What’s Your Raashee?(2009)vol.07 / #084
「What’s Your Raashee?(君の星座は何?)」★★★★★
ワッツ・ユア・ラーシー?
製作:ロニー・スクリューワーラー、スニター・A・ゴーワリカル/脚本・監督:アーシュトーシュ・ゴーワリカル/製作代表:ローレンス・デスーザ/原作:グジャラーティー小説「Kimball Revenswood」~マドウー・ルイェー/台詞・脚本:ナゥシル・メーヘター/台詞:アミット・ミストリー、タパン・A・バット/撮影監督:ピユーシュ・シャー/美術:ニティン・チャンドラカーント・デーサーイー/作詞:ジャーヴェード・アクタル/音楽・背景音楽:ソハイル・セーン/衣装:ニーター・ルラー/振付:チンニー・プラカーシュ、レーカー・プラカーシュ、ラージュー・カーン、ロリポップ、テレンス・レウィズ、ラジーヴ・シュルティ/編集:バルー・サルージャー
出演:ハルマーン・バウェージャー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー
助演:マンジュー・スィン、アンジャン・スリワスターワ、ダルシャン・ジャリワーラー、ディリープ・ジョーシー、ヴィシュワー・バドラー、ラージェーシュ・ヴィヴェーク、ダーヤーシャンカル・パーンディー、ユーリ、アジター・クルカルニー、ギーター・トヤギ、バイラーヴィー・ヴィドヤー、マルシャル・デスーザ、プラティク・ディクシト、ビーム・ヴァカニー
公開日:2009年9月25日(日本未公開)
STORY
シカゴでMBA所得を目指していたヨーゲーシュ(ハルマーン)は、「父危篤」の知らせを受け急遽インドへ帰国。しかし、空港で出迎えたのは平然とした父親と家族だった。しかもその上、兄の借金を帳消しにするため、今月20日の予定で見合い結婚が完璧にアレンジされていた。ただひとつ、結婚相手以外は。そこでヨーゲーシュは、12星座からそれぞれひとりづつ見合いして恋に落ちた相手と結婚することに同意するが、なんと見合い相手は誰もがプリヤンカー顔で迷いに迷い…。
Revie-U
ゼロ年代のボリウッド映画をグレード・アップさせた、米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート「ラガーン」Lagaan(2001)、インド映画で初めてNASA内でロケを敢行しインドの農村を対比させたシャー・ルク・カーン主演「Swades(祖国)」(2004)、偉大なるムガル帝国を壮大なスケールで再現したリティク・ローシャン×アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャン主演の歴史ロマン「Jodhaa Akbar(ジョーダーとアクバル)」(2008)の監督と知られるアーシュトーシュ・ゴーワリカルが初めて手がけた小粒ラヴ・ロマンスが本作。
これまで国際水準の大作を放って来たアーシュトーシュだけあって、市井の見合い結婚というありきたりな題材を選びながらも、ユーモアや社会的なテーマを盛り込み、細部まで計算し尽くした演出は、まさしく「映画監督の仕事」!
名実共にリード女優となったプリヤンカー・チョープラーの12変化を12夜連続でレビューします。

Simha-Mallika Desai
#07
Sinha(Leo)
インタルミッション(休憩)開けは、「スィンハー(獅子座)」のミュージカル女優マリッカー・デーサーイー(プリヤンカー・チョープラー)が出演する劇中劇「Love in Maghadh : a Tragedy in ‘C’ Minor」から始まる。
演劇ホールと言っても、いわゆる劇場の雛壇固定席でなく、丸テーブルを4〜5名づつ囲むディナー・ショー形式のスノッブなセットとなっていて、小劇団の舞台公演とは訳が違う。
「ラガーン」Lagaan(2001)のバックスコアからの引用された扇情的なヴァイオリンのイントロを持つ劇中劇用スコア「dhadkan dhadkan(鼓動のゆらめき)」が流れる中、蒼い照明に染まった王宮セットにマリッカー扮する王女へ求愛する男性ダンサーのソロダンスとなる。振付はおそらく「ラガーン」で英国官僚たちの舞踏会を担当したテレンス・レウィズであろう。
アニル・カプール製作、愛娘ソーナム主演「Aisha」(2010)でも振付を担当している。
その劇中劇は、ペルシア文学版「ロミオとジュリエット」と言われる「ライラーとマジュヌー」(年代的にはこちらの方が古い)を古代インドのマガダ王国に置き換えた設定と思われる。
すなわち、貧しき恋人は王の命令で殺され、王女が後を追って自害する悲劇。
ヨーゲーシュ(ハルマーン・バウェージャー)は舞台の上で熱演するマリッカーに心を奪われているが、果たして劇中劇の結末がこの見合いにどう影響するか。
なにしろ、マリッカーの着替えを待つ間、ステージでひとり、さきほどのダンサーがしていた求愛のポーズを取ってみたりするのだ。
着替えを終えたマリッカーの出で立ちは、なるほど獅子座らしくラフだが派手めの印象。その名(女王の首飾り、が通俗的な解釈。サンスクリット的には別の由来があるとのこと)にふさわしい大きめなネックレスが目を引き、メッシュ・ブロンドに染め抜いた長い髪からして獅子の佇まいを見せる。無論、スタイリストと監督がそのキャラクター設定からあつらえたもの。
ここでマリッカーが開口一番、「私は4歳から結婚しているの。ダンスとね」と、早々に<結婚後も舞台はやめない>と宣言。
もちろん、物わかりのよいヨーゲーシュは、これに同意する。
ふたりが出向くのは、アラビア海に浮かぶハッジ・アリー・ダルガーを見渡すエリア。
このスーフィー(イスラーム神秘主義)聖者ハッジ・アリーを祀ったダルガー(聖者廟。御利益を求め、ヒンドゥーも願掛けに詣でる)はムンバイー名所のひとつであり、「Fiza(フィザー)」(2000)ではゲスト音楽監督にA・R・ラフマーンが招かれ、この廟を讃えるナンバル「piya haji ali」を提供している。
海岸から500mほど先に浮かぶダルガーには夜も煌煌(こうこう)と光が灯り、いささか通俗的な表現で例えると「ムンバイーの江ノ島」か(ただし、江ノ島も昔は聖地であり、日本三大弁財天=サラソワティーに数えられる)。
ハッジ・アリー・ダルガーを望む海辺は、夜景を楽しむデート・スポットに相応しい。
ところで、看板女優として知られるマリッカーがなぜ見合い話を受けたか?というと、実は
彼女もまたグジャラーティー・コミュニティーで、ヨーゲーシュの祖父が大地主である村出身の伯父から彼が30カロール(3億ルピー=約6億万円。物価換算で12億円以上)の遺産を受け継ぐ情報を得ていたのだった。
一見華やかな舞台女優だが、ボリウッドのトップ・スターならともかく、いくら有閑マダムたちを抱えたスノッブな演劇界とは言え、なにかと財政は厳しいものだ。ロンドン・ミュージカル「Bombay Dreams」や「Evita」出演を果たしたダリープ・ターヒルも、ボリウッド映画で敵役をこなしながら、せっせとそのギャラでシェイクスビアの公演につぎ込んでいたものだ。
当然ながら、特に劇団内恋愛や外部にパトロンを持っていない設定になっている?彼女からすれば、これからの演劇活動を続けてゆくにあたって、今回の見合いを取り逃がす道理はない。
しかし、ある一点から彼女のプライドが刺激され、ヨーゲーシュはまたも「reject」されてしまうのだった。
それは、屋台のゴーラー(かき氷を握り固めてカラフルなシロップをかけた棒アイス)を買い求めたことから起きた。
美味そうにゴーラーをなめるマリッカーと違って、ヨーゲーシュは彼女の勧めを断って口にしようとはしない。つまり「Swades」のシャー・ルク・カーンがそうだったように、NRIのヨーゲーシュとしては<生水や氷>を敬遠したわけだ(実際、在日10年くらいの南アジア系も帰省すると体調を壊すという)。
これを見て、マリッカーは即刻、「reject」に出る。彼女は喉から手が出るほどスポンサーが欲しい演劇人である一方、一旦、海外へ出ると祖国を遅れた不衛生な国として見下す輩をよしとしない<誇り高き>インド人なのであった。
(マリッカー自体は、単に金目当てでなく、ヨーゲーシュがMBAであるだけでなく、DJやギターをたしなむことから、アートに対する理解と共感を抱き合えるだろうから、という期待があった)
この獅子座のキャラクターとマッチして、このエピソードにゴーラーの屋台を絡めているところにもアーシュトーシュの巧みな脚本術が見てとれる。
というのも、30カロールなどという夢のような相続話をするにあたって、1本10ルピーで売るゴーラーの屋台を登場させているのだ(屋台の店主からすれば、なんとも迷惑な話だが)。
1本のゴーラーにインドで暮らすインド人のプライドを託す一方、結婚が成立しなければ1ルピーももらえず、兄の借金のせいで一家は破産、指も飛んでしまうかもしれないヨーゲーシュ自身、1個のちっぽけな人間に過ぎず、ゴーラー代10ルピーを取り損ねそうになる屋台の店主とそう立場は違わない。
これも聖なるハッジ・アリーが見せる運命の1コマか。
#06 魚座・チャンドリカーに戻る。
#05 天秤座・ラジニーに戻る。
#04 蟹座・ハンサーに戻る。
#03 双子座・カージャルに戻る。
#02 水瓶座・サンジュナーに戻る。
#01 牡羊座・アンジェリーに戻る。