Hum Dil De Chuke Sanam(1999)#099
「ミモラ 心のままに」Hum Dil De Chuke Sanam
ハム・ディル・デー・チュケ・サナム/1999 01.02.18up ★★★★
製作総指揮:イブラヒム・デーサーイー/製作:ジャムー・スガーント/製作・原作・脚本・監督・振付:サンジャイ・リーラー・バンサーリー/原作:プラタップ・カルヴァト/脚本:ケンネート・フィリップス/台詞:アムリク・ギル/撮影:アニル・メーヘター/作詞:メヘブーブ/音楽:イスマイェル・ダルバール/振付:サロージ・カーン、ブーシャン・ラキャンダリー、ガネーシュ・アチャルヤー、ヴァイバヴィ・メルチャント、サミール&アルシュ・タンナ/背景音楽:アンジャン・ビスワース/美術:ニティン・C・デーサーイー/衣装:ニーター・ルッラ、シャビナー・カーン/編集:ベラ・サーガル
出演:サルマーン・カーン、アジャイ・デーヴガン、アイシュワリヤー・ラーイ、ゾーラー・サイガル、ヴィクラム・ゴーカレー、スミター・ジャイカル、ラジーヴ・ヴェルマー
特別出演:ヘレン
公開日:1999年5月27日(年間トップ4ヒット!)
Filmfare Awards:作品賞、監督賞、主演女優賞、音楽賞、ベストプレイバックシンガー賞
Screen Awards:作品賞、監督賞、主演女優賞、脚本賞、科白賞、撮影賞、女性プレイバックシンガー賞、美術監督賞、振付賞、特殊効果賞
Zee Cine Awards:作品賞、監督賞、主演女優賞、ベストストーリー賞、男性&女性ベストプレイバックシンガー賞、台詞賞、美術賞、振付賞、撮影賞
STORY
ラージーャスターンの伝統音楽家の娘ナンディニー(アイシュ)は、父の下へ弟子入りした西洋声楽家の青年サミール(サルマーン)と恋に落ちる。だが、激怒した父親はサミールを破門、ナンディニーを知人の息子ヴァンラージ(アジェイ)へ嫁がしてしまう! 真相を知ったヴァンラージは、妻への愛から、恋人に想いを焦がす彼女と共にサミールを探すイタリーへの旅に立つ。ナンディニーは苛立つものの、次第にヴァンラージの愛が彼女を包んでゆく。果たして本当の愛とは?
Revie-U
1999年度のフィルム・アワードを独占したアイシュワリヤー・ラーイ。2本の出演作はどちらもノミネートされ、名実ともにインド映画界のトップスターとして彼女は輝くこととなった。もう1本の「Taal(リズム)」でも伝統音楽家の娘を演じていたアイシュ。
彼女をめぐる二大スターはサルマーン・カーンと本邦発初上陸のアジャイ・デーヴガン。サルマーンは相変わらずコメディリリーフ的な陽氣なキャラクターで通し、例によって自慢のマッチョボディを見せびらかす。
一方、アジャイは場面中盤、ほとんど忘れかけていた頃に登場する短いファースト・カットだけで、そのキャラクターの置かれた立場が伝わってくるほどの実力。
果たして原題「私の心は愛しいあなたのもの」とは、愛を誓い合った恋人か、それとも彼女が自分を愛していないことを知りながら彼女を支え続ける夫か? もっとも、ストーリーの展開はあくまでヒンドゥーの価値観に則っているのだが、それでも感動的である。単なるメロドラマではあるが、前半のラジャスターンと後半のヨーロッパ・イタリア(実はハンガリー)の対比したロケなど、近年、ますます大作指向になってその成熟度を増しているボリウッドの実力が大いに感じられる。
破門されたサミールがナンディーニーの下を去る哀愁ナンバル「tadap tadap」は、まるで日本のグループ演歌を思わせ、妙に心に染み入ってしまう。
2000年にアジアフォーカス福岡映画祭、東京国際ファンタスティック映画祭では「心のままに(英題=STRAIGHT FROM THE HEART)」という邦題で上映。
*追記 2010.11.05
アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャンが「Taal(リズム)」(1999)と共にトップ・スターと認知された記念すべき作品。
しかし、世界の潮流と日本国内では逆転するという<呪ひ?>から、劇場公開された時には前世紀に隆盛した<インド映画ブーム>も末期とあって、ムーブ・オーバーすることなく埋もれてしまった悲劇の作品でもある。
海外向けの英題をそのまま邦題にした「心のままに」での映画祭上映から2年も経った頃、思い出したように劇場公開。インド映画ファンに口コミ宣伝マンを募集するも、新規邦題に「やはりインド映画はカタカナ三文字でなければ」と、劇中歌「nimbooda」(レモンの意味。daは外来系の音からraと発音)が早口で「ミモラ」と聞こえるからと強引にタイトル化し、ファンから顰蹙を買った<伝説>の作品とも言える。
(それでいて、ポスター/チラシには小さくnimboodaのデーヴァナーガーリー表記が施され、偽造タイトル「ミモラ」の信憑性を高める工作が為されていた。サルマーン・ファンからは、なぜポスターに主演俳優の姿がないのか、とバッシング)
どう聞いても「ミモラ」でなく「ニブラ」ないし「ニムラ」と聞こえる、問題の「nimbooda」は元々、ラージャースターン民謡で、日印交流年に来日したラージャースターン舞踊団の地元版VCDでも砂漠にハルモニウムを持ち出して演舞する民謡バージョンが収められている。
レモン(現地の物はライム程度の大きさ)は呪術的な作用を持ち、邪視除けに使われる(歌にある主婦が妊娠して酢っぽい物が欲しがるせいもあるだろう。同じく邪視除けに使われる緑唐辛子も後半、心を閉ざしたアイシュがバリバリ食べてアジャイからたしなめられるシーンがある)。
配給大手、ギャガ=ヒューマックスが手がけながらもフロップしたことから、その後に「インド映画」買い付けにアヤがついたとされる。
ヒロイン女優アイシュの美しさ、メリハリのあるミュージカル・シーンなど魅力的な要素は多いものの、日本市場にとって文化的にハードルが高いことを実証してしまったところがある。
本作の最大の難関として考えられるのが、感動のポイントとなるクライマックス、果たしてナンディニーが選ぶのが、恋人を取るか、夫を取るか、という選択基準が(当然ではあるが)インド文化に則ってあるということ。
これが自由恋愛を謳歌する現代日本人からすると「あれれ?」という肩透かしに感じてしまい、口コミ動員につながらなかったように思える。
これがボリウッドなりインド映画を数十本見込んでインド・モードで感情移入できるようになると、一変、ぐっと心に染みる感動作となるのだが。
この<インド文化>に根ざした映画文法が、家族主義が色濃く残る中東~アフリカ諸国で受け入れられているのに対し、欧米以上にある種、個人主義/核家族(あるいは核分裂家族)に走っている現代日本では、よりハードルが高くなってしまうのだ。
また、一般的に日本人が映画を観ない民族であるということも大きい。
茶目っ氣たっぷりに恋人役を演じるサルマーンも誠実だがどこか陰鬱な雰囲氣を与える夫役のアジャイも、数あるフィルモグラフィにおける1バリエーションに過ぎないが、たまにしか公開されない日本においては、これが彼らの<キャラクター>であると固定化されてしまい、次回公開のネックになる(実際には「その次」はなかったけれど)。
ボリウッドはハリウッドと違って、トップ・スターの主演作が年間4~5本は当たり前。それが入れ替わり立ち替わり、毎週怒濤の勢いで新作が公開される。そのような市場にあっては、キャラクターの違い、作品の出来・不出来も含めて楽しんでしまう土壌となる。
日本もかつて映画黄金期から3本立て350円を「ぴあ」持参で50円割引で観られた名画座が残っていた80年代までは浴びるように観る映画ファンがごろごろいて(鑑賞本数年間300本以内ではあまり大きな顔も出来なかった)、それなりに出来の悪い作品も見守る環境にあった。しかし、せいぜい年間1~2本観るかどうか、テレビで宣伝してまわりで話題になっているから観に行くか、という状況になってくると、1発必中主義となり、少しでも観客に違和感を憶えられると即ダメ映画にされてしまう風潮となってしまった。「インド映画」はもとより、洋画全般、多くの邦画が興行的に苦労しているのは、この点が大きいのではないだろうか。
サンジャイ・リーラー・バンサーリーは監督デビュー2作目であり、「Devdas(デーヴダース)」の再映画化を叶えられるポジションになく、想いを馳せながら本作を作ったとのこと。
ストーリー・ラインも、ヒロインの元にヒーローがやってくる(=帰って来る)、ふたりの恋が親から反対されヒロインが裕福な家に嫁がされる、ヒーローは遠く去って…と前半までの流れが「デーヴダース」に重なる。
実際、サミールの去り際ナンバル「tadap tadap」(これもtarapとなる)で、彼を追って走るナンディニーのサーリーへフォーカスするショットなどは、ビマール・ローイ監督版「Devdas」(1955)への表敬となっている。
しかし、「Saawariya(愛しき人)」(2007)がドストエフスキーの「白夜」を原作としていてゲスト出演のサルマーンが本作の衣装返しのように思えることから、後半、夫のアジャイが妻のアイシュを恋人サルマーンのところへ連れてゆこうとする展開が「白夜」から引用されたものではないか、とも考えられる。
なお、日本版DVDが2002年10月にエイベックス・トラックスより発売。ディスクが2枚に分かれているのにインターミッションで区切らず中途半端な場面でディスク交換となること、ソング・キャプチャーが用意されていないこと、などこれまた不評ではあったが、現在は廃盤のため、中古で見かけたら即購入でしょう。特典映像としてアイシュの日本向けメッセージ映像も収録(「ミモラ」という邦題を嫌々言ってる?)。
一方、日本版サントラCDはまだ流通している模様。ただし、<コレクター>でなければ輸入版CDで十分。重低音クラブ・リミックス系がスタンダードとなりつつある現在のボリウッドからすると、カヴィター・クリシュナムールティーやウディット・ナラヤンを起用した陶酔感あふれる楽曲は、まさに至福。
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