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What’s Your Raashee?(2009)vol.05 / #084

2010.10.15
オススメ度 =陳腐 ★★=退屈 ★★★=平均点 ★★★★=面白い! ★★★★★=お気に入り!!

What's Your Raashee?

「What’s Your Raashee?(君の星座は何?)」★★★★★
ワッツ・ユア・ラーシー?

製作:ロニー・スクリューワーラー、スニター・A・ゴーワリカル/脚本・監督:アーシュトーシュ・ゴーワリカル/製作代表:ローレンス・デスーザ/原作:グジャラーティー小説「Kimball Revenswood」~マドウー・ルイェー/台詞・脚本:ナゥシル・メーヘター/台詞:アミット・ミストリー、タパン・A・バット/撮影監督:ピユーシュ・シャー/美術:ニティン・チャンドラカーント・デーサーイー/作詞:ジャーヴェード・アクタル/音楽・背景音楽:ソハイル・セーン/衣装:ニーター・ルラー/振付:チンニー・プラカーシュ、レーカー・プラカーシュ、ラージュー・カーン、ロリポップ、テレンス・レウィズ、ラジーヴ・シュルティ/編集:バルー・サルージャー

出演:ハルマーン・バウェージャー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー、プリヤンカー・チョープラー

助演:マンジュー・スィン、アンジャン・スリワスターワ、ダルシャン・ジャリワーラー、ディリープ・ジョーシー、ヴィシュワー・バドラー、ラージェーシュ・ヴィヴェーク、ダーヤーシャンカル・パーンディー、ユーリ、アジター・クルカルニー、ギーター・トヤギ、バイラーヴィー・ヴィドヤー、マルシャル・デスーザ、プラティク・ディクシト、ビーム・ヴァカニー

公開日:2009年9月25日(日本未公開)

STORY
シカゴでMBA所得を目指していたヨーゲーシュ(ハルマーン)は、「父危篤」の知らせを受け急遽インドへ帰国。しかし、空港で出迎えたのは平然とした父親と家族だった。しかもその上、兄の借金を帳消しにするため、今月20日の予定で見合い結婚が完璧にアレンジされていた。ただひとつ、結婚相手以外は。そこでヨーゲーシュは、12星座からそれぞれひとりづつ見合いして恋に落ちた相手と結婚することに同意するが、なんと見合い相手は誰もがプリヤンカー顔で迷いに迷い…。

Revie-U
ゼロ年代のボリウッド映画をグレード・アップさせた、米アカデミー賞外国語映画賞ノミネートラガーン」Lagaan(2001)、インド映画で初めてNASA内でロケを敢行しインドの農村を対比させたシャー・ルク・カーン主演「Swades(祖国)」(2004)、偉大なるムガル帝国を壮大なスケールで再現したリティク・ローシャン×アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャン主演の歴史ロマンJodhaa Akbar(ジョーダーとアクバル)」(2008)の監督と知られるアーシュトーシュ・ゴーワリカルが初めて手がけた小粒ラヴ・ロマンスが本作。
これまで国際水準の大作を放って来たアーシュトーシュだけあって、市井の見合い結婚というありきたりな題材を選びながらも、ユーモアや社会的なテーマを盛り込み、細部まで計算し尽くした演出は、まさしく「映画監督の仕事」!
名実共にリード女優となったプリヤンカー・チョープラーの12変化を12夜連続でレビューします。

#05

エレベーター到着のチャイムと、ステンレスの扉に写ったイケメンのモデル顔。
扉が開くと、ヨーゲーシュ(ハルマーン・バウェージャー)が。天秤座の見合い相手を訪ねて、彼女のオフィスへやってきたところである。

ハルマーンは、デビュー当時、リティク・ローシャンのカーボン・コピーとの声もあがったが、日本人俳優で言えば若い頃の名高達郎に似てなくもない。<インド人男優>の中ではアクが強くない、マイルドな二枚目俳優という部類だろうか。
アーシュトーシュの前作「Jodhaa Akbar」のリティクに比べると、新人にほど近いハルマーンではだいぶ格が落ちるように思えるが、市井の青年を誠実に演じており、キャラクターにマッチした配役だと言えるだろう。
エピソードの冒頭で彼を上回るモデル顔の男とのすれ違いが用意されている訳は、すぐに判る。

What's Your Raashee?

Tula-Rajni Parmar

Tula(Libra)

「トゥーラー(天秤座)」ラジニー・パルマール(プリヤンカー・チョープラーは、パルマール・アソシエーツを取り仕切るエリート・ビジネス・パーソンだけあって、ボブにメタルフレームの眼鏡、ボディ・コンシャスなスカートというクールな(ホットというべきか)スタイルで登場。スーツでないのが、またエグゼクティヴらしくてよい(スーツを着用しているのは雇われる側)。

彼女もグジャラーティー・コミュニティらしく、受付にグジャラーティー文字の見合いリストが置かれてあって、さきほどすれ違ったモデル顔男もインタビュー(面接)に来ていたのだと、「推測」できる。
「推測」というのは、アーシュトーシュの演出が細部まで行き渡っていて、あえて台詞で説明されないこのような情報が多く詰まっているから。神は細部に宿ると言うが、このような形で成り立っている作品故に何度見ても飽きず、その都度小さな発見があるわけだ。
他のメジャー・ボリウッド作品でもこのような「台詞で語らない」画面情報で示す演出は多く、これが「台詞で語ってもらわないと、それが描かれていない」こととして受け止めてしまう今どきの日本人観客からすると、ハードルが高いはず。この、近年しばしば嘆かわしく伝えられる鑑賞力低下が洋画の低迷、そしてインド映画の買い付けが為されない理由のひとつにもなっている。

前日に見合いをした蟹座のハンサー(プリヤンカー・チョープラーがしっとりとした女性らしい風情を醸していたのに対して、ラジニーは物事すべて、秤(はかり)にかけてビジネス的に割り切って考えるタイプ。
その美貌とスタイルから引く手あまたに思えるが、<プライベート>なメールもP.A.(プライベート・アシスタント)に口実筆記(タイプ)させるほどなので、どんな男もこれまで近寄る氣にならなかったのだろう。
あまりにビジネス・ライクな彼女に圧倒されたヨーゲーシュは、夜、高級チャイニーズ・ラウンジバー「パン・ストリート」で仕切り直しの席を提案する。

が、ここでも強烈なカウンター・パンチが。すでにテーブルについていたラジニーは開口一番、「6分遅刻よ」。
またもパーソナル・アシスタントのタッカルがMacを持って同席。そして契約書が手渡される。
螺旋綴じにしっかり製本された契約書には、結婚後は別居、互いの生活には干渉せず恋人も作るのも自由、そして2年後には離婚すること、と明記してある。
見合いのことを「ミーティング」と言い表したように、ラジニーは結婚を建設事業の契約、しいてはM&A的な感覚でとらえている。彼女からすれば、プロポーズはプロポーザル(提案)、いやひとつのディール(取引)に過ぎないのだ。

そして、そのような彼女だからこそ、事業拡大のために手荒な事をして来たのだろう。彼女ほどの資産があれば、ごく普通に米国の永住権を所得できるはず。それをしないのは、CBI(中央捜査局)から内定されていて、やがてパスポートも剥奪されるだろうから、その前に<結婚>して安全なパスポートを手に入れたいとのこと。そして、<ギフト>として5カロール(5000万ルピー=約1億円。物価換算で5億円以上)を進呈するという。

「もしこの先、ふたりが恋に落ちたら…」というヨーゲーシュの問いに、これまた強烈な条件がバシバシ加わる。
ヨーゲーシュはアルコールも煙草もたしなまず、卵を時たま食べるオボ・ベジタリアンで、かなりの優良株であるはずだが、ラジニーにはまだ完璧ではない。ピュア・ベジタリアン、それも甘い物はダメ、香水も頭痛の種になるので不可、寝る前に足揉みを強要(今はP.Aの仕事?)…。

ここで、チャップリンの「モダン・タイムス」風巨大歯車セットをあつらえた(被害)妄想ナンバルmaanuga maanuga」(アーシュトーシュ・ゴーワリカル&パメラー・ジャイン)に突入。
ハルマーンはデビュー作「Love Story 2050」(2008)で巧みなロボット・ダンスを披露したが、ここでも黒レザーのタイト・スーツ&パンツでムチを鳴らすプリヤンカーに操られる形で再演。
さらには巨大パワーブック(トラックパッド部分がトランポリンになっているのが秀逸)の大道具も登場し、これまでのアーシュトーシュ作品には見られなかった視覚的サービスが為される。この巨大PCは、シャシ・カプール主演、ジェームズ・アイヴォリー監督作「Bombay Talkie」(1970)で<ヘレンを起用したミュージカル撮影シーン>のために用意された巨大タイプライターからの発想であろう(ちなみにこの作品、アメリカ映画ということもあってシャシは濃厚なキス・シーンを演じている)。

このナンバル、監督アーシュトーシュ自身がプレイバックを担当。「Swades」の劇中劇ナンバルpal pal hai bhaariでも<シンガー>としてクレジットされていたが、それは神話劇におけるマントラの口上程度であった。今回のこの曲では、レコーディング技術の発達もあってか、素人の域を出た安定感のあるものとなっている。
インド人監督は概ね出たがりが多いが、プレイバックにまで手というか口を出しているのは彼と、監督から役者デビューを果たしたファルハーン・アクタルがバンド映画Rock On!!(2008)でヴォーカルを生声で担当したぐらいだろう(ただし、こちらは素人程度)。

奴隷化した妄想で混乱するヨーゲーシュに優しい声がかかり、意識が戻る。見れば、水瓶座のサンジュナー(プリヤンカー・チョープラーである。
彼女もまたラウンジ・バーで見合いを繰り返し、さらにまた「reject」するという。ヨーゲーシュはラジニー(プリヤンカー)にサンジュナー(プリヤンカー)を紹介。さらにプライベート・アシスタントのタッカルを「彼女の友人」と紹介すると、「タッカルは友人じゃないわ」と感じ悪く返すラジニー(プリヤンカー)が可笑しい。それでいて彼女はiPhoneをいじくりつつ、ふたりを冷ややかに眺め、微かにジェラシーを抱いているようにも見える。
そんなラジニー(プリヤンカー)に「彼は素敵な人だから、離しちゃダメよ」と声をかけるサンジュナー(プリヤンカー)が実に愛らしい。

ヨーゲーシュは、そっとタッカルに「ふたりはそっくりだろ」と振るも、そう見えるのはヨーゲーシュだけというのがまたニクい演出である。
最後にラジニーは「契約書は心でなく頭で判断してサインするように」と念を押すのを忘れない。

#06 魚座へ続く

#04 蟹座・ハンサーに戻る
#03 双子座・カージャルに戻る
#02 水瓶座・サンジュナーに戻る
#01 牡羊座・アンジェリーに戻る

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