Darr(1993)#079
Darr(恐怖) 01.05.07UP/01.11.12 Re ★★★★
製作・監督:ヤシュー・チョープラー/脚本:ホーニー・イラーニー/台詞:ジャーヴェード・シッディーク/撮影:マンモーハン・シン/美術:スデンドゥー・ローイ/音楽:シヴ-ハリ/振付:サロージ・カーン、B・H・タルン・クマール/アクション:ティヌー・ヴェルマー/編集:ケシャーヴ・ナイドゥー/音楽:シヴ-ハリ/詞:アナン・バクシー
出演:サニー・デーオール、ジュヒー・チャーウラー、シャー・ルク・カーン、アンヌー・カプール、
特別出演:ダリープ・タヒル、アヌパム・ケール
公開日:12月24日 (年間トップ2、1990年代トップ10ヒット!/日本未公開)
STORY
インド海軍特殊部隊のエリート、スニール(サニー)をフィアンセに持つ女子大生キラン(ジュヒー)は、彼の上官メーヘラー(ダリープ)の息子ラーホール(シャー・ルク)からストーキングされて恐怖の日々を過ごす・・・。
Revie-U *結末に多少触れています。
若きシャー・ルク・カーンをスターダムへ押し上げた記念すべき作品のひとつ。ではあるものの、若手のシャー・ルクはクレディット・ビリングが3番目。しかし現在では、筆頭のサニー・デーオールを差し置いて、シャー・ルクのストーカー映画で通っている。
冒頭からして、ジュヒー・チャーウラーの魅力があふれ出ている。
「ラジュー出世する」Raju Ban Gaya Gentleman(1992)の直後に作られただけあって、初々しいジュヒーがひたすら愛くるしい。雨に打たれ納屋へ駆け込んでは濡れた服を脱ごうとするジュヒー、ラーホールの妄想の中で艶めかしいダンスを踊るジュヒー、真っ赤なブレザー&ミニスカ、脱げばぴっちりスウェーターという女子大生ルックのジュヒー、真っ赤なスクール水着(?)で泳ぐジュヒー・・・とフェロモン満点、シャー・ルクならずとも追いかけ回したくなるほど。
さて、フィアンセ役のサニーは、特殊部隊のエリートという設定! しかも第1幕の掴みで、誘拐された首相の娘を救出するためシージャックされた客船へ単身乗り込み、テロリストたちを殲滅してしまう!!!
このシーンは真っ昼間、インド海軍全面協力によるヘリ&ミニ潜水艦を駆使して撮影されており、一応、これがクライマックスの伏線となっていて、死んだと思っていたスニールがラーホール(ラーフル)とキランが乗るクルーザーに乗り込んで来る(が、氣付く必要は特にない)。
そのような過剰な設定に反して、ストーカー対策には大した手立てを講じず(悪戯電話には受話器を外しておくだけ)、ダンスもキマらずとあっては、本作だけ観る限りにおいて「何故、ジュヒーの相手がサニーなの?!」と嘆きたくなってしまう・・・。
ところが、年間トップ2ヒットとなった要因は、単にシャー・ルクがブレイク中だっただけでなく、ラストでサニーの怒り爆発があったからこそ、と言えるのだ。サニーは前年、怒濤の復讐劇「Ghayal(傷ついた者)」(1990)をトップ1ヒットさせており、本作でもそんなサニーによって銃弾を撃ち込まれたがためにシャー・ルクの哀れさが一層煽られ、観客の心を掴んだのだろう。
ヤシュ・チョープラーの演出は、シージャック・シーンなど演習程度にしか見えないお粗末さもあるが、楽隊としてキランへ接近したラーホールが追われてホーリー祭で賑わう街頭へ逃げ込み、間一髪で追手のスニールが車に撥ねられてしまうなど、手に汗握る箇所も多い。
また、薄暗い部屋の壁二面にキランのスライド写真をでかでかと投影する美術セットや、実態のない母親へ何かと電話するのも「サイコ」(1960=米)めいており、ラーホールの異常性を際立たせている。
特別出演として、スニールの上官でラーホールの父となるメーへラー役にダリープ・タヒルが、キランの兄(?)にアヌパム・ケールが出演している。
スタッフィングは家族主義のヤシュだけあって、助監督に「DDLJ」(1995)で監督デビューするアディティ、監督助手(使いっ走り?)に「Mohabbatein(幾つもの愛)」(2000)で俳優デビューしたウダイの名が見られる。
また美術助手のシャルミスター・ローイは、後に「DDLJ」(1997)で一本立ちしている。脚本は「Kaho Naa…Pyaar Hai(言って・・・愛してるって)」(2000)のホーニー・イラーニーが、台詞は「Dil Ne Phir Yaad Kiya..」(2001)のジャーヴェード・シッディークが担当。
本作ヒットの外的要因として、一ヶ月前に公開されトップ4ヒットの勢いを呈していた「Baazigar(賭ける男)」(1993)におけるシャー・ルクの役柄が巧い具合にオーバーラップし、言わばトレーラー(予告編)としての機能を果たしたことも考えられる。
この時期のシャー・ルクは血まみれネガティヴ・ヒーローまっしぐらという印象であるが、4ヶ月後に公開された「アシュラ」Anjaam(1994)ではヒロインにマードゥリー・ディクシトを迎え、さらにストーカーぶりがエスカレートしているものの、興行的には「Darr」の50%程度に落ち込んでいる。これは時代が血まみれ路線に食傷氣味となり、8月公開「Hum
Aapke Hai Kaun..!(私はあなたの何?)」(1994)に氣が引かれていたためだろうか。
*追記 2006.04.17
キランの写真を壁いっぱいに映し出すラホールの部屋は、シュリーデヴィーの写真で部屋中に埋め尽くしていたヤシュの自作「Chandni」(1989)のスープ・アップ。この部屋に初めて入ったシュリーデヴィーは嫌悪感を湧くどころか、相手役リシ・カプールの深い愛を感じて歓ぶ。後半、シュリーデヴィーを失ったリシが雨に洗われ塗りつぶしたはずの写真から彼女の微笑みに再び触れるや、生きる希望を見出すエピソードは胸を打つ。しかし、本作であくまでキランはラーホールを拒絶し、彼の愛は報われることはない。
*追記 2010.10.06
>サニー・デーオール
粗太な魅力を発揮するサニーと、一応はロマンス物を基本路線とするヤシュ・チョープラーとでは(同じパンジャーブ系ながら)合わなかったようで、その後は特に関わりなし。
サニーは、メガヒット「Gadar(暴動)」(2001)にて愛しいアミーシャー・パテールにターバンを巻いてもらって照れ入るところとか、プリティー・ズィンター共演「The Hero」(2003)におけるロマンティックな側面などのチャームが解ると実にぐっとくるようになる。もっともそれは怒りが爆発するアクションの情感を伴って初めて成り立つため、日本の女性ファンにはやはりハードルが高いのだろう。
>シャー・ルク・カーン
ストーカー役はアーミル・カーンが蹴ったとか。ブレイク作として認知され、未だに「キ・キ・キ・キラン…」の台詞がパロディで用いられる。
ちなみにシャー・ルク自身も恋人だったガウリーをストーカーそのもので追いかけまわし、遂に彼女も観念して結婚。本作のプレミアでは夫婦揃って出席。上映中のガウリーの心境や如何に?!