Devdas(2002)#070
Devdas(デーヴダース) 02.10.08 ★★★★★
製作:バーラト・シャー/脚本・監督:サンジャイ・リーラー・バンサーリー/原作:サラットチャンドラ・チャトパディー「Devdas」/脚本:プラカーシュ・カパーディヤー/撮影:ビノード・プラダーン/詞:サミール、ヌスラット・バドル/音楽:イスマイェル・ダルバール、モンティ/音楽・振付:パドマビブーシャン・パンデット・ビルジュ・マハーラージ/振付:サロージ・カーン/美術:ニティン・デーサーイー/編集:べーラ・セーガル/衣装:ニータ・ルーッラ、アブー・ジャニ、サンディープ・コースラー、リーザ・シャリフィ
出演:シャー・ルク・カーン、マードゥリー・ディクシト、アイシュワリヤー・ラーイ、ジャッキー・シュロフ、キロン・ケール、スミター・ジャイカル、アナンヤー・カール、ヴィジャイェンドラ・ガタジー、ティクー・タルサニア、ミリンド・グナージ
公開日:2002年7月12日(年間トップ1ヒット!/日本未公開・ep放送オンエア)
48th Filmfare Awards:作品賞、監督賞、主演男優賞(シャー・ルク・カーン)、主演女優賞(アイシュワリヤー・ラーイ)、助演女優賞(マードゥリー・ディクシト)、撮影賞、女性プレイバックシンガー賞(dola re dola〜カヴィター・クリシュナムールティー&シュレーヤー・ゴーシャル)、美術監督賞、振付賞(dola re dola〜サロージ・カーン) 、ソニー最優秀場面賞。10冠達成!!
Screen Awards:作品賞、主演男優賞(シャー・ルク・カーン)、主演女優賞(アイシュワリヤー・ラーイ)、助演女優賞(マードゥリー・ディクシト)、特別賞(シャー・ルク・カーン&アイシュワリヤー・ラーイ)
Zee Cine Awards
:作品賞、監督賞、主演男優賞(シャー・ルク・カーン)、主演女優賞(アイシュワリヤー・ラーイ)、撮影賞、女性プレイバックシンガー賞(dola re dola〜カヴィター・クリシュナムールティー&シュレーヤー・ゴーシャル)、振付賞(dola re dola〜サロージ・カーン) 、衣装賞
IIFA:主演男優賞(シャー・ルク・カーン)、主演女優賞(アイシュワリヤー・ラーイ)、助演女優賞(キロン・ケール)、台詞賞、撮影賞、美術賞、振付賞(dola re dola〜サロージ・カーン) 、 衣装賞、メイク賞、音楽録音賞、録音賞
National Film Awards:金の蓮賞(バーラト・シャー&サンジャイ・リーラー・バーンサーリー)、銀の蓮部門・美術賞、衣装賞、女性プレイバックシンガー賞(bairi piya 〜シュレーヤー・ゴーシャル)
MTV Asia Awards
STORY
10年ぶりにロンドンから帰国したデーヴダース(シャー・ルク)が真っ先に訪ねたのは、幼い頃から結婚を夢見ていたパロー(アイシュワリヤー)。しかし、母親同士が諍い合ったためにデーヴダースは家を出、パローはタークルに嫁がされてしまう。失意のデーヴダースは生きる希望を失い、高級娼伎チャンドラムキー(マードゥリー)の館に入り浸り、アルコールに蝕まれてゆく・・・。
Revie-U *結末に触れています。
祝! 「時に喜び、時に悲しみ」Kabhi Khushi Kabhie Gham…(2001)東京国際映画祭上映!!!
というわけで、シャー・ルク・カーン主演作にして本年最大の話題作「Devdas(デーヴダース)」(2002)を緊急レビュー!
7月に公開されるや、半年近くトップ1に君臨していた「Raaz(秘密)」(2002)をいともあっさりと抜き去り、オープニング収益、海外収益、年間チャートのトップ1に輝いた。
監督は、本年5月に日本国内でも一般公開された「ミモラ」Hum Dil De Chuke Sanam(1999)のサンジャイ・リーラー・バンサーリー。
主演のシャー・ルク、マードゥリー・ディクシト、アイシュワリヤー・ラーイは「Hum Tumhare Hain Sanam(私はあなたの愛しい人)」(2002)で共演したばかりだが、ファンにとっては本作への期待を高めるトレイラー(予告編)に過ぎなかった。
原作は、1917年に発表されたサラットチャンドラ・チャトパディーのベストセラー・ベンガル語小説。
1928年にサイレントで初の映画化が為されたが、インド映画界にトーキーの波が押し寄せると早くも1935年にはヒンディー版、ベンガリー版が同時製作された(ベンガリー版の主演P・C・バルアーが監督を務め、ヒンディー版のデーヴダース役に歌手としても名高いK・L・サイガルをフィーチャー)。
1955年には3度目のリメイクとなり、デーヴダース役に当代一のスター、ディリープ・クマール。パロー役にベンガリー女優のスチトラー・セーン、チャンドラムーキー役にはヴィジャヤンティマーラーが主演した。
ちなみに、今回もベンガリー版が「便乗で」作られたようだ。
製作費は4億ルピー(単純なレート換算で12億円。実質60億〜120億円以上!?)とも5億5000千万ルピーとも言われる。
が、アンダーグラウンドと関係が深いとされるファイナンシャー、バーラト・シャーの逮捕により撮影は暗礁に。監督のサンジャイ・リーラー・バンサーリーが資金難にあえぎシャー・ルクに無心するも、シャー・ルクは「Asoka(アショーカ)」(2001)を自社製作中のためすげなく断られたと伝えられていた。
まず驚かされるというか、度肝を抜くのが豪華極まるマナーハウスのオープンセットである!
デーヴダースの実家、ムカルジー家の屋敷は、リンカーン・センターかローマ神殿かと思うほど(ちょっとオーバーか)。なにしろ18メートルの白い円柱を180本使用したという吹き抜けは呆れるほどデカく、エントランスの庭園には巨大な噴水が築かれている。これをリモートヘッド・クレーン・キャメラで舐め回すのだから、たまらない。
その向かいにあるパローの豪邸も負けず劣らずの立派なものだ。1階、2階共に全面スミレ色のステンドグラスで飾られ、パローが抱くロマンスと儚さが強調されている。
彼女が嫁がされる大地主ブヴァンの御殿も巨大な回廊を持ち、さながら迷宮。デーヴダースを失うパローの悲劇性を最大限に引き伸ばしている。まさに映画美術の醍醐味を感じる。
また、失意のデーヴダースを包み込むチャンドラムキーの住まう娼館は、ガンジス川のほとりにある設定のため湖に面して作られた・・・否、「湖面を取り囲むように」町並みごと再現された、これまた広大なオープン・セット(乾季には湖水が干上がってしまうため膨大な水を移送したというから、庶民の生活向上に尽力するソーシャルワーカーあたりから抗議されそう)。
しかも、ディワーリーの如く町の外れまで灯火で包んだナイト・シーンのために、ジェネレーター42基を発注するなどライティングの面でもボリウッドの新記録を樹立したとか。
これらのセット製作のために9ヶ月を要したというが、衣装もまた荘厳で、デーヴが初めて娼館を訪れた時のナンバー「maar dala」におけるマードゥリーの衣装など当初30kgもあったため、それを着て踊ることが出来ず、軽量化されたが、それでも16kgもあったそうだ。
さて、本作の白眉は、何を置いてもパロー役のアイシュワリヤーだろう。
デーヴダースを想い続ける彼女の愛が、決して消えることのないキャンドルの灯火で表される登場ナンバー「silsila yeh chahat ka」におけるアイシュの美しさは、まさに生ける女神!(彼女の役名パローは、パールヴァティーの愛称である)。炎を思わす振付は、何度見直しても感嘆するほど。
後半、マードゥリー(最近、おめでたが伝えられている)と共に踊るナンバー「dola re dola」では、「Dil
To Pagal Hai(心狂おしく)」(1997)でカリシュマー・カプールとダンス・バトルを交わした天下のマードゥリーが、バックグラウンド・ダンサーの一人にしか見えなくなるほど!!(これもちょっとオーバー。ダンサーと同じ衣装であり、アイシュがひとつ背が高いため、どうしても彼女に目が行ってしまうのだ。アイシュは、M・ナイト・シャマランの次回作に「サイン」したとのことだが、彼女のように美しい女優がアメリカ映画に出て浮きはしないかと要らぬ心配してしまう)
「ふたつの家柄に阻まれる悲劇」というと、「ロミオとジュリエット」物というのが相場だが、デーヴダースとパロー、チャンドラムキーの関係は、クリシュナとラーダー、ミーラーに置き換えられるという。
ここでクリシュナをキーワードにして思い当たるのが、神への献身を説くバクティ・ヨーガである。
ひとり眠るパローをデーヴダースが訪ねる(ナンバー「who chand jaisi ladki」)。デーヴがパローの寝顔にキスしようとすると、彼女の手がベッドサイドに灯されたキャンドルの上へ。それをデーヴの掌がかばう。炎に炙られながらも、彼は彼女の眠りを妨げぬように微塵も動かず、そして、彼女の寝顔を一心に見詰め続ける・・・。
「夫を愛する女性のように献身せよ」、「無心に到り、全身全霊を神に捧げよ」。パローに対するデーヴダースの想いは、このバクティ・ヨーガにおける献身、信愛を感じさせる。
それだけに、パローを失ったデーヴダースは生命を失ったも等しい。ひたすら酒に溺れ(これは禁酒の習慣の強い時代だけにヤク中に相当)、チャンドラムキーの館に入り浸るも片時もパローを忘れることはない。
この堕ちてゆく主人公は、「リービング・ラスベガス」(1995=米)のニコラス・ケイジ、ふたりの女性を巡る不運な身という点では「浮雲」(1955=東宝)の森雅之を思い出させる。
サポーティングは、デーヴダースの母コーシャリヤーに「Na Tum Jaano Na Hum」(2002)のスミター・ジャイカル。ロンドンに留学したデーヴダースを10年間を待ち続けるが、当のデーヴダースが真っ先にパローを訪ねたため臍を曲げてしまう。
その娘クムード役は「Chandni Bar(チャンドゥニー・バー)」(2001)の踊り子役だったアナンヤー・カール。なかなかの悪女ぶり故に、今後の定番悪女役となることだろう。
使用人ダランダースは、ティクー・タルサニア。これがラクシュミーカーント・ベールデーだと、スーラージ・R・バルジャーツヤー作品になってしまうからだろうか。
一方、パローの母スミトラーには、「Ehsaas(感覚)」(2001)の有閑マダムキロン・ケール。パローとデーヴダースの結婚に舞い上がり、ゴーカイなソロダンスを見せるのには驚かされる(これがコーシャリヤーの反発を買った??)。
そして、チャンドラムキーの館に出入りし、パローの嫁ぎ先のファミリーでもある遊び人カリバブーを「Abhay(アブヘイ)」(2001)で父親役だったミリンド・グナージが扮している。
そうそう、もう一人のスター・キャスト、ジャッキー・シュロフが、家を出たデーヴダースをチャンドラムキーの館へと引き連れるチュンニーラールを演じている。例によって芝居がかった大仰な台詞まわしをしてみせるジャッキーだが、シャー・ルクを退廃への道へ誘う案内人役としては適役であろう。
監督のS・L・Bは、デビュー作「Khamoshi(沈黙のミュージカル)」(1996)、続く「ミモラ」と、サルマーン・カーンを主役に据えた「音楽家」物でセルフ・パロディーを含む対になっていた。
しかし、本作は名作のリメイクということもあり「音楽家」の主人公は消えているものの、ミュージカルそのものに彼のライフ・テーマである(と思われる)「映像と音楽の融合によるストーリーのダイナミズム」が継承されている。
また、厳格な父親に叱責された主人公が家を出て恋人と別れねばならぬ展開は「ミモラ」にも通じるが、もともとサンジャイが本作をリメイクしたがっていた故に「ミモラ」が「Devdas」に相通じたのではないだろうか。
カンヌ映画祭にも出品されたとかで、同時公開の英国チャートでは第1週初登場5位、4週目8位、7週間15位内に留まるロング・ラン。果たして「K3G」同様、来年の東京国際映画祭に上映されるか??
*追記2006.05.19
シャラッチャンドラ・チョットッパッドヤーイ原作の小説が「デーヴダース 魅惑のインド」(鳥居千代香訳/出帆新社)の邦題で発売された。ただし、オリジナルのベンガリー版でなくペンギン・ブックスから刊行されている英語版からの翻訳。英訳を施したシュリージャーター・グホによる序文中に1955年のモノクロ版スチルや巻頭6ページに渡って本作のスチルがカラーで掲載されている。序文が日本語として難解であるのと、キャプションが今一つ的を得ていなかったり、巻末の「最新インド映画の写真」と題しながらその実「Asoka」(2001)や「Phir Bhi Dil Hai Hindustani(それでも心はインド人)」(2000)だったりするが、久々のインド映画本としては喜ぶべき発刊。
1955年のモノクロ版に主演しているディリープ・クマールは、インド映画としてだけでなくマサーラー映画としても日本初公開された「アーン」Aan(1952)では快活な芝居を見せ、シャー・ルク・カーンをその姿に見てとることができる。
また、パロー役のスチトラー・セーンはベンガル映画出身。80年代にセクシー女優として名を馳せたムーン・ムーン・セーンの母親で、「Dus(10)」(2005)のライマー・セーンや「Qayamat(破滅)」(2003)のリヤー・セーンの祖母にあたる。
スチトラーはその後も主にベンガル映画界で活躍し続け、「Saptapadi」(1961)にてモスクワ映画祭主演女優賞を受賞。ムーン・ムーンは、20言語以上の映画に出演し各州の映画祭受賞歴を持つ、と言われる。2000年前後に熟女写真集を披露するのしないのとニュースが流れた。
なお、本作は110度CSのep055チャンネルで「Devdas デブダス〜永遠に〜」の醜題で放映。
追記 2007.07.18
マードゥリー・ディクシトのソロ舞踊を振付したパドマビブーシャン・パンデット・ビルジュ・マハラジ師は、カラシュラム芸術学院の学長にしてインド人間国宝。サタジット・レイ「チェスをする人」Shatranj Ke Khiladi(1977)でも振付を担当。
本作の後、カタックの影響は強く、サロージ・カーンを起用して「Kisna」(2005)では衣装からセットまですべて碧と白のツートーンでムガル調を強調した「chil mag chiman」でスシュミター・セーンが、「Mangal Pandey」(2005)の「main wari」でもラーニー・ムカルジーが華麗に踊る印象的なナンバルが作られた。
追記 2010.10.02
2008年にアミターブ・バッチャンがプロデュースしたワールド・ステージ・ツアー「Unforgettable」の米国興業では、引退し米国在住のマードゥリーがゲスト参加。なんと生ステージでアイシュワリヤーと「dola re dola」を共演!
2009年に発表されたニュー・ストリーム作品「Dev.D」は、同じ「Devdas」を原作としながら、現代風に大きくアレンジ。舞台も文学的土壌のベンガル〜カルカッタから、パンジャーブ〜デリーへと移されている。最大の変更点は、女優陣が不美人なこと! パロー役マヒー・ギルは十人並み、チャンドラムキーに相当するレニー役カルキー・コーチャリンに至っては…(岸田今日子似でとっても個性的)。デーヴ役も、ダウナー系アブヘイ・デーオールとあって実にさえないキャスティング。それでいて、監督アヌラーグ・カシャップの新感覚な演出が現代都市生活を謳歌する若者層を刺激してスマッシュヒットに!