Baazigar(1993)#077
Baazigar(賭ける男) 01.11.12 ★★★
バージガル
製作:ガネーシュ・ジャイン/監督:アッバース-ムスターン/脚本:ロビン・バット、アーカーシュ・クラーナー、ジャーヴェード・シッディーク/撮影:トーマス・A・ゼイヴィエル/音楽:アヌー・マリック/背景音楽:シャーム・スレンデール/アクション:アクバル・バクシー/美術:R・ヴェルマン/振付:サロージ・カーン、ラージュー・カーン、レカー・プラカーシュ
出演:シャー・ルク・カーン、カジョール、シッダールタ、シルパー・シェッティー、デリープ・タヒル、ジョニー・リーヴァル
特別出演:ラーキー・グルザール
公開日:1993年11月12日(日本未公開)
STORY
令嬢シーマー(シルパー)を恋の虜にしたアジャイ(シャー・ルク)。が、彼はヴィッキーと名乗って彼女の姉妹プリィヤー(カジョール)へも近づく! 婚約が決まった矢先、シーマーが謎の飛び降り自殺を図り、徐々にプリィヤーはヴィッキーに疑惑を抱いてゆく。彼女の父マダン(デリープ)にも重用されるヴィッキーことアジャイの目的は、幼い頃、父の会社を乗っ取り一家を破滅させたマダンへの復讐であった・・・。
Revie-U
「ラジュー出世する」Raju Ban Gaya Gentleman(1992)でブレイクし始めていたシャー・ルク・カーンをスターダムへと押し上げた記念すべき作品がこれ。兄弟監督アッバース-ムスターンも前年アクシャイ・クマール主演「Khiladi(闘士)」(1992)のヒットを放っており、これにカジョール、シルパー・シェッティーなどが加わって映画ファンに鮮烈な印象を与えたのだろう。興行的にも「Darr(恐怖)」(1993)に一歩譲った年間トップ4のヒットとなっている。
シャー・ルクのブレイクぶりはタイトルバックからも伺われ、これがまたイカしてる。
雨の夜、少年アジャイがドクターを呼びに走る。病苦の母(ラーキー)は死にはしないが、回復の見込みはない。屋台の皿洗いをしながら、彼は母を看病する。カジョールから始まるクレディットがこれに重なるが、シャー・ルクの名前は見当たらない。
現代シーンへ飛び、悪夢に魘されて起きた青年アジャイ(シャー・ルク)が喪失したままの母親をいたわる姿が映し出される。やがて、外出する彼が庭先でコインを拾い、それを空へ投げ上げると同時に、SHAH RUKH KHAN as の文字がロール・アップ。BAAZIGARのタイトルへと続くのだ。
プロローグで貧しい少年時代が示されたアジャイだが、デートの相手は令嬢シーマーである。演ずるシルパーは、これがデビュー作。今では艶っぽいシルパーも当時18歳、「Mohabbatein(幾つもの愛)」(2000)でデビューした妹シャミターと大差ないのが微笑ましい。
アジャイにぞっこんのシーマーは、縁談の話が持ち上がると彼とふたりで遺書めいた物を書き記す。アジャイは自分の遺書は破り捨て、これは「キミの愛を試しただけだ」と言う。
ところが、アジャイは彼女をビルの屋上から突き落としてしまうのだ!!! そして、書かせた遺書を投函するのであった。「復讐のために殺人を重ねるアンチ・ヒーロー」とは聞いていたが、まさかヒロインの一人をいきなり殺すとは!
一方、アジャイはヴィッキー・マルホートラという名前でプリィヤーとその父マダン・チョープラーへ接触していて、彼女と婚約を結ぶまでになる。
プリィヤーに扮するカジョールもデビュー2年目(シルパーと同じ18歳)とあって、若々しい健康的なフェロモンが売り。やはり女優は磨かれて育つので、これを見れば今年デビューの新人女優たちにも期待できると言えよう。
B級アクション・スリラーを得意とするアッバース-ムスターンであるが、「サイコ」(1960=米)のジャネット・リーよろしくシルパーを第1幕で殺してしまう不意打ちや、サーキットを疾走するフォーミラー・レース・シーンなどを用意するなど意欲的な演出を見せるものの、さすがに一昔前の作品とあって全体のテンポはのろい。
アジャイに疑惑を抱いたプリィヤーが彼の友人のアドレスを航空会社のカウンターで調べるシーンは、最新作「Ajnabee(見知らぬ隣人)」(2001)でもそのまま登場! これは両作の脚本に関わっているロビン・バットのアイディアか?!
意外にタルい本作であるが、クライマックスではシャー・ルクが血まみれ涙目全開! ファイト・シーンはスピード感あふれており、これがウケたのだろう。
この頃のシャー・ルクは、ボリウッド全体の傾向もあって血まみれ路線が続いており、ラストではデリープに串刺しにされるが逆に差し違えて砲台から落下するなど「Darr」、「アシュラ」Anjaam(1994)めいている。ちなみに、「Darr」は翌月公開であったから、かなりキョーレツな年であった!
アヌー・マリックの音楽は、シャー・ルクのベスト盤にもセレクトされるファンキーなナンバル「yeh kaali kaali ankhen(この黒々した瞳)」などわりとポイント高い。
バージガル(曲芸師)にちなんで(??)シャー・ルクが怪傑ゾロのコスチュームで登場する「baazigar o baazigar..」は、どこかで聴いたメロだと思ったら、ボビー・デーオール&カリシュマー・カプール主演「Hum To Mohabbat Karega(恋しようよ)」のナンバル「sonu sonu」。アヌーが自作を再利用していたわけである。
定番敵役のデリープ・タヒルは、7年後の「Chhupa Rustam(大勇者)」(2000)でも同じ役者相手に掠奪殺人を演じていた。
また、特別出演のラーキーは、「Karan Arjun 」カランとアルジュン(1995)、「Soldier」(1998)へと続く復讐を誓う母親像の原型が見られ興味深い。
その他、ジョニー・リーヴァルはじめ、アッバース-ムスターン作品の常連、ディニーシュ・ヒングー、アナン・マハーデヴァン、アディ・イラーニー、アムリット・パテール、ハラパール、チャーリーなどの面々もしっかり揃っているのが嬉しい。
*追記 2010.10.06
>カジョール
なんと超ハイレグの水着姿があって驚き! ヒットの要因はこれだったりして。
>さすがに一昔前の作品
最新追記時点からすると二昔前。さすがに全体的に古めかしく、また80年代後半から海賊ビデオ上映などの大打撃を受け、映画界が低迷していたこともあり実にチープな印象は否めない。特に怪傑ゾロ・ナンバル「baazigar o baazigar」などネタ探しに躍起になってる投稿動画番組で取り上げられたらバカ受けされそう(先日のインド版スリラーもそうだが、20年以上前の映画ということをちゃんと伝えて欲しいものだ。でないと、インド映画は今もこんな感じかと思われてしまう)。
>定番敵役のダリープ・タヒル
90年代はボリウッド定番の敵役として引っ張り凧だったダリープ。その素顔は真摯な舞台役者で、敵役で身銭を稼いではハムレット物の演劇につぎ込んでいた。
ボリウッドの勢いに目を付けた「Cat’s」のアンドリュー・ロイド・ウェーバー卿がプロデュースしたロンドン・ミュージカル「Bombay Dreams」(音楽はA・R・ラフマーン、振付がファラー・カーン)に招かれて出演、2年間のロングラン及びその後の「Evita」公演の間はボリウッドから離れていたが、近年、復帰。
なお、彼自身の歌声がCD「Bombay Dreams」に収録されており、その声量はさすがミュージカル俳優。