Don(1978)#068
Don(ドン) 06.10.20UP ★★★★★
ドン
製作・撮影:故ナリマーン・A・イラーニー/監督:チャンドラ・バロート/原案・脚本・台詞:サリーム-ジャーヴェード/作詞:アンジャーン、インディヴァル/音楽:カルヤンジー-アナンジー/ワードローブ:カーチンス/カースタント:ハジー/特殊効果:ラメーシュ・ミール/振付:P・L・ラージ/スリル:A・マンスール/美術:スデーシュ・ローイ/編集:ワマンラーオ
出演:アミターブ・バッチャン、ズィーナト・アマン、プラーン、イフテーカル、オーム・シヴプーリー、サティヤン・カップー、P・ジャイラージ、カマル・カプール、アルパナー・チョードリー、ヘレン、マック・モーハン、シャラード・クマール
公開日:1978年1月12日(年間トップ3! 70年代中10位/日本未公開)
Filmfare Awards:男性プレイバックシンガー賞(キショール・クマール〜khaike paan banaras wala)、女性プレイバックシンガー賞(アーシャー・ボースレー〜yeh mera dil)
STORY
アンダーワールドのドン(アミターブ)に兄ラーメーシュを殺されたロマ(ズィーナト)は復讐を誓って彼に近づく。一方、ドンの組織を壊滅させようとするDSPデ・シルヴァ(イフテーカル)が仕組んだ作戦とは・・・。
Revie-U
現在、リメイク・ブームに湧いているボリウッドであるが、本作もシャー・ルク・カーン主演で企画され、リメイク版がディワーリー大作として本日10月20日ワールド・リリースされる。
監督は、「Dil Chahta Hai(心が望んでる)」(2001)でデビューしたファルファーン・アクタル。本作の脚本を書いたサリーム-ジャーヴェードの片割れ、今や作詞の大家となったジャーヴェード・アクタルの息子である。
ジャーヴェードは、コンビ解消後も根深く遺恨を残していたらしく、サリームの長男であるサルマーン・カーン出演作には一切作詞をしなかったが、ここに来てリメイク権の交渉で和解したのか、サルマーン主演の合作映画「Marigold」(2006=英米印)に詞を提供している。
共演は、復讐を誓うヒロイン、ロマに、「Krrish」(2006)のプリヤンカー・チョープラー。途中から絡むJ・J役に「Yakeen(信頼)」(2005)のアルジュン・ラームパール。DSPデ・シルヴァに、ボーマン・イラーニー。殺されるラーメーシュに「Darwaza Bandh Rakho(ドアを閉めとけ!)」(2006)のチャンキー・パーンディー、その婚約者カーミニー役にカリーナー・カプール(釣り合わない氣がするが)、ドンの恋人アニター役に「36 Chaina Town」(2006)のイーシャー・コッピカルなどでアナウンスされている。
アミターブを敬愛し、恋愛物には飽きたと公言するシャー・ルクだけに、ドンの役は多いにそそられることであろう。ただし、ファンの目からすればアミターブ・バッチャンのクールさには叶わないというのが大方の予想。
ギャングとコックのダブル・ロールをやった「Duplicate(瓜二つ)」(1998)の二の舞いにならなければよいが(苦笑)。
*この先、ストーリーに触れてゆきます。リメイク版を先に観たい方はご注意ください。
組織の秘密を知るラーメーシュを殺された婚約者は、高級コールガールを装ってドンを警察に包囲させる。ホテルの一室から立ち去ろうとしたドンの背中に指をつきつけ、腰深くスリットの入ったロングスカートで悩ましくヘレンが踊るのは、なかば伝説化した誘惑ナンバル「yeh mera dil(これが私の心)」。
プレイバックするアーシャー・ボースレーはこの曲で、Filmfare Awards女性プレイバックシンガー賞を受賞。
軽快なこのナンバルは何度もカバーやリミックスされ、マニーシャー・コイララが製作した「Paisa Vasool(現金をつかめ)」(2004)でもダンサー役のスシュミター・セーンがヘレン・リミックスのプロモ撮影シーンでアミターブのそっくりさん相手に踊るばかりか、美術セット全面にオリジナル・ナンバル中、ドンが着ている上着のストライプが施されている。
また、50th Filmfare Awardsでも、プリヤンカーのパフォーマンスに用いられていた。
ブルーサファイアの瞳が目に焼き付くほど妖しいヘレンが演ずるカーミニー役をリメイク版では、カリーナー・カプールが扮する。「yeh mera dil」もスニディー・チョハーンによってカバーされているが、ファンキーな歌声を持つスニディーがいつになくしっとりとプレイバックしているのは、高飛車ではあるがヴァンプとまでは言い難いカリーナーのマイルドさに合わせてのことだろう(セットはロケ地に合わせて東亜風)。
ドンの命を狙うのは、カーミニーだけではない。ラーメーシュの妹ロマも兄の復讐を誓うのだが、なんとその戦法とは、ジュードー・カラテをマスターして組織に潜入するというもの! 演ずるは、「Yaadon Ki Baaraat(思い出の花婿行列)」(1973)、「Satyam Shiavm Sundaram(真・神・美)」(1978)などで野性的なフェロモンを放つズィーナト・アマン。ドン救出時に見せるミニスカ看護婦のコスプレもソー・キュート! パーティー・ナンバル「jiska mujhe tha intezaar」では、愛くるしいダンスを披露。
クライマックスでは、荒くれ男どもを相手にカラテ・チョップや空転。スタント・ダブルとはいえ、ほとんどスー・シホミ(志穂美悦子)! これは当時、世界的にドラゴン・ブームに湧いていた影響だろう。が、台詞に「ジュードー・カラテ」とあるところからして、本家ブルース・リーでなく、やはり東映カラテ・アクションからの引用か??
ちなみに、リメイク版ではプリヤンカーもマーシャル・アーツを習ったというから、ラストの空中戦が楽しみ?!
さて、ドンは、ボンベイ市街を激走するカーチェイスの後、忍び込んだDSPの車内にて息絶えてしまう! 前半、半ばでアミターブが死んでしまうとは!!
だが、依然残るドンの組織を壊滅すべく、DSPはドンに瓜二つの大道芸人ヴィジャイ(アミターブのダブル・ロール)をみつけ、ドンの替え玉として組織に送り込むのであった!!! この展開は、「Chhupa Rustam(大勇者)」(2000)に転用されているし、リティク・ローシャンのデビュー作「Kaho Naa…Pyaar Hai」(2000)にも通ずるのが興味深い。
また、このヴィジャイの登場ナンバル「yeh hai bambai nagariya」で人垣を作って商売するシーンは、「Disco
Dancer」(1982)の特別出演ラージェーシュ・カンナーや「ラジュー出世する」Raju Ban Gaya Gentleman(1992)の辻説法屋ナーナー・パーテーカルが思い出される。
この、目にカージャル、口にパーン、赤シャツにルンギーを巻いたローワー・クラスのヴィジャイが、スリー・ピースを着こなすアンダーワールドのドンに化けるというのだから面白くなくてなんであろう!(ドンになり切る教練中、DSPから「ドンはパーンを噛まない」と指摘されるのが可笑しい)
後半、絡んでくるのが名敵役プラーン扮するJ・Jことジャスジート。
彼はサーカスの軽業師で、ドンの一味ナラヤンに脅されて、現金輸送車から現金を盗み出す。犯罪に手を染め、子供と生き別れて牢獄に入れられるのは、前年に作られた快作「アマル・アクバル・アントニー」Amar Akbhar Anthony(1977)を継承。
このプラーンという人は、長年の敵役で人気を博した故アムリーシュ・プーリーやシャラート・サクセーナのように後年は父親役者にシフトしていったのとは異なり、あくまで犯罪者に分類されつつ、家族愛を描く役目を担っているところに留意したい。
ちなみに、サルカスの芸人が組織からリクルートされるのは、「Shaan(栄光)」(1980)のシャトルガン・スィナーも同様。70〜80年代のボリウッド映画ではサーカスはしばしば取り上げられており、ジョン・アービングがボンベイを舞台に描いた長編小説「サーカスの息子」においてもこれが重要なファクターとして組み込まれている。
DSPデ・シルヴァを演じるのは、「Shree 420(詐欺師)」(1955)から「Intaquam」(1969)や「Daag(汚点)」(1973)など警官役が定番の、ダンディなイフテーカル。
インターポールから派遣されたマリック役は、「Sholay」炎(1975)のインスペクター、「Coolie(クーリー)」(1983)」、そして「Disco Dancer」ではミトゥン・チャクラワルティーの恨みを買う宿敵オベローイ役のオーム・シヴプーリー。
このふたりにリメイク版ではボーマン・イラーニーとオーム・プーリーが配役されているのだが、キャラクターからすると、その逆の方がよかった?(オームの場合、単に名前が似てるから?!)
で、DSPデ・シルヴァが組織の手に落ちた後、捜査を引き継ぐインスペクター・ヴァルマー役は、「Phol Aur Kaante(花と棘)」(1991)のサティヤン・カップー。まだこの頃は、まだ髪の天然カールは大人しく、お茶の水博士には至っていない。
インターポール・マリックに高価な腕時計を指摘されるものの、「友人からの貰い物だ」と答える。これは、燻し銀のアミターブが熱演する警官物「Khakee(制服)」(2004)において、アミターブ本人が収賄常習警官アクシャイ・クマールの腕時計に目を留め、値段を尋ねるシーンに置き換えられている。しかも、アッキーの役名も同じくヴァルマー! サティヤン扮するヴァルマーも汚職警官かと思わせて、そうではないところが味噌。
その他のサポーティングはと言うと、組織の二番手ナラヤン役が「Namak Halaal(忠誠)」(1982)でシャシ・カプールの父親を演じていたカマル・カプール。一見、デーニーシュ・ヒングーと見間違うが、目つきは断然鋭い。
ドンの一味、顎髭の男マック役に「炎」、「Shaan」、「Uljhan」(2001)のマック・モーハン。
同じく一味の筋肉男シェーカルが、「AAA」にて、ヒロイン、パルヴィーン・バービーにつきまとっていたヘラクレス役のM・B・シェッティー。息子のロヒト・シェッティーとリディ・シェッティーは共に映画監督となり、英国週間チャート・インを果たした「Golmaal(ごまかし)」(2006)、リシ・カプールとディンプル・カパーディヤーの「ボビー」Bobby(1973)コンビによる熟年ロマンス「Pyaar Mein Twist(恋に揉まれて)」(2005)をそれぞれ監督している。
製作を兼任した撮影監督、故ナリマーン・A・イラーニーのキャメラワークは実にスタイリッシュ! いきなり、燃えるように広がる大草原をフルサイズのアメ車が走って来るカットインで始まるプロローグでは、ドアミラーにアミターブの顔を写り込ませるなど細部にもこだわったフレーミングが観る者を痺れさす。前半に設定されたカーチェイス・シーンに映る英国風建物が建ち並んだボンベイの街並みも美しい。
監督チャンドラ・バロートの手腕は申し分なく、その痛快さから1970年代でもトップ10に位置するヒットとなっている。ネガティブ反転&着色されたタイトルバックは、ニーラージ・ヴォーラの監督作「Khiladi 420(偽闘士)」(2000)でも引用されているほど。この後、チャンドラのフィルモグラフィはB級作品「Pyar Bhara Dil」(1991)しかないのが寂しい。
後半は、DSPデ・シルヴァが死んでしまったことからヴィジャイは替え玉であることが証明出来なくなるという「インファナル・アフェアIII 終極無間」(2003=香港)に先駆けた展開でスリル倍増。ストーリーラインも、ナラヤンに強いられて現金輸送車の金庫からパイサを奪ったJ・Jと彼の子供を面倒見て来たヴィジャイがそれと知らずに闘ったり、ヴィジャイの正体を知らないロマが彼を殺そうとするなど、サリーム-ジャーヴェードによる荒唐無稽ながらダイナミックな脚本は、まったく飽きさせない。
カルヤンジー-アナンジーによるフィルミーナンバルは、どれも明快!
リメイク版でフィーチャリングされている宣言ナンバル「main hoon don(俺がドンだ)」は、「Lucky」(2005)でも覆面メイクをしたミトゥン・ダーによる地声プレイバックでリスペクトされている。
また、リメイク版ではシャー・ルク自ら口上を吹き込んでいるパーン・ナンバル「khaike paan banaras wala(バナーラスィー産のパーンを食べたら)」は、作詞のアンジャーンがFilmfare Awardsベスト・リリシストにノミネート。
ドンとヴィジャイの芝居を見事に演じ分けているアミターブは絶品! 白いスリー・ピースに身を包んだその姿は天下一品で、おそらく彼のフィルモグラフィーの中で最もクールなのではないか(ワードローブは、カーチンス)。
「風格」という言葉は、まさしくビッグBのために存在する。
*追記 2010.10.01
本作の元ネタと言えるのが、シャンミー・カプール主演「China Town」(1962)。チャイナタウンを牛耳るバリバリのギャングスター・マイクと、入れ替わって潜入するロックスター・シェーカルをシャンミー(ラージ・カプールの次弟で、カリーナー&ランビールの大叔父)がWロールで好演。
本作の伝説ナンバル「yeh mera dil(これが私の心)」で起用されているヘレンが<スージー>の役名で登場し、「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ」CC2C(2009)のディピカー・パードゥコーンがWロールで演じる<スージー>に通じるところが味噌。