Dil To Pagal Hai(1997)#080
Dil To Pagal Hai(心狂おしく) 01.04.07/07.07.26Re ★★★★
製作・監督・脚本:ヤシュ・チョープラー/製作・脚本・台詞:アーディティヤー・チョープラー/製作:ウダイ・チョープラー/脚本:タヌージャー・チャンドラ、パメラー・チョープラー/撮影:マンモーハン・スィン/美術:シャルミスター・ローイ/音楽:ウッタム・スィン/詞:アナン(アーナンド)・バクシー/振付:ファラー・カーン、ジャイキシェン・マハーラージ、シアマク・ダヴァル/編集:V・V・カルニク/衣装:カラン・ジョハール、マニーシュ・マルホートラ、サマン・カーン、アンジャ・サン/VFX:サイ・プラサード
出演:シャー・ルク・カーン、マードゥリー・ディクシト、カリシュマー・カプール、ファリーダー・ジャラール、デーヴェン・ヴァルマー、アルナー・イラーニー
友情出演:アクシャイ・クマール
公開日:1997年10月31日(年間トップ2ヒット!/日本未公開)
Filmfare Awards:作品賞、主演男優賞、主演女優賞、助演女優賞、音楽賞、台詞賞、美術賞
第1回Zee Cine Awards:美術賞、振付賞、撮影賞、VFX賞。
STORY
ダンス・カンパニーのディレクター、ラーホール(シャー・ルク)は、骨折したガールフレンドのニシャー(カリシュマー)の入院中、抜群のダンサー、プージャー(マードゥリー)に恋してしまう。しかし、彼女にはアジャイ(アクシャイ)というフィアンセがいた・・・。
Revie-U
「フラッシュダンス」(1983=米)を思わせるジャズダンス・カンパニーのお話。なんてことはないストーリーながら、人氣コレオグラファー、ファラー・カーンとシアマク・ダヴァルの振り付けるダンスで見せ切ってしまう。見どころは、マードゥリー・ディクシトとカリシュマー・カプールのダンスバトル! エアロビクス系のカリシュマーもスピード感があって抜群だが、やはり優美なマードゥリーに10年の長がある。
ディレクター役ながら、シャー・ルク・カーンも見事なダンスを披露。運動神経抜群だけあって、パーカッションも上手い。ラストでアクシャイ・クマールが花を持たすのは、ライヴァル出演のお約束。
およそ1億3000万ルピーと言われる製作費は、戦争映画巨篇の「Border」デザート・フォース(1997)と同等! それにしてもシャー・ルクとマードゥリー&カリシュマーがダンスするだけで、インド空陸軍全面協力・戦闘機や戦車団、大量の火薬を使う戦争映画に匹敵というのも凄い!!!
ダンス・カンパニーの話だけあって、ミュージカル・ナンバルも満載。
振付はカンパニー・ナンバルをシアマクが、フィルミーをファラーが担当。
また、マードゥリーがひとり練習中に古典のステップを見せる場面があるが、これは「Devdas」(2002)でもマードゥリーに振付を施したパドマビブーシャン・パンディット・ビルジュ・マハラジの息子ジャイキシャン・マハラジがボンベイに招かれたものの手を焼いて引き返した名残らしい。
ジャイキシャンは、ラージ・カプールの監督作「Prem Rog(恋の病い)」(1982)でカタック・シーンを手懸けているので、映画の撮影システムをまったく知らなかったというわけではないはずだが…。
天才的なダンサーとして知られるシアマクは、ダンス研究所を各地に展開。映画の振付は本作が初めてとなり、コレオグラファーながらわざわざ<紹介>とクレジットされている。
かのシャーヒド・カプールも門下生で、シアマクが振付を手懸けた「Taal(リズム)」(1999)ではバックダンサーの中に俳優デビュー前の彼を見ることが出来る。
ここ数年は映画続きで「Kisna」(2005)、「Bunty Aur Babli」(2005)の「nach baliye」、そして「Dhoom 2」(2006)などを手懸ける。
監督のヤシュ・チョープラーは数々のヒットを放ち、家族経営ヤシュ・ラージ・フィルムズは今やボリウッド映画産業を牛耳るエンターテインメント・コングロマリットに成長。監督の手腕としては繊細な芸術肌に欠けるが、本作は彼のフィルモグラフィの中でも群を抜く出来。
「DDLJ」(1995)で監督業に進出した長男のアーディティヤー・チョープラーは、本作では台詞にまわり、思わぬ才能を見せつける。ただし、「Mohabbatein(幾つもの愛)」(2000)となると、監督としての技量が低いことを露呈してしまうが。
ファミリービジネスだけに、愚弟ウダイもアシスタントながら共同製作にクレジットされている(本作の後、彼は俳優デビューを家族会議にかけたとか)。
配役で印象に残るのは、プージャーを引き取って育てた伯父役のデーヴェン・ヴァルマーだろう。 歌好きの親父という設定で、登場シーンからしてヤシュの旧作「Kabhi Kabhi(時として)」(1976) のタイトルナンバル(原版ではムケーシュがプレイバック)など、なにかにつけて歌いだしたら止まらないのが可笑しい。
ちなみに酔ったニシャーが口ずさむのは、「1942:愛の物語」1942:A Love Story(1993)のアニル・カプールとマニーシャー・コイララのキス・ナンバル「kuch na kaho(何も言わないで)」。曲名は、アビシェーク・バッチャンとアイシュワリヤー・ラーイ共演「Kuch Naa Kaho」(2002)に流用されている。
なお、シャー・ルク・カーンの衣装デザインをカラン・ジョハールが担当しており、彼の監督デビュー作「KKHH」(1998)にいろいろと影響を受けていることが伺われる。
*追記 2010.10.07
「DDLJ」(1995)でスーパー・ブレイクしたシャー・ルク・カーンのヤシュ・ラージ・フィルムズ(この頃は、まだ単なる家族経営の制作プロダクション)最新作とあって、本作もスーパー・ヒットしたわけであるが、わずか2年前の「DDLJ」と大きく違うのは、暴力的な血まみれアクション・シーンがないこと。
90年代までのボリウッドは、俗にマサーラー映画と呼ばれるようにあらゆる要素を詰め込むことが観客ウケにつながるとされたが、サルマーン・カーン×マードゥリー・ディクシト主演「Hum Aapke Hain Kaun…!(私はあなたの何?)」(1994)が結婚式にまつわるロマンスを活劇抜きで描いてインド映画史上No.1ヒットとなった頃から、世の流れに敏感なヤシュ・チョープラーだけあって、以後は「Dhoom(騒乱)」(2004)のような明確なアクション映画以外ではきっぱり活劇/暴力シーンを廃止し、事業も急成長したのだった。
ぴったり息の合う女友達が居ながら、新しく現れた美しい女性に恋をしてしまう…というプロットは「Kuch Kuch Hota Hai(何かが起きてる)」(1998)に通じる。「DDLJ」にシャー・ルクの友人役で出演し、本作でシャー・ルクの衣装デザインを担当しながら監督デビューを狙っていたカラン・ジョハールが、本作のストーリーからある種スピンオフ的に想い起こしたのが「KKHH」と言えるだろう。
実際、「KKHH」の構成をスープアップしたのが「K3G」(2001)であり、「KKHH」のラーニー・ムカルジー役からストーリーを見立て直したのが「たとえ明日が来なくても」Kal Ho Naa Ho(2003)なのだから。
さて、なんと言っても、シャンシャンとグングルー(足鈴)を鳴らしながら歩くマードゥリーの優雅なこと。ダンス・スタジオ以外でもドゥパッターをなびかせるクルター姿で歩けば、鈴の音が耳にリフレインしそう。
★スタジオ内でシャー・ルクとリズム・セッションをするくだり、振付を施したジャイキシャン・マハーラージの父親パドマビブーシャン(勲三等)・パンディット・ビルジュ・マハーラージこそ、ナマステ・ボリウッドで「カタックを語る」を連載中の佐藤雅子さん(みやびカタックダンスアカデミー)が直接師事した師匠とのこと。いずれ本作撮影時の話題に触れた過去コラムもアップする予定です。お楽しみに。