Om Shanti Om(2007)#072
Om Shanti Om 08.03.21UP ★★★★★
オーム・シャンティ・オーム
製作:ガウリー・カーン/原案・脚本・振付・監督:ファラー・カーン/脚本:ムスターク・シェイク/台詞:マユール・プリー/撮影:V・マニカンダン/作詞:ジャーヴェード・アクタル、ヴィシャール(ajab si)/音楽:ヴィシャール-シェーカル/背景音楽:サンディープ・チョウター/美術:サブー・シリル/衣装:マニーシュ・マルホートラ、カラン・ジョハール、サンジーヴ・ムールチャンダニー/アクション:シャーム・コォーシャル、アーマル・シェッティー/VFX:レッド・チリースVFX/編集:シリーシュ・クンデール/音響設計:ナックル・カマテー
出演:シャー・ルク・カーン、ディピカー・パドゥコーン(新人)、アルジュン・ラームパール、シュリヤス・、タルパデー、キロン・ケール
公開日:2007年11月7日(日本上映:2008年9月、アジアフォーカス・福岡国際映画祭他)
ベルリン国際映画祭上映/2007年度トップ1ヒット!
Screen Awards:新人賞(ディピカー・パドゥコーン)/振付賞(dhoom tana)/ベスト・ジョーリー賞(シャー・ルク・カーン’N’ディピカー・パドゥコーン)
Filmfare Awards:新人賞(ディーピカー・パドコーン)/特殊効果賞(レッド・チリースVFX)
STORY
ジュニア・アーティストの両親に生まれたオーム(シャー・ルク)は、人氣女優のシャンティプリヤー(ディーピカー)に夢中。ある撮影で彼女を炎の中から救い出したことから、シャンティプリヤに好意を示される。想いが高まる中、彼女の真実を知って……。
Revie-U
●経済成長と共にボリウッド映画からも「夢」がなくなった…と嘆きが聞える昨今、この「Om Shanti Om」(2007)には夢と映画愛がたっぷりと注ぎ込まれている。
なにしろ、キング・オブ・ボリウッド、シャー・ルク・カーン製作・主演にして、スーパーマサーラー「Main Hoon Na(私がいるから)」(2004)でトップ1ヒットを放ち、映画監督デビューを飾った振付監督ファラー・カーンの第2弾だけに面白くないわけがない。
今回のキング・カーンは、ジュニア・アーティスト(エキストラ俳優)の両親に生まれた<オーム・プラカーシュ・マッキージャー>が役どころ。この名も1940年代から銀幕に立ち、味わいのある演技で涙を誘った名バイプレイヤー、オーム・プラカーシュへの敬愛を感じずにはいられない。
また、ヒロインに抜擢された新人ディピカー・パドゥコーンにも注目。高貴で愛らしいムンターズ・スタイルと現代の素人娘を演じ分け、どちらも好感大。随所に旧作ネタが仕込まれているが、ディープな梵林マニアやシャー・ルク・ファンならずとも楽しめる、一級品のエンターテイメントだ。
さて、今回は、Eros正規盤のチャプターに沿って、ファラーが仕掛けた元ネタを検証してみたい。
*今回は作品のすべてに触れています! が、極力、ネタバレしないように書いてあります。
Chapter 1
●センサーシップ/CM/プロダクション・バナー(キャメラ・レンズ風CGの縁にOMと記されている)に続き、ボリウッドお決まりの献辞(インド人はリスペクトされるのを好む)。今回はゲスト出演が豪華なので長い!
Special Thanks & a Big Hag to
スバーシュ・ガイー:元俳優の映画監督。「Khal Nayak(悪役)」(1993)他ヒット作多数。
リシ・カプール:「ボビー」Bobby(1973)でデビュー、70〜80年代のトップスター。もちろん、名門カプール家。
アビシェーク・バッチャン
Very Friendly Appearances
サティーシュ・シャー:「Main Hoon Na」のツバ吐き教授。
カラン・ジョハール:TVトーク「Koffee with Karan」の司会者。そう言えば、「KKHH」(1998)、「K3G」(2001)などの映画監督でもある。
アールティー・グプター・スレンドラナート:元女優。
マライカー・アローラー・カーン:サルマーンの義妹。代表作「ディル・セ 心から」Dil Se..(1998)の列車上ナンバル「chaiya chaiya」。
Thank You
FILMFARE:ボリウッドの老舗映画雑誌。その映画賞はNational Film Awards以上のステイタス。
ウメーシュ&ラーメーシュ・メーヘラー
ゴゥラン・ジョーシー&SHEMAROO:配給・配信・ソフト販売会社。
ムクター・アーツ Ltd.:スバーシュの映画制作プロダクション。
ヤシュ・ラージ・フィルムズ:ヤシュ・チョープラー率いる梵林トップ・コングロマリット。
A Very BIG Thanks to…
アルバーズ・カーン:サルマーンの愚弟。
アムリター・アローラー:アルバーズの妻マライカーの妹。
バッピー・ラーヒリー:80年代から活躍する音楽監督。
チャンキー・パーンディー:80年代から活躍するコメディ俳優。
ダルメンドラ:60年代から活躍するトップスター。デーオール家の大黒柱。
ディノ・モレア:「Raaz(秘密)」(2001)でデビュー。モデル出身。
ディヤー・ミルザー:ミス・アジアパシフィック。「Dum(強靱)」(2003)他。
フェーローズ・カーン:60年代から活躍するトップスター。ファルディーンの父。
ジーテンドラ:60年代から活躍するトップスター。トゥシャールの父。
コエナー・ミトラー
ラーラー・ダッタ:ミス・ワールド2000。「Zinda(生存)」(2006)他。
ミトゥン・チャクラワルティー:80年代から活躍するカルトスター。「Aaag Hi Aag(火には火を)」他。
ラーケーシュ・ローシャン:元俳優の映画監督。リティクの父。
リティーシュ・デーシュモーク:若手随一の曲者俳優。「Bluffmaster!」(2005)他。
シャバナー・アーズミー:70年代から活躍する名女優。作詞の大家ジャーヴェード・アクタルの妻。
サンジャイ・カプール:アニル・カプールの愚弟。
トゥシャール・カプール:ジーテンドラの息子。「Mujhe Kucch Kehna Hai(私に何か言わせて)」(2001)でデビュー。
ヤシュ・チョープラー:映画監督。言わずと知れたボリウッドの父。
ザイード・カーン:リティクの義弟。「Main Hoon Na」に出演。
●そう言えば、日本映画界でも三谷幸喜が新作映画「ザ・マジックアワー」(2008=東宝)で<豪華な>ゲストスターを呼んで話題になっているようだが、こちらはほんの7人ほど。謙遜好きの日本人故か。
●冒頭のナレーションで始まるスタイルは、1970年代によくあったスタイルを踏襲。ファラーは、ナースィル・フセインの名をあげているが、同じ転生物の「カランとアルジュン」Karan Arjun(1995)でも同様にナレーションからスタートしている。
リシケーシュ・ムカルジー監督作「Bawarchi(料理人)」(1972)では、ブレイク前のアミターブ・バッチャンがナレーターを務めている。
Chapter 2
Location:RCスタジオ
Time:30年前の午後
Charactor:オーム、パップー
Scene:ムクター・アート「Karz」のステージ・ナンバル「om shanti om」の撮影
●「30年前」という設定で始まる撮影所シーン。<RCスタジオ>というのは、かのラージ・カプールによるRKスタジオに掛けてあるのだろう。
このオープン・セットは、フィルムシティに造られた「Shootout At Lokandwala」(2007)のローカンドワーラー団地は愚か、湖面を覆い尽くすように造られた「Devdas」(2002)をも凌ぎ、文句なしにボリウッド映画最大のオープン・セットといえよう。スタジオの数々は、1920年代のアメリカン・アールデコ・スタイルで設計されており、実にスウィーティー。
憔悴した女優と脚本家の情事映画「Woh Lamhe…(嗚呼、ひととき)」(2006)を同じシャイニー・アフジャー主演で60年代に置き換えた「Khoya Khoya Chand(消えゆく月)」(2007)のムードある美術にも唸らされたが、もちろん、これはハリウッドの年代物映画に準じた虚像で、実際はかなり殺風景であったはず。
●この中のスタジオで撮影中という設定なのが、ムクター・アート作品、スバーシュ・ガイー監督の「Karz(借り)」(1980)だ。
さきほどのテロップでは「30年前」ということなので、「OSO」の現代シーンは2010年になる計算。が、昔の映画は完成/公開までに2年ぐらいかかるのが当たり前にあったようであるから、2008年というあたりか。
●暗転して映し出されるのは、「Karz」のメモラブル・ナンバル「om shanti om」。回転する巨大なレコード・プレーヤーの上で歌い踊るのが、当時トップスターのリシ・カプール! プレーヤーの軸がリンガになってるのがさすがオーム・シャンティ!
現在の高感度なフィルムの画質にマッチすべく、デジタル・リマスターされている。
オリジナルの「Karz」ではコンサート会場を埋め尽くすエキストラを配置していただけに、やや残念。俯瞰のショットは今回のセットで、そこに見えるリシはドゥプリケート(代役)だろう。
キャメラの横にいるのは、自作に必ず出演する監督のスバーシュ・ガイー本人。その彼がやたらにインサートされるのは、リスペクトなのか、自作に出過ぎの揶揄か(苦笑)。
通常、ボリウッドのミュージカル撮影現場では監督と共にコレオグラファーがいて、その指揮により撮影が進むわけだが、コレオグラファーであるファラーの作品ながらそれがない。これは、ファラー自身が<アグレッシヴなジュニア・アーティスト>役でシャー・ルクと一緒に出演しているため、「まだコレオグラファーがいない」ということなのか(笑)。
ちなみにファラーが中国映画に招かれたピーター・チャン監督、金城武主演「ウィンター・ソング」(2005=香港)のミュージカル撮影シーンもコレオグラファーが不在で、カットをかけた監督が詰まらなそうに「昼飯」と呟いていたのが興味深い
(スバーシュは満足そうに「ランチブレイク!」と言っている)。
●「ウィンターソング」でのファラーは<舞踊設計>とクレジットされていたが、ボリウッドでのコレオグラファーは単なる<振付師>ではなく、ミュージカル・シーンに対してかなりの権限を持つ<振付監督>である。
Chapter 3
●休憩中、オームの前に「運命の糸」Dor(2006)のシュリヤス・タルパデー扮するジュニア・アーティストの手配師でもある親友のパップー・マスターが表れ、ふたりの掛け合いとなる。
パップーの衣装は、70〜80年代にまだスター俳優だったラーケーシュ・ローシャンをイメージしているとのこと。なるほど彼が助演したジーテンドラ主演作「Priyatama」(1977)を見ると、どこか本作のシュリヤスが重なり滑稽に思えてしまう。
この時、RCスタジオのオープンセットに遥か遠くまでジュニア・アーティストが配置されているだけでなく、このオープン・セットがまったくのフラットな土地でなく、ゆるい丘陵地を選んで造られており(あるいは土砂を運び込んで斜面を造営)、スタジオの奥行きを示しているのには感心させられる。
●シャー・ルクの役名である<オーム・プラカーシュ・マッキージャー>(マッキーは蝿)のオーム・プラカーシュは後年、味のある名バイプレーヤーとして多くの作品に出演。復讐の好々爺「Buddha Mil Gaya(老爺をみつけた)」(1971)、愛嬌ある悪党「Apna Desh(我が国)」(1972)、涙を誘うアングレージ・インディアンの家長「Julie」(1975)、またアル中のアミターブ・バッチャンに尽くす老僕「Sharaabi(酒飲み)」(1984)など絶品である。
●芸名ネタで登場するのがゴーヴィンダのそっくりさん(ドミニク)。彼がニーラムと「Ilzaam」(1986)で本格デビューするのは1986年、それ以前の1980年前後にも子役扱いで幾つかの映画に出ているのでリアリティーのあるギャグと言えよう。当時のゴーヴィンダと親しかったというファラーだけある(彼女の弟サジード・カーンはファルディーン・カーンと幼なじみ)。もっとも、当時のゴーヴィンダは、もう少しスリムで2枚目だったはずだが…。
ここで登場するスーパースター <ラージェーシュ・カプール>は、もちろん、ラージェーシュ・カンナーのこと(1970年前半に絶頂を誇ったボリウッドの初代スーパースター。トゥインクル・カンナーの父にして、アクシャイ・クマールの義父)。
制服の女学生たちからサインを求められるのは、少女役のジャヤー・バードゥリー(現バッチャン。アイシュワリヤー・ラーイ・バッチャンの義母)がダルメンドラ彼自身にサインを求める「Guddie(可愛い娘)」(1971)を思い出させる。
しかしながら、「Karz」撮影当時の1970年代末ともなると「Chhaila Babu」(1977)などのスマッシュヒットはあるものの、アミターブ・バッチャンらに押され、さしものスーパースターも影が薄くなっていた時期。
扮するは「Jaan-E-Mann(我が命〜愛しき人)」(2006)でプリティー・ズィンターの父役、「Namastey
London」(2007)でウペン・パテールの父親役を演じたジャーヴェード・シェイク。ボリウッドにとって重要なマーケットとなっているNRP(在外パーキスターン人)マーケットを意識して、ロリウッド(パーキスターン映画界)からボリウッドにシフトした彼を配役。このへんからもボリウッドのクロスオーバー的、ヒンドゥースターニー文化が感じられる。
Location:オームの家
Time:30年前の午後
Charactor:オーム、オームの母ベラ、パップー
Scene:オームの名前にちなんで
●オームの母役は、「Main Hoon Na」で継母役だったキロン・ケール(アヌパム・ケール夫人)。
彼女が監督から注目されたと言う「Mughal-E-Azam(偉大なるムガル帝国)」(1960)は、モノクロ版「Devdas」(1955)にも主演したディリープ・クマールの超大作。完成まで10年を要した、という映画でゴージャスなセットを組んだスペクタクル映画である一方で、予算が底を尽き、ベニヤに軽くペンキを塗っただけのチープなセット・シーンも時に見られ映画制作の苦労が伺われる作品。
Chapter 4
Location:下町の歩道橋
Time:30年前の午後
Charactor:オーム、オームの母ベラ、パップー
Scene:愛しき人に話しかけるオーム
●オームが話しかけるヒロイン、シャンティプリヤーの新作ホールディング(大型看板)「Dreamy Girl」は、70年代トップ女優ヘーマー・マーリニー(イーシャー・デーオルの母)主演「Dream Girl」(1977)への敬愛。立ち並ぶホールディングの中に「Sholay」炎(1975)「続映中!」の看板もあるのは、ロングラン記録が6年とも8年とも言われるだけに時代考証に適っている。
●80ルピーのサーリーを着た母親がオームの手首に巻くタガー(聖紐)は、北インドで熱烈に信仰される大聖者シルディのサイババを祀った寺院で手に入れたもの。「Amar Akbar Antonh」アマル・アクバル・アントニー(1977)でも盲目のニルパー・ローイへ奇跡を施している。この御利益あって、オームは憧れの人氣女優シャンティプリヤに見舞えることとなる。
ところで、ヒンドゥー、イスラーム、クリスチャンのシンボルが合わさったオームのロケット(ペンダント)はカラン・ジョハールによるデザイン。さきの「アマル・アクバル・アントニー」同様、ヒンドゥー、ムサルマーン、クリスチャンが手を合わせて業界を支えている映画界の象徴と見てとれよう。
Chapter 5
Location:キャピタル・シアターの前
Time:30年前の夜
Charactor:オーム、パップー、ラージェーシュ・カプール
Scene:「Dreamy Girl」のプレミア会場。
●初っぱなに登場するスターのドゥプリケートは、美女を2名引き連れているのが疑似デーヴ・アーナンド(セーヴ・アーナンド)、黒の革ジャンが疑似ダルメンドラ(ダナンジャイ)、青いスカーフにサングラスが疑似ラージェーシュ・カンナー(マヘーシュ・カンナー)か。チェック柄の男は、本当ならアミターブほど背が高くなければならないシャトルガン・スィナー(ナゲーシュ・クマール)。背が低過ぎて判らない!
白いベストとスラックスでフレーム・インして腰を振るのは、疑似ミトゥン・チャクラワルティー(モーハン)。例の襟足が長く揉み上げをテクノ風にカットしたボリウッド・ヘアスタイルなのに注目。しかし、小太りなのでジョニー・リーヴァルにしか見えない(苦笑)。
後半、本人達を招いておきながら、リスペクトとパロディーを同居して描くというのは、日本人としては驚き?!
●ナンバル・プレートSTAR999(究極のスター? 単なるペイントでなく、浮き文字細工!)のアメ車で乗りつけたラージェーシュ・カプール登場シーンに流れるは、本家ラージェーシュ・カンナーをロマンティックなスーパースターとして決定付けた60年代中トップ1ヒット「Aradhana(崇拝)」(1969)より風光明媚ナンバル「kora kagaz tha」のイントロ。甘い歌声はもちろん、往年のトップ・プレイバックシンガー、キショール・クマール。
●その愛妻は、無論、「ボビー」Bobby(1972)でデビューし一世を風靡したディンプル・カパーディヤーというわけで、顔立ちの似た、「Waqt(時)」(2005)でボーマン・イラーニーの妻役だったアサワリー・ジョーシーを配置。
●オームとパップーが掌で顔を隠して真似をするのは、スター俳優にして野心的に愛国的な監督作を手懸けたマノージ・クマールのこと(ドゥプリケートはサリーム)。
彼の監督・主演した「Purab Aur Pachhim(東と西)」(1970)は「Namastey London」(2007)で英国人相手に一席ぶるアッキーの台詞にも引用されている。また歴史大作「Kranti(革命)」(1981)は、1980年代中のトップ1ヒットを飾り、現代で言えば、アーミル・カーンのような立ち位置か。
本人はこれを見て怒ったそうだが(太ったドゥプリを使ったから?)、念のため、「マノージ・クマール氏はとっても良い人物だから」とオームの台詞あり(苦笑)。
●到着したゲストをアナウンスする司会は、広告業の夫と結婚した元女優、Very Friendly Appearancesのアールティー・グプター・スレンドラナート。
Chapter 6 「ajabsi」(KK)
Location:キャピタル・シアターの前
Time:30年前の夜
Charactor:オーム、パップー、シャンティプリヤー、マノージ・クマール
Scene:同じく「Dreamy Girl」のプレミア会場。
●クリームイエロー×ホワイトのツー・トーンに塗られたアメリカ車から降り立つのが、ヒロイン女優のシャンティプリヤ。扮するは、バトミントンの王者を父に持つディピカー・パドコーン。漆黒をアップに上げた髪形は、70年代初等に人氣を誇ったムンターズのイメージだそうだ。
群衆に手を振るディピカーの手がやたら大きく見えるのは、小顔のため。シュリーデヴィーもそうであるが、ぱっちりした目が大きいのではなく、頭がい骨そのものが小さい(!)。
このレッドカーペット・シーン、歓喜するジュニア・アーティストのはしゃぎようからもディピカーのスター性が解ろうというもの。
(ドゥパッターの飾りがオームの手首に巻かれたタガーに絡みつく、シルディのサイババによる御利益が佳い)
●ただ、新人女優としては抜群の存在感を見せつけるディピカーだが、実のところ「Paap(罪)」(2003)のウディター・ゴースワーミー、「Shankara Boom Boom」(2007)のカングナー・ラナウトなどに当てた声優によるアテレコなのが残念。
Chapter 7 「dhoom taana」(シュレーヤー・ゴーシャル/アジービート)
Location:RCスタジオ
Time:30年前のある日
Charactor:シャンティプリヤー、スニール・ダット、ラージェーシュ・カンナー、ジーテンドラ、オーム
Scene:劇中映画「Dremy Girl」内の妄想ナンバル「dhoom taana」
●シャンティプリヤ主演「Dreamy Girl」内ナンバルとなる。ディピカーが大太鼓の上で踊るのも、かつてよく見られた設定。
ここでは往年のスター3人がデジタル・カラーで今に蘇り、年代順で登場。パートカラー「Mugal-E-Azam」、モノクロ「Naya
Daur(新しき時代)」(1957)をフルカラー化したインドITの真価が発揮された驚愕の映像がこれだ。
●まずは、サンジャイ・ダットの父にして、大女優ナルギスの夫、スニール・ダット。「Amrapali」(1966)より船上逢引のスロー・ナンバル「tadap yeh din raat ki」をトリミングして使用。スニール・ジーから漂う男の色香は並みでなく、最も感動したのは息子のサンジューだろう。
(背中のショットは、現代のドゥプリケート)
このパート、パールで飾られたディピカーのアクセサリーは、原版のヴィジャヤンティーマーラーをベースにデザインされ、衣装は薄いローズピンクから鮮やかなオレンジに変更されている。
●ここで画面の中に映画を見ているオームが飛び込む妄想ミュージカルへ。シャー・ルクが妙にファニーフェイスなのは、ファラーのお氣に入り映画、ガングリー三兄弟(アショーク、キショール、アヌープのクマール三兄弟。本名がガングリー)とマドゥバーラー主演「Chalte Ka Naam Gaadi(進む物の名はクルマ)」(1958)のキショール・クマールを意識してのことだそう。
なるほど整備ナンバル「ek ladki bheegi…」におけるキショールの戯けた様に面影が見て取れる。
●続くは、ラージェーシュ・カンナー主演「Saach Jutha(嘘か真か)」(1970)よりゴーゴー・ナンバル「duniya
mein pyar… 愛の世界」。
ラージェーシュ・ジーはパーティー中、トランペットなどの楽器を演奏するシーンがある中、スネアドラムを叩くカットを左右反転で使用。
それだけでなく、フィックスショットだったオリジナル・フッテージを天井からのパンダウン・ショットに転用しているテクノロジーにはこれまた驚き!
(元のスネアドラム・カットもパンフォーカスで、奥にムンターズの踊る姿をとらえているため合成画面のように見えるのが興味深い)。
●本来は、赤いパンジャビー風モダン・スーツを着込んだムンターズのソロ・ダンスであるが、ここでのディピカーはバックダンサーを従え、ひとり聚楽スタイルで踊る群舞へと増強されている。
彼女が金色の鳥籠から登場→ジーテンドラ×アーシャー・パレーク「Caravan」(1970)〜「piya too aaab to aajaa」、赤い羽根の付いた聚楽スタイル→ラージェンドラ・クマール「Talash」(1969)〜「karle
pyar karle」と、ヘレンの代表的なキャバレー・ナンバル2曲をイメージ。
●オリジナルでもムンターズがラージェーシュ・ジーの肩に手を触れるシーンがあるが、より指先の長いディーピカーだけに、VFXチームもマッチングに苦労したはず。その彼女がラージェーシュ・ジーの前で回転する時、一瞬、スローになっているのは、歌詞のリップシンクと場面を合わせるためだろう。
この時、ラージェーシュ・ジーも息を合わせるかのような表情で、ディピカーのツーショットには、まったく違和感がなく、ただただ感嘆するばかり!
もっとも、オリジナル・フッテージでは、ムンターズがラージェーシュ・ジーの肩を揺らし過ぎているので、ここは首から上を合成してあるようだ(それ以外、スニール・ジーなどのショットでは、ディーピカーは全身グリーンのタイツ男相手に演じている。とてもそのように思えない表情は、女優の鑑?)
●さて、この中でも最もファラーがお氣に入りだと言うバトミントン・シークエンス(ディピカーの父へリスペクト?)を経て、ジーテンドラ主演「Jay Vijay(ジャイとヴィジャイ)」(1977)よりジャイシュリーTの踊り子が言い寄るムジュラー・ナンバル「sab jaanu re..」。つねられて至福のリアクションを見せるジートゥー・ジーの衣装は、なぜかブルーからグリーンに変更されている。
オリジナルでジートゥ・ジーに連れられて来た金の卵を産むアヒルがいないのが残念。
(ディーピカーの衣装と海賊セットは、まったくの別物)
●ジャイシュリーT→→→ヘレンやビンドゥーほどでないにしろ、70年代にアイテムガールとして重用された女優。近年は、「Chalte Chalte」(2003)でサティーシュ・シャーの妻役などで出演。
Location:豪邸街(バンドラ?)の路上
Time:30年前の夜
Charactor:オーム、パップー、クーリー
Scene:酔っぱらったオームのスピーチ。
●プレミア会場を追い出されたオームとパップーが酔っぱらって、ストリート・チルドレン相手にFilmfare Awards授賞式のスピーチをするシーン。豪邸のチョーキーダール(門番)が二人、左右からフレームインしてそっと座り、酔いどれのスピーチに耳を傾ける演出が映画愛を感じさせる。
Filmfare Awardsのブラックレディー・トロフィーに掛けたビール瓶のトロフィーも嬉しいくすぐり。
●これを邪魔する寝ていたクーリーが、超豪華本「Still Reading Khan」や「Making of Om Shanti Om」の著者であり、本作の共同脚本にも名を連ねるムスターク・シェイク。
「俺はマノージ・クマールだぞ」と言い張るオームに対して「だったら、俺はダーラー・スィンだ!」と怒鳴る台詞も驕られている。ムスタークは、「Main Hoon Na」でも、中盤、「Sholay」上映館の前でシャー・ルクを恫喝する男役で出ている。
●ダーラー・スィン→→→レスリング・チャンピオンから映画界へ転身し、タフガイの代名詞。レスラー時代は来日して力道山とも対決、誇りを持った正統派レスラーで知られた。
その彼が映画界入りしたのは、やはり主演映画が作られた力道山の影響か? 後年、TV神話「Maha Bharata」でハヌマーンを演じた他、近年は「明たとえ日が来なくても」Kal Ho Naa Ho(2003)や「Jab We Met(私たちが出逢った時)」(2007)で印象深い。
Chapter 8
Location:野原
Time:30年前のある朝
Charactor:オーム、パップー、シャンティプリヤー、パルトー・ローイ、ムケーシュ・メーヘラー
Scene:「Maa Bharat」の炎上シーン。
●母親役ナルギスと息子役スニール・ダットが恋に落ちた、と言われる「Mother India」(1957)を下敷きにした「Maa Bharat(母なるインド)」の野外ロケ・シーン。
ザンギリ頭が「Mother India」のスニール・ジーを彷彿とさせるヒーロー役リッキー・サンドゥーは、裏方映画人。サジードの友人とあって、ふたりでSTAR Plus TV「Kaho Na Yaar Hai(言って…友達だと)」にも出演。
「Main Honn Na」では、大学に潜入したシャー・ルクが事務局に問い合わせるシーンで「インフォメーションないで〜」と答える事務員役。
また、助監督役の胡麻塩銀髪男も同じ事務員役でそろって顔を見せている。
●オームが話しかけるオレンジのターバン男は、スレーシュ・チャトワル。
「Munna Bhai MBBS」(2003)の脅迫される男、「カランとアルジュン」Karan Arjun(1995)では酔っ払い父という小さな役に甘んじているが、リシケーシュ・ムカルジー監督作「Milli」(1975)では、ジャヤーの兄で、ヴァンプ女優で知られるアルナー・イラーニー(映画監督インドラ・クマールの姉)から想いを寄せられる役であった。
●大物製作者ムケーシュ・メーへラー役のアルジュン・ラームパール、久々に凛々しい様で登場。
ちなみに、スキンヘッドのボディガードは、実際にシャー・ルクのプライヴェート・ボディガードを務める男だそうだ。
●監督役が「Main Hoon Na」のツバ吐き教授、サティーシュ・シャー。
役名のパルトー・ローイということから解る通り、ベンゴーリー(ベンガル)映画界から移って来たばかりの外様監督という設定。
彼が口走るサタジット・レイ、ビマール・ラーイ、グル・ダットはいずれも文芸肌の監督。
これに対し、製作者のムケーシュが「ここはボンベイだ。マンモーハン・デーサーイーのアングルで充分」と切り返す。
●マンモーハン・デーサーイー→→→「Sachaa Jhutha」(1970)、「Dharam Veer(ダラームとヴィール)」(1977)、「アマル・アクバル・アントニー」(1977)、「Naseeb(運命)」(1980)、「Coolie」(1983)など娯楽の王道を往くヒットメーカー。
●撮影がスタートして、オームがフレームの中でふざけまくるのは、ナスィールッディン・シャー主演「Hero Hiralal」(1988)だろう。
ハイデラーバードのしがないオートリキシャーワーラーにして映画狂のヒーラーラール(ナスィールッディン)は、盗賊映画「Aakhri Dacait」の野外ロケに来ていた淋しげな女優ルーパ(サンジャナー・カプール/シャシ・カプールの娘)に一目惚れ。機材が倒れるやルーパを助け、やがて恋が芽生える……という展開。野外ロケ地も似たような野っ原だ。
そうそう、この作品でヒーラーラールを撮影現場に招き入れてしまうこととなる制作担当役が、何を隠そうサティーシュ・シャーその人(20年経て監督に昇格?)。
Location:野原に立てられた衣装テント
Time:30年前のある午後
Charactor:オーム、パップー、シャンティプリヤー、スーラージ・R・バルジャーツヤー
Scene:火傷したオームを見舞うシャンティ。
●背中を火傷したオームが衣装テント(ジュニア・アーティスト用にては豪華)から出て来る医師役が、美術監督のサブー・シリル本人。
●ここで交される台詞「マダム、ノー・ソーリー、ノー・タンキュー」は、サルマーン・カーンの出世作「Main
Pyaar Kiya(私は愛を知った)」(1989)の名台詞。監督は、スーラージ・R・バルジャーツヤー。ファラーの夫、シリーシュ・クンデールの監督「Jaan-E-Mann」(2006)でもアッキーの台詞として継承されている。
盗み聞きした台詞を書き留めているスーラージに父親が話しかけるのは、彼も映画製作者の家系であるため。
Chapter 9
Location:RCスタジオ
Time:30年前の午前
Charactor:オーム、パップー、シャンティプリヤー
Scene:「Mind It」のカウボーイ・ファイト。
●マドラスの映画界からボリウッドに進出したオーム・スワーミー・シャンティナタハン主演作「Mind It」の撮影現場、という触れ込みでシャンティの氣を引こうとするオーム。
この時の監督役は、撮影監督のV・マニカンダン本人。 一介のジュニア・アーティストでしかないオームが製作費の苦労もせずにロケを仕込めるのは、ご愛嬌。
●マドラス出身ということでコテコテの撮影が展開。
ボリウッドが南の映画を見下しているのは、カラン・ジョハールが彼自身役でゲスト出演し、マヒマー・チョウドリーが南の女優を演じた「Home Delivery」(2005)でも同様。
オームが口にするシヴァジ・ガネーシャン、カマラ・ハーサン、ジェミニ・ガネーシャンは、それぞれ、タミル映画界往年のトップスター、文舞に長けた才人で「Hey Ram!(神よ!)」(2000)など脚本・監督をも手懸けヒンディー映画にも進出している大御所、ロマンティック・スターにしてレーカーの父。
さて、擬音と3回リフレインからして、ここに挙げられていないもうひとりのスーパースターをパロディにしていたのは明白で、NDTVのActer of the Year選考直前にタミル勢の猛撃投票を喰らって、ほぼ内定していたシャー・ルクの受賞が崩れたのは、このためだろうか(苦笑)。
●それにしても、この実に他愛もないカウボーイ・シークエンスの撮影に3日間費やすとは、さすがシャー・ルク率いるレッド・チリース・エンターテイメント!
おまけに、ロケ地、オープン・セットの一画とはいえ、南欧をモチーフにしたような実に見事な出来。当初はもう少しロマンティックなシーンを撮影する設定だったのだろうか?とも思えなくもないが、同様にオシャレなオープンセットを構築してScreen
Awards美術賞を「Mujhse Shaadi Karogi(結婚しようよ)」(2004)が受賞(シャルミスター・ローイ)いることからも確信犯か。
●撮影現場を訪れるシャンティプリヤーの衣装(黄色×白)は、ファラーによればラージェーシュ・カンナー×ムンターズ「Aap
Ki Kasam(あなたに誓って)」(1974)をイメージしてということだが、黄色の衣装が出て来るのは、ナンバル「suno
kaho…(ねえ、聞いて、言って)」の山吹色にグリーンの刺繍入りぐらいで、あまりパッとしない出来。
一方、マニーシュ・マルホートラによるシャンティの衣装は、レモンイエロー×ホワイトの飾りと刺繍が入り、白縁のサングラスも加わって70年代らしいヴィヴィッドなデザインとなっている。むしろ、新婚早々シーンの衣装であるシャーベット・オレンジ×ブラックのシャープなルームドレスからインスパイア?
●「許してください。あなたに嘘を付きました。でも、私に何が出来たでしょう? あなたはビッグスターで、私はしがないジュニア・アーティストです……」と告白するシーン、シャー・ルクの台詞まわしがいつになくつたなく、求引力に欠けるのは、オームがジュニア・アーティストだから??
Location:RCスタジオ
Time:30年前の夜
Charactor:オーム、パップー、シャンティプリヤー
Scene:シャンティを待つオームとパップー。
●シャンティと待ちあわせをするオームが着ているスカイブルーのデニム・ジャケット&パンツ、横縞Tシャツ、オーバルのバックルは、ほとんど「人造人間キカイダー」のジローであるが、ファラーのコメンタリーによると、ラージェーシュ・カンナー×ズィーナト・アマン「Aashiq Hoon Baharon Ka」(1977)か、ラージェーシュ×ニートゥー・スィン「Maha Chor(大泥棒)」(1976)をイメージしてとのこと。
「Maha Chor」ではごく普通のブルージーン姿であったので、「Aashiq 〜」の方だろうか。
●ブルカをめくって顔を見せるディーピカーの美しいこと! それだけに芝居のトーンが大仰なアテレコが惜しまれる。
Chapter 10 「main agar kahoon」(ソーヌー・ニガム/シュレーヤー・ゴーシャル)
Location:RCスタジオ
Time:30年前の夜
Charactor:オーム、パップー、シャンティプリヤ
Scene:ドリーム・シークエンス「main agar kahoon」
●オームがシャンティをスタジオの中に招き入れるナンバル、このヤシュ・ラージ・スタジオに組まれたロマンティックなバルコニーのセットは、ファラーが振付を担当した夫シリーシュの「Jaan-E-Mann」(2006)における「humko maaloom hai」を連想させる。
●Chapter 9の終わりで、シャンティがオームに贈った、洋装の男女がボトルの中で踊るミュージック・ボックスは、ファラーによればリシ・カプール×ディンプル・カパーディヤーのWデビュー作「ボビー」Bobby(1973)に由来するそうだが、ひと足早いジーテンドラ×バビター(カリシュマ‘N’カリーナ・カプールの母)「Farz(義務)」(1967)のパーティー・ナンバル「happy birthday to you」でもジートゥー・ジーがガラスの中のオルゴール人形に続いてピアノで弾き語るナンバル「main agar kahoon」が見られる。
●本作のミュージック・ボックスにはガラス・ドームの中で粉雪が降る仕掛けとなっていて、この人形がシャー・ルクとディピカーにモーフィングとなるのは、やはりデジタル時代の見せ方。
●パップーが映写機のスウィッチを入れ、オームとシャンティが乗り込んだ不動のクラシックカーがまるで走っているように見える技法は、リヤ・スクリーン・プロセス。1910〜20年代に普及したモノクロ映画時代の合成テクニックである。
理屈としては画面で見る通り、半透明のスクリーンの裏から背景の映像を映写し、それを正面から撮影するだけだが、映写機とキャメラのコマがしっかり同期しなければならず、実際には普通の映写機では使い物にならない。
のだが、ここは、まあ、撮影でなくふたりのロマンティックなお遊びであるからノー・プロブレム。
もっとも、このシーンは映写機の光軸から車体の映り込みまでデジタルによるもので、背景はグリーン・バックを使用したデジタル合成で仕上げられている。
●ファラーはよほど「Chalti Ka Naam Gaadi」(1958)がお氣に入りのようで、ここでのクラシックカーもそのイメージ。ただし、「CKNG」ではただの黒塗りボディであるが。
Location:RCスタジオ
Time:30年前の夜
Charactor:オーム、シャンティプリヤー
Scene:夜のスタジオで語らうオームとシャンティ
●ナンバル明け、オームの掛け声「タンタラ〜ン♪」もラージェーシュ・カンナー主演「Bawarchi(料理人)」(1977)からの引用リスペクト。
Chapter 5、プレミア会場でパップーがマノージ・クマールのティケットを取り出す場面でも使われている。
Location:RCスタジオ
Time:30年前の午後
Charactor:オーム、パップー
Scene:結婚パレードの撮影
●松葉杖の妹が結婚パレードを追う撮影は、「Sachaa Jutha」(1970)よりナンバル「meri pyari bahniya…(僕の可愛い妹は…)」。
先頭でトランペット(原版ではスーザフォン)を吹いている男の髪形がしっかり主演のラージェーシュ・ジーを再現しているのがミソ。
オリジナルでは、パレードはただの通りすがりという設定であり、パレードの主役である花婿は重要な働きをせず(もちろん、シートの上で踊ったりせず、また松葉杖の女性はラージェーシュ・ジーの妹役)、ジュニア・アーティストが演じたものであるから、これをオームが演じていたことにしているのはさすが!
Location:RCスタジオ
Time:30年前の午後
Charactor:オーム、シャンティプリヤー
Scene:拉致シーンの撮影
●スタジオ内で撮影されているシャンティの映画内映画の台詞「犬ども〜」は、かの「炎」Sholay(1975)における国民的台詞。
拉致したシャンティに近づく総白髪の男は、「Naya Daur(新しき時代)」(1957)でディリープ・クマールと仲違いする親友を演じ、後年は「Yaadon Ki Baaraat(思い出の花婿行列)」(1973)や「Hum Kisi Se Kum Nahin(俺たちゃ誰にも負けないぜ!)」(1977)などのダンディな敵役で知られる故アジートを意識しているのだろう。
ちなみに、低級駄作「Tom Dick and Harry」(2006)でも世界征服を企むソプラーノの部下として、息子のシェーザド・カーンが父のイントネーションを継承したキャラクタライズで演じていた。
(ここでの白髪男は、ファラーの幼なじみヴィヴェーク・タークル)
Chapter 11
Location:RCスタジオ
Time:30年前の午後
Charactor:オーム、シャンティプリヤー、ムケーシュ
Scene:シャンティの秘密を知るオーム
●スタジオを抜け出したシャンティが駆け込むメイクアップ・ルームのある別館。
このセット、アールデコ様式に相応しく廊下の天井が緩く曲線を帯びており、美術監督サブー・シリルの凝りようには感嘆する他ない。
この廊下に額装されたポートレイトは、ギーター・バリー(シャンミー・カプールの死別した先妻)、マドゥバーラー(キショール・クマール2番目の妻)など往年の映画女優が見られる。
●オームは迷い込んだ物置から、シャンティがムケーシュとデキていたこと、更には妊娠していることを知ってしまう。
ヒロインが(それも新人女優の)<未婚で妊娠>というのは、かなり思い切った設定で、ファラー自身もリスキーと感じていたそうだ。
Chapter 12 「jag soona soona lage」
Location:RCスタジオ
Time:30年前の午後
Charactor:オーム、パップー
Scene:失意のどん底となるオーム
●失意のどん底となるオーム、撮影中の特殊効果(木枯らし/雨)が彼の心情を強調するダイナミックな演出がいかにもファラーらしい。
Location:RCスタジオ
Time:30年前の午後
Charactor:オーム、パップー
Scene:物言わぬシャンティに想いを告げるオーム
●再びシャンティのホールディングに話かけるオーム。物を言わない彼女(看板であるからだが)に「ソーリーは言わないんだね、タンキュー」とオーム。ここで先の台詞「マダム、ノー・ソーリー、ノー・タンキュー」が生きてくる。
(オームがつい「タンキュー」と言ってしまうのは、立場が弱いから)
Location:RCスタジオ
Time:30年前の午前
Charactor:オーム、パップー、シャンティプリヤー
Scene:ホーリー群舞の撮影
●スタジオの大広場でホーリーの大群舞。歓喜の祝祭に身を置くことで、より一層オームの悲壮感が示される。
ファラーとシリーシュは、「Jaan-E-Mann」の悲壮ナンバル「humko maaloom hai」でサルマーンが怒りをぶちまけるシーンで華麗に踊るモダン・ダンサー達を対比させることで、人物のやり場のない悲しみを強調している。
群舞の俯瞰ショットを取るオペレーターも乗ったクレーン・キャメラの更に上をジブ・クレーンから撮影するアイデアも素晴らしい。
Chapter 13
Location:RCスタジオ
Time:30年前のある晩
Charactor:オーム、シャンティプリヤー、ムケーシュ
Scene:クライマックスの炎上シーン
●ボリウッド映画美術の醍醐味は、やはり回廊を持つ大広間。
デーヴィッド・ダワン監督作「Raja Babu」(1994)でも見事な大広間セットが見られる。ボリウッド映画にしばしば登場するために、常設のセットが用意されているように思えるが、毎回ディティールを変えているのか、フィルムシティ内にあるヒンドゥー寺院のオープン・セットほどはっきりとは識別出来ないのが妙。
映画界が低迷したため1980年代にはバンガロー(邸宅)を借り切って済ませることが多かったが、70年代までは頻繁に見られたのが大広間のセット。中でも最もスケールの大きい回廊付き大広間は、ダルメンドラ主演「Maa(母)」(1976)だろう。所有するジャンガルの中で狩りをして動物園に提供する主人公、という設定だけに、大階段ならぬ大スロープとなっていて、2階の部屋までジープを乗りつけられるようになっている大バリアフリー仕様!
また、古くはラージ・カプール主演・監督「放浪者」Awara(1951)でも湾曲した大階段や贅を凝らした調度品が見られ、今日以上に手の込んだセット作りが為され、目を楽しませるだけでなく、映画のストーリーテリングをも補う効果を生んでいた。
(その点、マイナー・プロダクションだったグル・ダット作品はセットがチープ)
●前半のクライマックスとなるファイア・シークエンス。出世を望むムケーシュが妊娠したシャンティを抹殺しようと試み、オームがそれを阻止しようとするが、あえなく……。
無論、これはデジタルの成せる技。生火を駆使した「バックドラフト」(1991=米)とはまた違った、演出された炎だけに、オームとシャンティの悲劇性をより一層高めている。
Location:病院
Time:30年前の或る夜
Charactor:オーム、ラージェーシュ・カプール、妻、秘書
Scene:病院に担ぎ込まれるオーム
●ラージェーシュ・カプールの秘書としてわずかに登場するのは、「Main Hoon Na」の冒頭でTVホストを演じていたナーズィル・アブドゥーラー。
実はシャー・ルクがデビュー年に出演したヘーマー・マーリニー監督作「Dil Aashna Hai(心は愛している)」(1992) で彼もデビューした仲。
Interval
chapter 14へ続く
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