bluffmaster!(2005)#066
bluffmaster! 07.07.07 ★★★★★
製作:ラーメーシュ・シッピー/監督:ローハン・シッピー/原案・台詞・脚本:シュリダール・ラガヴァン/台詞:ラジャート・アローラー/撮影:ヒッマン・ダミジャー/作詞:ジャイディープ・サハーニー/作詞・音楽:ヴィシャール-シェーカル/振付:ボスコー&シーザー/アクション:アッバース・アリー・モーグル/美術:アイーシャー・パンヴァニー/VFX:プライムフォーカス/VFX:スーパーバイザー:メルジン・タヴァリア/DIスーパーバイザー:ローハン・デーサーイー、パルミンダール・スィン・チャダ/音響設計:シャジート・コーイェーリー/編集:アミターブ・シュクラー
出演:ナーナー・パーテーカル、アビシェーク・バッチャン、プリヤンカー・チョープラー、リティーシュ、ボーマン・イラーニー、ハッサン・シャイク、ティヌー・アーナンド、スプリヤー・ピルガオンカル、マヘーシュ・タークル、サンジャイ・ゴーシュ
公開日:2005年12月16日(年間17位)
STORY
詐欺師のローイ(アビシェーク)は、駆け出し詐欺師のアディティヤ(リティーシュ)から師匠と担がれ、企業ヤクザのチャンドルー(ナーナー)をカモることになるのだが……。
Revie-U *結末には触れていません!
5月リリース「Shootout at Lokhandwala」(2007)に続き、 最新作「Jhoom Barabar Jhoom(酔ってぐるぐる)」(2007)でも父アミターブ・バッチャンが共演(特別出演のわりにはCDジャケットやライナーに弩目立ちな衣装で登場!)するなど、世界一の美女アイシュワリヤー・ラーイを嫁に迎えた後も親離れが出来ないアビシェーク・バッチャンだが、1本立ちでの評価となれば、まず本作であろう。
アビーは同年の「Bunty Aur Babli(バンティとバブリー)」(2005)でも詐欺師を演じているものの、本作の方がクールで頼もしい。
ボリウッドでは、バディ物メガヒット作の後にはそれにあやかって単独主演のスピンオフ的企画が製作されたりする。アミターブのひとり「Sholay」炎(1975)が「Mr.Natwarlal」(1979)、シャー・ルク・カーンのひとり「カランとアルジュン」Karan Arjun(1995)が「コイラ」Koyla(1997)わげらわげら……。
本作ではラーニー・ムカルジーのようなトップスターと組んだ詐欺師でなく、若手男優リティーシュ・デシュモークとのコンビなので、ある意味、アビーのひとり「BAB」と言えなくもない。一応、年季を積んだ実力派のナーナー・パーテーカルが助演となるも、彼が登場するのも後半になってから、と「BAB」のアミターブに符合している。
キャスティングからすると、若いチンピラ詐欺師のアビーを凄腕詐欺師のナーナーが仕込んで……と思ってしまいそうだが、さにあらず。アビーが「ブラフマスター」で、リティーシュが弟子に当たる。
後半、カモりの標的となるナーナーのホテルに宝石強盗を装って乗り込むところは、アミターブ&シャシ・カプール「Shaan(栄光)」(1980)への敬愛(後半、映画館のシーンで上映されているのが、果たして「Shaan」のクライマックス)。
監督は、「Sholay」炎(1975)、「Shaan」の監督ラーメーシュ・シッピーの息子ローハン・シッピーで、親子三代続く生え抜きの映画一族というのが、本作のポイントと言えよう!(アビーとリティーシュが強盗犯のニュースを見て変装を思いつく場面で、TVの上に「スティング」のDVDが置いてあるのがミソ)。
アビーを起用した監督デビュー作「Kuch Naa Kaho(何も言わないで)」(2003)よりぐっとセンス・アップしたローハンの演出はそつがなく、先のオマージュも単なるパロディに終わっていないところがニクイ。
もうひとつ、「Shaan」絡みで言えば、この<ホテルに宝石強盗を装って乗り込む>エピソードで詐欺師のふたりにカモられるホテルオーナー役のユーヌス・パルヴェーズが「BAB」のメガヒット・ナンバル「kajra re」が繰り広げられるホテル(クラブ)オーナーとして表敬出演していることにも触れておきたい。
こちらは「BAB」の監督シャード・アリーが旧「踊り子」Umrao Jaan(1981)の監督ムザーファル・アリーの息子で、誘拐されて芸妓ウムラーオーとなるアミランの弟役を彼が演じていたのだが、その旧「UJ」でコーター(廓)で寛ぐウムラーオーを愚弄しナワーブ・スルターンに殺されてしまう酔客がユーヌス。シャードは長じて映画監督になり、「Saathiya(伴侶)」(2002)でデビュー。子役で出ていた作品に出演していた壱脇役俳優を表敬出演(1シーンで、特に必要のない登場人物)させているところに、ボリウッドの映画愛を感じてしまう。
ちなみに、アイシュが主演した新「Umrao Jaan」(2006)ではこのナワーブをアビーが演じている。ユーヌスはと言うと、残念ながら「BAB」が遺作となった(シャードの最新作は「BAB」同様、バッチャン親子出演の「Jhoom Barabar Jhoom」!)。
さて、アビーであるが、パブリシティー・アートでも伺われるように、かなりスタイリッシュかつクール!(コスチュームはアキ・ナールラー)。アミターブに追随とばかり、ラップナンバル「right here reight now」では地声プレイバックを披露。「Kabhi Alvida Naa Kehna」さよならは言わないで(2006)における助演男優賞独占など、芝居の面でも着実に伸びているアビーであるからして、インド女性が「セクシー!」と騒ぐ理由がこれで理解できる。もうこれでスモールBという看板は返上!と言いたいところだが、よくよく見ると依然お坊ちゃま然としたところがアビーたるところ(身長からすると父アミターブのカーボンコピーに思ってしまいがちであるが、実は運動神経と目元あたりなど母ジャヤー似)。
タイトルバック「sabse bada rupaiya」やパーティー・ナンバル「say na say na」なども、デビュー2作目「Bas
Itna Sa Khwab Hai(夢はほんのこれだけ)」(2001)にてミュージカル・ナンバルの編集を革新的に加速させ、短く素早いモンタージュを定着させたアビーの<偉業>に思い馳せないわけにはいかない。
それにしても、多様なスタイルが要求されるボリウッドにあって、渋く見えるキャラクターしか出来ないというのは、やはり辛いところであろう。
ヒップなオープニング・ナンバル「sabse bada rupaiya」は、同名映画「Sabse Bada Ruaiya」(1976)主題歌で、主演のメヘムードがプレイバックした音源をリミックス(remixed by トリックベイビー)。
ちなみに、リティク・ローシャンをスーパースターに押し上げた「Kaho Naa…Pyaar Hai(言って…愛してるって)」(2000)のメガヒット・ナンバル「ek pal ka jeena」を歌っているラッキー・アリーは、メヘムードの息子である。
愛車マスタングを盗まれたアビーが<タクシー>で追うシーンに流れるリミックス「do aur do paanch」(キショール・クマール/remixed by サミールッディン)は、アミターブ、シャシ・カプール、パルヴィーン・バービー主演「Do
Aur Do Paanch(2+2は5)」(1980)の子供キャンプ・ナンバル。感触よいリミックスの出来からして、インド人のフィルミーへの愛着と造詣が感じられる。オリジナル音源では、終盤、人間管楽器キショールのヨーデルも愉しめ必聴。
また、音楽面で言えば、在スウェーデン・ペルシアン・ポップスの旗手アーラシュ(ナンバル中の赤シャツ男)を起用した「bure bure/boro boro」はじめ、ゴージャスでヴィヴィッドな現代ボリウッドの先端を行くに相応しいナンバリングが用意されていて、今どきのインドを知らない人々にはぜひ観て知って欲しい作品である。
ヒロイン、プリヤンカー・チョープラーはじめ、その他の俳優もまずまず。
プリヤンカーは、ラーメーシュ・シッピーが翌年にプロデュースした「Taxi No.9211」(2006)でのゲスト出演シーンが実に微笑ましい。
特筆に値するのは、後半、登場するナーナー・パーテーカル。アビーの付け焼き刃的渋さなど、軽く霞んでしまう。続くシッピー作品「Taxi No.9211」では、怪演がさらにエスカレート!
本作オープニングでサンジャイ・ダットとアイシュに謝辞が捧げられているのは、これは当初、サンジューが主演で、その恋人にアイシュ、若手の詐欺師にアビーがキャスティングされていたため。
ケチャップマンの被害に遭う医師役ボーマン・イラーニーは、芝居が浮いてしまいがちな欧米映画的メソッドが本作のテイストとマッチして好印象。
クレジット・カード詐欺に合う夫婦の夫役は、「Hum Saath Saath Hain(みんな一緒に)」(1999)のマヘーシュ・タークル。
はじめにカモられる映画プロデューサーが、「Paisa Vasoor(現金をつかめ)」(2004)のティヌー・アナン(アーナンド)。バッチャン家との付き合いも深く、ジャヤー・バッチャン製作によるアミターブ主演の汚職払拭映画「Shahenshah」(1988)では監督業にも着手している。
リティーシュの手下となる川谷拓三風の男は、「Jung(闘い)」(2000)のチンピラ、「ディル・セ 心から」Dil
Se..(1998)でテロ実行犯の運転役、サンジャイ・ミシュラー。警官に化けてホテルに乗り込むも、ナーナーにこてんぱんにやられるのが可笑しい。
「Mangal Pandey」(2005)を手がけた撮影監督ヒムマン・ダミジャーによるリッチなルックも心を酔わせ、オトナの映画と呼びたい仕上がりにはボリウッドの躍進が伺われる。
仕掛けとしては「BAB」より本作の方が巧みであるものの、親子共演作「BAB」に大きく差をつけられて年間17位に留まる。
新作「Jhoom Barabar Jhoom」は封切週の首位に踊り出ていたが、これも父兄参観映画であることを考えると、まだまだアビー本人だけで客を呼べるほどには至っておらず、というところか。
さて、「Sarkar 2」としてアナウンスされていた新作「Sarkar Raj(首領の帝国)」では、アミターブ、アビー、アイシュの三共演! 「ゴッドファーザーpart2」(1974=米)の流れからしてアビーがアンダーワールドのドンを引き継ぎ、アイシュはその嫁役?とバッチャン家そのまま!?(もっともアビー×アイシュの夫婦役は「Guru」で披露済みであるが)。
そして、次なる「Laaga Chunari Mein Daag(ヴェールについた汚点)」では母ジャヤーと共演。まるっきり親離れしていないアビーだが、インドではこの方が喜ばれるのだろう。
ところで、ブラフマスターというとシャンミー・カプール主演「Bluff Master」(1963)が本家にあたる。こちらはホラ吹き男のラヴコメディーで、「Junglee(野蛮人)」(1961)で共演したサイラー・バヌーが実に愛らしい。
本作とはストーリー的にリンクしないが、これと区別するためか、小文字で始まる「bluffmaster!」とタイトルにしているあたりが心くすぐる。もっとも、本家の音楽(カルヤンジー-アナンジー)も60年代らしいグルーブ感に満ちており、その意味では本作は正しく継承していると言えよう。
*追記 2010.09.30
>アビシェーク・バッチャン
セルフ・プレイバックした「right here right now」での歌声は、デビュー作「Refugee」(2000)でカリーナー・カプールと共に聴かせた朗読も旅情を感じさせただけあって、父アミターブとはひと味違った響きのある声で、なかなかに心地よい。ただし、素性がよいアビーだけあってワルっぽくキマらないのが難点。
>ローハン・シッピー
「チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ」CC2C(2009)の製作に名を連ねた後、監督第3作「Dum Maro Dum(吸って、ぶっ飛べ)」が進行中。主演はこれまで通りのアビシェーク。ヒロインはビパーシャー・バスを起用し、ゴアを舞台にしたスリラーになる予定。他に復帰作「Striker」(2010)で男前がぐっと上がったアディティヤ・パンチョリー、ラージ・バッバルの息子プラティーク・バッバル(母はアート映画の女王、故スミター・パテール)も出演。
「CC2C」に続くワーナー・インディアのローカル・プロダクト第4弾にあたり、エグゼクティブ・プロデューサー(通常、名前だけ)に「リーサル・ウェポン」のダニー・グローヴァーと、「キッド」のプロデューサー、アーノルド・リフキンの名が。
音楽監督はプリタームで、タイトルがデーヴ・アナン(アーナンド)主演「Haré Raama Haré Krishna」(1971)の伝説的なスモーキー・ナンバル「Dum Maro Dum(吸って、ぶっ飛べ)」からの借用だけにどんなサウンドを用意してくれるか大いに期待(と言うわけで、ヒッピー三大聖地カトマンドゥーから同じくゴアに舞台が移されている)。
2011年2月4日世界公開(日本除く?)の予定。