Ghulam(1998) #085
Ghulam(奴隷) 02.09.25 ★★★★
製作:ムケーシュ・バット/監督:ヴィクラム・バット/脚本:アンジュン・ラージャーバーリー/音楽:ジャティン-ラリット/詞:インディーワル、サミール、ニティン・ラーイクワル、ヴィヌー・マヘンドラ/背景音楽:アマル・ハルディプル/撮影:ダルマ・テージャ/美術:ガッパ・チャクラワルティー/アクション:アッバース-ハニフ/振付:アフムド・カーン、ニメーシュ・バット、ロリーポップ、ラージュー・カーン/編集:ワマン・ボースレー
出演:アーミル・カーン、ラーニー・ムカルジー、ラジト・カプール、ミーター・ワシシュタ、シャラート・サクセーナ、ディーパック・ティージョリー、アクシャイ・アナン(アーナンド)、ボビー・サイニー、アーシュトーシュ・ラーナー
ゲスト出演:ダリープ・ターヒル
公開日:1998年7月19日(年間トップ4ヒット!/日本未公開)
STORY
札つきのワル、シッダール(アーミル)。兄ジャイ(ラジト)は、町を牛耳るロナーク(シャラート)の身内。シッダールは金持ちの不良娘アリーシャー(ラーニー)と恋に落ちるが、ロナークに殺された友人ハリーがアリーシャーの兄だったとは! どうにもならないしがらみの中で、シッダールは殺人の証言に立とうとするが・・・。
Revie-U
冒頭は、裁判シーン。熱心に女弁護士が彼の無罪を説いている。キャメラは背後から寄って被告らしき革ベストの男へ。傍聴席には彼の不良仲間も来ていて、振り返った男が隣の席に置かれたサイフに目を留める。ここで、女弁護士のアップが抜かれて、サイフが誰の持ち物であるかしっかり示される。
アーミル・カーン演じる主人公シッダールは、不用心なサイフを見かけたら自分の裁判中でもくすねずにはいられない札付きのワルで、その金で弁護費用を支払う強かな奴というわけだ。
監督は、「Raaz(神秘)」(2002)のヴィクラム・バット。「ハリウッド・コピーばかり作る」と言われるわりには、演出は手堅く、先のエピソードにも傍聴席の不良仲間がシッダールの「蛮行」に気付くカットをインサート、弁護費用を支払うシーンにも背後に訳知りの不良仲間をしっかり配置するなどシーンにスリルを付け加えることも忘れない。
アーミルは、「Rangeela(ギンギラ)」(1995)に続く、下町の不良役(兄ジャイからムンナー=坊主と呼ばれている)。ボクサーという設定で、ジムに通ったりはしないのだが、やたらとウエイト・トレーニングに興じている(「Ishq(ロマンス)」でも)。後半のチャンピオン・シップ、ストリート・ファイトと打たれっ放しが迫力。
セッドゥー(=シッドゥー)ことシッダールタ(発音はタがほとんど消えて、シッダール)がバイクで走っていると、絵に描いたような革ジャンのバイク・グループに抜かれる。頭に来たセッドゥーが次々追い抜いてゆき、先頭を走る黒いレザースーツとバトルになるが子供を除けようとしてクラッシュする。レザースーツのライダーがヘルメットを取ると、なんとアテレコのラーニー・ムカルジー!
ヒロイン、アリーシャー役の彼女は、これがデビュー2作目。彼女はこの年、「Kuch Kuch Hota Hai」何かが起きてる(1998)がトップ1、本作がトップ4ヒットと一挙スターダム入りした。
しかし、デビュー作「Raja Ki Aayegi Baaraat(花嫁の行列は来るだろう)」(1996)が大コケであったためか、ハスキー生声が却下。もったいぶったアテレコの憂き目にあっている。それでもラーニーの存在感はあふれてるから、やはりスターの素質があったわけだ(もちろん、ミュージカル・シーンは通常通りプレイバックだから「違和感」なし!)。
本作もヒットしたが、それ以上に当たったのがフィルミーソング「aati kya khandala」。これ、アーミル地声のプレイバック。「KKHH」と同年ながらかなりウケたようで、翌年の「Daag(燃焼)」(1999)ではジョニー・リーヴァルがさっそくクニカー相手に口ずさんでいた。
まあ、そのくらいならさほど驚かないが、「K3G」(2001)では、なんとアミターブ・バッチャンが妻ジャヤー・バッチャン相手に振りまで入れて歌い出していた。もちろん、アーミルの地声にならってアミターブも更に太い地声。返すジャヤーのプレイバックがオリジナル通りのアルカー・ヤーグニクというのもニクイ。このシーンにはラーニー自身も出ていて、ふたりを見守っており、ファンにとってはうれしいサービスであった(微笑)。
後半、地上げを企むロナークが反対派のリーダー、ソーシャルワーカーのハリーを殺害。彼を呼び出したのがシッダールで、しかも目の前で殺されたハリーがアリーシャの兄と判明! 住民に噴気を呼びかけるハリーの姿は、独立運動の元闘士で、シッダールの幼い頃に焼身自殺を図り彼のトラウマとなっている父に重なる。ボクシングの試合でロナークからイカサマを強いられ、兄への想いもズタズタに引き裂かれたシッダールは悔い改め、ロナーク糾弾へと立ち上がる・・・。
脚本は、「カーマ・スートラ 愛の教科書」Kama Sutra(1995)に俳優として出演しているというアンジュン・ラージャーバリー。
デジタル・エフェクトは「Raaz」と同じCMMフィルムが担当。インド式チキンレース(走って来る列車へ向かって「足」で駆ける!)での列車を寸前でかわすシーン、高級マンションの最上階にあるアリーシャーの部屋へシッダールがパイプを伝わって「革ジャンを取りにゆく」シーン、そしてアーミルが夜の町をバイクで走るスクリーン・ショットでは流れ去る街灯に合わせてバイクの影が動くなど、芸が細かいトップクオリティの仕事をしている。
音楽のジャティン-ラリット、バックグラウンド・スコアのアマル・ハルディプルもよい。特に「aankhon se tune kya」のメロが秀逸。
サポーティングは、女弁護士役に「ディル・セ 心から」Dil Se..(1998)、「Pitaah」(2002)のミーター・ワシシュタ。
町を牛耳るロナーク・スィンは、元ボクシング・チャンピオンという設定で、強靱な体躯のシャラート・サクセーナにぴったり。アーミル相手にストリート・ファイトを見せる。
シッダールの父親役に、ゲスト出演のダリープ・ターヒル。役者魂故に火だるまシーンでは吹き替えなし! このダリープを責めに現れる片腕の男が、「Raaz」のアーシュトーシュ・ラーナー。本作がスクリーン・デビューとなる。
そして、愛すべきは、バイカーズのリーダー、チャーリー役のディーパック・ティージョリー。リーゼントにモミアゲのメイクがちょっと笑え、さすが<永遠のB級ヒーロー>。チキンレースの「借り」を返すエピソードがカッコイイ!?
*追記 2010.10.12
さすがに現在のデジタル合成と比べるとチャチな感じが否めないが、当時にしては新しい技術に果敢に挑んでおり、アーミルがバイクに乗って歌うナイト・シーンで走り去る街灯に照らされて影が移動する効果など「ご丁寧に」という他ない。
アーミル、ラーニー、共に若いが、やはりラーニーはアテレコを差し引いてもなかなかに魅力的。
チャーリー役のディーパック・ティージョリーは、「アシュラ」Anjaam(1994)でマードゥリー・ディクシトの夫役。マイナー映画では主演もあるものの、90年代を通してヒーロー役者にはなれず、B級作品「Oops!」(2003)で監督に進出。 お下劣映画「Tom Dick and Harry」(2006)では音楽監督に超売れっ子のヒメーシュ・リシャームミヤーを獲得するがフロップ。サニー・デーオール×アルジュン・ラームパール主演「Fox」(2009)も不出来であった。