による。
(ハリウッド作品「ブラックレイン」に出演した後の松田優作がTVの2時間ドラマ「華麗なる追跡」の刑事部屋セットで誰がどのデスクを使っているかなどの説明もなしに「さあ、始めようか」と言った昔馴染みの監督を一喝した話が思い出される)

先発隊から連絡が入り、プージャーは出発しなければならない。ごく短い<見合い>になりそうで心苦しいヨーゲーシュに、彼女の方からメディカル・キャンプへの同行を誘う。
ヨーゲーシュが病院の前で待っていると、プージャーが赤いスクーターで現れ彼を乗せて走り出す。ヨーゲーシュはメルセデスで来ているため彼が彼女を乗せてもよさそうだし、プージャーも医者なのであるからクルマ通勤も考えられそうだが、ここでアーシュトーシュが選んだのはスクーターであった。

プージャーが務める病院、シュリ・マンワンタルバーイ・ホスピタルは、半島の先端にかけて発達したムンバイーから対岸に当たる新興都市ナヴィ・ムンバイーにあり、東京で言えば浦安のようなものか。彼女はヨーゲーシュを乗せ、まっすぐに伸びる真新しいパーム・ビーチ・ロードをひた走る。「双子座」の女子大生カージャル(プリヤンカー)を除いて、これまで7人の見合い相手とは屋内で会っていたせいか、彼女たちの内にこもった部分にフォーカスされる形になったが、このスクーターで走るプージャーの場合、バックミラーに映るヨーゲーシュを何度ものぞき込み、直線を走行中ながら軽くフロント・ブレーキをかけては遠慮がちに後ろに乗ったヨーゲーシュの身体が彼女の背に押され彼が困惑するのを楽しんでみたりと、伸びやかな恋愛の予感が漂う。
走行ナンバル「pyaari pyaari(愛らしき人)」(アルカー・ヤーグニク&ソハイル・セーン)のメロウなメロディも手伝って、実に微笑ましい。

行き着く先は、見渡す限りに広がったダム湖に面した小さな村。遠く霞んで見える山々の雄大な風景が美しい。ロケーションは、ムンバイーからプネーの中程にあるローナーヴァラー(駅で言うとカンダーラーのひとつ先)からさらに山間に入ったライオン・ポイント付近。ナヴィ・ムンバイーから30~40kmなので、スクーターで行けない距離ではないが、浦安から霞ヶ浦まで足を伸ばしたということか。
実際にロケが行われた病院は、ローナーヴァラーにほど近いカルジャトにあるディルバーイ・アンバーニー・ホスピタルで、病院名は「Guru」(2006)のモデルとなった人物。スピルバーグに300億円ほど投資する一方、英米の映画館チェーンを買いまくり、米国映画市場にボリウッド映画を食い込ませようとしているアニル・アンバーニーの亡き父にあたる。

村の子供たちを集め、プージャーがメディカル・キャンプの趣旨、つまりは健康診断と予防注射の説明し始めると40~50名はいる子供達が一斉に逃げ出すシーンは何度観ても愉快。過疎化が進む日本の村ならせいぜい5~6名程度かもしれないが、小さな村にこれだけの子供たちが住んでいるのは、同じ人口大国でも一人っ子政策が足かせとなって先行き不安が懸念される中国と異なり、さすがに未来のある国インドだけある(実際は周辺の村からもロケに集まったのであろう)。

この時のプージャーや、傍らで診断を眺めながら子供たちとあやとりをするヨーゲーシュの表情が実によい。プリヤンカーとハルマーンは「Love Story 2050」(2008)で共演して以来、<よい関係>であったそうで、オフ・スクリーンが滲み出ているかのよう。
すっかりプージャーが氣に入ったヨーゲーシュは、これまでで初めて<即決>し、結婚してシカゴで暮らそうと誘う。が、そのひと言がプージャーの人生との境となった。

彼女は、このような農村で医療を通して貢献したいと考え、実行している身だ。アメリカに渡って医者を続ければよい収入になると知っていても。
病院の研究室でヨーゲーシュを<診断>したプージャーが「ハンセン病は、今では抗生物質があるから治療できるのよ。私が医者を志した時は、まだそうではなかったのだけれど」との台詞が生きてくる。
アーシュトーシュは別撮りを承知の上でプージャーが務める病院をインフラが整った新興都市ナヴィ・ムンバイーに設定し、医療が必要とされている未整備の農村との空間的な対比を鮮明化させた。そして、ヨーゲーシュの乗るメルセデスではなく、あえてプージャーが運転する小さなスクーターでこの村までやって来させた。それは健氣に生きるプージャーの人生にどれだけNRI(Non Resident Indian=在外インド人)のヨーゲーシュが<乗れる>か、というメタファーでもあった。

「でも、僕はここで何をすればいい?」
ヨーゲーシュ自身、「女が嫁いでそれまでいた場所から移ることを男ができるかしら?」との問いに「イエス」と答えながら、自分の生き方を変えることは出来なかった。「獅子座」のマリッカー(プリヤンカー)が言ったように、海外で成功(NRIという言葉にはインド国内以上の暮らしという意味が含まれる)を手にするとインドを「遅れた不衛生な国」と<見下している>わけではないだろうが、彼にとってインドは自分を活かして生きる場所ではないのだった。その点では、NASAで働きながら祖国インドを理解した後は職を去り、愛する女性が暮らすインドの農村へ戻った「Swades」のシャー・ルク・カーンとは別バージョンと言える。

12星座全員と見合いする本作は、言ってみれば12本のラヴ・ストーリーでもある(ファースト・ヒロイン、セカンド・ヒロインとしても6本分)。
もし、これが1本だけの作品であれば、ふたりの出会いと行く末は違って描かれることとなっただろう。せっかく主人公がMBAなのだから、プージャーが医療で農村を支える傍ら、ヨーゲーシュはマイクロ・ファイナンスを試み村人たちの暮らしを向上させてゆく、という生き方もあるはずだ(第一、結婚すれば30カロール、物価換算で12億円以上という資産を相続できるのだから、彼ら自身は生活に困る訳ではない)。

ふたりの前には蒼き湖が広がり、遠くに霞む山並みとを隔てていた。「Swades」の主人公モーハンは水面を渡る船で内面を探る<ジャーニー>へと旅立ったが、本作のヨーゲーシュはただ立ち尽くすだけだった。

#10 牡牛座へ続く。

#08 蠍座・ナンディニーへ戻る。
#07 獅子座・マリッカーに戻る。
#06 魚座・チャンドリカーに戻る。
#05 天秤座・ラジニーに戻る。
#04 蟹座・ハンサーに戻る。
#03 双子座・カージャルに戻る。
#02 水瓶座・サンジュナーに戻る。
#01 牡羊座・アンジェリーに戻る。

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