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What’s Your Raashee?(2009) vol.06 / #084

2010.10.16
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!

What's Your Raashee?

「What’s Your Raashee?(君の星座は何?)」★★★★★
ワッツ・ユア・ラーシー?

製作:ロニー・スクリューワーラー、スニター・A・ゴーワリカル/脚本・監督:アーシュトーシュ・ゴーワリカル/製作代表:ローレンス・デスーザ/原作:グジャラーティー小説「Kimball Revenswood」~マドウー・ルイェー/台詞・脚本:ナゥシル・メーヘター/台詞:アミット・ミストリー、タパン・A・バット/撮影監督:ピユーシュ・シャー/美術:ニティン・チャンドラカーント・デーサーイー/作詞:ジャーヴェード・アクタル/音楽・背景音楽:ソハイル・セーン/衣装:ニーター・ルラー/振付:チンニー・プラカーシュ、レーカー・プラカーシュ、ラージュー・カーン、ロリポップ、テレンス・レウィズ、ラジーヴ・シュルティ/編集:バルー・サルージャー

出演:ハルマーン・バウェージャー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー

助演:マンジュー・スィン、アンジャン・スリワスターワ、ダルシャン・ジャリワーラー、ディリープ・ジョーシー、ヴィシュワー・バドラー、ラージェーシュ・ヴィヴェーク、ダーヤーシャンカル・パーンディー、ユーリ、アジター・クルカルニー、ギーター・トヤギ、バイラーヴィー・ヴィドヤー、マルシャル・デスーザ、プラティク・ディクシト、ビーム・ヴァカニー

公開日:2009年9月25日(日本未公開)

STORY
シカゴでMBA所得を目指していたヨーゲーシュ(ハルマーン)は、「父危篤」の知らせを受け急遽インドへ帰国。しかし、空港で出迎えたのは平然とした父親と家族だった。しかもその上、兄の借金を帳消しにするため、今月20日の予定で見合い結婚が完璧にアレンジされていた。ただひとつ、結婚相手以外は。そこでヨーゲーシュは、12星座からそれぞれひとりづつ見合いして恋に落ちた相手と結婚することに同意するが、なんと見合い相手は誰もがプリヤンカー顔で迷いに迷い…。

Revie-U
ゼロ年代のボリウッド映画をグレード・アップさせた、米アカデミー賞外国語映画賞ノミネートラガーン」Lagaan(2001)、インド映画で初めてNASA内でロケを敢行しインドの農村を対比させたシャー・ルク・カーン主演「Swades(祖国)」(2004)、偉大なるムガル帝国を壮大なスケールで再現したリティク・ローシャン×アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャン主演の歴史ロマン「Jodhaa Akbar(ジョーダーとアクバル)」(2008)の監督と知られるアーシュトーシュ・ゴーワリカルが初めて手がけた小粒ラヴ・ロマンスが本作。
これまで国際水準の大作を放って来たアーシュトーシュだけあって、市井の見合い結婚というありきたりな題材を選びながらも、ユーモアや社会的なテーマを盛り込み、細部まで計算し尽くした演出は、まさしく「映画監督の仕事」!
名実共にリード女優となったプリヤンカー・チョープラーの12変化を12夜連続でレビューします。

#06

インドも「タイム・イズ・マネー」の時代とあって、ホテルに部屋を取るヨーゲーシュ(ハルマーン・バウェージャー)と伯父のデーヴーことデーヴェンドラ(ダルシャン・ジャリワーラー)

と言ってもビジネスホテルではなく、5つ星のスイートルーム(日本円で2万円台。物価換算で10万円程度だが、日本でこの広さのスイートとなるとそれ以上だろう)。
浮氣の内偵を察知したデーヴーは早々に去り、ヨーゲーシュが占星術本「What’s Your Raashee?」を読みながらひとり待つ。本日の見合い相手は、「ミーン(魚座)」インタルミッション(休憩)前の新キャラクターだけに、前日の天秤座ラジニー(プリヤンカー)より強力なキャラの登場となるのは想像に難くない。

ドア・チャイムが鳴り、現れたるはザヴェリー・バザールでジャムナーダース・ジュエラーズを経営しているというチャンドリカーの父、クシャール・バーイ・ジャムナーダース(ミリンド・ジョーシー)。ザヴェリー・バザールは、蟹座のハンサー(プリヤンカー)が住んでいるブレッシュワルと共に知られるムンバイーの有名市場街で宝石商が軒を連ねる。
そのクシャール・バーイは、デーヴーが「リアル・キャラクター(キョーレツなキャラ)」と称した通り、一方的かつ断定的にしゃべるパワハラ系の男。

 

What's Your Raashee?

Meen-Chandrika Khushaldas

Meen(Pisces)

そして、おずおずと登場したるは、「ミーン・カンニャー(魚座の娘)」チャンドリカー・クシャールダース(プリヤンカー・チョープラー。長めの黒髪を1本に結い、グリーンとブルーのサーリーをまとっている。彼女のパッルー(1枚布のサーリーを巻きあげた後、肩から垂らす部分。アクセントになるため、刺繍などの意匠が凝っている)を通常左肩から垂らすところを右肩からまわしているのは、和服で言う「左前」の不作法ではなく、グジャラーティー・スタイルインディアン・バービーもこのスタイルのサーリーを着ているモデルがある。
その腕には大きめのペーパーホルダーを大事そうに抱えている。

このチャンドリカー、「リアル・キャラクター」の父親とは似てもにつかない奥ゆかしさをたたえているが、それはやはりこの親父ある故、ということがすぐに解る。
父親のクシャール・バーイが「絵を彼に見せろ」と命令口調で彼女の手からペーパーホルダーを取り上げる(それは宝石商の持ち物らしく手の込んだ織物をカヴァーにしてある)。ヨーゲーシュがチャンドリカーに質問しようとすると、それを遮るようにクシャール・バーイが割って出て威圧的にすべて代わりに答えてしまう。
つまり、チャンドリカーはこの父親の権力下で抑圧的に育て上げられた哀しき玩具なのであった。
ヨーゲーシュが「彼女とふたりだけで話がしたい」と申し出ると、クシャールは激高し、「5カロール(5000万ルピー=約1億円。物価換算で5億円以上)の現金と22カラットのジュエリー10kgをダヘージ(ダウリー=持参金)に付けてやるというのに文句あるのか!」と言い放す。これにはヨーゲーシュも頭に来て「私はヨーゲーシュ・バーラトバーイ・パテールだ! ダヘージなんか欲しくない! 22カラットのジュエリーは永久にしまっておきなさい!」と一喝。
父の影で内にこもっていたかに見えたチャンドリカーだが、初めて父を言い負かした男に出会ったのか、わずかに笑みを漏らすと立ち去ろうとする父の命令にも従わず、ヨーゲーシュの部屋に残り続けようとする。クシャールは娘の意志を知って、ロビーで待つことにする。無論、先ほどは声を荒げたものの、ジェントルな振る舞いを見せるヨーゲーシュに免じたところもあるだろう。

「お座りください」とソファを勧めるヨーゲーシュだが、彼女が「天秤座」の女ラジニー(プリヤンカー)以上の<モンスター>であることを知るのは、間もなくのことであった。
「先ほどは、貴女のパッパーに大きな声を出して失礼しました。貴女のお父さんは、立派な方ですね…結婚するにあたってはお互いによく知り合っておかねばなりませんから、貴女のことを話してください」と話しかけるヨーゲーシュに、思い詰めたチャンドリカーが口を開いたのは「あなた、生まれ変わりを信じる?」

実は、チャンドリカーとヨーゲーシュは前世で恋人同士であった。しかし、嵐で増水した川へ出かけた折、ヨーゲーシュは行方不明となり、3日後にその<死体>が発見されたのだと言う。25年前の出来事である。しかも<証拠>があって、チャンドリカーが持参した彼女の描いた絵、それは単なる山河の風景画ではなく、よく見ればその岸辺に打ち上げられた男の<死体>が描かれてあった。

「あなたはまだ思い出さないようね。私が歌えば、きっとすべてを思い出すわ」と、恥ずかしげに歌い出すのは前世のふたりが愛唱したという「sau janam」(マドゥーシュリー、ソハイル・セーン、ウディット・ナラヤン)サーダナー・サルガムにも似たマドゥーシュリーのソプラノは脳髄に響き、確かに前世の記憶を呼び起こしそう。
はじめは不安に身もだえしていたヨーゲーシュだが、チャンドリカーの熱唱を受け、ソファから立ち上がって大きな振りと共に「すべて、思い出した。君が誰で、僕が誰か」(プレイバックは本作の音楽監督ソハイル・セーン)
そして、ふたりはひしと抱き合う…

…と、これはチャンドリカーの<妄想>で、ヨーゲーシュはソファに座ったまま硬直している。
そんなヨーゲーシュの手をとるチャンドリカー。さらに<妄想>は激しくなり、前世シーンへと飛ぶ…

ロケ地は、ボリウッド定番の、渓谷を見渡す裸山の山頂。このグランドキャニオンを思わせる丘陵地帯は、伯父デーヴーが若い女アニラー・カムダール(ギーター・トヤギ)と逢い引きしていたという避暑地カンダーラーをも含むウェスターン・ガーツ周辺であろう。うっすらと青鈍く曇った空がいかにも前世の彼方という風合い。
実は、このシーンもアーシュトーシュの徹底した細部へのこだわりが貫かれている。

ヨーゲーシュに扮するハルマーンがここでは襟足の長いヘアスタイルと口髭姿になっているのは、前世のふたりが恋人だったとされる80年代中盤に一世を風靡したトップ・スター、アニル・カプールに見立ててのこと! ダイヤ(◆)をあしらったカーディガンもアニルが映画の中で着ていたイメージによる。特に襟足の長い「うっとうしい」ヘアスタイルは、80年代後半〜90年代にかけてアニルの他、サンジャイ・ダットサルマーン・カーンが用いて、南アジア圏の男どもが真似しまくった<ボリウッド・スタイル>なのだ。
しかも前世を強調するかのように、ヨーゲーシュのプレイバックを交代してみせるのが、80〜90年代にかけてトップ・プレイバック・シンガーであったウディット・ナラヤン。ウディットはゼロ年代に入っても「Swades」やDON(2006)などで重用されながらも、フィルミーソングがクラブ・ミュージック化し始めたゼロ年代中盤から急速に第1線を追われ、地方映画のボージプーリー映画プロデュースやコンサート巡業に活路を見出しており、その点でも<前世>的な効果が強い。
振付も80年代らしいユルイものとなっているが、さすがにキャメラワークは、リモート・キャメラを搭載したジブ・クレーン(レンタル・フィーが高価なため日本では「映画」の撮影にはあまり使われない)で自在になめ回すゼロ年代風となっている。

と、ここで、お待ちかねのコミック・スケッチ。
この部屋はデーヴーの名前で借りられており、内偵を察知した彼はヨーゲーシュ名の部屋に陣取っていた。それを知らないドジな私立探偵兼占星術師のバーテーシュ・ジョーシー(ラージェーシュ・ヴィヴェーク)がカメラ片手に逢い引き現場を盗み撮りしようとしていたのだった。
事情を知らないチャンドリカーは、バーテーシュに頼んでヨーゲーシュとのツーショット写真を所望する。それがまた共依存的なポーズばかりで、特に「一生の思い出にするから」とプラナーム(年長者や、妻が夫に対してその足もとを触れる最敬礼)するのが風刺的すぎ、しかも部屋の置物としてガネーシャ神(シヴァの息子で強力な呪術力=御利益を持う象頭の神様)像の目の前だったりするのが実に意味深。

場面は変わり、パテール家(ヨーゲーシュの実家)。
せっかくホテルに宿をとりながら、ヨーゲーシュは一旦、実家へと戻る。すると、母たちが結婚式招待状の宛名書きに追われていた。
花嫁の名前が空白だと言うのに…。

こうしてヨーゲーシュは、次なる獅子座の見合いに備え、父愛用のブランコ(揺り椅子の代わり。本来、季節行事で用いられるが、季節以外でも好んで使われるため近代的な量産品として製品化された物が置かれている)に揺られながら、占星術本「What’s Your Raashee?」を読み耽るのであった。

#07 後半・獅子座へ続く。

#05 天秤座・ラジニーに戻る。
#04 蟹座・ハンサーに戻る。
#03 双子座・カージャルに戻る。
#02 水瓶座・サンジュナーに戻る。
#01 牡羊座・アンジェリーに戻る。

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